[38297] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-33『再び叛乱と始まりの地へ…後編3』 |
- 健 - 2018年09月26日 (水) 20時52分
「ではノネット様…お先に。」
〈ああ、コーネリアのことで何か分かったら教えてよ。〉
「無論です。ジヴォン卿も…無理をしないで。」
〈ありがとうございます。〉
『グリンダ騎士団』と挨拶を済ませ、ライル軍が新しく受領したログレス級ケアウェントと五隻のカールレオン級でエリア11へ向かっていた。
「…皇帝陛下の行方は?」
「以前、不明のままです。」
やはり…否、そもそも本当に行方不明なのか?行方不明を装って何かしようとしているのでは?
が、既にエリア11へ向かっている以上は何もできない。それ以上に、今は随行する『セントガーデンズ』の動向が不気味だった。『ラウンズ』まで出立するのに非公式ながら皇帝お抱えの騎士団まで派遣して……本国をここまで空けて良いのだろうか?
「何か気になるのですか?」
レイの質問にライルは首を縦に振る。
「……『セントガーデンズ』の派遣だって私は怪しいと思っている。」
「え、どういう…あ!」
レイも気付いたようだ。そう、いくらゼロの動向に注目するとは言え『セントガーデンズ』は皇帝の直属……一皇族に貸し出すなどいくら何でもおかしい。そもそも、人員はまだ以前より少ないとはいえ戦力面では既に申し分ないのだ。充足させすぎているようだ。
「何か、こちらに対して意図があると?」
「ああ…思い過ごしならば良いのだが。」
親衛隊と『フォーリン・ナイツ』の者達はライルの女性関係の噂について話していた。
「随分と急激に殿下は女達と関係を持つようになったな。」
庶民出身の男の発言にエリア13出身の女も頷く。
「ええ…ウィスティリア卿とはまだそうなっていないようだけど。」
「やはり、クラウザー嬢との婚約破棄は…」
有紗達との関係を持つ上でジャマだった、とエリア17の男が邪推するが…
「それは双方合意だそうだ。それに、あの事件の後だぞ…殿下があの侍女や秘書と関係を持つようになったのは。」
貴族出身の男が唸り、自身の見解を述べる。
「貴族達の間で殿下の婚約破棄は色々囁かれているが、おそらくクラウザー家の前当主が殿下の母君と共謀して我々を殺そうとしたのは事実だ。それだけのことをすれば一族皆殺しという裁きを下す者もいる。殿下もかなり恩情をかけられたのだろう。」
ヴェルドとコローレもその場におり、頷く。
「まあ、大将はサラちゃんを結構気に入ってたぜ。あの子なら政略でもOKだったみたいだ。」
「それと婚約破棄、ですか…」
別の貴族出身が答え、沈黙する。
「ま、お袋さんはべつに良いとして…サラちゃんとの婚約破棄については俺も良いとも悪いとも言える意見あるが…俺としちゃ大将が女の子と付き合えるようになったのは良い傾向だと思うぜ。」
「あの事件からようやく立ち直り始めたわけだからな………隊長をとられたのは悔しいが。」
コローレがぼやき、デビーがため息をつく。
「良い傾向だとは思うが…ご本人が別の悩みを抱えなければ良いがな。ご自分が大嫌いな貴族共みたいになっている、等と。」
「……デビー、大将なら本当にそう思い悩みそうだから言わないで?つうか開き直って、一度にみんなとベッドでよろしくやってくれた方がすっきりする。」
「そ、そういうのを言うな!!」
黙って聞いていた幸也が怒鳴り、周りの者達が微笑した。
フェリクスはライルの女性関係とそれに伴うサラとの婚約破棄については中立であった。クラウザー家前当主が度の過ぎた皇族権限への干渉、しかもライルの母と共謀して自分やゲイリーを殺そうとしたのだ。
せめてシュナイゼル殿下に一言相談していれば、まだ良かったのだが……
酷い状態だった……あの時のライルは誰も信じていない。そんな様子すらあった。何しろ、ヴェルドとコローレのことも一瞬だけ分からなくなってしまったという。
加えてシュナイゼルお抱えの科学者を先方の無神経な発言が原因とはいえ衝動的に殺そうとしたという。おそらく、シュナイゼルと戦争になる可能性も頭からなくなっていただろう。
クリスタルから聞いた話では、その後で酷く喚いたという。ゲイリーや長野とも話し合ったが、彼はこの戦いの後で一度軍務から引くべきだ。『フォーリン・ナイツ』や採用したナンバーズ出身者達はヴィオレット家やクレヴィング家が身元引受人をすれば良い。長野はこれまでの才能が本国でも認められつつあり、特例として家族共々本国でブリタニアの一般市民としての生活を許される望みも出ている。あと、数年も軍務に従事すれば低くとも正式な爵位を得られる……『ナイトオブラウンズ』や他の皇族、その側近らも少なくとも長野に対する注目度は高い。秀作と雛はその次点だが、彼らもセラフィナやウェルナーの警護ともなればスザクとまでは行かなくとも充分なモデルケースとなる。
殿下……彼らでも既に充分なケースを貴方は確立していますよ。
フェリクス自身もジュリアの一件に含むところはある。それもあるからライルの方針を一歩引きながら支持していた。そして……ライルではないがここは最大のアピールポイントだ。クラウザー家や母の件で吠えている犬共を黙らせる絶好のチャンス。
「貴方は本当にお優しすぎて…無理をしすぎています。」
おそらく、近い間柄の人は気付いているだろう。彼が既に疲れ切っているのを……尤も、まだ知り合って日の浅いエリア24の三人は流石に気付かないだろう。関係を持っているエレーナはもうしばらくすれば、だが。
レイシェフはビスマルクと連絡を取り合っていた。そう、あの計画についてだ。
〈そうか、ライル殿下を…〉
どこまでかは知らないが、既にあの力と遺跡に関わりがある事は気付いている。しかも、V.V.が計画を持ちかけた上に断ったのだ。あの組織と皇帝の繋がりにも気付いている。
「勘だけならば、シュナイゼル殿下や我々を凌いでおられる。……できれば、もう一度説得を試みたい。」
〈………似ているからか?お前に。〉
「ああ……噂では、ようやく新しい女性と巡り会ったそうだ。何人かね。」
ビスマルクがそれを聞いて微笑する。
〈ならば、殿下のためにも成さねばな。〉
「そうだな、陛下の理想がなれば殿下は彼女達を真に愛することができる。」
そうだ……ライルと自分は似ている。これはライルのためでもある。彼女に謝ることもできるし……そして、今愛している彼女達と真に結ばれる。
だが、何故か胸に引っかかりがあった。なんだ?
その夜、ライルは有紗もレイもエレーナも優衣も招かずに一人ベッドで天井を見上げていた。
池田とクラリス、浅海との決着……サラから預かった紅月カレンへの手紙……
皇帝と『セントガーデンズ』………そしてゼロ。
ゼロの作った渦に否応なく呑まれるのか、私も。
想いとは裏腹に、唇が醜く笑いライルは眠りについた。
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