[38435] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−16 錯乱する世界』 |
- Ryu - 2019年02月05日 (火) 21時43分
「何!? ライルが神根島に向かっただと!?」
「はっ! どうも一軍を引き連れて…尚セント・ガーデンズも同行している模様です!」
カゴシマのビスマルクが一旦戦線を下げた事で、フクオカのエルシリアもなし崩し的に戦線を下げてフクオカ基地に戻って全戦線の状況を把握せんとしていたが…ウィンスレットから齎された情報に驚いていた。
自分とて父には言いたい事が色々とある。だがまさかライル…行動に出るとは。捉えようによっては異心抱いている、と言われても反論出来るのかどうか…勿論本人はそこまで思っちゃないだろうが。
それにあの軍には彼もいる。彼が傷つく事になればセラは…こんな事考えるのは、何だかんだで情も移ったからか、いや…アルを喪った事がまだ響いているのか…。
「…嫌な予感がするわね」
クレアがふと漏らした呟きを、その場にいたエルシリアも、ウィンスレットも否定する事が出来なかった。何か自分達の知らない所で、とんでもない事態が発生しようとしているのではないか? …そう思わずにはいられなかった。
「…それにしても、あの『フレイヤ』なる新型爆弾……あそこまでとは」
話題を変えるかの様なウィンスレットの発言だが、これもこれで素直に喜ぶ事の出来ない内容だった。シュナイゼル兄様お抱えの研究チームが作ったモノだとは聞いていたが…
「圧倒的な破壊力、それでいてKMFでも携帯出来るレベルの大きさ……もし量産されたら……」
「…最早KMFが意味を成しませんね。ただの鉄の棺桶と化してしまいます」
クレアの発言に相槌を打つウィンスレットの発言に、エルシリアも同意せざるを得なかった。
確かに、極端な話アレを量産して敵に打ち込めば我々の勝利は固いだろう……だがそれは戦争と言えるのか? 最早単なる虐殺劇でしかないのではないか? 引き金を引く事の重さも知らない、知ろうともしない人間の手に渡れば、それこそ悲劇が待っているのではないか…?
「…いけないわね。どうも話がどんどん暗い方向にばかり転がっている気がする」
「全くですな」
「…エル、ここは一旦私達に任せて部屋に戻りなさいよ」
「…ありがとう」
それだけ言ってエルシリアは自分様に用意された部屋へと歩いて行った。正直ここまで存在が重かったとは思って無かった…アルの事が。失ってから気付くなんて…。
「…姉さん?」
ふと気づくとセラが目の前にいた。いかんな、彼女がいた事にも気付いていなかったとは。
「セラ…ダメね私、どうにも参っているみたいで…」
「いいのよ。マイナの事、アルの事…私もショックだもの、だけど…」
「エルシリア様! 大変です!」
セラと話していると、横からルースが血相を変えて走ってやって来た。一体何かあったのか? どうにも只事では無さそうだが…
「どうした!? ルース!?」
「はっ、はい! 報告によると…ライル殿下が皇帝弑逆並び簒奪を企てたとの容疑によって、セントガーデンズから攻撃を受けたと……!」
「なっ……!?」
「攻撃を受けて一部の離脱と足止めを出し、殿下は何処かへ……っ! し、しまっ!!??」
「……え? ラ、ライル兄さんが……それに……しゅ、秀作は……!?」
丁度エルシリアがいたのは狭いT字通路の付け根の辺り、彼女の正面にいたセラフィナの事が、彼女の横から脇目も降らずやって来たルースには全く見えていなかった。
余りにも間の悪い状況でやらかしてしまった自身の失態をルースは悔やむも、最早セラフィナは顔面蒼白になりエルシリアも愕然とした様子でその報告を聞いたのであった。
「ブランドナー将軍…こんな所で……!」
「くそぉ…くそぉぉぉぉぉぉ!」
「嘆くな…戦場の常だ。いつかこうなる事も覚悟していただろう?」
「わかっている、わかっている…! けどなぁ…悔しいモンは悔しいと思って何が悪い…!?」
「…そうだな」
シルヴィオ軍の旗艦では、ザカライアの戦死を聞いたエリア達『十勇士』の何名かが悔しんでおり、中には涙を流す者もいた。
彼らの中にはシルヴィオ軍に入る以前から出自の枠を超えてブランドナーと交友があり、シルヴィオ軍結成時には彼の伝手で入る事になった者もいる。
軍の重鎮であり誰からも慕われた男の死を悔やむ者達……その光景を、アーネストと美恵は遠くから眺めていた。
「ミュレーズ卿に次いで、ブランドナー将軍までも、か…」
「…聞いた話ですけど、重傷を負って緊急搬送されたリー卿が…亡くなられたと」
「そうか…リー卿までも」
これで『十勇士』の内2人が欠け落ちてしまい、『十勇士』とはまた別枠、軍にとっては無くてはならない存在だったザカライアまで消えた。特に後者の戦死は大きい。
「俺達も、危うい所だったがな」
「ええ、流石にあの連中は手強かったです。でもどうにか切り抜け、またアーネストと共に生き延びる事が出来て…私にとってはそれだけで満足です」
「…ここではよせ」
自身にしな垂れかかってその豊満な身体を当てようとしていた美恵をアーネストは窘め、美恵は流石にわかっていたのかすぐに離れた。表情は割と本気だった様だが。
「しかし我らが皇帝陛下が太平洋上に現れたとは聞きましたが、その後カゴシマにもトウキョウにも向かう訳でもなく、何かの島に寄ったと…」
「ああ、別に補給の為でもないらしい。それならハワイで済ませているだろうからな」
「…一体何が」
「…わからん。俺達の立場からすれば何が何だかさっぱりだ」
ユーロ・ブリタニア所属時からそうだったが、あの皇帝は今一何を考えているのかわからない時が、そして謎が本当に多かった。
結局あの皇帝の「代理人」たる黒衣の軍師は何だったのか…奴こそがゼロだと聞いたがあれは結局シャイング卿のハッタリか何かだったのか? もう今となっては確かめようも無いが。
「まあ、所詮名前も覚えていない様な『駒』相手にまで、配慮する様な御方では無いでしょうけどね。もっとも古今東西最高権力者ってはそういうだと思いますが」
「美恵」
「…わかってますよ。でもやはり嫌味の一つは言いたいものです」
それだけ言ってアーネストと美恵はその場から去り、自室へと向かって行った。現状自分達には待機命令が下されている、もっとも同僚達や他のブリタニア軍も同じ様な物だろうが…。
それでだからって訳でも無いが、一先ず今日を生き残った事を喜びながら、まずは愛し合おうと決めた2人であった。
「クソッ…おっさん、くたばりやがって…!」
「…殺しても、死にそうに無いおっさんだと思ってたのにね…」
「…」
「フェンリル」に用意された竜胆級戦艦にて、アサド達はニコロスの戦死を聞いて嘆いていた。あまり彼に対して好印象を持ってなかったイロナも、ショックを受けて俯いている。
「…もう、何人なんだろうな。こんな風に『仲間』がいなくなるのを経験するのは」
「…慣れたくないよ。そりゃこんな立場にいる以上、避けては通れない道だと思ってはいるけど。それでも…やっぱり…」
「……クラック……ジル……ソフィア……」
アサドがポツりと零した呟きにアレクシアも弱々しい声でそれに答え、イロナも今までに失った人達の事を思い出しているのか、眼から涙を零していた。
「我ながら愚かとしか言いようが無いな…たかだか敵の一人を倒しただけで周囲の警戒を怠り危機を招き、その代償が奴の命。何をしているのだと…嗤いたくなる」
艦に戻り、一旦自室に戻ったゼラートは自嘲するかの様に呟いた。ウェンディも当たり前の様に隣にいる。
「彼とは…結構長い付き合いだったとは聞きましたが」
「ああ、ある戦場で共闘してな。それ以降何かと会う様になって気付けばつるむ様になった…まだお前と会う前、俺もまだ一兵士として各地を転々としていた頃の事だ」
「ふふ…その顔だと当時の出会いは良くなかった様ですね」
「…最期はこう言ってたよ。『お前が幸せな家庭作る』と。その後に何を言おうとしていたのか、今となってはもうわからんが」
「…そんな事を」
「そして俺でも驚いたものだよ、眼から血以外の何かが出るのを。もう何回と同じ様な光景を見て、報告を聞き…流す涙などとうに枯れ果て、感じる心も既に凍り付いていたとばかり思っていたのだがな」
「…そんな事、言わないでください」
柄にも無く自嘲が止まらないゼラートに、堪らずウェンディはそっと正面から抱き着いた。制服越しにでもわかる彼女の美乳が柔らかく形を変えてゼラートの胸板に当たっているが、彼も特に驚く様子も無く彼女の背と後頭部に手を回した。
「私は知ってます、貴方が周囲が囁いている様な心無い人間では無い事を…あの子達の様な若手の部下からは兄か親同然の存在として慕われ、貴方も何かと気に掛けている事を…別に死なれては困る『駒』だからという事以上に、死んで欲しくない命だからと」
「…ああ、そうだな。俺の最初はどいつもこいつも年上ばかりだったし、お互いにそんな風に考える余裕も無かった。だが気が付けば俺より年下ばかり周囲に集まったものだ…」
「そして数少ない年上のニコロスだって別に『指揮官』としてではなく、『友』として心から死んで欲しくないと思ったからこそ、あんな行動に出たのだと…私は思います」
それだけ言うとウェンディは唇をゼラートのそれに付け、彼もそれに貪る様に味わう事でそれに答えた。しばらくお互いに味わった後自然と離れると、ウェンディの表情は完全に「女」そのものへと変わりつつあった。
その愛おしい姿に、ゼラートは今ここで彼女の全てを貪り尽くしたいという衝動に駆られるも、すぐにそれを抑えた。今はそんな事に時間を費やしてる暇は無いのだ。
「…続きもじっくりと行いたい所だが、まずは確認だ。ここだけでは無い。シマネのライル、フクオカのエルシリア、そしてカゴシマのビスマルクも攻撃を停止し、今やなし崩し的に停戦状態に入りつつある」
「…ええ、そしてあのトウキョウ租界を文字通り消滅させたブリタニア軍の新兵器……その影響か何かでトウキョウのゼロも攻撃を停止した様ですが」
「ここからでは断片的な情報しか入らず全くわからん。事と場合によってはトウキョウにまで乗り込んで聞き出す必要もあるか…あの秘密主義者がどこまで喋ってくれるかどうかわからんが」
部屋に漂っていた甘い空気は一瞬で霧散し、「男」と「女」から一変、「指揮官」と「副官」として行動を開始したゼラートとウェンディであった。
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