[38498] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…前編4』 |
- 健 - 2019年04月26日 (金) 01時57分
「幸也、分かっているのか?」
クリスタルが何も言えなかった時、ライルの声がした。いつの間にか戻っており、有紗と優衣を艦に入れようとせずに自分だけ入る。
「君だって、大勢日本人を殺しているんだぞ?」
「ええ、分かっています。だが、それ以前に自分を正義だというクズ共です……日本人だろうが私の敵です。」
ライルは言い返さなかった。いや、言い返せなかった。ブリタニアが日本に…あの男の訳の分からない計画さえなければ、少なくとも幸也の母と姉がこの僅かな肉の断片となった男達に殺されることも、ブリタニア軍に父を殺されることもなかった。秀作はどうなったか分からないが、有紗達もおそらく………
こんな事の引き金を引いて、死んでも問題にならないなどと!やはり貴様には王の資格も………この世界を、現実を生きる資格さえない!
だが、奴の計画がなければ有紗やレイに、彼らに会うこともなかったのも事実だ………それが余計に腹立たしかった。そして何より…
「私に……君の憎悪と復讐を否定する資格はない…」
「後、これは私に貴方を裏切れと言いました。一応、録音はしてあります。それに……エレーナさんを攫って、クリスタルさんも攫おうとしたんです。『黒の騎士団』に事の次第を問い質すべきです。自分の個人的恨みのためにこれを消しましたが、これを始末しなかったら今頃エレーナさんはこいつらの玩具になっていました。貴方の大事な皇妃の候補たる方をお守りするのは貴方の旗下たる騎士として当然です。」
そう来たか………それに外交目的で訪れた艦に侵入してクルーを攫おうとしたのは休戦条約に抵触する。という解釈も出来る。自分にも劣るが、軍人としての責務に則ったというのが彼らの言い分か。
「生存者はいるんだな?」
「ええ、五人ほど。こちらは死傷者ゼロです。殺せば色々騒がれると思ったのでしょう。」
吐いた後、少し落ち着いた兵士も口を拭って答える。
「ヴァルも大丈夫です……後、ノエルや涼子も被害に遭ったようです。今は良二とテレサ、マルセルが護衛に着いています。」
「それと……俺と兄者でちょいと調べたが、どうやら大将の声を機械で再現すると同時にこっちのカメラにハッキングして画像を変えていたらしい。回復には時間がかかるが、カメラの映像を復元してそれを連中に追及する材料にするよ。」
クリスタルとヴェルドの報告を聞き、ライルはため息をついて一緒に来た藺喂をみる。
「藺喂、君から星刻達に報告を頼めるか?」
「は、はい!」
「私も立ち会います。こんな事があった以上、都合の良い報告をされては問題です。」
レイが動向を申し出ると、藺喂が反発する。
「わ、私はそのような……」
「藺喂……こちらも迂闊であったが、これだけのことになっては君個人を信用するレベルではない。組織としての信用を損ないかねないんだ。」
藺喂は事の重大さを悟った。そう、こいつらは外交のマナーを大きく無視している。筋の通らない理屈を掲げ、外交の相手の艦に侵入してそこのクルーを誘拐、しかも殺そうとした。一部の暴走であろうと、責任追及は免れない。
確かに、ライルの部下達も迂闊だし一部の人間が侵入者を殺害したが艦及びクルーの防衛と返されるのは明白。明らかに非はこちらにあるのだ。藺喂から見ても、彼らを責めるのは見当違いだ。
ライルが三人分の肉片を侮蔑の目で見下ろす。
「しかし、こんな事にしかせっかくの能力を活かせないとは………もう少しブリタニアと戦う方向に向けられなかったのか?」
確かに、ライルの言うとおり怒りを通り越して、呆れてしまう。行村鷹一という名前は聞いており、当時の日本軍人達からも極々一部を除いて唾棄されていたらしい。エリア11成立後も租界やゲットーを問わず、やりたい放題で『日本解放戦線』からも追い出されたとか。
その後、E.U.でも若い娘を攫って正規軍に取り入って『方舟の船団』の事件でも、そして本国との戦争でも何もしなかった。
「散々やってきたツケが回ってきたか。自分が貪った日本人の遺族に処刑されて………因果応報だな。」
しかも……組織全体に不利になるような状況を引き起こすとは。日本どころか世界に対する疫病神だ。外国人の藺喂から見てもそう断言できた。
すぐに『黒の騎士団』から連絡が入り、遺体は処分された。と言っても、行村はもはや肉片が残っている程度だ。人の形など留めていない。団員達もこれを見て、何人かが吐いていた。
「家族の仇などという発想は理解できないが、魔物共に相応しい末路なのは確かだ……」
返り血を被った秀作が鼻で嗤い、長野も何も言わない。只、軍服の切れ端を踏みにじった。元同僚として扱う価値も無いという侮蔑だろう。
「親の仇を討った感想は?」
同じように返り血を浴びた雛が問うが、幸也は答えない。
「少し休みます……」
幸也が部屋に向かい、誰もそれを止めなかった。八年も追い求めた母と姉の仇を見つけ、遂に討ち取った。色々……あるだろう。今は、そっとしておいてあげた方が良い。
幸也は部屋に戻り、ベッドに座った。仇は討った……だが、母と姉は戻らない。
「分かっていた……分かっていたけど…」
うなだれ、顔を腕で覆った。堪えているものを出すまいと……
「幸也、入って良い?」
「ああ……」
セルフィーが入ってきた。彼女は何も言わずに横に座った。
「貴方が殺した男……お母さんとお姉さんの仇なんだって?」
「………戦争が終わって、どうしようかと思っていたところであいつらが出てきた。保護してもらおうとした途端……」
幸也の脳裏に彼の光景がまた蘇る。押さえつけられ、母と姉は蹂躙されて心が壊れ、最後に殺された………
「それが正義だなんて言いやがった………!父さんを訓練の的にして殺した男も…!遊びで民間人を殺して、その場の欲望を満たすために同国人を犯すのが正義で、それが正義としてまかり通るなら、俺は世界を滅ぼしてやる!!」
そうだ……それを正義というクズ共を根絶やしにする力が欲しい。世界の三分の一以上を支配するブリタニアはうってつけだった。父の仇である事も分かっている……しかし、だから何だ?母と姉を殺した日本のために戦え?ゴメンだ。だったら、力のある方につくのが道理。
誇り?魂?母と姉を只欲望を満たすためだけに犯して、殺した国と民族に持て?無理な注文だ。
「俺は悪だよ……正義を名乗る奴らを皆殺しにできればそれで良い。俺より幼い子供だって殺した………正義だと言うから。正義のためにって言う年寄りも殺した。母さんと姉さんみたいな事をされたイレヴンの女を見捨てた…助ける気なんか起きないよ。全部クズだからだ。」
「でも、姉さんを助けてくれたでしょ?」
違う……確かにエレーナを助けたのは事実だ。だが、実際は……
「違うんだ…あの時、俺が助けようとしたのは母さんと姉さんだったんだ。」
そう、あの時エレーナが母と姉に…特に姉と重なった。だから……本質的に彼女を助けたとは言えない。
セルフィーは何も言わず、もたれかかった。
「私も…物心ついたときには姉さんと兄さんしかいなかった。なんで捨てられたのかも、本当の親がどうしてるかも分からない。」
寂しくはなかった。同じような子供達と読み書きや数え方を覚え、銃やナイフを手に頑張った。
世間から見れば自分達が悪で警察は正義だと言うが……じゃあ、親に捨てられた子供が生きていくためには如何すれば良いのだ?何もしてくれないし、それらしいことをしても只政治家共が名声のために行う見せかけだけ。
「私達、そうやって生きてきたの。他のグループの子も沢山死んだ……変なおっさんが声をかけて、私や姉さんを狙った。今日みたいに………」
幸也は何も答えずにただ黙って聞いていた。そして……
「ありがと、おかげで助かったわ。」
頬にキスをして、幸也がそれに気付いて顔を真っ赤にした。
「貴方は怒るし認めないと思う。でも……少なくとも、私は貴方が間違っているとは思ってないわ……結果として、私達を助けたんだから。」
そう言って退室したが……セルフィーは自分がしたことに驚いた。男なんて、兄と養父以外みんな同じだと思っていたのに………まだ付き合いは浅いが姉が身体を捧げたライルは兄や養父と同じ枠に入れても良いと思い始めていたが、幸也は?
「そんなことが?」
信じられない扇達の前で藺喂は机を叩く。
「こんな事があって、休戦条約に抵触するなんて言われたらどう言い訳をするのですか!?少なくとも、こちらの非を認めるべきです!!」
「……本当に行村達の仕業か?」
「拘束された者達はそう答えております……これが遺品です。」
レイ・コウガ・スレイダーがIDを手渡し、来ていたバルディーニが受け取る。
「確かに、我がユーロピア軍のIDだ……事務総長らが会談に入ってから、連中の動きが妙だったのも事実。」
ゼラートが唸り、「となれば…」と紡ぐ。
「大方、連中はライルのところにいる女を攫って…というところだろう。呆れた物だな。」
星刻や藤堂は何も言わないが……
「てめえら、さてはねつ造しやがったな!?」
「ま、待て玉城!」
玉城がライル側の陰謀を主張し、扇が窘めるが……
「よせ、その件についてこちらでも話したい。少し時間をもらいたい。」
星刻が申し出て、レイが首を縦に振った。彼女が退室した後、藺喂は星刻を睨み付ける。
「星刻様……まさかとは思いますが、ライルがギアスで奴らをそうするよう仕向けた。等と仰るのではないでしょうね?」
超常の力、ギアス。シュナイゼルからもたらされたその情報は信じられることではなかったが、それが事実であると共にゼロがその力であの『行政特区日本』の事件を引き起こしたという。そう考えれば説明も付くし、トウキョウ租界の戦闘で『帝国の先槍』と呼ばれるコーネリアの騎士がゼロに着いていたのも頷ける。
だが、ライルはゼロと違って、何の根拠もない。
星刻は何も言わない。斬利と雷峰も強く睨み付けており、今回は星刻の味方をする気は無いようだ。
「おいお前……そのまさかじゃないだろうな?」
雷峰がいぶかり、斬利も星刻を疑う。
「確かにゼロはそう考えれば、高亥が独断で合衆国日本を認めたのも頷ける。クーデターの時にお前達の策が利用されたのも。だが、それはゼロだけの話だ……ライルは別だ。」
「分かっている……ライルについては証拠が無い。日本軍人とその血縁がいるというだけで決めるのは早計だ。」
「そ、それは…そうですけど……」
藺喂は少しほっとしたが、胸騒ぎもした。このまま、もし彼らがライルをギアスで操っているなどと考えたら……特に、玉城や千葉あたりもしくはそれに近い考えの末端の連中などは…
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