[38368] コードギアス 戦場のライル B2 SIDE OF WARFARE『はみ出し者と正義の味方』 |
- 健 - 2018年12月09日 (日) 18時20分
E.U.が劣勢になり、中華連邦がゼロの影響下に置かれたことを聞きつけた各国は次の宿り木としてゼロを求めた。その一環として、各国の軍隊を既に派遣してゼロが新しく建国する連合国家の構築に乗り出していた。
「我がイタリアには各国の難民達を受け入れる地域があります。しかし……現在状況が良いとは言えないのです。」
バルディーニもイタリアの合流のためにコンタクトをとり、現在は中華連邦の雷 斬利と会談を行っていた。
「………では、我が合衆国中華から食糧支援を行います。ですが…」
当然だ、何かしらの見返りを求めてくるだろう……
「私が統率する外人部隊を『黒の騎士団』への合流させます……既にイタリア政府の了承も得ております。また…E.U.の精鋭部隊に編入されていたフランスの脱走兵も参加を表明しております。」
「分かりました……では、まずその部隊の合流を待ちましょう。支援の件はまたその後に…」
斬利が退室し、秘書官はため息をつく。
「喰えませんね……こちらの部隊がお気に召さなかったらどうするつもりでしょうか?」
「ゼロは信用できんからな……おそらく、捨て石にされるだろう。」
正直なところ、『ロンスヴォー特別機甲連隊』も殆どが役立たずだ。挙げ句の果てにまだぬるま湯に浸かっている連中もいる。海棠やクラリス、池田といった本物の精鋭が今いるのがせめてもの救いだろう。
「とにかく、難民地域への支援は目処が立ちそうだ。」
そう、イタリアがE.U.を離れる以上はE.U.から行われる食糧支援などは成り立たなくなる。只でさえ、人気取りのためにしか食糧支援が行われず……かろうじてまともな食料が回されているがそれもいつまでもつか………例え、信用できなくとも彼らの生活という意味でもゼロに縋る以外に道がないのだ。
ゼラートは一緒に着いてくるドイツ軍部隊のリストを見ていたが、例のごとく大半がゼロの元で甘い汁を吸えると思い込んでいる役立たずだ。『ロンスヴォー』だけでも役立たずが多いというのに……これだ。
ドイツ政府の連中も軍の一部を派遣して保険をかけようとしている。勝てばこちらを派遣したアピールに使い、万が一にゼロが敗北しても切り捨てるためだ。
「正規軍連中は分かっていないだろうな、それを……」
「今更ですね、それも。」
ウェンディがため息と共に紅茶を出す。それを一口飲んで一息つくと、後ろからウェンディが大きく形の良い胸を背中に押しつけた。
「私は地獄まで着いて行きますから……」
「物好きな。」
「それこそ今更です。」
ウェンディはゼラートの唇を奪い、ゼラートもそれに答える。
「しばらく……でしたから。」
ゼラートは何も言わずに立ち上がり、ウェンディをベッドに押し倒した。
アサド達は『黒の騎士団』創設時というメンバーに会っていた。だが、とてもまとまりがあるようには見えない。あからさまな素人だ。
「お前ら、誰のおかげでここまで来られたのか分かるか?」
「ああ?」
顎髭の男、玉城が気に入らなそうに睨み付ける。だが、アサドも負けじとにらみ返す。
「ゼロありきだろうが……ゼロがいなきゃお前らなんざ只の雑魚の集まりじゃねえか。」
「なんだと!?」
玉城が拳を振るうが、アサドはそれを軽く受け流す。
「この……!ブリタニア貴族なんかに従ってるくせに!!」
杉山という男が侮辱するが、アレクシアが今度は反論する。
「ふん、自分達がこれからどういう立場になるのかも分からない奴らよりは幾分かマシよ。ねえ?」
イロナに確認を取ると、イロナはアレクシアの後ろで首を縦に振る。相変わらず、イロナはアサドやアレクシアの影に隠れている。特に、こいつらに会ってからはずっとだ。アサドはその気持ちが分かった。こいつらは、あの正規軍の奴らに似ている。練度が低いこと…ゼロがいればなんでも解決すると思い込んでいるあたりも。
「お前らの上司はどうせ、あの女とよろしくやってるんだろうが!『元』のくせに気取りやがって!」
「中佐を馬鹿にしないで!!」
イロナが噛み付き、また玉城が絡んでくる。
「ああ?なんだガキのくせに……いや、そうか。ガキの割に良い身体してるからな。それでそっちの女と一緒に…はたまた副官殿と三人で可愛がってもらっごわ!」
アサドが最後まで言い終える前に顔面に拳を叩き込んだ。
「良い度胸してるな、お前。」
「この野郎!」
南という大柄の男が掴みかかろうとするが……
「はい、そこまでね。」
軽い声が聞こえると、そこには海棠大佐がいた。
アサドが敬礼し、イロナとアレクシアも同様に敬礼をする。
海棠は状況を静観していたが、流石にこれ以上はまずいと思い仲介に入った。
「喧嘩する元気があるなら、シミュレーターで勝負しましょうよ。現場で大事なのは腕っ節ってよく言うんだから。」
「ぐ……ああ?誰だ、あんた!」
顔を押さえた玉城が突っかかると、裕太が押しのけた。
「この方は日本軍の海棠龍一大佐!『奇跡の藤堂』なんかより遙かに偉大なお方だ!!」
すると、他の日本人達が突っかかった。
「海棠?聞いたことねえな……どうせ只の酔っ払い親父だろうが。どう見たって軍人に見えねえだろう。」
「なんだと!?」
裕太が更に殴りかかろうとするが、海棠はそれを抑えてセーラが肩に手をかける。
「裕太、我慢して…」
セーラを認めると、今度は南が突っかかった。
「なんでブリタニア人がいるんだ?」
「!彼女はクォーターだ!!四分の三だが、俺達と同じ日本人だ!!」
が、他の連中がそれを認めなかった。
「ってことは、四分の一ブリキじゃねえか…」
「ええ、そうね。」
セーラが淡泊に答え、一触即発になる。
「まあ、抑えなって……実際軍人らしくないおっさんなんだから。」
「貴方が海棠大佐ですね?ご高名は伺っております。」
声をかけてきた少女は知っている……皇神楽耶だ。気品などは確かにキョウト六家の一人らしい雰囲気だ。後ろにいるのは副司令の扇要という男だ。
「ろくでもない話の間違いでは?」
「いえ、戦時中に子供達を保護し…彼らを戦士として育て上げたと…」
「それがろくでもない話なんだよ。軍人……いや、大人のエゴに子供らを付き合わせて、復讐とか恩返しとかって理由で、俺はあの子達に人殺しの技術なんかを教えた………独立?俺はそんな事のためにあの子達を保護したんじゃない。」
そう、戦後も大勢の子供達を保護した。殆どが家族を失った戦災孤児達だ。子供達は多くが家族の復讐を理由等に海棠に着いてくる道を選んだ。
俺は……この子達を説得する言葉を持たなかった。それで小、中学生の年齢で銃や刀なんて振り回させた。
やるのは自分達軍人……例え民間人でも大人だけで良かったのに。子供達に血塗られた道を歩ませた。
「そんな事?日本軍人でありながら、貴方は独立を『そんな事』と仰るのですか?」
神楽耶のその言葉が更に海棠に怒りを抱かせる。
「ああ、『そんな事』だ。挙げ句の果てに、ウチの子達はバタバタ死んだのに……人殺しの技教えた張本人であるこんなクソみたいなおっさんは生き延びてんだ。時々、代わってあげられたらなんて思うよ。」
だが、あの子達の中には自分を庇って死んだ者もいる。だから、無闇に死ねないのも事実……酷い矛盾だ。
「言っとくがな………あの子らの最後を立派だとか何とか言えばいくら、子供でも俺は容赦しねえ。」
神楽耶に刀を突きつけ、海棠は射殺さんばかりの目で睨む。
「俺はあの子達を独立……ましてや下らんカミカゼだとかで死なせるために拾ったんじゃねえ。」
「カミカゼがくだらないだと!?」
「お前、それでも日本人か!!」
周りの者達が喚くが、裕太が「黙れ!」と吠える。そして、海棠が周りを睨み付ける。
「人生これからの子達や生まれたての赤ん坊にだって火の粉押しつけて、死なせてるんだ。このセーラにだって下手すりゃじいさま殺しをやらせるか、その片棒担がせてたかもしれねえ。誉れだなんだなんて俺の前で言えば……殺す。」
本気だった……海棠はあの子達のことを片時も忘れていない。名前も覚え、遺影もあり……万が一でも忘れないために名前も書き込んでいる。
「お、お気持ちは分かりました、大佐。神楽耶様………ここは一度。」
間に入った扇が礼をして離れると、セーラが睨み付ける。
「私もね……占領後すぐにこの顔だから酷い目に遭ったの………大佐がいなければ双方の玩具になって、死んでいたわ。ゼロや藤堂なんかより大佐の方が私達には救世主なのよ。」
そして、裕太も玉城達を睨む。
「大佐は名誉ブリタニア人になった人達もどうするべきかをお考えだ……裏切りの一言で全て片付けるお前達とは違う。」
「そこまでだ……さて、こっちのE.U.の子達とウチの子達の腕を疑うなら、シミュレーターで勝負しようって話だったね?KMFの模擬戦でも良いよ?」
海棠は先程と打って変わった、大らかで明るい雰囲気で周囲を引っ張っていった。だが……海棠は先程のゼロとのやり取りを思い出す。
『君の噂は聞いている。孤児達を保護し、戦士として育てたそうだな。』
『それを立派だと思うんなら、俺は君を殺すよ?』
ゼロは意味を察したのか、『それは失礼。』と詫びた。問題はその後だ……
『ねえ、君が前のゼロと同じかはもうどうでも良いんだけどさ……前の特区日本、あれをどう思う?俺は違和感が拭えないんだよね。』
『ほう、ユーフェミアを信じていると?日本人らしからぬ発言だな。』
『そうじゃないよ……俺が彼女でそれだけの能力があるなら、いったん君と和解して一通り式典を終えた後で極秘に始末するね。その後、本物の実行犯を用意して『ゼロは日本側の反対派に裏切り者として殺された』とでも言えば、君の名誉も守られる。まあ、こっちは説得力ないから『ゼロに騙された』ってのもありだね………色々あるが、君を完全に信用させてから、君や藤堂を殺す方が確実だ。あんな一般人だけやっても何の得もない。』
そこだけでもおかしいのだ………只の一般人相手に虐殺などしても暴動を誘発するだけ。同じ暴動の誘発ならば、精神的支柱のゼロや藤堂を完全に信用させ、その後で二人を始末した方が暴動が発生してもリスクは小さいしいくらでも言い訳は出来る。
『だから……俺思うんだよね。誰かがユーフェミアを唆した、変な薬とか暗示でおかしくしたんじゃないか?ああなって一番得をするのは誰か?って』
突飛な話だが、ああなるまでのユーフェミアを考えるとその方が説得力はある。もっとも、そう考えるのは彼の一派でも少数だが。
ゼロは内心、海棠の読みの深さに驚愕していた。
あの男が知っているのかは分からないが……まさか、そこまで読んでいるとは。
仮面から除く左目……それに関する力など、誰も信じるはずがない。勘づかれても公表など論外だ………あの男はおそらく、それを理解するだけの能力もある。だが……
あの戦いのきっかけをあそこまで深く読んでいるとは………侮れない。否、恐ろしい切れ者だ。頭の回転という意味では素性を詮索してきたあのドイツ軍人と同等かそれ以上だ……星刻に並ぶと想定した方が良いかもしれない。
指揮官としてもパイロットとしても優れているのは記録からでも分かる。扱いに困る駒だ……下手に使えば、逆に怪しまれる。今はどうにかしてやり過ごすしかない。
藤堂はあの海棠が合流していると聞いて内心、驚いた。占領戦で行方を眩ました後、反対勢力を率いていたというがE.U.にいたとは。しかも、これまでの積み重ねか保護した子供達や現地の部隊からの信頼もあるという。
「あんな不作法者が何故信頼を得る?」
千葉が不快感を露わにする。朝比奈も同じような意見だ。
「全く、噂じゃ特区だって肯定してたって言うし。あの『売国侍』といいどういう頭してるんだか?
「よせ、大佐には大佐のお考えがあるのだ。」
「藤堂さん……子供達を戦士として育て上げた彼の手腕は確かに、評価に値します。ですが…奴は只の臆病者です!」
朝比奈が非難するが、藤堂はそれを説き伏せる。
「大佐は大佐で民を考えておられるのだ。」
「行政特区に参加する事がですか?奴は行村と同じ只の日本の面汚しです!!」
千葉が更に反論するが…
「いい加減にしろ!大佐はご自分が信じる軍人の責務を全うされる道を選んだ。我々と違う道を…!我々に強制する権利はない!!」
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