[38373] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-35『超合集国…前編』 |
- 健 - 2018年12月19日 (水) 17時36分
ゼロが遂に動いた。合衆国日本はもっと巨大な連合国家の一部であった。クーデターで実権を掌握した中華連邦を中心にイタリアとポーランドを始めとしたE.U.脱退国と亡命政権による新たな連合国家…『超合集国』を建国する。今日はその憲章批准式典が蓬莱島にて行われ、全世界へ向けて中継される事となっている。
蓬莱島では初期メンバーを中心とした構成員達が新国家建国の祝賀会を開いている。別室で海棠の子供達も軽く酒を飲んでいるが……
「あいつら、完全にお祭り騒ぎです。」
「只の民兵がここまでのし上がれたのはゼロあってこそだというのに……あの様子では自分達が今や正規の軍人だというのを分かっていないでしょうね。」
扇達初期メンバーの様子を見に行った裕太が不快感を露わに戻ってきた。日本時代の部下も同じ意見のようだ。海棠はそれにため息をつくが……
「ねえ、何もここまで身だしなみ整えなくても…」
が、セーラが「駄目ですよ。」と却下する。
「新しい国家誕生の瞬間なんです。髪や髭もちゃんと整えて…制服も着崩さないでください。」
セーラに続き、他の女性が鏡を手に髭を剃りながら釘を刺す。
「大佐も身だしなみをきちんとすれば、まだまだいけますから。」
子供達の中にはまだ小、中学生程度の少女もいた。彼女達も立派な大人に成長し、セーラを中心としたかつての女児達が総掛かりで海棠の身だしなみを整理している。まるで娘に私生活を注意されているずぼらな父親の気分だ。何しろ、ボサボサに伸びた髪を軽く切ってオールバックにされ、髭も剃られている。それどころか簡単な化粧までされている。
「へえ、結構良いじゃないですか。別人みたいですよ。」
「ほら、裕太もこう言ってるし。」
「分かったって…でも、この髪型は戻したら駄目?」
「駄目に決まってます。大佐、我々のために身だしなみを整えてください。」
オーストリアから来た外人部隊の部下からも釘を刺され、海棠は観念するしかなかった。ふと、海棠はゼロの思惑を探る。
前にカマをかけてみたが、特区については何か知っているみたいだな……この間も極秘行動したっていうし…
日本人でないなどと言う事はもはや些末だ。ブリタニア人でも別に驚かない……だが、どうもエリア11…否、ナナリー総督に拘っているような気がする。
彼女は邪気のある人間ではないし、解放後に身柄を預かるのは良い。所謂穏健派皇女であるのならば使いようもあるのだが……
あの総督と知りあいなのか?
天子が式典の文書を朗読し、練習をしている光景を藺喂は微笑ましく見ていた。13歳の幼さで新たな国家の代表への就任……大宦官がもういない今となっては星刻が務めても良いのだが、星刻は『黒の騎士団』総司令官を務める。国家のシステムの関係からそれは不可能だ。
ブリタニアが対応する前に動かなければならないのだから、それは当然だ。エリア11にはシュナイゼルを始めとした皇族や『ラウンズ』が集まっている。
皇族……ライルも、いるのだろうか?
もう一度会いたい。だが……会えたとしても今度は正真正銘の敵だ。
「どうした、藺喂?」
雷鋒の問いに藺喂は「なんでもありません。」と答える。
そうだ、いても彼と戦わずに勝って停戦交渉もあるのだ。その時に会えば良い。今は、目の前の戦いだ。
ラルフは式典当日ではしゃいでいる団員達を見て、無理ないかと思った。占領された日本の一レジスタンスに過ぎない自分達が新たな国家の軍人になったのだ。そう、軍人に……本職の藤堂達はともかく、ここの人間…特に玉城にその自覚があるのか疑わしく、もう何杯目になるのか隣の朝比奈に絡んでいる。そして、扇とディートハルトがまだ来ない。中華連邦のクーデターからしばらくして様子がおかしく、聞いても「何でも無い」だ。そして、ディートハルトが随分と過度に接触している。
そうこう考えている内に扇とディートハルトが入ってきた。
「扇、大した寝坊だな。」
藤堂が歩み寄り、扇が謝罪するとディートハルトが肩に手をかける。
「急ぎましょう、今日は歴史に残る日ですからね。」
扇とディートハルトも来たところで宴会はお開きとなり、皆が式典会場に向かう。しかし……その途中で……
「一体、裏で何をコソコソしているのですか?」
「大したことではないよ……今後の組織の運営相談と副司令への激励さ。」
白々しい……入団して間もない頃はこの男の部下として潜り込んだスパイだと疑われていたが、程なく疑いは晴れている。が、この男はどうにも好きになれない。否、信用できない。
「扇さんやゼロに何か吹き込んでいるのですか?」
「このような場でそういう邪推は組織の結束を損なう。やめたまえ。」
ディートハルトの正論にラルフはこれ以上追求しなかった。だが、この男は前も枢木スザクが通っているアッシュフォード学園でアッシュフォード家に雇われていたメイドをゼロにも黙って協力者として迎え入れ、カレンにスザクを殺させようとしたという噂もある。とにかく、油断ならない男だ。
が、そういう意味では最近ゼロも妙だ……一度エリア11に戻るというのは分かる。ナナリー総督の融和路線を直接見るという意味でも、まだ残っている反対勢力からの接触もあり得るので戻るのは妥当だ。しかし、こちらに戻ってすぐに零番隊を率いて何か極秘作戦を展開したというし、副隊長の木下達も口止めされているらしい。『ブラック・リベリオン』のゼロと別人かはもう言及しないが、扇も含め不協和音は残っている。
本当に…こんな爆弾を抱えたような状態で日本解放までいけるのか?出来ても、その先は?合流後に顔を合わせた海棠大佐も懸念していた事だが、各エリアに在住するブリタニア人の扱いや独立後の合衆国代表選出……ブリタニア人だけでも帰国前に報復が起これば、ブリタニアは全軍をあげて制圧にかかる。
外部だからこそ、海棠大佐のような人達の意見は貴重だと僕は思う……扇さん達、そこを分かっているのかな?
その扇もどこか上の空で、玉城や杉山など問題外。朝比奈と千葉は名誉ブリタニア人でさえ殆ど無関心だ。まともに話が通じたのはE.U.からの参加者や藤堂だけ……
急ごしらえであるのだから、後で少しずつやっていくしかない。だが……
ラルフの不安は募るばかりであった。
浅海は深呼吸していた。遂に、日本解放のための戦いがきた。『ブラック・リベリオン』で敗退し、無責任なE.U.にまで落ち延びながらここまできた。もう一度『黒の騎士団』の団員として……
だが、今浅海はオランダ外人部隊からの出向者という形に収まっている。部隊内での連携が最も取れているからだ。
「ライル……貴方もいるのなら、私も全力で戦うから。」
そう、せめて彼の善意に報いるには全力で戦う事。それで良い。そのはずだ……
「でも……貴方の側に、いられたら。」
あの時、彼が抱いてくれたらきっと衝動のままに彼に縋って彼の元に渡っていただろう。そうなれば、カレンや扇を…目の前の隊長を敵にしていた。
「後方待機でも良いんだぞ?」
デルクが気を遣うが、浅海は首を横に振る。
「大丈夫です……」
クラリスは思ったより早く来た、フランス解放への一歩に複雑な心境を抱いていた。これで勝てば、あの政治家共は脱走した自分を英雄に祭り上げるだろう。親殺しも美談として……
スマイラス将軍がマルカル中佐をジャンヌ・ダルクに仕立てあげたように、あいつらも私を……って魂胆か。これで死ねば、正真正銘のジャンヌ・ダルクだ。
ライルと戦う機会が出来たのは嬉しい。フランス奪還以外でクラリスが拘るものと言ったら、せいぜい彼くらいだ。パーティーで出会ったあの純粋な表情が頭から離れない……もう一度会いたい。
「やれやれ……すっかり恋する乙女って奴ね。」
「寝返っても良いですよ、隊長?私達は隊長に着いていきます。」
リラを始め、側近達が微笑する。
「ありがとう……でも、今は国に専念しましょ。エリア11にいないかもしれないんだし。」
個人的にはいて欲しい。戦い、捕虜にして……彼に直接会いたい。
池田は部下と共にお茶を飲んでいた。他の者達のように祝杯などという気にはならない。祝杯は日本解放がなった後だ。そして……
「ライル…お前はいるか?」
いるなら、この戦いで雌雄を決したい。日本解放以上に、一パイロットとしてあの男に勝利する。
「国を取り戻せる機会なのに、個人的な戦いに拘っている。軍人失格だな、私は…」
「少佐が失格ならば、あの男はどうなるんです?」
部下の疑念に池田は何も返せなかった。結局、あの男まできてしまった。E.U.からきた他の役立たず共と一緒に始末できればとも思う。何しろ生き延びて、日本だけでなく各国が決起したら奴らがつけあがるのは目に見えている。
バルディーニやマスカールもそこを懸念していた。彼らにとっては敵は中にもいるのだ。
ゼラートは星刻らと会って、戻ってきた。やはり、総司令官はあの男が妥当だ。合流後に戦術シミュレーションで手合わせしたが、あの男は逸材だ。自分がゼロでもあの男を総司令官に任命する。奴はゼロが復活して間もない頃から結託しており、エリア11でも大宦官の一人高亥を排除して『黒の騎士団』に便宜を図ったという未確認情報もある。あの海氷船がその最たる例だ。
「藤堂やあのラクシャータが着く分には問題ない、が。」
問題は他だ。インドを始めとした中華連邦加盟国やE.U.脱退国の軍人達を隊長に据えるのは分かる。だが、あの扇要達素人集団を据えて何の意味がある?せいぜい、エリア11から着いてきた連中をまとめられる程度のメリットしかない。
各国の正規軍人が加われば、素人同然のあの連中は只の邪魔にしかならない。肩書きだけの存在にして実権を本職に委ねた方が現実的だ。
「でも、そうすると今度はエリア11からの参加者の不安を煽りますよ?」
ウェンディの言うとおりだ。全く……
「素人で、ゼロがいないと何も出来ないクズのくせにやる気だけは一人前だ。少しは場数を踏んでも所詮は素人だという事も分からんで、いっぱしを気取るか。」
もっとも、ゼラートはそのゼロも信用していない。噂に聞いた極秘行動も大半が疑っていないが、副隊長を始め数人は疑念を抱いていた。
本職の軍人である藤堂は流石に別格だが……国を引っ張るだけの器はない。あの男はあくまで優れた軍人だ。
「日本解放でゼロは終わると思うか?」
「俺の私見だが、ないね。日本と他の国解放してめでたしめでたし……にはならないと思う。」
ニコロスの疑念を聞き、アサドを見る。
「俺はバカだけど……もしそうならゼロにとってのゴールはどこなんだ?」
そう……ゼラートはそういう意味でゼロを信用していない。クラリスやバルディーニ、海棠といったゼラートが信用している面々もゼロを信用しておらず、警戒していた。
「ブリタニアに変わる世界制覇…なんて俗な事を?」
馬鹿馬鹿しいが……そうでもなければ説明がつかない。ブリタニアがせっかく手に入れた領土を簡単に諦めるとは思えない。世界大戦でも始まれば、待っているのは世界が焼け野原になる地獄だ。
豚共が我が物顔でのさばるよりはマシかな?
バルディーニはイタリア代表に随行する官僚と挨拶していた。既に家族のイタリアへの移住が決まっているマスカールもいる。
「ここで勝てば、イタリアは貴方の政権ですね。」
「そうだな……そうすれば、イタリアのほぼ全ては私の物だ。」
ここに来ても、それか。大したものだが……
「四十人委員会ほどゼロは甘くないと思いますよ?貴方が私腹を肥やすだけならば、ゼロは容赦なく貴方を切り捨てるでしょう。」
イタリア代表の顔色が変わった。腐っていても政治の世界に身を置く者。まして、ゼロがいなければ超合集国など成立しなかったのだ。その影響力を無視できるはずがない。
「な、ならば君が…」
「私は『黒の騎士団』に合流する将軍です。政治が本職ではありませんよ?それでは…」
退室し、バルディーニはため息をついてマスカールも口を開く。
「フランスの方からもピエルス大佐や私に接触しようとする者がまだいます。」
「蜜の樹に群がる能力だけは大したものだからな、奴らは。新しい国家が誕生しても、肝心の政治家共があれではいつまでもつのやら。」
全ての政治家がそうではない。もう自国そのものを守るためにゼロに頼るしかない、と今更ながら必死になっている政治家もいる。またも無い物ねだりだが、レイラとスマイラスのどちらかがいれば残ったE.U.国家を全て超合集国に合流させる事が出来た。
「イギリスやドイツはもう、成り行き任せだろうな。勝っても負けても、ゼロかブリタニアに着くしかない。」
マスカールも「でしょうね。」とうつむく。
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