[38389] コードギアス 戦場のライル B2 SIDE OF WARFARE『はみ出し者と正義の味方-2』 |
- 健 - 2018年12月28日 (金) 22時47分
E.U.から脱退した軍の一部は既に蓬莱島に入っている。その中にいた美奈川浅海は久しぶりに現地のメンバーと会っていた。
「無事だったのか、美奈川。」
「ええ……カレンは?」
歳も近い紅月カレンの姿は見えなかった。ブリタニア人とのハーフだというのには驚いたし、名誉ブリタニア人にもかつての自分と同じ考え方だった。だが、少なくとも彼女は話せば分かってくれると浅海は思っていた。
彼女が一番付き合いが長い扇が顔を伏せる。
「中華連邦のクーデターの時に…大宦官経由でブリタニアに捕まったんだ。」
「じゃあ、今はエリア11に?」
「ああ…」
「大丈夫、ですよね?」
あの総督がどういう人間かは分からないが、少なくともカラレスのような政策はしていないしアッシュフォード学園で同級生だったという枢木スザクもいる。ぞんざいに扱うことはしないだろう。
「あの、扇さん…」
「なんだ?」
「その……日本奪還が成功したら、ブリタニア人の人達はどうなるんでしょう?」
どうしても、その不安が拭えなかった。『ユーロ・ブリタニア』に制圧された地域ではまだ現地部隊による暫定統治で市民にはこれまで通りの生活を求めていた。彼らの場合は元々祖先の土地で、そこの民を導くという理念があったからそうなる……E.U.政府への不満もそれを助けていた。
「本国に、送り返せば良いだけですよね?」
「ああ…そのはずだ。」
そう、それですむはずなんだ。だが……
「アッシュフォード学園や、その……あそこがブリタニア領土になってから住む人達はどうすれば良いんでしょう?住むのを認めてあげるんですよね…?だって、本国に家がない人だっているはずだから。」
そうだ、独立の記念だとか何かで虐殺が起こる可能性は充分にある。ゼロが呼びかければ充分にそれを抑えられる。
「扇さんや、藤堂さんも……その辺は考えているんでしょ?」
「ああ…」
なんだ?前は少し頼りないと思いながらも良い人だった。ブリタニア人だからといって無闇に殺すのを良しとしない人で、あのラルフ・フィオーレというブリタニア人の少年も随分と慕っていた。
「扇さん…何か、あったんですか?」
「い…いや、何でもない。ゼロだけじゃない…藤堂さんや神楽耶様とも相談して決めるさ。」
そう、だな?藤堂は分別のある良き軍人だ。あの行村などとは違う。
彼のことも、丁重に扱ってくれるだろうか?
クラリスは周囲の視線にうんざりしていた。同姓からの羨望や嫉妬はいい。只単に、目を引くような美女がいるからそれに釣られる男の視線もまだ我慢できる。だが……
「ありゃあすげえな。どうせ、貴族様を上手く釣ったんだぜ。」
「ああ、それで飽きてこっちに来たんだろう?」
そう、例によってこの邪魔でしかない胸や腰に涎を垂らす男達の視線だ。E.U.からこちらに移っても、それだった。
「貴官が、クラリス・ドゥ・ピエルス大佐か?」
声をかけてきたのは中華連邦の人間だ。知っている、あのクーデターの首謀者だ。
「そういう貴方は黎星刻ね?」
「ほう、精鋭部隊のKMF隊総隊長がご存知か。」
「クーデターの首謀者として報道もされれば嫌でも分かるわよ……貴方だって、私のことを知ってて声をかけたんでしょ?見かけ倒しの精鋭部隊の隊長として。」
すると、星刻は表情が引き締まる。
「謙遜するな……貴女の戦闘データは既に閲覧させてもらったが、私に引けをとらないだろう。」
「あら、褒めてもらえるとは嬉しいわ。」
ようやくまともな男に巡り会えた。ゼロは論外だ……信用できるはずがない。不可解な点が多すぎるのだ…
「でも口説こうというのなら無駄よ?貴方は好みじゃないの。念のためいっておくと、藤堂やゼロも駄目。」
「そうか…それは残念だな。」
星刻が冗談で返し、再び表情を引き締める。
「では、本題として直接君の実力を知りたい。KMFで…」
それか……丁度良い。ここのところ、五月蠅い男共をあしらうのにストレスが溜まっていたところだ。
池田は藤堂と対面していた。直接会うのは初めてだが、その名はおそらく日本人だけではない。E.U.と中華連邦でも彼だけは別格とするだろう。おそらく、ブリタニアも彼が軍門に下っていれば名誉騎士候程度の地位と左官待遇で迎え入れていた。ブリタニアの強みの一つだ。あの枢木スザクとシン・ヒュウガ・シャイングのように資質や能力を認め、取り立てる。ブリタニアでもそれは極一部だが、それが強みでもあるのは事実。
古い考え方に固執した『日本解放戦線』が負けるのも当然、か。池田は『日本解放戦線』の軍人達と面識はない。だが、彼らはゼロの出現までは最大の反ブリタニア勢力として希望的存在だった。
しかし……KMFを保持していても、本職の軍人でもそれをまともに活かし切れていなければ勝てない。事実、コーネリア軍との戦いでは『解放戦線』は物量という要素を抜きにしてもほぼ何も出来ずに負けた。
肝心のパイロット達の練度がその一つ。いくら軍人といっても、実際のKMF戦での経験は乏しい。あの藤堂と『四聖剣』がせいぜい例外だ。そして、戦術が戦時中と変わらない。それでは数に勝るブリタニアが勝つのは当たり前だ。
そして……リーダーの片瀬だ。池田は彼のことをよく知らない。だが、藤堂に絶大な信頼を置いていたのは聞いている。おそらくそれだ。
『厳島の奇跡』を起こした藤堂がいれば勝てる、か。池田はあの頃まだ繰り上げ任官のような形で少佐になった。だが、厳島での勝利を奇跡と喜ばなかった。しかし…それが人々をカミカゼへ駆り立てた。彼はそれをどう思っているのか…
「噂は聞いていた、ホッカイドウでライルと一戦交えたと。」
「結局、大局の変化から負けたようなものです。」
あの男との戦いで池田はある意味で戦いに意義を見出した。恭順派の支持が厚い彼を討ち取るという意味以外……
一介の戦士として、あの男と正々堂々と戦い勝利したい。
自分でも珍しい欲求だった。だが、それは譲れなかった。
浅海の心にはあの日から、彼がいた。テジマ鉱山でKMFで戦って、麓の農家で少し話した彼……
『侵略者の私にこんなことを言わせないでくれ。』
あの、泣きそうな顔がずっと頭から離れなかった。自分が見ようともしなかったものを見て…その人達だけでも本気で何とかしようとしている彼……
E.U.で……家族の市民権のために従う人々を見た。元々持っていたはずのものを返してもらうために…………なのに、ゲットーの人々はそれを裏切り扱いする。
なんで?ゼロが奇跡を起こして助けてくれるとでも思っているの?
あの『厳島の奇跡』でも、大勢の日本人がカミカゼを行った。そのせいでE.U.やブリタニアではイレヴンはカミカゼや切腹で死ぬのが大好きなどという偏見が生まれ、死を望まない人々がそれをやると決めつけられた。
浅海はそれに憤った……苦汁を舐めてでも生きる。そう考えて浅海はE.U.へ渡った。やる気のない正規軍に舐め回されるような目で見られても我慢してきた。だが……
フランスとの講和で、突然軍籍を抹消されて肌を出した踊り子の衣装に着替えさせられた。スタイルにはそれなりの自信があった。だが……それが今では、政治家や軍の幹部が取り入るための材料に使われた。
同じような境遇の少女が大勢いた……皆、一番下でも15、6…一番上でも二十歳かそれより一つか二つ上の女性だ。中には自分よりずっと豊かな身体の人もいた。
部屋に入ってきたブリタニア貴族が自分達を見たら、衣装を脱ぐように命令するんだ。そして…全員を朝まで、下手をしたら夜明けが過ぎてからもたっぷりと味わって楽しみ、持って帰って飽きれば捨てる……それで、何も出来ずに終わると思った。
『結局、これか…』
来たのは彼だった。彼は、心から憤っていた。おそらく、E.U.在住であろう日本人の少女が自分から衣装を脱ぎ捨て、身体を捧げようとした。『ユーロ・ブリタニア』または本国…或いはまだ制圧されていない国の少女も同様だった。しかし、彼は誰にも手を着けなかった。全員を送り返す、または難民の受け入れ地域に移動させることを決めた。
その中で…浅海は彼に再会した。覚えていてくれたのが嬉しかった……一度会っただけ、しかも取るに足らないテロリストの一人であるはずの自分を。
心が躍り、胸が熱くなった。彼になら、身体を捧げたい。どんな風に乱暴に抱かれてもいい……身体だけの関係でも良いから、愛して欲しいと。そうして欲しくて、無我夢中で唇を重ねた。
結局、それは無かった。それどころか軍人としての暴挙という強引な言い訳で浅海達の軍籍回復に尽力した。
彼は軍人としての筋を通した……結局、彼は抱いてくれなかった。別れ際のキスもなかった。恋人ですらないのだから当然だ。
だから…せめて彼と全力で戦う。それが感謝、そのはずなのに。
「ライル…貴方に、会いたい。」
会いたい。只ひたすらに会いたい……色々と話したい。今の超合集国を、等とそんなことどうでもいい。とにかく、彼に会いたい。
ローランと神虎は互いに剣とハーケンのみの模擬戦を行った。双方一歩も譲らない激しい攻防にどちらも注目した。最後は、神虎のハーケンをローランが右腕で受け流すと共に最大の武器の長剣を捨て、予備兵装の短剣を胸に突き立てた。
コクピットから出てきた星刻は納得したような顔だ。
「なるほど、確かに精鋭部隊の隊長に相応しい技量だ。」
「お褒めにあずかり光栄よ……出来れば、『奇跡の藤堂』ともお手合わせ願いたいのよね。」
池田や海棠と同じ日本軍人であの『極東事変』で唯一ブリタニアを撃退した指揮官…一軍人としては興味があった。
まともな男がいて、少しはすっきりしたわ。
藤堂と池田は戦術シミュレーションで手合わせをした。どちらも理に適った部隊展開行い、一歩も譲らない攻防を繰り広げた。しかし、僅かな隙を着いて藤堂が部隊を進撃したかと思えば……それこそが罠だった。急速に部隊を後退させた池田が前衛を孤立、一気に反撃に転じて藤堂を任したのだ。
「藤堂さんが、負けた?」
『四聖剣』の朝比奈が唖然として、同じく千葉も言葉を失っていた。
池田は手を出し、藤堂も握り返す。
「流石です、藤堂中佐。」
「いや、貴官も見事な手腕だ。陣営の隙事態を罠に転じるとは、あのポイントE2では…」
「しかし、中佐もポイントC4では陣形を…」
互いに戦術論を見直しながらも、池田は有意義な時間を過ごしていた。所詮、自分は急遽任官したような若輩。彼のような優れた軍人の意見は貴重だった。
デルクは蓬莱島に設けられた仮設住宅で一杯の味噌汁を飲んでいた。豚肉が入っており、確か豚汁という種類だった。何とか箸を使いながらそれをすすり、二人と過ごした日々を思い起こす。
「雄介と香奈と一緒に作って、楽しかったな。」
そう、本当に二人と過ごした日々は楽しかった。今でも昨日のことのように思い出せた。
あの命令が下る前、これからどうするか相談に来ていた。だが……その前に二人はアムステルダムのゲットーに送られ、そして死んだ。二人が前もって頼んでいたためか、死亡がデルクに伝えられた。
雄介は同じイレヴン達の腹いせになぶり殺しにされ、香奈はそれを支え続けていたが彼女も影で男達に身体を弄ばれ続けた。雄介が死んで間もなく、彼女は相手の分からない子を身籠もり…絶望して死んだと二人の知りあいから聞いた。
遺体だけは見せてもらった。二人共、無残な姿だった……
『なんで……なんで、なんだ!雄介…!香奈…!!』
二人の遺体に縋り、デルクは泣き叫んだ。だが…
『イレヴン相手になんで泣いてんだよ、良いじゃねえか。どうせ死ぬのが大好きなんだから。』
その言葉にデルクは憎悪を抱いた。貿易パートナーシップの国同士なら友人だっていたはずなのに……どいつもこいつも余所事で掌を返して笑い物。あまりにも理不尽だった。他の同僚に二人が死んだと話しても、無関心で笑うだけ。デルクは戦う意義も何もかも失った……だったら、せめてブリタニアと戦う機会が多い外人部隊に行こう。そこで…一人でも多くブリタニア兵を道連れにして二人のところに逝こう。
それだけを考えていた。
二人の遺体を確認した後…デルクは二人の葬儀代を全て負担した。参列者は自分一人……イレヴン相手にやるわけないという理由で自分で聖書を借りて読み上げた。
俺は…何も出来なかった。必ずゲットーから出すって約束したのに、二人を助けることも……最期を看取ることも出来なかった。
何度か会いにいったが、日に日に二人は疲れて見えた。そして……最後は冷たくなり、永遠に閉じられた目だ。
「っ…!く…ぅぅぁああ……!」
デルクはむせび泣いた。二人とは違う味付け、だがそれでも……一緒に食べた思い出の料理と、自分の無力さをかみしめて。
何事かと好奇の目で見る日本人の視線にも気付かず。
だが、今は彼女がいる。二人と同じ日本人が……彼女は『黒の騎士団』で今も日本解放を諦めていない。ライル・フェ・ブリタニアと何かあったようだが、それでも日本解放のために進んでいる。
彼女がデルクの部隊に来た時、誓った。彼女を守ると……あの二人を守れなかったのなら、せめて彼女を。軍籍を抹消された時、再び絶望したが彼女は戻ってきた。そう、まだ守れる。
「美奈川…絶対に、お前を守るからな。」
そうだ…二人を救えなかったが、今自分は彼女を守れるんだ。その立場にある。
しかし、デルクは気付いていなかった。自分が、美奈川浅海を二人の代わりにしていることには………
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