[38488] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…前編1』 |
- 健 - 2019年04月16日 (火) 13時43分
ライルは『黒の騎士団』の動向が気がかりであった。まさか、向こうから休戦を破るなどということは無いと思うが、用心に越したことはない。
「場合によっては、私は休戦の監視という形であちらに留まろうと思います。」
皇帝が再び行方不明になり、シュナイゼルも動向が分からない以上本国も真偽が定かではない叛逆罪に構っている余裕は無いはず。そもそも、極秘に扱っているのだから何も知らない本国の官僚達も寝耳に水だろう。
「保険をかけるに越したことはないからな。最悪、超合集国に保護を求めた方が良いだろう。」
エルシリアの提案は理に適っている。先程も議論したように、恭順寄りのナンバーズから根強い支持を得ており、主戦派からも一定の信頼を得ているライルを引き入れるのは向こうにとっても悪くない話だ。事と次第によるが、シュナイゼルに変わるパイプ役もできるかもしれない。
「E.U.は既に話にならない…『ユーロ・ブリタニア』は事実上消滅している以上、それが妥当だろう。」
シルヴィオがライルの案を肯定し、セラフィナも頷く。問題は取引材料だ。ライルが得ている国内の情勢……これは妥当だが、やはり易々と手渡せない。となれば、ライル軍が保有しているKMFのデータだ。
たかがKMFのデータだけで皇族一人を軍ごと自分の側に留める。分かり易いが、強力なカードであるはず。
まさか、『名誉ブリタニア人全員を解放しろ』などと無茶なことはいうまい。第一、ライルにそんな権限はないし……有紗などの特例を除けば、皆役所で正規の手順を踏んでいるのだ。
彼らとてそれは分かっているはず。
三軍は当初の提案通り、蓬莱島へ向かった。ブリタニアの動向が分からないためにあえて遠回りを選び、キュウシュウを迂回して東中華海へ入る。早速迎撃の艦隊が現れ、涼子がオープンチャンネルで呼びかける。
「こちらは神聖ブリタニア帝国第八皇子軍旗艦、ケアウェント。戦闘の意志はありません。」
何度か繰り返し、艦隊も発進したKMF隊も停止する。両軍はにらみ合って数分後…
〈総司令に連絡をする。現在の地点で滞空して待て。〉
とりあえず、いきなり撃ち合う事態は避けられた。万が一の時はヴィンセントで出ようと考えていたライルは安心した。
『ブリタニアの狂戦士』が『侍皇子』と『双剣皇女』と共に会談を申し入れてきた。
「ライルが来たんですか?」
藺喂は思わず声が弾んだ。まずい、と思い咳払いをして星刻に問う。
「どういうことでしょう?」
「真意が分からん……奴がどのような目的で…斬利、お前はどう思う?」
「ゼロの件、という可能性は低くはない。」
ゼロの件では斬利も聞いており、扇達の対応には難色を示していた。結果論だが、あの時高亥が独断で合集国日本を認めたのもそれならば説明が付くからだ。しかし……同時にそれが奴を始末するきっかけにもなったからこそ、斬利は複雑だったのだろう。
「星刻様、会うだけならば問題は無いかと。ブリタニアの動きについて彼が何か知っている可能性も。」
神根島での事件から、また皇帝が姿を消したという未確認情報もある上にトップ不在のこの状況下……その上シュナイゼルとコーネリアが姿を消したという。二人には及ばないが、高い継承権を持って且つ今回の戦闘にも参加していた彼ならば何か聞いているかもしれない。
「星刻、私も同意見だ……正直、個人的には扇達に不服はあるが今はブリタニアの動向が先だ。」
ライルが来るという報告は『ロンスヴォー特別機甲連隊』の面々に届いた。
「ライルが…」
「美奈川、顔が緩んでいるぞ。」
デルクは窘めながらため息をつく。この状態で奴と戦って、果たしてと思ったがシマネでのあの様子から心配は無いようだ。とはいえ、生身で会えばどうなることやら。
「しかし……奴の嗅覚はどうなっている?」
「言わないでくれない?もう国外に逃げるときから何百回も後悔してるんだから。」
海棠が頭を抱える。そう、ゼロの件についてまだ色々とある彼らにとってはある意味でゼロなんかよりも優先して始末するべき男がこちらの不穏な動きを嗅ぎつけたのだ。
「あいつの牽制、しておきます?」
セーラの問いを肯定する者はいなかった。そうしたくても、そんな余裕がないのだ。裕太が更に深いため息をついた。
「もう……俺達、あいつに呪われているのか?」
一瞬、海棠の部下達は全員が本気でそう思ってしまった。
「そうね……私も、会えるのは嬉しいけど。」
「私情を挟むなよ?」
ゼラートが睨むと、クラリスはにらみ返す。
「あら、ゼロに拘り始めた貴方はどうなの?」
「ふん……素性と例の能力、そしてあの手腕の組み合わせ。今更ながら、面白いと思う…」
「そう…」
浅海は胸が躍っていた。また、ライルに会える……もし、もしも機会があれば…だが、もう一つ興味が増えていた。
どんな理由なのかしら?名誉ブリタニア人になった人達………
E.U.で情報部が集めた資料の上では彼らの大まかな事情がある事は分かっている。だが…どうしても直接聞きたかった。畑方秀作は祖父の名に伴う周囲のエゴに疲弊した復讐………あの通信越しではそう考えていたが…他は、どうなのだろう?あのハーフの専任騎士や元日本軍人は………
やっぱり、ライルが言っていたような家族や自分の生活?
クラリスはライルに会えるのが嬉しかった……敵として、女として。だが、同時に一抹の不安があった。
「まさかあいつら……ライルまでゼロと同じ、なんて言わないでしょうね?」
ゼロの件については大局や当面の問題も無視した扇達の行動にはクラリスも一応の了承はしたし、心情には一定の理解がありながらも全てを支持していない。
「奴をゼロと同じと断言したら、弁護したそうだな。」
フィリップに見破られていた。クラリスは憮然として返す。
「無茶苦茶な理屈で外交のマナーに逸脱する言いがかりをつける連中に味方する意味がある?」
ブリタニア憎しという感情が先に出ている上に素人集団……いくら何でも無いとはクラリスも思いたいが。
「どう思う?」
南が扇に問う。ライル・フェ・ブリタニアが三人の皇族と共に会談を申し入れた……内容については直接話したいとのことだ。
「これは好機だ。奴を抑えて、洗脳された人々を解放するのだ!!」
千葉が主張すると、杉山と玉城も頷く。
「そうだな………奴もその可能性が、いやそうに決まっている!」
「おう、あの時のガキだってそうなんだ!!」
「あの時の、子供?」
事情を知らないカレンが藤堂に聞く。
「あの男は『ブラック・リベリオン』で我々に名誉ブリタニア人の両親と左目を奪われた子供を引き合わせた。」
「藤堂さん、奴がそう吹き込んだのです!」
千葉が反論し、ライルが嘘を着いていると決めつける。だが……
「確かに、可能性が無いわけじゃない。」
「現時点では、五分五分と言ったところだろう。」
扇もゼロと同じ可能性を疑い……否、カレンを除いて古株は全員が結びつけようとしている。流石に藤堂や星刻は慎重だが…………
「ちょっと、待ってください!」
ラルフが強く出た。
「証拠もないのに、決めつけるのは安直すぎます!」
「私も……同じです。少なくとも、彼の騎士になっている子は…そうじゃないと思うから。」
「カレン、その騎士というのはお前と同じハーフだったな?」
扇がカレンに確認を取る。
「え、ええ……少し話もしました。その………私達みたいな考えの日本人を全否定している子もいて…」
「カレン……同じハーフだからという気持ちは分かるが、彼女さえもという可能性も否定できないのも事実だ。」
「大体、俺らを全否定していること自体が奴の罠なんだ!」
「そうだ、それが奴の常套手段だ!」
扇はゼロと同じ力…ギアスの可能性も考慮するように言い聞かせ、玉城と南がギアスと断言する。顔と名前は知らないがライルの旗下の名誉ブリタニア人全ての事情を頭ごなしに否定する。
その様子にラルフは絶句した。つまり、彼の部下のナンバーズ出身者が皆そうだというのか?あまりにも安直で、しかも一方的に加えて物的どころか論理的証拠もない。
ラルフとて、その可能性を否定しているわけではない。だが、そうでないという可能性だって高いのだ。なのに、玉城達は頭ごなしに決めつけている。扇はまだ慎重だが……それでもラルフにとってはもはや扇も同類にしか映らなかった。
大体、名誉ブリタニア人が希望者が試験を受けてなるものなのはみんな知っているはずなのに。それをライルがと……………僕は……こんな人達を、こんな連中を仲間だと思っていたのか?
ゼロがいなくなった途端に、こんな教条主義と杓子定規に凝り固まった有様になるものなのか?これなら、シュナイゼルがこうなるようにあの能力を使ったと考える方がまだラルフには頷ける。
様子が気になって、斑鳩に来ていた浅海は絶望した。ゼロの件はもう既に起きてしまったし、そんな事実があればゼロをリーダーに据えることは出来ないだろう。いつ、使い捨てられるか分からないから……だが、
なんでライルまでそうなるの?
彼がゼロと同じ力を持っていると何故、決めつけられる?名誉ブリタニア人制度が完全な希望制で、試験を受けて役所で手続きを経てなるものなのは知っているはずだ。
つまり、あの中にいる者の多くは自ら名誉ブリタニア人制度に従い、正規の手順で名誉ブリタニア人になった者だ。ライルが操っている……等という根拠がどこにもない。
大体、彼がそんな能力を持っているのなら何故私は自分でここにいる?使ったというのなら、今頃自分は彼の部下だ。
彼と全力で戦うと決めたのも、自分だ。あの時……身体を差し出そうとしたのも自分だ。
だが…少なくとも身体の件については、その上でライルが拒んだら?
「うそよ……そんなわけない。あるわけないもの。」
そうだ、扇達が邪推しているに決まっている。あのサラゴサの虐殺だって、ライルにとっては不本意なものに決まっている。
「まさかとは思うが、『狂戦士(バーサーカー)』様もなんて、言ってないだろうな?」
海棠はライルが会談を申し入れてきた話を聞いて、扇達の様子を考えていた。
「あるわけない、と言いたいが……昨日の今日である以上、はな。」
ゼラートも扇達の考えていることをそれとなく勘づいていた。そう考えると、ガラにもなく言いがかりをつけられるライルに同情を禁じざるを得ない。バルディーニも沈黙しているが……おおよそ同意見だろう。
「扇達が心情的にはそう思うのは無理もないが、そのとばっちりで言いがかりをつけられる身としては良い迷惑だろう。」
「珍しいじゃねえの、中佐が他人に同情するなんて。」
アサドが茶化すと、ウェンディが膝で小突く。
「でも……彼がどうして?」
イロナの疑問には、ゼラートも流石にすぐ解答を導き出せない。
「皇帝が今度は神根島で行方を眩ましたという………」
ゼラート達は皇帝は逃げ延びたゼロに襲われたと考えていた。その点は星刻や神楽耶も同意見だった。
「皇帝に行方について、シュナイゼルから聞いていないか……或いは、自分が皇帝叛逆の首謀として疑われて我々に事態の説明や保護を求めてきた。」
池田の提示した可能性にゼラートは頷いた。
「後者の可能性が高いだろう……もっとも、シュナイゼルに言いくるめられた連中がそこまで考えるかは別問題だが。」
しかし、何故シュナイゼルもそれを使うという発想に何故至らないのだ?外野の俺に言わせれば、それを使ってゼロを裏切るように仕向けた……と見ることが出来るぞ。
「もし、ゼロが生きているのならば、もう一度会ってみたいものだな。」
「中佐、本当にゼロにご執心ですね……」
ウェンディが珍しい者を見るような目で問う。
「ああ……シンパシーという奴かな?捨てられた者同士の……」
「でも、今はライルの方ですよ?事務総長達がどう動くか…」
「分かっている……アレクシア、会議の様子を聞けるか?」
「まあ…少し手伝いがあれば。」
「やってくれ。」
まさか、味方が自分達の会談を盗み聞きしているなどとは思うまい。まして……その味方の一部が自分達を信用しなくなっているとは。
所詮、俺達は外野。あれこれ言う筋合いは無いが……な。
確かに、あの惨状にも拘わらずに自分の要望を最優先にして組織を蔑ろにしたゼロはある意味で四十人委員会より質が悪い。憤りも失望もあった。だが……
復讐の道具さえ失った男が、もしも皇帝を討ち取ったのなら……今度はどうなるのか…
それが栄光か、それとも自身の破滅か…全てを失った世界を道連れか………いずれにしろ見てみたい。
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