[38479] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-43『不協和音』 |
- 健 - 2019年04月13日 (土) 13時01分
涼子はベディヴィエールの改修を進めていたが、やはり艦内の設備では不充分だ。
「やっぱり、ロンゴミニアド・ファクトリーみたいな研究施設じゃないと駄目ね。」
とはいえ、今こちらは皇帝叛逆の嫌疑をかけられている。涼子も無実を信じているが、これ幸いと考える貴族の襲撃は警戒せねばならない。いくら皇族軍二つ分がいるとはいえ、彼らはあくまで監視。護衛ではないのだ。
「もう、何とかならないかしら?」
ライル達は今後の方針を話し合っていた。シュナイゼルはいつの間にか戻っていたコーネリアと共に行方を眩ましたという………
「兄様が行くとしたら、カンボジア?」
「ああ、だが確証もない。それに、敢えて餌をちらつかせてお前を…そしてあわよくば我々もという可能性も否定できない。」
「未確認だが、『グリンダ騎士団』もそちらへ合流したそうだ。」
『グリンダ騎士団』も……ライルはこのブリタニアの動きの停滞の原因が分かっていた。そう、皇帝に加えてシュナイゼルまで行方を眩ませてしまったのだ。
『ラウンズ』はスザクが行方を眩まし、ロイドとセシルも知らないという。
「シュナイゼル兄様がかけただけでこの停滞……か。我々がいかにシュナイゼル兄様に頼り切っていたかを示しているな。」
「こうなると……ルーカス兄さんが勝手なことをしないでしょうか?シュナイゼル兄さんがいないのを良いことに…」
セラフィナがアレの暴走を懸念する。たしかに、アレならばやりかねないが………
「セラ、いくらアレでも今ここで休戦条約を無視すれば…と言いたいが、向こうもゼロがいない以上………ズルズルと戦争が長引いて双方に厭戦気運が高まるだろうな。」
ブリタニアは只でさえ、皇帝の統治を広めるという大義と徹底された情報統制で市民の支持を得ていた。シュナイゼルやコーネリアの存在も大きいだろう。それが、重要な皇族が二人も欠けた上に皇帝不在とあっては国内で何が起こるか……
超合集国ひいては『黒の騎士団』はゼロを失った今、舵取りをする者がいなくなって統制が崩れていく。総司令の星刻が健在といっても、やはりゼロなのだ。ゼロの代理を務められる者………立場だけではなく組織の運営も含めてとなると、早々いないだろう。
「ゼロ……本当に戦死したのでしょうか?」
ライルは放送時からの疑念を口にした。そう、只漠然と死亡としか報道されていない。となれば………
「ゼロが上層部だけの極秘行動のための偽情報……というのか?」
シルヴィオの最もらしい疑念をだす。たしかに、それが一番考えられるが……
「或いは、ゼロが部下達の裏切りにあい追放、或いは殺された。」
エルシリアが二つ目の可能性を口にすると…
「そんな……だって、エリア11どころか…他のエリアだって取り戻せてもいないのに、ゼロを殺すことに何のメリットがあるんですか?出来て間もない組織でトップを殺して、もしも外部へ漏れれば『黒の騎士団』は分裂してしまいます。いえ……超合集国そのものが崩壊します。」
そう、セラフィナの言う通りだ。ここでゼロを殺すことに何のメリットもない。まさか、こんな情勢下で実権掌握を図って…等と場違いも甚だしい考え、または自分達の力を正確に測れないまま、もうゼロは不要だとでも?
どちらにしても、ライルに言わせれば愚かとしかいいようがない。ふと、ここで……
「まさか、シュナイゼル兄様が仕組んだ?」
「シュナイゼル兄さんが……?あ、もしそうならいつでも『黒の騎士団』を始末できる。」
そう、先程ライルが考えたように所詮あの組織の根本は戦闘では紅月カレン、軍事面で藤堂鏡志朗がいるがそれ以外は素人あがり。組織の運営に至ってしまえば……
「ワンマンチームほど……トップが消えた後の始末が簡単な相手はいないな。」
シルヴィオがその仮説のメリットを述べた。例え正規軍人達で強化されても、中枢の大半は『ブラック・リベリオン』で拘束された者達………その者達にゼロに対する不信感を募らせれば、後は簡単。ゼロもこちらの知らないところで相当勝手なことをしていたのかもしれない。
戦闘における指揮ならば藤堂と星刻がいるとはいえ、政治となると星刻でも対抗できるか。あの扇要らなど論外だ。勝負にすらならない。
「所詮は素人集団か…」
仮定に過ぎない話だが………本当にゼロが殺されたのならば理由に一つだけ心当たりがあった。あの二度目の特区以来懐いていた疑問………もし、疑問通りならばそれが明るみに出たということ。秘密裏に処理したのも頷ける。
そして、もしゼロが彼ならばあのE.U.での事件もそこにいた理由も説明が付くからだ………
全ては推測に推測を重ねた仮定だが………全てにあの力が関わっていたとしたならば、全て筋が通るのも事実。
これ以上は本人にでも聞かないと分からないが、果たして素直に答えてくれるか…
ラルフは扇に掴みかかった。
「ゼロについては分かりました………確かに、そう考えれば説明の付く事例が多い!でも……それとこれとは別です!」
いつも、おとなしく控えめで扇にくっついていたラルフが別人のように凄まじい剣幕で怒鳴り、藤堂やカレンさえ気圧された。
「なんで……なんで、ブリタニア軍人!しかも『純血派』が当たり前のようにここにいるんですか!?」
ラルフが指さした先には褐色肌のブリタニア人の女性がいた。かつて、『純血派』のナンバー3だった騎士候ヴィレッタ・ヌゥだ。
「『純血派』、しかもあのジェレミア郷の側近と接触していたのをなんで誰も問わないんですか!?」
ラルフは憤慨して、全員を睨み付ける。さっきから聞いていれば、カレンは素性や詳しい事情を知っていたためかゼロに感情移入しがちだ。だが、その彼女さえも『純血派』の幹部が当たり前のようにここにいたことを問い詰めない。
「ゼロの落ち度も、度重なる独断行動の非も認めます!!始めから、捨て駒にするのが目的だから裏切ったのも無理ない!でも……=扇さんが有名無実という訳ではありません!」
話によれば、彼女は記憶を失ったところを扇に救われたという……そして、『ブラック・リベリオン』で記憶が戻ったと。
「しかも……ゼロの素性について調べていたそうじゃないですか!なんで、ゼロや南に一言も相談しなかったんですか!?」
「そ、それは……彼女が記憶喪失で…」
「でも、ゼロについて知っていたんですよね?少なくとも、ゼロに進言して拘束するべきだったはずです。」
「ラルフ、落ち着いて…」
カレンが抑え、扇から引き離す。
だが、ラルフはまだ怒りが収まらない上に……悪い予感が的中してしまった。しかも、よりにもよって最低限のノルマである日本解放さえ果たせないまま爆弾が爆発してしまった。ゼロの素性と暴走……それらは我慢する。だが、肝心のゼロ追放を扇動した扇が『純血派』の幹部と個人的接点を持っていた事がお咎めなしということだけはラルフは承服できなかった。
「ディートハルトさん……貴方は気付いていたんですか?扇さんが彼女と接触していたのを?」
「ああ…そうだ。」
「くっ……腹立たしいけど、この件についてだけは貴方を支持しますよ!」
ようやく納得できた……ディートハルトが裏で動いていたのは扇が敵と通じている可能性に気付いたからだ。そして、当たっていた。かつては『純血派』で今は機密情報局に所属しているブリタニア男爵……それと通じていたとなれば重大な裏切りだ。
ラルフは扇に歩み寄り、腹に思い切りパンチを入れた。今、これがラルフに考えられる最大限の扇への怒りだった。
「失礼します!」
終わったな……シュナイゼルがその気になれば、フレイヤで蓬莱島ごとドカンだ。
星刻や藤堂がいるとはいえ、彼らはやはり軍人。戦略や政治においてはゼロの方が遙かに上……そこだけは誰が何と言っても覆らない…今後、シュナイゼルと政治で対抗できる人材が見つかるかどうか…だが、その前に何か起こりそうな気がした。
ゼロの影響力がどれだけ強いか、扇さん達が一番分かっていたはずでしょう!!せめて、日本解放が達成できてから殺せば良かったのに!!いくら志半ばで戦死という形で美化することが出来ても…もしこれが外へ漏れたら!
「後手に回りすぎたな。」
事後承諾、という結果だがゼロの件は彼らも了承するしかなかった。しかし、こうなった以上既に『黒の騎士団』と超合集国、少なくとも合衆国日本と合衆国中華はいつ首が飛んでもおかしくないのは確かだ。
「しかし……あのバカの耳に入ったら、どうなると思います?」
海棠の問いにバルディーニを始めとした面々は皆が、ゼラートやクラリスですら頭が痛くなった。
「実権掌握を図ろうとするだろう……それこそ、ブリタニアの茶番だとか喚く。ゼロ自身が何しろ埃の固まりだからな。」
「ブリタニア憎しの人々が多いからね、それを徹底的に糾弾するあいつを支持する連中が溢れたら、超合集国自体が終わりよ。」
ゼラートとクラリスが述べた可能性は一番高い事例だった。何しろ、奴は保身にかけては一流だ。その上そうした話に食いつく早さも一流。おそらくそこだけならばシュナイゼルやゼロでも及ばないだろう。
「とにかく………誰が何と言っても、あいつらに失望したわ。特に藤堂。」
「……片瀬少将と草壁中佐を殺したのがゼロだから、といえば筋は通るが…な。」
池田とクラリスの幻滅は酷いものであった。とはいえ、海棠も概ね同意見だ。ゼロと扇、双方に。
「おい、そう言うなよ……と言いたいが、まあ『日本解放戦線』については俺がゼロでも片瀬は殺すね。『解放戦線』が潰れた上に藤堂頼みじゃあ組織に引き入れても邪魔なだけだ。」
何度か連絡を取り合ったし、会ったことはある。だが、大勢は藤堂が指揮した『厳島の奇跡』に頼り切っている。『四聖剣』はあれが藤堂の優れた指揮と情報分析に加えて綿密に練り上げられた戦術的な勝利によるモノと分かっている。だが、キョウトや『日本解放戦線』は惨敗の中での唯一の勝利という観点で奇跡と混合し、藤堂に能力以上の期待をしている。何度か進言したことはあるが、あまり効果が無かった。
それが、カミカゼの横行か。ったく……俺個人としちゃあ、あんなのがトップじゃ先が見えてるぜ。その点だけじゃ、ゼロの方が文字通り真っ黒でも、あのじいさまより遙かに上だな。
扇達はどうもホテルジャックも全てギアスと考えているようだが、果たしてそうだろうか?片瀬がゼロに殺されたとしても、ギアスで自決させられたのかそれとも爆弾で自決に見せかけられた線も考えられるはずだが……もしそう考えるようになれば、危険だ。
何とかその風潮だけでも抑えられないものか……
「容赦が無いな……仮にも同じ日本軍人の上官を。」
考え込む海棠をマスカールが睨むが……
「おたくだって、アブラーム殺したでしょう?それと同じでは?俺らもあいつらも同じ穴の狢ってやつかね?」
「あいつらと同類……やめてくれない?モチベーションが下がるわ。」
「でも、事実でしょう?あんただって、親を殺したんだから。」
「たまった不満の爆発……ああもう、嫌でも同類になるのね。」
うなだれるクラリスが畳みかけられ、池田がため息をつく。
「事実だから余計に腹が立つ。」
クラリスもマスカールも同類といえば同類……だが、
「違いがあるとすれば、シュナイゼルのいいように使われたか否かだけだな。」
文句を言うだけならば自由だが、現実問題として深刻だ。CEOにしてこれまでブリタニアに抗った象徴であるゼロを失った。舵取りをしていた船長を失った上に肝心のことを起こした張本人達は素人。先行きが不安なのは明白だ。
本職の軍人である彼らにとって、ゼロをトップに据えるのが危険である見方は理解できる。だが扇達の行動も到底褒められたモノではない。超合集国最高評議会から正式な要請を受けた日本解放……それさえ解決しないまま勝手にゼロを追放した。これによって、超合集国の当初の方針その物もうやむやにされてしまった。
事実を知ったバルディーニが星刻や扇に意見をしてはいるものの、やはり難航しているようだ。
彼らは悟った……これまでの組織の運営や行動方針のほぼ全てがゼロによって支えられていたことを。彼らはそれが分からないまま、シュナイゼルに操られてゼロ自身にも大きな非があったとはいえ自分で船頭を殺したのだ。
「だが、シュナイゼルの動きが気がかりだ。これだけやって、何故一気に攻め込まない?」
ゼラートだけでなく、彼らもそこは本当に気がかりだった。ゼロがいない以上、少なくとも中枢の大半は素人同然……シュナイゼルの協定を鵜呑みにして大丈夫なのだろうか?
そもそも、『黒の騎士団』は極めて不利な立場にいる。ブリタニアは皇帝がいないとはいえシュナイゼルと『ナイトオブラウンズ』、コーネリアが健在。それに対して、こちらは肝心のゼロを失っている。
今不意を突けば勝てるのに……何故?何か狙っているのか?
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