[38425] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-37『向けられた刃…前編』 |
- 健 - 2019年01月31日 (木) 17時30分
ライルはあまりの被害状況に言葉を失った。そして……またもナナリーが行方不明になってしまった。何故?何故、あの子ばかり?
幼くして母を殺された上に眼と足が不自由になってしまい……未だに回復の見込みがない。その上、政治の道具にされて見殺しにされたかと思えば…帰ってきて……そしてまた………!
どうして……ナンバーズの過酷な環境はライルも見ているが………それでも、五体満足または片目にしろ片足にしろ目で見て歩けるだけ彼らは恵まれている。彼女はそれさえ適わないのに……優しくエリア11の総督に就任した際も彼らに損がない政策を行う。その理由は………
そして、同時に父への疑念がある。この状況になっても皇帝は神根島に留まっている。
「グレートブリタニアに繋いでくれ。」
涼子が繋ぎ、モニターには随行していた『ナイトオブトゥエルブ』モニカ・クルシェフスキーの顔が映る。
〈ライル殿下、何か?〉
「クルシェフスキー卿……皇帝陛下に繋いでください。」
〈は!〉
数秒後、皇帝の顔が映る。
〈ライル、何用か?〉
何用?トウキョウ租界の被害を知らないとでも言うのか?
「陛下…トウキョウ租界の状況はご存知ですか?」
〈知っておる……〉
知っている?ならば……
「でしたら、何故貴方はそのような場所におられるのです?突然行方を眩まされたかと思えば、また突然お戻りになられて宣戦布告を…」
〈全てシュナイゼルに任せると言ったはずだ…〉
その言葉がライルを苛立たせる。
「せめて……帰還されたことを帝都の皆に示すべきでは?こちらを兄様にお任せにされるのであれば、一度帝都にお戻りを。」
〈くどい…儂は俗事にかまけておる暇など無いのだ。〉
「え、俗事?」
隣にいたレイが呟き、コンソールの前の涼子や有紗も困惑する。ゲイリーも言葉に困っている……
遂にライルは怒りを抱いた。
「ならば、貴方は何が俗事ではないと仰るのです?神根島に留まることの方が大事だと?」
〈そうだ。〉
な……!?この男は、本気で言っているのか?
あのわけの分からない契約とギアスという妙な力……そして、出立直前にグレイブから聞いた妙な情報。クロヴィスとバトレーがエリア11で極秘に研究していたというコードR…………それにあの機情の捕獲対象のC.C.が関わっていること。
シュナイゼル兄様はバトレーを取り立てたという?何か兄様も突き止めていて、それで兄様をトウキョウに釘付けにするつもりで?
通信が一方的に切られた。ライルは意を決し、主立った面々を会議室に呼んだ。
「神根島に向かう。」
ゲイリーはライルの突然の宣言の意味が分からなかった。
「殿下?神根島に向かうとは……どういう?」
「皇帝陛下はトウキョウ租界の惨状をご覧になっても関心を示さず、神根島に留まられる。全てをシュナイゼル兄様に任せると。」
「でも…」
レイが何か言おうとするが…
「父は俗事と度々仰られていた。E.U.との戦争も…中華連邦の婚姻も……今回も、度々私や兄様に俗事を任せると仰られていた。」
「俗事…って、確かにそう仰ったし……皇帝がそんなことを言って良いはずが。」
有紗が言うとおりだが……
「しかし…陛下には何か……」
「どんなお考えがあると?世界の勢力図が180度変わりかねないような戦争になっても、関心を持たずに訳の分からない遺跡に留まる男に?」
ゲイリーの反論を封じたライルの言葉には皇帝への憤りと不信感が滲み出ていた。以前から、皇帝に疑念を抱くような発言はあったが……『ブラック・リベリオン』の頃からそれがいっそう顕著になっていた。
「王の責務が俗事だと仰るのならば、あの男は何が大事なのか………こうなったら直接問い質す。最悪の場合、強引にでも帝都へお連れする。」
「大将…まさか?」
「クーデターではない。滅多なことを言うな…」
そう、確かにクーデターではない。いわば、強硬臨検に近い。
「皇族の私ならば、陛下の謁見も適うはず………それに、クルシェフスキー卿と『ロイヤルガード』もいるんだ。下手に手を出せばこちらも只ではすまない。他の皇族や『ラウンズ』も黙っていまい。」
確かに……現状、真意を問い質すという意味でもそれが妥当だ。実際、それを聞きつけてゼロが神根島に部隊を派遣しない保証もない。
「シュナイゼル殿下、ライル殿下が神根島へ向かうそうです。」
カノンの報告を聞いたシュナイゼルは数秒、考える。
ライルも神根島に……ということは、あの事をライルも嗅ぎつけて…ゼロについても?
「いかがなされます?」
「いや、彼は彼で皇族の責務を果たそうとしている。」
そろそろ諦め時かな?
彼は中々に優秀だ……総合的にはコーネリアに届かないが有能な人材に恵まれていた。『アルガトロ混成騎士団』にいたヴェルドとコローレも含め、有能な人材を回したのもシュナイゼルだ。
悲しいね、ライル……君のその責務を果たそうという想いが君を苦しめることになるとは。
シュナイゼルの了承も得て、ライル軍は神根島へ向かうことになった。『セントガーデンズ』も同行することになり、式根島方面に出ようとした時………
随行したカールレオン級が一隻、攻撃を受けて撃沈された。
「何!?」
砲撃は『セントガーデンズ』のガレスからだ。それだけではない、他のKMFも突然、ライル軍の艦を攻撃し始める。
〈殿下、〈セントガーデンズ〉が突然我が軍を…!〉
〈攻撃の中止を…!〉
次々とKMFが撃墜され、ライルはここで胸騒ぎが的中したこと……そして、まさか…!
「全軍迎撃!!」
前もって発進していたKMFが迎撃に出る。しかし………
「ヴァリエール郷、どういうおつもりです!?」
〈殿下……貴方こそ、今ここで行動に出るとは。〉
行動?何のことだ?
「陛下は前々から貴方を疑っておられました………自らを暗殺して、皇位を簒奪しようと。」
〈皇位の簒奪?〉
〈クーデター…ということか?〉
部下達が疑念を口にする。
「何を仰るのです!私はあくまで陛下に真意を問うために…」
〈それを装い、貴方は陛下を暗殺して自らの正当性を謳う。そう………部下達が陛下を暗殺し、自らはそれを鎮圧して陛下のご意志を継いだ英雄になるため。〉
〈な…!〉
〈お、俺達は………始めからそのために?〉
〈そして、残念ながら殿下の大切なお姫様達…お気に入りの将軍や侍方は始めからその捨て石に含まれていない。折を見て、引き入れるつもりだったのだ。〉
レイシェフが淡々と口にするライルの叛乱計画……次第にその不協和音は広がっていく。
「何を証拠に…そのような戯れ言!」
〈ありますよ……〉
モニターに送られた。ライルが何者かと会っているような映像もある。
「馬鹿な……こんな!」
弁解しようとしたが……
〈そうか……残念だよ。〉
〈結局、あんたも同類なのか!〉
『フォーリン・ナイツ』のガレスと親衛隊のウォードがハーケンでベディヴィエールの四肢を拘束した。
〈あ、貴方達何をしているの!ライル様を放しなさい!〉
レイが抗議するが、他の部隊がレイを攻撃する。
〈結局、ハーフでもあんたは貴族のお嬢様!私達のような庶民なんてどうでも良いんでしょ!?それが日本と父親を奪われたあんたの仕返しね!?〉
〈隊長…あんたは何を見返りに着くつもりだった!家族との本国への移住か!?〉
ライルの目の前で、部下達が互いに殺し合う。どちらが離反したのか、こちらなのかもはや分からない。
「や……やめろ………やめろ………やめてくれ……」
ユーウェインが前に出て、アロンダイトを抜いた。
〈ご安心ください……公表はしません。彼らにも箝口令をしきます。貴方さえ討ち取れれば良いと陛下は仰いました。貴方のお姫様方……特に、例の侍女は私の家で引き取りますよ。彼女だけではありません…………貴方の被害者という形で本国で…帝都から遠いですが、田舎町の一般市民という形での生活を保障してあげます。他の者達も、今ここで散った者も戦死にしておきます。〉
レイシェフの言葉など、ライルには聞こえなかった。今、部下に拘束されて部下達が殺し合っている………あの時、見ていなかったものが目の前で起こっている…………
「私……ぼ、僕の……せい…で…」
レイシェフは自分でもらしくない、と思った。何故こうも甘い措置ばかりしている?嘘がなくなり、ありのままでいられるのだから下手な隠蔽など無意味……政治の意味も大きく変わる。
情が移った?まさか……
重なっているのかもしれないな………愛した女性を奪われた彼が。
だから、こうもガラにもなく甘い対応をしているのだと…
ユーウェインがアロンダイトを振り下ろそうとした時……一機のヴィンセントがランスで突進してきた。
フェリクスはユーウェインに突っ込んだ。だが、機体のパワーで押し切られてランスを破壊される。ライフルもブレイズルミナスで受け止められる。
後ろではセヴィーナのヴィンセントが裏切り者達のハーケンを斬った。
「早く、殿下を!この場を離脱してください!!」
〈離脱って、どこへ!?〉
「どこでもいい!!近くの島でもなんでも………とにかく今はやり過ごすのが先です!!」
〈おい!早くそこの腑抜けを連れて行け!!〉
セヴィーナに急かされ、マルセルとテレサのヴィンセントがベディヴィエールを連れて行く。
とても、戦える状態ではないか…………
「将軍、このあたりは小島も多いはずです。どこか小島へ移動してください。」
〈貴様らはどうするのだ?〉
ゲイリーに問われると……フェリクスは答えた。
「決まっているでしょう?しんがりです………殿下を信じている者は、早く退避を!!」
彼に触発され、離反していない親衛隊や『フォーリン・ナイツ』、一般軍は艦隊へ向かう。だが……
〈どうせ、家族もいない身だ。ここでちょっと騎士道とやらに殉じてみるのも悪くないな。〉
〈ナンバーズごときに、後れを取るわけには行かぬ。〉
何機かがこちらに合流した。セヴィーナのヴィンセントもいる。フェリクスは少し嬉しかった。先程送られてきた証拠……だが、離反したKMF隊は全体の半分にも満たない。
貴方の無器用で愚直な努力の賜でしょうか?
実際、フェリクスは信じていないし彼自身から直接問い質すまでは信じる気もなかった。

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