[38454] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-39『黄昏へと…』 |
- 健 - 2019年02月20日 (水) 23時26分
すぐにでも神根島に向かいたかったが、追撃が来ることは明白であったライル軍は急ピッチで戦力を整えていた。パイロットが負傷したKMFは使えないまたは損傷が酷い機体は廃棄して使える部品を流用して損傷が軽微な機体に装着していた。幸い、サザーランドやウォードは何とか間に合う……しかし、『セントガーデンズ』との戦力差は僅かに向こうが上だ。アストラットやパラディンのような高性能機は全て無事で、機体性能ではこちらに分があるとはいえ実力という意味では劣っている。
「戦術面ではナイトやビショップでのつぶし合い……ポーンをどれだけ温存できるか、という具合か。」
敵のポーンをどれだけ削れるかが勝負になるか………だな。こうなってしまった以上、後のことを考える余裕は無い。エリア11と『ユーロ・ブリタニア』で運用された二つの兵器をベースに手を加えられ、戦術兵器の一つとして開発が進められていたあれを使うことを決定していた。だが、調整が上手くいかずに難航していた。
「優衣……涼子からの報告であれはどうなっている?」
「使えますけど……撃てて二発、無理をして三発だそうです。」
使いどころが難しい、か。なりふり構っている余裕など無い。
涼子が調整していたのは『ユーロ・ブリタニア』の歩行砲台カンタベリーと『日本解放戦線』の雷光をベースにしたライル軍が独自開発していた砲台だった。人材不足のライル軍ではリバプールでもありがたいのだが、無人兵器の使用を忌避するライルの方針もありドローンの使用は控えられていた。だからこそ、ブリッジなどで操作ができる砲台を重視したのだ。
エクセターと名付けた砲台はハドロン砲だった。だが、収束は解決したのだが、一発の威力を重視しすぎたために砲身の負荷が大きすぎるのだ。本国で試験的に撃った一撃はモルドレッドのシュタルクハドロンを超えていた。戦術兵器としてはあの斑鳩の拡散ハドロン重砲と同等の威力だが、あちらは巨体の艦船でこちらは砲台。負荷も大きすぎるし、エネルギー効率も悪すぎる。
「人間ひいてはKMFの数が少ない現状では難しいわね………サザーランドアイのウァテスシステムを応用して何とかシステムを構築………これで距離を35と設定し、発射した場合的に与える損害率は………20%強、これじゃあだめよ。」
雷光やカンタベリーのように人間が乗れれば良いのだが、現状で人間を乗せることは出来ないというわけではない。損傷が酷いKMFのパイロットの中には負傷が軽い者もいる。彼らを乗せる選択肢はあるのだが、調整が上手くいかない機体に乗せられないし一歩間違えれば砲台が爆発して乗せている艦も一緒に沈む。時間が無いのに……どうすれば………
やはり、通常戦力の低下は痛いが、一部後退させた運用の方が確実かもしれない。
涼子の中にある運用方法が浮かんでいた。もう一つの方法をとれば命中精度や敵への損害率が少しは上がるはず。
本国にいた頃から、エクセターの運用方法で考えていた雛は秀作から質問をされた。
「何故、ライルに着いた?お前なら『皇帝暗殺を企てた逆賊を討った見返りに騎士候にしてくれ』とでも言って寝返っただろうよ。」
その問いに雛は即答できなかった。そうだ……何故、あの時寝返らなかった?殺してしまえばいくらでも言い訳は付く。『死人に口なし』だというのに……
「自分でも分からないの。」
分からない……否、本当は分かっているのかもしれない。反逆の有無を問わずライルの死がウェルナーの心に深い傷を残す。彼がまたあんな弱々しい姿になるのを見たくない?もう一つ…………
信じている?あのお坊ちゃんを。
「ていうか、そういうあんたこそ。『皇帝殺して、魔物共の英雄になるならお前を殺す』とか何とか言いそうだったけど?」
秀作は口を閉じてしまった。何故?奴が各エリアの緩やかな統治と同盟国という形での独立……それを最大の理想と考えている節はあった。まさか秀作をその統治に、などとは考えていないだろうが。
あの男を信じて、死なせたくなかった?セラが泣くから……嫌われると思ったから?
何を馬鹿な……嫌われたくない?あの妖怪共にそう思って裏切られたのに。
もう一人……秀作の脳裏によぎった。あの男?何故………あの男を、そう呼びたいのか?俺が……まやかしに骨抜きにされた?この俺が…
『セントガーデンズ』はライル軍の追撃を続行した。場所からして、式根島と神根島から東寄りだと推測されている。あのあたりは地図にない無人島もあり、エリア11占領後も武装蜂起もない離島。式根島にも満たない戦略価値で放置されていて、租界とのやり取りで住民達は生活している。
「あの男は市民を巻き込む戦いを嫌っております。もし、それを貫いているならば洋上での戦闘に持ち込んでくるでしょう。」
離反したKMF隊の小隊長は完全にライルを見限ったようだ。レイシェフは敢えて問いかける。
「彼を完全に見限ったのかな?」
「無論です。汚らわしいナンバーズや庶民の採用にうつつを抜かした挙げ句に皇帝陛下を暗殺しようなど言語道断!貴族として私が逆賊を討つのです!!」
いかにも、典型的なブリタニア至上主義の貴族らしい回答だ。対照的にナンバーズ出身者は信じていたが故の失望の意見が多かった。
やれやれ……半分は来てくれると思ったのだが、思っていた以上に少なかったな。あの状況下でもまだ信じている者が多い………あの日本軍人の血縁は来てくれると思ったのだが、貴方はご自分で思っている以上に彼らに信頼されているようですよ。
お互い、親には恵まれなくても周囲の部下や友人には恵まれたようですね。
〈そうか、父上も無事で。〉
「はい、総督の脱出からすぐに父達も脱出されて……政庁がなくなる直前にトウキョウを離れられたんです。〉
ユリアナはトウホクにある観光地でライルと電話で話していた。あの後、父の計らいでリュウタと使用人達と一緒に旅行に出て、それが幸いした。屋敷の半分以上が消滅したそうなので、当分はここで厄介になりそうだ。
「父がトウホクブロックの施設に掛け合っているので、話が付いたら連絡します。」
〈ああ……ただ、こちらは暫く電話の受け答えとか難しい。かけてくるのは遠慮してくれ。〉
「それって……ゼロが死亡したっていうニュースに関係する政治的トラブル?」
〈そんなところだ……それじゃあ、リュウタにもよろしく。〉
ライルの方から電話が切られた。
何があったのだろう?歯切れが悪かったような……気のせいだといいが。
ブリタニア本国のサラもエリア11のニュースを聞いて、トウキョウ租界が消滅した画面を見た。
「良かった……会長とアッシュフォード学園は無事なんだ。」
となれば、おそらくスザクや副会長の彼も無事だろう。
「ライル様とカレンは、どうなったのかしら?」
一方、シュナイゼルがシャルル・ジ・ブリタニアを皇帝に相応しくないと断じて枢木スザクと共謀して皇帝暗殺を企てていることを今はライル達は知らなかった。
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