[38443] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-38『迷走…前編』 |
- 健 - 2019年02月10日 (日) 17時30分
ひとしきり泣いたライルは一時間ほど眠り、有紗と共に会議室に入った。
「すまない……少し落ち着いた。」
「殿下……では、話していただけますね?」
ゲイリーの問いに頷き、ライルは座る。
「改めて言うが、皇帝陛下は度々俗事と仰っていた。E.U.との戦争も、今回も全て……」
そして、次々とライルは語った。龍門石窟で妙な空間に入り込み、そこでV.V.と名乗る少年から神を殺す契約を持ちかけられたこと。そこの扉に描かれていたものと同じ紋章が神根島だけでなく、E.U.や中華連邦領内に存在してそれらが全て天領とされており、各国への侵攻はこの遺跡が目当てではないか………そして、
「何、このギアスって?超能力?」
全員に手渡された資料を見た優衣の言うとおりだ。
「だから、半信半疑だと言っただろう?」
「大将にこれを教えてくれたグレイブ・ガロファーノ卿も同じ反応だったよ……」
「でも……もし、そんな力が本当にあったなら…」
テレサが言うとおり、ライルは頷いた。
「ああ………説明の付く事例がいくつもある。特に、ゼロ…」
そう、ライルはギアスの存在を知る以前から抱いていた疑念。もし、ゼロがギアスという力で人を操っていたのならば説明が付いてしまうのだ。何もかも……
「ちょ、ちょっと待ってください!まさか…その通りなら、あの特区日本も!?」
涼子の声が震え、ライルもそれを否定しなかった。そう、もしもユーフェミアがその力で操られ、あのさなかでコーネリアを突然裏切ったというダールトンも……そう考えれば説明が付く。
「断定は出来ないが…そう考えればな………それだけではない。ジェレミア郷によるゼロの逃走幇助にシンジュクで記憶の混乱を主張したバトレー達、そこでサザーランドを奪われた兵士達も………」
ギアスというものの詳細は分からない。嚮団とやらの資料を見る限り、人によって異なるようだ。
ゲイリーはこれを読み返す。どこにどうやってどんな方法でハッキングをしたのかは知らないが、相当深いところに根がある。だが……待てよ?
「殿下、この資料によればギアスとやらは人間によって違う能力を得る、ということなのでしょうか?」
ゲイリーの質問に皆が首をかしげる。ライル以外…
「ああ………もし、ゼロ以外にギアスを持つ者がいれば色々と説明が付く事例が多すぎる。」
「例えば、マンフレディ卿の自決?」
ゲイリーの質問にテレサが立ち上がった。
「そんな!じゃあ、シャイング郷がそのギアスって力でマンフレディ卿を自決させたんですか!?」
そう、ゲイリーもマンフレディと会ったことはないが人となりは聞いている。自決するとは考えにくいのだ……そして、ギアスによるものであれば疑いが濃厚なのはシン・ヒュウガ・シャイングだ。
「ま、待て……まさかヴィヨン郷とサン・ジル卿も?」
マルセルの問いにライルは首を横に振る。
「あのお二方は分からない……本当に彼が直接手を下したのかもしれない。だが、シャイング郷の仕業とするのならば、それはシャイング家の奥方とご息女の心中だろう…」
ゲイリーは息を呑む。まさか……義理とはいえ母と妹を?もしそうならば、あの男は何を成そうとしていた!?
「でも……シャイング郷が亡くなられた今となっては、確かめようがありませんね。『ユーロ・ブリタニア』も殆ど実権を持っていませんし。」
レイの言葉に、テレサとマルセルもうなだれる。そう、マンフレディの自決やゴドフロアの潔白を証明できるというのに…時間が経ちすぎたし、当のシンも既にこの世にいない。仮に当時の『ユーロ・ブリタニア』貴族達に伝えても信じるわけないし、例え信じてもらって彼らが訴えても苦し紛れの世迷い言と一蹴されるのがオチだ。
「待ってください、殿下……まさか、マリーベル殿下もお疑いで?」
デビーの問いにライルは今度は首を縦に振る。
「誰に、どんな風にしたのかは分からない。ただ…ジヴォン卿やノネット様はあの様子ではかかっていないだろう………シュバルツァー将軍はかかっている可能性が高い。従順になるように。何かの方法で得たのなら、おそらく『紅巾党の乱』直後だ。」
ゲイリーもそう思う……彼女がおかしくなったのはあの頃からだ。そして『マドリードの星』壊滅以降に明らかになったあの『リドールナイツ』という部隊……あの部隊の騎士達ももしかしたら…………
「V.V.とやらは何を……皇帝陛下もそやつに唆されたのでしょうか?」
ゲイリーの分析は最も妥当だが、ライルはそれは無いと思っていた。根拠はない……だが、あいつからは得体の知れないものを感じた。姿形は子供でも、中身は不老不死で何百年も生きているような………
「で、このクロヴィス殿下とバトレー将軍の研究していたコードRとその題材のC.C.って呼ばれてるこの可愛い子ちゃん。」
ヴェルドがコードRのデータとライルがE.U.で買った『森の魔女』の本も出す。
「ほら、この挿絵……この子にそっくりでしょう。それに何十年か前に、百年くらい前の資料も……」
どの資料にも彼女とよく似た……否、ライルはギアスに並んで突飛なものだが疑っていた。
「私も信じられないが、おそらくこう考える。彼女は不老不死だ。」
不老不死という言葉に皆が息を呑む。それはそうだろう……人類の夢、ある意味究極の目標で最大の不可能命題だ。
「ギアスとどんな繋がりがあるかは分からないが、クロヴィス兄様は彼女の不老不死の秘密を解析して皇帝陛下に献上しようとしたのだろう。クロヴィス兄様が亡くなられた後はシュナイゼル兄様が引き継いでおり、神根島の遺跡を調査しようともしていた。」
V.V.と同じイニシャルでの呼び方……彼女も契約とやらが出来るのか、そもそもどうやって不老不死に、ギアスとは何なのか?プルートーンを動かしていたのがV.V.だとしたら、オイアグロ・ジヴォンもギアスに関わっているのか?
「考えれば考えるほど、おとぎ話だか聖書の中の滅茶苦茶な話ね。」
雛のいうとおりだ……
「で、これが全部事実だとして……なんでお前が殺されるんだ?」
秀作が資料を机に投げつける。
「………遺跡とギアス、V.V.の契約はおそらく皇帝陛下も深いところで関与しているか…首謀者だ。今神根島にいるのも、その契約とやらが完遂の段階に入ったんだ。しかも、中華連邦のクーデターに前後してバトレー達が本国から消えている。」
「それはまさか………口封じ?」
幸也が恐ろしい可能性を口にする。どこまで皇帝と共謀していたのか、そもそも本当に共謀していたのかも定かではない。が、ライルは共謀または皇帝とV.V.が主犯格であると睨んでおり、おそらく何かの形でそれを知った当時の研究員とバトレーは皆殺されているだろう。
「貴方、こんな恐ろしいことに首を突っ込んだの?」
セルフィーにいわれ、ライルはうなだれるしかなかった。
「サラが言っていた、アッシュフォード学園の生徒会の異変……まるで記憶を書き換えられたみたいだと言っていた。副会長の妹が別人になって、今度は弟にすり替わったと。」
おそらく、皇帝の仕業だ。或いは皇帝本人か従者の誰かが記憶を書き換えるギアスを持っているのだろう。そう考えれば、生徒会の異変も説明が付く。
ライルは立ち上がった。
「今話せるのはこれが全てだ……こんな訳の分からない計画の邪魔をするなんてことで巻き込んで………すまない!」
頭を深く下げた。それしか……ライルには出来なかった。
少しして……
「殿下、顔を上げてください。」
長野が微笑して、肩に手を添える。
「貴方は…皇帝陛下がそうした突飛な研究にのめり込んだからこそ、責務を放棄した。とお考えなのですね?」
「ああ……」
「であれば、改めて皇帝陛下に問い質す必要があります。」
ゲイリーも立ち上がる。
「殿下……少しでも疑ってしまい、申し訳ありません。ですが、確かに殿下ご自身が仰ったように、皇帝陛下のこの訳の分からない研究も貴方のお話も全てを信じることは出来ません。」
「ライル様……皇帝陛下は王の責務を放棄して、そんな研究にのめり込んで妙な計画が完遂されたらどうなるとお考えですか?」
レイの質問にライルは少し考える。計画が完遂されたら、少しは追うとしての責務を果たしてくれる?などと考えたこともあった……だが、こうなってくるともうそれはないようだ。
「………責務を果たすようには思えない。今までほぼ全てを私達に任せてきた男だぞ……こうなった以上、あの男を問い詰めるしかない。」
その上で、計画も破綻させる。どうすれば良いかは分からない……とにかく、あの神根島の遺跡だけでも徹底的に破壊すれば遅れさせるくらいは出来るか?
「成功する見込みも具体的な方法もない。一緒に……来て欲しい。」
レイは微笑み、唇を重ねる。
「元に戻ってくれましたね?」
「……ああ。」
全員が頷いた。ここまで来たら、もうやるべきことは一つ。皇帝の元へ向かい、拘束して遺跡を破壊する。そして、計画について聞き出してやる。そして、本来の王としての責務に戻させる。だが……
「最悪、陛下を殺すことになるかもしれない……もしそうなったら、シュナイゼル兄様を皇帝に推挙する。それでも良いか?」
ライル自身が皇帝になりたいところだが、それでは間違いなく大きな反発が起きる。味方してくれる者もいるだろうが……そもそも、証拠も品薄。
ならば、優れた政治的能力を持つシュナイゼルの方が最も適任だ………最悪彼も共犯の道連れにしてやれる。我ながら情けない……結局、彼に泣きつくしかないとは。
夢はここで潰える………否、まだ望みはある。兄様の元で少しずつ変えるという可能性も……
そうなれたら良いが……果たして、本当にシュナイゼルの元で大丈夫なのだろうか?
能力面で彼に対抗できる人間など皇族どころか国内にだってそうそういるわけない。だというのに……何故か、ライルはシュナイゼルに対しても胸騒ぎがしていた。
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