[38381] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-35『超合集国…中編』 |
- 健 - 2018年12月22日 (土) 13時04分
式典は蓬莱島から全世界へ中継されていた。式典は滞りなく進み、日本を始めE.U.脱退国と中華連邦加盟国、計47カ国全てが合集国憲章の批准を行い、ここに超合集国が誕生した。
政庁ではシュナイゼルとナナリーがスザク、ジノ、アーニャ、ビスマルク、ルキアーノの五人を交えてこの中継を見ており、ライル達もそれぞれの旗艦で中継を見ていた。
「連合国家構想……か。」
「ええ、国力という意味で中華連邦とE.U.を合併し、再編するという判断は正しいです。」
『ユーロ・ブリタニア』の弱体化もあって余裕がないとはいえ、相対的に見てもブリタニアの軍事力そのものは変わらず強大だ。対抗するためにE.U.と中華連邦の国力を吸収するのは理に適っている。しかし、フェリクスの回答にゲイリーが別の疑念をあげる。
「しかし、国ごとの軍とは連携に欠けます。そこが改善されなければ、新たな国家を立ち上げたところでE.U.の二の舞です。」
ゲイリーに続く形で長野も同意する。
「ええ……いくらゼロや藤堂がいるとはいえまとめられるかどうか。」
そう、E.U.は本国と『ユーロ・ブリタニア』の侵攻に際し、防衛戦を行っても元々やる気がない連中ばかりだったので連携など皆無だった。その結果があの様だ……いくらトップが抜きんでても連携が取れなければ意味がない。
ゼロほどの男がその問題を放置するとは思えない。どうする?
ライルと同じ疑念を他の皇族達も抱えていた。
「一つ、手がある。」
ライル達が抱いていた疑念に答えるかのように政庁でのシュナイゼルとほぼ同時にレイシェフが有効策の存在を口にし、デルヴィーニュやヴィオラも振り向く。
「どういう手だ?国ごとの軍隊を束ねる手だぞ……ゼロといえども、国ごとの軍隊をまとめ上げるなど…」
そう、国ごとの軍隊。そここそが問題……ならば。
47カ国全ての憲章批准が終わり、合衆国日本の代表にして初代最高評議会議長の皇神楽耶が憲章を唱える。
〈最後に合集国憲章第十七条、合集国憲章を批准した国家は固有の軍事力を永久に放棄する。〉
セラフィナが「え?」と当惑する。ウィンスレットも「バカな…」と愕然とする。
そんな事をすれば、超合集国は丸裸。どうやって防衛、その前に日本奪還をする気だ?
「ちょっと待って…エル。軍事力を放棄したら、解体した軍はどうなるの?」
「何……まさか…!」
クレアの指摘に、エルシリアはその対策に思い至った。
〈その上で各合衆国の安全保障については、どの国にも属さない戦闘集団『黒の騎士団』と契約します。〉
「なるほど……そういうことか。」
シルヴィオはうなり、同時に狙いの良さを賞賛する。
「各合衆国の軍隊ごとでは連携が取れない。ならば、全てを『黒の騎士団』にまとめてしまえば良い。」
一括りにしてしまえば、指揮系統も統一しやすい。国家も人種も混成された連合軍にすれば、もうE.U.だのナンバーズだの言っている場合ではなくなる。そもそも、この期に及んでくだらない面子に拘っているのならば、険悪になった中華連邦とE.U.がゼロの元に集まるわけがない。
「後はその部隊を指揮する将軍が束ね、ゼロがトップに君臨する。考えましたね。」
ブランドナーも利点を述べ、ミルカや木宮も感嘆する。
「急ごしらえの軍をこんな形でまとめるなんて。」
「詐欺の天才だとは思っていたけど……ホントに王様としても一級品ね、ゼロは。」
〈契約受諾した。我ら『黒の騎士団』は超合集国より資金や人員を提供してもらう。その代わり、我らは全ての合衆国を守る盾となり、外敵を制する剣となろう。〉
「そうか…これで『黒の騎士団』には国際的な軍隊として承認されるから、もうこちらもテロリストとして裁く事が難しくなる。」
「それだけではない……亡命政権も参加しているという事は、『黒の騎士団』には解放戦争という正統な大義名分を得た。」
レイと長野も分析し、幕僚達も腕を組み成り行きを見守る。これまで、どう取り繕っても『黒の騎士団』も各エリアの武装勢力も当時の正規軍だろうがテロリストに過ぎなかった。だが、一つの旗を掲げた国家の枠組みに加わり、正統な軍隊として成立したのだ。
〈それぞれの国が武力を持つのは争乱の元。超合集国では最高評議会の議決によってのみ、軍事力を行使します。〉
中華連邦から解体再編され、合衆国中華代表の天子が条文を読み上げ、神楽耶が続く。
〈それでは、私から最初の動議を。我が合衆国日本の国土が他国に蹂躙され、不当な占領を受け続けています。『黒の騎士団』の派遣を要請したいと考えますが、賛成の方はご起立を。〉
彼女の確認に、各合衆国の代表が一斉に立ち上がる。当然と言えば、当然だ。
〈賛成多数。よって、超合集国決議第壱號として『黒の騎士団』に日本解放を要請します。〉
〈良いでしょう。超合集国決議第壱號……進軍目標は、日本!!〉
「全く、来るところまで来たものだな。」
海棠は半ば呆れるようにことの成り行きを見守る。これだけの国家をまとめて、しかも各国の軍隊を掌握する。そこの知れない男だ、ゼロ。
「土田さん……もうすぐ、取り戻せますから。見ていてください。」
橋本裕太が意気込み、海棠は力が入りすぎた肩を叩く。
「気負いすぎるな…」
「雄介、香奈……君達の国がすぐそこにある。必ず、取り戻す。」
二人が行きたいと願った日本……それが正に、目と鼻の先にある。二人の僅かな遺品は全てデルクが持っている。助けてあげる事も、最期を看取る事も出来なかった今デルクがやれるのはそれだけだ。
「隊長……」
浅海や外人部隊の部下達が心配げに見つめるが、デルクは只何もしてあげられなかった二人への償いに燃えていた。
亡命した百万人の歓声が響く中、突然モニターがぶれた。そして…
〈ゼロよ…〉
行方不明になっていたブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアだ。
な、何!?
ゼロは思わずモニターを振り返り……仮面の中にある目を大きく見開いた。
バカな……あの空間から抜け出した!?
「こ、皇帝陛下が…!」
「お戻りになられた?」
政庁のスザクとルキアーノが困惑する中、シュナイゼルが立ち上がる。
「偽りの劇場を気取られますか、父上!」
行方を眩ませたかと思いきや、このタイミングで出てくるとは!シュナイゼルは、度々玉座を空けるような王に対する不信感を募らせていた。奇しくも、それはライルやエルシリア、シルヴィオも抱いているものだった。
「バカな…一体、いつお戻りに!」
ライルも訳が分からなかった。ビスマルクでさえ知らなかったというのに……一体、何故?
「俗事を任せる、等と言っておいて……!何を考えている、シャルル・ジ・ブリタニア!」
ライルは怒りに拳を握り、歯ぎしりをした。
シュナイゼルがいたから良かったものを…もし、彼もいなければブリタニアは攻められる一方だった。ゲームでもしているつもりなのか?
これだけの事を俗事などと……神を殺す契約とやらの方がそんなにも大事か!!
「父上……まさか最初からこれを分かって、行方不明を装っていたと?」
エルシリアも立ち上がり、拳を握る。玉座を空けている噂は聞いていた。だが……こんなやり方まで。
「お父様…一体、どういうお考えで?」
セラフィナの言うとおりだ。考えが理解できない。殆どがシュナイゼルやコーネリアに任せきりだというのに……一体、どういうつもりで?
「父上…!今更、何を!」
シルヴィオも刀の鞘を強く握っていた。あるのは、憤りだ。
「行方不明では、なかったのですか?」
ミルカの問いにシルヴィオは答えない。
「我々に全てを任せて……貴方は何を成そうというのです、父上。」
シルヴィオも噂は聞いていた。『ブラック・リベリオン』の時も対策会議の場におらず、マリーベルの暴走でさえシュナイゼルと『ナイトオブラウンズ』に任せっきりだ。
ここまで来るともはやあの男は現実に関心がない、としか思えない。
ルーカスもブリッジで式典も見ていた。流石に今回はよくない、という事でいつものように女を侍らせられないのがつまらないが……釘を刺した相手がシュナイゼルでは従うしかない。だから、代わりに部下に酒を注がせていた。
「ここでお出ましか、父上。」
ここで体よくシュナイゼルを始末すれば、ブリタニアは自分の物。と思ったところで出てくるとは……注がれた残りのワインを一気飲みし、ルーカスは笑う。
「まあ、良いか。どのみち、全ては俺様の物になる。」
そう、ゼロが新しい国家を作っても俺の敵ではないのだ。あんたのブリタニアは俺様が大事に使ってやるよ。ゼロも打ち倒せば、世界は俺の物だ。土地も、金も、女も……全ては俺のためにあるのだ。
「シャルル……ここで、王手(チェック)をかけようというのか?」
レイシェフは思わず皇帝をファーストネームで呼んでしまう。全ての事情を知っているレイシェフにとって、それが大事なのは分かっているからだ。
実際、これに勝てば未だ確保できていないものも一気に手に入り、計画は達成できたも同然になる。
〈ゼロよ……それで儂を出し抜いたつもりか?だが、悪くない。三極の一つ、E.U.は死に体…つまり貴様の作った小賢しい憲章が世界をブリタニアとそうでないものに色分けする。〉
それは、世界中で蓬莱島のこの式典を見ている全ての軍、政財界の者達が理解している事だ。『ユーロ・ブリタニア』の侵攻に加えてレイラ・ブライスガウ、ジィーン・スマイラスといったカリスマを失って大きく弱体化し、残った国々は殆どが超合集国へ着いたE.U.にもはや戦う力はない。事実上、世界はブリタニアと超合集国の二極化となった。
〈単純それ故に明解…畢竟、この戦いを制した側が世界を手に入れるという事。良いだろう、ゼロ……挑んでくるがよい。全てを得るか全てを失うか、戦いとは元来そういう物だ……〉
〈オォーール・ハイル・ブリタァァーーニアァァ!!〉
「オール・ハイル・ブリタニア!」
「オール・ハイル・ブリタニア!」
ヨコスカで行われた閲兵式……ギルフォードらコーネリア軍主導の場で兵士達が皇帝に続き、叫ぶ。
「日本万歳!!」
「日本万歳!!」
藤堂に続き、『黒の騎士団』の兵士達が叫ぶ。蓬莱島の百万人もそれに続くが…
海棠の一派、池田や浅海達はそうしなかった。
「叫ばないとは、意外だな。」
「俺は全体主義じゃなくて、個人主義なものでね……」
バルディーニに海棠も答える。もっとも、曖昧な回答だが……
確かに、日本奪還という作戦上それは分かる。だが……
「これはもはや……日本だけの問題では無い。」
「少佐?」
「勝てば、日本を始めとした各エリアは取り戻せる。だが、負ければ……」
池田の分析に部下が首をかしげるが……
「あ…ここで負ければ、中華連邦とE.U.も!」
浅海は気付いた……E.U.と中華連邦に手を伸ばしたブリタニアにとって、これは実に分かり易いのだ。負ければ今までのエリアを失うが、勝てば必然と世界制覇をなせる。残ったE.U.や三極のいずれにも属さない小国もそちらに着く。
「日本だけ取り戻せればいい話じゃないんだ……もう。」
「………そうだな、しかしいずれにしろ今は目の前の日本である事に変わりはない。」
デルクの言葉に浅海と同じ『黒の騎士団』にいたが、オランダ脱走軍である事を選んだ日本人達も頷く。
「オール・ハイル・ブリタニア!」
「オール・ハイル・ブリタニア!」
ライル軍のブリタニア人達も叫ぶ。とはいえ、それは極一部……ナンバーズ出身者が多いこの軍では極めて愛国的なブリタニア人だけが叫んでいる。ナンバーズ出身者に支配者を崇めさせるというのが、ライルは下劣と考えるから……。幕僚達は良い顔をしないが、不満をより煽らせるよりは良いと半ば黙認されている。
離れたところで見ているデビーやヴェルドといった少数派貴族もそういうのは好きになれなかった。
「もう、ブリタニアどうこうじゃないっての。世界がブリタニア一色になると思っているのか…本当に。」
ヴェルドが言うとおり、それはブリタニア全体での少数派である彼らの内心での疑問だ。主流寄りのゲイリーやセヴィーナさえそちらに賛同している。そう、極めて現実的な思考で。なったとしても、どうやって維持する?どうあがいても人間の数というどうにもならないもので保てなくなる。人間は数字で割れるものではない。
ライルも体制を推し進める立場ながら、支配ではなくそれこそ中華連邦の政略結婚みたいな同盟もしくはブリタニアを連邦制に移行した方がまだやりやすかったと愚痴をこぼした事があったのだ。
シュナイゼルやコーネリアがいて…ライルのようにその二人に次いで有能とされる皇族や貴族がいたから今の状態なっているようなものだという少数意見だってあるのに。
兵達の歓呼を眺めながら…秀作は今頃、あの呪いの言葉を叫ぶ魔物共を思い浮かべていた。汚らわしい、忌々しい魔物共。好都合だ……
「ようやくだ……ようやく、あの魔物共を殺せる。」
魔物共の土地を守る、等という業腹な展開ではある。だが、ゼロや藤堂という魔物共の象徴が自ら自分の元へ来てくれる。殺されるために……
ライルは唇を上げた……
始まる…世界を賭けた戦いが……この上なく、大きな戦いが………
戦いたい…早く…浅海と、池田と、クラリスと……ゼロと!
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