[38440] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-37『向けられた刃…後編』 |
- 健 - 2019年02月07日 (木) 00時42分
式根島から南東の八丈島……そこから更に東にある小島にライル軍は逃れた。
幸い、この島は無人島であり、艦も海岸沖または森の開けたスペースに強引に降りた。住処を追われた鳥や動物たちが飛び出し、艦の操舵に入ったエレーナは少し罪悪感を覚えた。
「着陸しました……」
「残存KMFも収容完了。」
残ったライル旗下のKMFはエースを除いて約四十機。だが、兵達はライルの陰謀に困惑している。実際に動いてくれるものは半数弱だろう。
ゲイリーはここで軍人として取るべき行動を既に決めている。既に有紗は格納庫へ向かっており、優衣とエレーナも飛び出している。
「殿下、しっかりしてください!」
コクピットを開いて、テレサがライルを引っ張り出す。ライルの表情を見て、有紗が思わず口元を覆った。
眼が死んでおり、何かぶつぶつ言っている……
「ぼくのせいで…ぼくのせいで……ジュリアが………」
「ライル、様?」
有紗が声をかけると、ゆっくりと顔を上げて辺りを見回す。
「フェリクスと…セヴィーナは?まだ、戻ってないのか?」
その言葉の意味を悟った……受け入れられずにいる。否、理由は分からないが自分のせいだと思い込んで更に自分を追い詰めている。
「ライル様…二人は、もういないんです?ライル様を守って……亡くなりました。」
レイがゆっくりと言い聞かせるように伝えると…
「ぼ、僕のせいだ……僕が、ジュリアを殺して…中島を…フェリクスと、セヴィーナを………」
有紗が前に立って、あやすように伝える。
「ライル様、とにかく今は休んでください……医務室に」
「残念だが、すぐにというわけにはいかん。」
有紗が振り返ると、ゲイリーが数人の兵達を率いて銃を向けていた。後ろからも、ヴァルスティードや長野が銃を向けていた。
「な……あ、あんた達何してるのよ!?」
遅れてきた優衣が抗議するが、『フォーリン・ナイツ』の兵士が制する。
「我々はこの男に聞かねばならない。」
「殿下……貴方は本当に皇帝陛下を暗殺して、皇位簒奪を企てたのですか?そのことを確かめさせてください。」
ゲイリーの問いの意味を有紗は悟った。だが、同時に……
「なんで……なんで、いきなり銃を向けるの!?こんなの処刑と同じじゃない!!」
「いくら何度か寝た仲でも、付き合いの短い私より将軍達の方が分かるでしょう!?」
エレーナも感情的になって抗議し、レイとテレサがライルを庇うように前を出る。離れた場所でデビーやマルセルは何かを決めかねていた。
「皇帝直下の騎士のヴァリエール郷が言うからそうだっていうの!?なんで、あの人がいきなり言いだしたことを信じて…!なんで、ライル様を信じないの!?」
有紗の叫びにゲイリーの表情が僅かに動いた。
「貴様の言いたいことは分かる……だが、もしも事実であれば私はブリタニア帝国の軍人として殿下を皇帝陛下に差し出さねばならない。長野……職業軍人のお前は分かるな?」
「はい………殿下、我々は只知りたいだけなのです。事実か否か…」
長野は刀に手をかけるが、抜く様子はない。ところが…
「ふ……ふふふふふ………あはははははは…いぃひひひゃひゃひゃはははははははは!!!」
狂ったようにライルは笑い、涙を流した。
「そうだよね…結局こうなるんだよね!!僕は誰からも信用されていなかった!!そうだよ、僕は誰も信じていなかった!!どうせ、僕の地位と皇位継承権目当てだから義理立てしてくれていただけなんだろう!!だから、僕が少し疑われればそうなる!!ほら、殺せよ!殺してよ!!誰でも良いから、僕を殺してよ!!そうすれば、命は助かる!皇帝陛下とブリタニアへの忠義立てが出来る!!」
有紗はライルの顔を見て、悲しくなった。同時に…悔やんだ。
ライル様……怖かったんだ。自分が皇族じゃあなくなったらみんなが離れていくって………
無理をしているのは分かっていた……その堤防が今回の件で、完全に壊れてしまった。
「なんだよ…?誰もやらないの?じゃあ、皇帝陛下暗殺の極悪人らしく、道連れにしてあげるよ!」
剣を抜こうとした時…割り込んで来たレイが思い切りひっぱたいた。
「いい歳して、大の男が何ビービー泣いてるの!?今の将軍の言葉を聞いて分からなかったんですか!?まだ信じてるんですよ、ライル様のことを!!なのに、ここで自棄を起こして暴れて殺されたら、フェリクスとセヴィーナになんて言い訳するんです!?」
胸ぐらを掴んで叫ぶレイに、ライルだけでなく全員が呆然としていた。
「貴方が、私のハーフという生まれに興味があって…それでも私は私だと言ってくれた時、本当に嬉しかった!お父さんとお母さん以外で私を見てくれた人がいて……あの時、もう好きになりかけていたの!!それで………この間、私を抱いてくれて……もう本当に幸せだった!!それを………ちょっと疑われたくらいで喚いて!言い分は聞いてくれるんだから!それもしないで只みっともなく喚く人に抱かれた覚えはないわよ!!」
レイはライルを突き飛ばして、走り去っていく。ゲイリーは何も言わず、改めてライルを向く。
「………殿下、着きだしても処刑はされないように私もヴァリエール郷に嘆願します。飯田達も貴族の我々が後見人を務めますし……長野達にも可能な限り手を尽くします。だから…何があったのか教えてください。」
「…………私自身、半信半疑の内容でも?」
一人称が「僕」から「私」になった。少しだけ、調子が戻ったようだ。
「でも待って……本当にこんな状態じゃあ、少し待ってください。」
「おっさん、俺らからも頼む。実は、俺と兄者もちょっと絡んでるんだ。」
ヴェルドが進言し、コローレも頷く。
「どういうことだ……」
「因果関係は分からないが、先程殿下もおっしゃったように私達もピンとこないんだ。殿下のお立ち会いの元で全て話します。だから、今は……」
「分かった……ただし、皇帝陛下暗殺の容疑がかかっている以上見張りはつける。」
ライルは有紗が付き添って部屋に戻り、銃を向けていた兵士が外で待機する。武器は全て、先程ゲイリー達に預けている。
「ライル様……」
「僕が悪いんだ……僕が、父上の言葉を疑ったから…!」
「でも、ライル様は皇族としての責任を果たそうとして……」
だが、ライルは涙を流しながら有紗を押し倒した。
「責任を果たそうとしてこれだ!皇族は父上のことを疑ってはいけなかったんだ!深いお考えがあると言い訳をすれば……なのに!」
その結果がこれだ……有紗達に火の粉が飛び、フェリクスとセヴィーナが殺された。
「僕のやることはいつもこうなる………ジュリアのことも、君達のことも……今回も……うっ…うぅぅ…!うぐっ……うあああああああ!!」
有紗の胸に縋り、ライルは小さな子供のように泣き喚いた。有紗は何も言わずに抱きしめて、頭を撫でていた。
|
|