[38307] コードギアス 戦場のライル SIDE OF WARFARE『欲望に晒される花』 |
- 健 - 2018年10月08日 (月) 22時07分
E.U.フランス州……アルザス州ストラスブール基地では兵士達が沸いていた。普段はやる気がない彼らがいつにもなく盛り上がっているその理由は。
「スペインのエレーナ・ガルデニア?あの、少し前から売り出し中の?」
フィリップの知らせを聞いて、グロースターを調整していたクラリスは端末を受け取る。端末には丁度フラメンコを踊っているシーンを撮影したのか、銀髪の美しい男女が三人で写っていた。三人とも髪の色が同じなので姉弟だと分かる。
「ああ、この三人の慰問ダンスが行われるらしい。」
「慰問って……普段から真面目にやってないこいつらに?」
それをいわれて、フィリップもため息をつく。
「上の連中が掛け合ったらしいぞ………どうせあの姉と妹をあわよくばってつもりだろうよ。」
呆れた……そういう意欲だけが働くのに他は真面目にやらないとは。
エレーナはヴァルスティード、セルフィーとダンスの振り付けや手順を相談していた。が、気分は憂鬱だ。踊るのは好きだ…引き取ってくれた今の父に恩返しができる。しかし…アンダーグラウンドやストリートの頃から向けられていた男達の情欲は衰えない。否、父の劇場と関係を持とうとする男も出てきて、更に疲れていた。セルフィーも同様で、ヴァルスティードもどこぞのご令嬢方が言い寄っている。
「ったく、軍の奴ら。姉さんとセルフィーだけ行かせようとしてたんじゃないか?」
「でしょうね……特に、姉さんはその見事な胸だもの。それを強調した、フラメンコに合わない衣装で踊らせようとしたんでしょうね。」
それはあり得る。実際、新しい衣装をと言ってきたのだが…あくまで衣装はこちらで用意するので、と通してやり過ごした。
できるだけ露出度は控えめにしたドレスで踊るようにしており、曲の組み合わせも決まっている。アンコール用の曲もおおよそ決まっている。
だが、問題は兵士達だ。彼らはE.U.の慰問ダンスの経験もこれが初めてではない。だから分かるのだ……いかにやる気のない連中なのかを。アンダーグラウンドにいた頃からそれに気付いていた彼らにとって、軍の慰問ダンスは一番やりたくない仕事だった。だが、やらなければどうなるかも分かっている。それが、権利を平等にしたい間の共和国のなれの果てだ。
ゼラートはアルザスに来るというダンサーの映像を見ていた。話の種、程度だが驚くほどに美しかった。
「これはあのゴミ共が騒ぐわけだ。」
「すごいな、特にこの姉ちゃんの胸。俺も見たい。」
アサドが言うとおり、長女は美貌もさることながらその豊かな肢体だ。ドレスの上からでも分かるほどに大きな胸で、いかにも奴らが欲情しそうだった。
「まさか中佐も?」
イロナが不安げな表情になるが、ゼラートはため息をつく。
「仮にそうだとして、俺がお前達を捨てるとでも?」
「そ、そうじゃないけど…」
「中佐〜それじゃまるであたし達が中佐の女みたいな言い方じゃん?」
アレクシアの指摘にゼラートは悪びれもせず「そうだったな。」と答える。同じく資料を見ていたウェンディはため息をつく。
「さっき、若い女達が騒いでいたのはこれですね。先方も気の毒に…」
長男もよく整った容姿だ。妹の方も姉とは違った雰囲気の美女で、間違いなく言い寄られる。
「テレビで中継もするらしいからな……大方、見られない連中へのガス抜きのつもりだろうよ。全く、本当にどうでも良いことにだけ力が入る。」
「今更ですけど、本当にそう思います。」
ウェンディも同意し、呆れた。
当日……特設ステージでは男達が最前列を取り合う事態にまで発展しかけた。これくらいの努力を戦場でもしてほしいと外人部隊や真っ当な思考の正規軍兵が思ったのは言うまでもない。
「では、皆さんの無事を祈り踊らせていただきます。」
三人は同時、ペア、ソロでそれぞれ情熱的なフラメンコを披露してくれた。男達はエレーナとセルフィーのダンスに、女達はヴァルスティードのダンスに熱狂した。最後の一曲では三人が一度に踊り、お開きとなる。
「今後の皆さんの戦果と無事をお祈りいたします。」
エレーナが会釈をして、ダンスは終了となった。しかし……
ステージに何人かの男が上がってきた。エレーナとセルフィーに声をかけている。
「この後、私と食事でも。」
「いや、私の元でもう一曲踊っていただきたい。」
体の良さそうなことを言っているが、男達の目当てが二人の身体である事は明白だ。
「ねえ、貴方彼女いる?」
「いないなら宿舎の私の部屋に来てくれる?」
若い女達もヴァルスティードに言い寄っている。三人が三人とも絶世の美形だ。言い寄る人間は多い。
「申し訳ありませんが、明日もダンスのスケジュールが入っておりますので。」
「それに、これから今日の反省も行いたいのです。」
「またの機会にお願いします。」
三人とも丁寧に断ろうとしている。劇場の方に呼び出されている、と切り出してようやく言い寄ってきた連中は諦めた。
遠目にそれを見ていたクラリスはため息をついた。
「気の毒にね…本当に。」
とはいえ、ダンスそのものは非常によかった。クラリスも興味はあって見に来たが、評判になるだけはある。
「いやあ、凄かったなエレーナ・ガルデニアの胸。」
「ああ、むしゃぶりつきたいぜ。」
ダンスなど全く関係のない話をしている男達の下品な話題を遠巻きに聞いていたフィリップは呆れていた。確かに、あの長女のプロポーションはクラリスに引けをとらない。しかし、ダンスそのものはよかった。それがフィリップの感想だった。
「俺は妹のスレンダーな身体が良いな。ったく、惜しいぜ。」
「何、いくらか積めば貸してくれるって。そうしたら、ベッドの上で踊って貰えるって。」
「だが、ピエルス少佐とあれを一度にいただけたら最高じゃねえか?」
「おお!それは良い!!あの極上の顔と身体の女を二人もいただけるのは、俺に決まっている!」
「何言ってやがる、俺だって!俺が二人共満足させてみせる!」
下品極まりない話に発展し、フィリップは吐き気がして出て行った。あの連中は家の力と金で何でも思い通りに行くと思い込み、戦争もそれで自分は絶対に生き残れる等と思っている。
おめでたい奴らだ……あの程度の連中にクラリスがなびくわけないだろうに。
大体、クラリスが気に入る男がフィリップにも分からない。少なくとも、あの役立たず共の同類でないことは確かだ。それとあのエレーナ・ガルデニアを一度に?
そんなラッキーな男がいたら奇跡だよ……
ドイツの駐屯地でゼラートは話の種程度に報道されたあのダンスは見た。確かに、よく経験を積んでいる。評判になるだけはある。だが、ゼラートにとってはそれだけだ。
「あの姉弟……いずれろくな目に遭わない気がする。」
「それって、まさか『ユーロ・ブリタニア』か本国?」
「或いは、政府のクズ共が姉と妹を…とも考えられる。」
ゲスなあの連中のことだ。体の良い方便で弟を始末して、姉と妹を独り占めなどやりかねない。尤も、多少の同情はしてもそれだけだ。他に何もする気はない。
それから、彼らの記憶にそのダンサー姉弟のことは残らなかった。
三人は控え室で深いため息をついた。
「疲れた……」
ヴァルスティードの言うとおりだ。踊りにではない……その後だ。
「もう、変なところ触ろうとしたりしつこく家柄とか親が軍で偉いとか、KMFで命張ってるとか嘘八百言ってる男ばっかり。オマケに顔も性格と見事に一致してる。」
顔と性格の一致は関係ない、といいたいところだがエレーナも同意見だった。とても教養が良いとは言えない態度に顔つきも軽薄そのもの……とても命を賭けて戦う覚悟があるタイプには見えない。エレーナの胸を見下ろしたり、露骨に尻を触ろうとする者もいた。
「私の胸やお尻しか興味ないのね……」
デートの経験もあるが、すぐに身体を要求するような男ばかり。キスを迫られたこともあったが、断っている。それだけですみそうにもないからだ。
「次のダンスが終わったら、一週間くらい休業できないか相談しない?」
「賛成…」
「私も同感。」
ヴァルスティードとセルフィーが同意し、三人は再びため息をついた。
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