[38288] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-33『再び叛乱と始まりの地へ…後編1』 |
- 健 - 2018年09月18日 (火) 20時58分
ライルの元をサラが訪ねてきた。流石に先日の事件のこともあって護衛からのライルへの視線は非難や主人の心情への配慮が入り交じった複雑な物だ。
当然、か………いくら個人としての交流が続いてもクラウザー家を裁いた張本人だ。
貴族達の間でも賛否が分かれている……対象にナンバーズも含まれていたとはいえ、ライルの母シェールと共謀して軍のシステムに侵入して不正にIDを改竄、挙げ句離宮に賊を手引きして従者を売ろうとしたのだ。更には貴族出身のゲイリーやデビーを始めとした部下達の暗殺を企てていた。幽閉されているシェールが気に入った者達でライルの軍を構成するために。
もはや軍を自分が身につけるブランド品か何かとしか認識できていないその醜態は少なくともシェール個人には同情の意見が殆どなく、そちらについては裁いたライルを擁護する声が圧倒的に強い。が、クラウザー家となると違ってくる。
あれだけのことを行ったのだから一族を処刑してもよいのに、それを爵位の剥奪さえせずに婚約の解消と資産の一部接収に留めたのは温情であり妥当と認める声もあればライルが尤も聞きたくない『たかがナンバーズや庶民ごときで』と非難する声もあった。
彼女の父を投獄してサラを当主に推挙する選択肢もあった。だが、それではライルとサラがクラウザー家の実権を掌握する陰謀を疑われる。ライルはともかくサラにまで危険が及ぶのを避けるためにはこれしかなかった。
そして、ライルはサラに魅力を感じており、彼女ならば例え政略でもと思っていた。
その結末がこれか………早々に結婚してしまえば良かったか?だが、結婚という以上その課程は大切にしたかった。有紗達への気持ちもあった………結果も過程も選んでこれとは。
「先日の休暇はありがとう。おかげでいい骨休めになたよ。」
「よかったです……元々は父のせいでご迷惑をかけたようなものですから。」
お互いに負い目を感じるような会話だ。が、今は……
「それで、話というのは?」
「はい、実は枢木卿から『黒の騎士団』のエースが捕虜になっていると聞きまして…」
紅月カレン……シュタットフェルト家の当主とイレヴンの妾の間に産まれた少女。サラに見せてもらった写真と手配画像で顔は知っている。
「その彼女に……手紙を書いたんです。エリア11へ行くのならば、ライル様に渡して欲しいんです。」
封筒を1枚手渡され、それはブリタニア語ではあるが、紅月カレンへと綴られていた。
「私、アッシュフォード学園にいた頃はあの子や生徒会の人達と仲が良かったから、カレンが…」
「取り繕わなくて良いよ……」
「……はい、カレンが捕虜になったのもスザク君から聞いたんです。」
そうか、枢木スザクもアッシュフォード学園に通っており現在は復学している。彼もどこか思うところがあるのだろうか?
「生徒会の人達も彼女を気にかけていて……」
「…幸せ者だね、彼女は。それだけ心配してくれる友人がいて。」
独立に関してはおそらく浅海同様真摯だ。だが、それに伴う最悪の結果に目が行っているのだろうか?もし、日本人だけはそのようなことをしないなどと思っているのならば、その幻想だけはどうにかしなければ。
「分かった……多分直接手渡すことはできないから読み聞かせるよ。」
「はい、お願いします。」
ライルの元から帰るサラはため息をついた。双方合意の上で婚約は破棄した。だが、もっと辛く当たって良いのにライルは気を遣い、こんな我が侭に付き合ってくれた。
サラの心はまだライルに奪われていた。優しすぎるし、やはりどこか無理をしているように見える。妻として支えたい気持ちがあった……だが、他ならぬ父のくだらない欲望のためにそれは潰えてしまった。
再度婚約など、仮に行っても双方に非難が集中するだろう。クラウザー家はサラの方針で今後もライルの補助は行うが、婚約破棄と先日の事件で余り大規模にできない。
「………お父様のバカ。」
我が親ながら酷い人だと思う。娘が始末しようとした相手と付き合いがあるのも知っていたのに、アッシュフォードにいた頃はスザクとの交流さえ反対していたのに今はほくほくだった。
もしライル様と婚約していなかったらスザク君との婚約をしていたのかもしれないわ。何しろスザクは同じ学校の生徒というライルにはない絶対的なアドバンテージを持っていたのだ。枢木の本家とは切れているが、これをきっかけに枢木家をブリタニア貴族として受け入れるなどとやりかねなかった。
…よかったのかしら、お父様の裁きは。
父の投獄は当然だとも思う。あれだけの大犯罪だ……殺されないだけライルはかなり骨を折ったはずだ。殺してよかった相手を………何しろ、尤も殺したいはずだった母でさえ我慢した。
「本当に、無理をしすぎなければ良いけど。」
ライル軍ではKMFの改修が終わった。丁度ギリギリのラインだ。すぐにでもエリア11に飛ぶ必要があるので、微調整は移動をしながらになる。
特にアストラット、ハリファクス、ローレンスの三機は『グリンダ騎士団』で運用しているKMFの改修案も採用しているために調整に時間がかかる。
通常戦闘という意味ではおそらく機体性能も含めればこの三人が要だ。実戦経験がないヴァルとセルフィーは雛と共に後方からの支援砲撃を主にすればいい。
前衛戦力という意味では親衛隊ではレイ、『フォーリン・ナイツ』では長野だが二人は隊長という立場上守るKMFが欠かせない。その意味では指揮官としてのセンスもあるノエルとコローレの二人をつければいい、長野も良二と幸也をつければいい。
クリスタルのハリファクスは改修によってスピードのみならばベディヴィエールと同等以上だ。上空からの急襲要員になる。ロールアウトしたガウェインの量産機ガレスまたはカスタム化されたヴェルド達のヴィンセントでの援護が必要になるかもしれない。
連携はこれまでの戦術をベースに組めばいい。だが、ロールアウトしたばかりの機体が多すぎる。
「時間がない、すぐに実戦形式の訓練で試運転も行うぞ。問題があればすぐに言ってくれ。間に合わない分はエリア11に向かいながら、及び現地で微調整を行う。」
「イエス・ユア・ハイネス。」
もうすぐ、池田達とこんな巨大な規模での戦争で戦える。それを想像したライルは唇が上を向き、眼が狂気を帯びていた。
ゲイリーはライルのあの事件の采配には中立的な意見でいたが、やはり否定的な見解をせずにいられなかった。そして、何度も見てきたが今回が決定打となった。普段からギリギリのラインであったが、トラウマを抉られたライルは私怨が先に出て暴走してしまう。そう、有紗達を彼女と混同しているのだ。
関係を持ったことについては敢えて言及しない。だが、気付いていない内に有紗達をジュリアの代わりとしていたらそれは深刻だ。聞いた話では一瞬だがヴェルドとコローレのことも分からなくなってしまったのだ。こんなことが続けばせっかく本人が苦労して勝ち取った信頼が揺らぐ。それも勿論だが、それより先にライルの心が壊れてしまう。否、既に壊れかけていると見るべきだ。
「殿下、補佐として…それ以前に一人の大人として貴方に進言します。」
「ゲイリー?」
「この戦いが終わってからで構いません………貴方は一年程軍事から遠ざかるべきです。」
「な、何を言う?私が軍事から遠ざかったら誰が彼らを指揮する。まさか、誰かの差し金か?」
やはり、他の幕僚達に対してナンバーズ関連ですぐに疑ってかかる傾向が最初強かったが、症状がぶり返し悪化している。
「貴方と部下達のためです。今の状態でさえ危ういのですから。」
「………君でなければ信用しなかったよ。」
「ありがとうございます……」
本当にジュリアの一件がここまで響くとはゲイリーも思わなかった。庶民ごとき、等とは言わない。それはゲイリーが特権意識だけ肥大化した貴族ではなくそれ以上に軍人だからだ。有能な兵士に貴族も庶民もない。何時の時代でも優れた指揮官も将兵も得がたいのだ。ナンバーズにまで採用を広げるな、とも思った。
が、実際に採用して優れた能力を持つナンバーズも確かにいた。それは認める。彼らを優遇するのも否定しない。しかし、それが徐々にライル自身の憎悪も入っているような気がした。あの叛乱をきっかけに。
全く、只でさえ私怨の固まりになっている男がすぐそこにいるというのに………
秀作はゲイリーがそれに頭を悩ませていることなど露知らず、改修されたアストラット、アストラット・アベンジャーを見上げた。
要望通りランスロット・グレイルの改修案を採用されており、部分的ながらランスロット・コンクエスターのルミナスコーンも採用されている。
「待ってろよ、魔物共。偉大な将軍様の御孫様の手にかかって死ねるという栄誉を与えてやるよ。」
特にあの海棠という日本軍人……奴だけは俺が地獄に叩き落としてやる。訳の分からないことをこの俺に吹き込んだ罪を命であがなわせてやる!!
だが、彼が言ったまだ心が赤ん坊という言葉が秀作の心に引っかかっていた。ライルが返したというあの女もあの世に送ってやりたいが、あの女はライルと縁があるらしい。譲ってやろう。だが、ゼロや皇神楽耶は別だ……必ず俺が喰らってやる。
雛は改修されたローレンス・グリードのマニュアルに目を通していた。ゼットランドの改修案に『ユーロ・ブリタニア』で運用されたアフラマズダの武器も一部採用してくれた。とにかく小回りが効く火器がないのが雛は不満だった。盾があるのはありがたいが、そうなると殆どこちらは完全に防御に回ってしまう。それではジリ貧だからだ。
「さて、あの正義のヒロイン気取りのクソアマをぶっ殺してやる……と言いたいけど。」
残念ながら彼女は捕虜であり、ナナリーの意向で丁重に扱われている。
「『奇跡』のペテンオヤジとあのゴミ共で我慢するしかないか。」
まあ、E.U.でやり合ったあの連中もいる。少しはマシな腹いせになるだろう。
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