[38422] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-36『日本解放作戦…後編3』 |
- 健 - 2019年01月28日 (月) 18時45分
シマネでライルは一度艦に戻り、休息を取っていた。他の者も同様だ……何しろ長期戦。休息は必要不可欠だ。
すぐにヴィンセントに乗り換えようとも思ったが、またあの四人に狙われたらヴィンセントでは持ち堪えられない。結局、ブリッジに上がるしかなかった。
涼子はベディヴィエールの細かいダメージをチェックしている。
「もう、せっかく私が改良したベディヴィエールをこんな短時間で……と言うよりも、あんなのを何機も作るラクシャータ・チャウラーって何者よ?」
文句を言いながら、涼子はサンドイッチを片手にパネルを操作している。
ライルも一度ブリッジにあがり、玉座に座る。有紗が出迎え、蜂蜜とレモンの入った紅茶を出す。
「どうぞ……こんな事しか出来ませんが。」
「いや、ありがとう……状況は?」
「は、大型砲の破壊後に敵は通常戦闘に移行しております。ですが……やはりトウキョウ租界に援軍を向かわせない方針に戦略を変えつつある模様です。」
「雷斬利という男………殿下がおっしゃるように侮れないようです。」
確かに……今まで積極的に攻めていた動きが今度はKMFによる通常戦闘主軸に切り替え、しかもやたらとこちらに踏み込もうとしていない。かといって、こちらが切り込んで万が一にでもなればここも制圧されてしまう。
「我々をこちらに釘付けにするか。」
ゲイリーが唸り、ライルも肘掛けを強く握る。これでは、迂闊に攻め込めないしトウキョウへ援軍を送ることも出来ない。指揮官は大宦官派の武官だと聞いていたが、政治や戦略的な眼は星刻と同等かもしれない。
「反体制派と体制派の優れた武官が力を合わせるとこれほど恐ろしいとはな………」
対ブリタニアという共通目的に二人の武官が手を結んだ上に、E.U.の主戦派と…………つくづくE.U.も中華連邦も惜しい人材を飼い殺しにしていたものだ。その体制を作ったのは時の指導者達だが。
「ブリタニアも似たようなものか?」
枢木スザク………彼は少々極端ではあるが、ライルにとっては彼の存在は良いモデルケースだ。彼がシュナイゼルのお抱えで今は『ラウンズ』…
そうこう考えている時、優衣が大きな声を上げた。
「太平洋上に友軍艦……えぇ!?」
「どうした?」
ゲイリーの問いにエレーナが答える。
「ゆ、友軍艦ではあるのですが………識別信号は、グレートブリタニアです!」
グレートブリタニア!?シャルル皇帝の座乗艦ではないか!!
「トウキョウか、カゴシマに来るんでしょうか?」
どういうことだ?陛下ご自身がエリア11に来られて、兵達の鼓舞を兼ねて………
「いや、無いだろう。」
今の有紗の疑問への回答も兼ねて自分で考えた可能性を破棄した。
「何故言い切れるのですか?」
ゲイリーに有紗も続く。
「だって……この状況だったら、トウキョウかカゴシマに戦意高揚で来るのでは?」
そう、素人の有紗でもゼロがいるトウキョウかビスマルクがいるカゴシマ、戦意高揚という目的も兼ねてそのどちらかを考える。だが………
「『ブラック・リベリオン』の対策会議にもおられず、中華連邦で婚姻の祝宴にも出席しなかったような男だぞ?」
一度戻ったシルヴィオも、もうブランドナーがいないのを理解しながらも彼に告げるように答える。
「それが、今になってトウキョウ租界に来られるとは考えられない。」
「では……陛下はなんのために?」
「そこまでは分からない……」
ミルカの疑問に対する回答をシルヴィオも持ち合わせず、ドリンクを飲んだ。
「お父様……やっぱり、あの玉座を空けていることと関係があるのでしょうか?」
「例の噂か。」
セラフィナの言う件はエルシリアも聞いている。度々玉座を空けるというあの噂……
何か考えがあるのでは、と思っていたがここまで来てそれを鵜呑みにすることは出来なかった。
同じ頃、トウキョウ租界で指揮を執るシュナイゼルもアヴァロンでその報を聞いたが……
「いや、陛下は戦場には来られないよ。」
「どうして言い切れるんですか?」
あっさりと断言したシュナイゼルにカノンが問うと、シュナイゼルは答える。
「現実を……今日という日を大事にしていると思うかい?彼が。」
前々から抱いていた疑念………父は国政などの殆どをシュナイゼルやコーネリア、本国の官僚達に任せきっている。今回の件にしても…
「まるで、目の前の現実に……世界に興味が無いように見える。」
ライルも『ブラック・リベリオン』の頃から………否、もしかしたらもっと以前から抱いていたかもしれない疑念を表現した。そう、何度も俗事と言っていた………もし、政治も戦争も…否、国の運営や世界情勢にもさして関心を持っておらず、各国への戦争も俗事ならば………
「殿下、それは皇帝反逆罪に…」
「違うというのか?」
ゲイリーや他の幕僚に問い返すと、皆黙った。
「度々玉座を空けて、大規模な叛乱にさえ興味を示さない男……」
あんな男を皇帝に据えたままで大丈夫なのか?E.U.との戦争でさえも殆ど『ユーロ・ブリタニア』に任せっきりで、『方舟の船団』や『四大騎士団』の事件にも関心を示さなかった。中華連邦での『紅巾党の乱』もそうだ……一歩間違えれば、あの時点でブリタニアは各エリアの反抗に加えてE.U.と中華連邦の両国を相手に戦争をする恐れだってあったのだ。
ライルの中では父、皇帝への反感が日に日に大きくなっていた。実質、殆どをシュナイゼルが行っている……シュナイゼルにもしものことがあればブリタニアはどうなる?
現在、ブリタニアの国家運営は殆どがシュナイゼル兄様に頼りきりだ。そんな状況下で、もしシュナイゼル兄様が殺されでもしたら……!それこそシン・ヒュウガ・シャイングの目論見とまではいかずとも、内政に影響が出る。
しばらくして……案の定、グレートブリタニアはトウキョウ租界へ向かわずに式根島……否、神根島へ向かった。
ライルは狙いがクロヴィスが調査しようとしていたあの遺跡だと見抜いた。
「こんな状況でも、あの遺跡か…!」
怒るライルの耳に技術班から連絡が入る。
〈殿下、ベディヴィエールの整備完了しました。〉
「よし、出撃……」
「待ってください!」
優衣が呼び止めた。
「トウキョウ租界で巨大な爆発を確認!アヴァロンからブリタニア全軍に戦闘停止、『黒の騎士団』にも同様の連絡が入っています!」
何?トウキョウ租界で巨大な爆発?まさか、例のフレイヤ?
「トウキョウ租界の様子は出せるか?」
「はい、待ってください。」
上がってきた涼子がパネルを操作して、受信を試みる。
「出ました!………え?」
エレーナが報告するが、モニターに映った光景にブリッジの誰もが、否……それを各モニターで見た両軍が言葉を失った。
トウキョウ租界……そこには巨大なクレーターが出来ていた。階層構造の中にある市街が政庁諸共跡形もなく消えている。
〈一般市民への一次被害は死者だけで一千万を超えていると思われます!〉
〈二次被害による死傷者は推定でも二千五百万人!救命施設も消失したため、市民を救う手立てがありません!〉
〈トウキョウ租界は……死にました。〉
有紗は呆然とした……フレイヤというのがシュナイゼル旗下の研究チームが開発した新型爆弾だというのは聞いている。
なんで?なんで、こんな………市街地の、しかも政庁もある場所で?
あそこには戦えない人の方が圧倒的に多いのに……ゲットーから働きに出ていた人だっていたはず…………
「……ナ、ナナリーとシュナイゼル兄様は!?『ナイトオブラウンズ』と『グリンダ騎士団』は!?アッシュフォード学園は無事なのか!?」
呆然としていた中でライルの指示に全員が我に返り、トウキョウ租界に確認を取り、涼子がまず返す。
「シュナイゼル殿下は健在!『グリンダ騎士団』はエニアグラム卿も含め、被害なし!」
次に優衣が答える。
「アッシュフォード学園は無事です。『ナイトオブラウンズ』は………ブ、ブラッドリー卿が戦死されました。」
「ブラッドリー卿が!?」
だが、エレーナの報告にライルが言葉を失った。
「ギ、ギルフォード卿が行方不明……更に………ナ、ナナリー総督も…………脱出の際にフレイヤに巻き込まれた、と思われます…」
「…………え?」
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