[38366] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-34『因縁の地…後編2』 |
- 健 - 2018年12月09日 (日) 11時24分
秀作は紅月カレンに興味はなかった。あるのは………
「お前が枢木スザクか……」
「君は、畑方秀作?」
「ほう?知っているとはな……」
スザクはこちらの思惑など意に介さないように問う。
「畑方源流将軍の孫……そして、偵察兵時代から色々やっていたそうだね。」
奴の孫……こいつもそう来るか、だが……
「貴様とて、首相の息子だろうが?自分だけ良くて、俺を裏切り者だ等とほざくか?」
「………随分と自分を目の敵にしているようだね?」
「貴様さえいなければ、俺がランスロットに乗れたかもしれないからな……尤も、貴様がランスロットをもらったおかげで俺は俺で良い物を手に入れたし、今の部隊も居心地が悪くない。」
居心地が悪くない……自分で言っていて妙な気分だ。所詮、あの男も将軍も復讐の手段に過ぎないのに。何もかもこいつがランスロットに乗っていたせいか?
「良い物とは、ライル殿下?それともセラフィナ殿下?」
「貴様に答える義理はない……それと。」
後ろの殺気に気付き、秀作は飛んできたナイフを掴み取った。
「危ないな…」
「ほう?気付いていたのか……裏切りの枢木卿と仲よさげだと思いきや、最近皇族お二方に取り入っている将軍の御孫様ではないか?」
殺気を感じると同時にナイフを投げてきた慇懃な口調の男を秀作は知っている。軍のデータベースで見た、『ブリタニアの吸血鬼』と恐れられる『ナイトオブテン』ルキアーノ・ブラッドリーだ。
「さて、もう一人の裏切り者はどちらが本命かな?双剣の片方か、それともナンバーズ贔屓の皇子様か…」
「どちらも俺が魔物共を食い殺す手段、と言えばどうする?」
「皇族への不敬、と見なしてやろうか?」
「ふん」と鼻を鳴らしてナイフを投げ返し、ルキアーノはそれを受け止める。
「人殺しの天才だというあんたの技術は是非とも、魔物共を殺すために教わりたいところだが?」
「イレヴンごときに私の技術を教えると思うのかい?」
まず、間違いなくそのような事はない。
「なんなら、この場で実践してあげても良いよ?君の大事なものを持ってしてね…」
「噛み付かれても知らないぞ?」
ルキアーノがナイフを取り出し、秀作も剣に手をかける。
「ブラッドリー卿、ここはお引きを…」
ゲイリーだ。両者の間に入って、ルキアーノを睨み付ける。
「おやおや、仕方がないね。後見人さんに感謝する事だな……」
相変わらずの態度だ。ゲイリーはため息をつき、秀作を睨む。
「何をしている……『ナイトオブラウンズ』に喧嘩を売るなど、正気か?」
「喧嘩をふっかけてきたのはあちらだが?」
「相手は皇帝陛下直属なのだ…ライル殿下や私の権限でも庇いきれるか分からぬ。」
が、そこへスザクが介入した。
「クレヴィング将軍…よろしいでしょうか?」
「枢木卿…」
「今は大事な時期です……彼の無礼については自分は気にしてはおりません。自分も同国人と久しぶりに語る事ができたので、ここは胸にしまいます。」
『ラウンズ』がそのような、と言いたいところだが元々『ラウンズ』は実力が第一だ。多少の無礼は許されてしまうのもまた事実。でなければイレヴンのこの男がその席に座れるはずもない。
「ありがとうございます、枢木卿。」
イレヴンといえど、『ラウンズ』だしそれだけの実力はある。ならば、それに沿った礼を取るのが軍人だ。あれだけの実績を見せられれば文句の言いようもない。
未だに卑劣な手で『ラウンズ』になったなどと妬んでいる貴族もいるが、仮にも現場に立つゲイリーはそのような手でなれるほど『ラウンズ』は甘くないと考えている。実際、ライルの元で有能な庶民やナンバーズを見てきたためにもうそんな考えをする気もない。
「………畑方、お前にとってもチャンスだ。日本解放を目指す『黒の騎士団』を潰せばお前は名実ともに日本の敵となる。そうなれば、彼と同じ『ナイトオブラウンズ』も夢ではないだろう。」
「それはありがたい……魔物共の敵としてそれほど良い肩書きはない。」
本当に扱いの難しい男だ。ああ見えて頑固者のライルも相当だが、こちらもこちらで扱いに困る。もはやそのような星の下に生まれたと諦めるべきか?だが……不思議とどちらにも悪い感情はない。
エルシリアはベイリンの調整を行っていた。OSも手を加えており、何度か試運転も済ませているのでおおよその心配はない。
「これでゼロを討てれば世界地図は塗り変わる。だが……」
常々シルヴィオが口にしていた疑念が蘇った。果たして、世界制覇が出来たところでいつまでもつのだろうか?今までは気にも留めていなかったが、『ブラック・リベリオン』で軍備が消耗し、更にテロ鎮圧を言い訳にした正規軍の略奪行為などが目立ち始めていた。
世界全てがブリタニアになっても、実際にその治安維持を行う軍や警察を各エリアに伸ばせばその分減ってしまう。つまり、戦力の低下だ。
ライルではないが……恭順派を増やす融和路線をとるべきか?反抗の恐れがあるナンバーズ相手に譲歩など危険だと考えるのがエルシリアだ。コーネリアもそれに近いが、ナナリーはゼロがいなかったとはいえイレヴン達の生活環境の改善を重視し、短期間で衛星エリアの昇格にこぎ着けた。あの特区日本とて成功していれば、モデルケースの確立が出来て恭順派が増えていただろうに………
何がどこで狂ってしまった?
ビスマルクはレイシェフと出会い、応接室で紅茶を飲んでいた。
「若い二人はどうだ?」
「流石に上達が早い……クレスなど、あと五年もすれば私の後任になれるやもしれぬ。」
あのイレヴンのハーフの青年は飲み込みが早い。反骨心がその能力を育て上げたのかもしれない。聞いた話では両親は既におらず、ブリタニア人の親戚からも冷遇されていたという。
レイシェフの元で実績を挙げて騎士候になった途端に親戚は愛想よくなったが、クレスは彼らを唾棄した。
「騎士候になった途端に媚を売るようになった親戚には一ポンド分の恩恵を渡さないと言っている。」
「……当然だろうな。金のなる樹になった途端に群がる浅ましい虫だ。ライル殿下の騎士であるスレイダー卿もそういう意味では似ている。」
レイシェフは苦笑した。あの東洋系の少女も同じような境遇であったという。全く、似た者同士なのかな?私と彼は……
「ゼロの件……どうなんだ?」
「うむ…機情からの報告ではあれに問題はないそうなのだが………」
もしくは……既に機情は敵の手に落ちているという可能性もある、か。
「計画は大丈夫なのか?」
「既に条件は整っている……後は、我らが障害を排除するのみだ。」
ビスマルクの言うとおりだとしたら、後はもう実行するのみ。
もう後戻りできぬ、か。
エルザ………もうすぐ、君に会える。もうそこまで……きている。
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