[38281] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-33『再び叛乱と始まりの地へ…中編3』 |
- 健 - 2018年09月08日 (土) 21時02分
レイは気が気でなかった。ハワイで有紗と結ばれたと思いきや、優衣、更に新参者のエレーナともライルは関係を持った。
悪いとは言わない。レイも貴族としての教育を受けてきたのだからそういう相手が必要なのも分かっている。だが……
なんで、こんな醜い嫉妬をしているの?
優衣は協力企業に勤めていた者の血縁と言っても有紗と同じ一般のイレヴン、エレーナは養子とはいえ植民地政策に協力している者の親族。そう、エレーナは問題にならない……
私も、11歳までは一般の日本人だった……今は貴族。
何故、自分ではないのだろう?騎士にも選ばれたのに。
彼の苦悩は有紗程ではないだろうが知っているという自負はある。前任者になるはずだったジュリア・ボネットのことも聞いたし、あの時抱きしめてくれた……
レイ自身の苦悩を完全に理解してあげられないことへの負い目を告白した。周囲の反対を押し切って騎士にしたのも知っている。
だが、ライルと肌を合わせられる有紗達への嫉妬は拭えなかった。顔と身体にはそれなりの自信がある。ウエストの細さは密かな自慢だし、胸も元々大きい方だったし去年より1サイズ大きくなっている。
彼の苦悩を包んで愛したい。愛されたい……彼の子を産みたい。
クリスタルに比べればハーフというマイナスの要素はある。だがスレイダー家は間違いなく一流の家柄。『ユーロ・ブリタニア』の大貴族連合に名を連ねる貴族達にだって引けを取らない。レイの騎士叙任に伴って散々レイを疎んじていた親戚達もご機嫌でレイをライルと結婚させる気がある。レイ自身はその変わり身の早さ…身勝手さに怒りを抱いている。あいつらに有紗達の身の安全を条件に自分も協力すると考えたこともあるが、あの連中は信用できないし…そんなやり方はレイ自身も納得がいかなかった。
当たって、砕けるしかないのかしら?
基地のバースペースでゲイリーは長野と飲んでいた。家庭の問題で相談をした後にライルが有紗やエレーナと関係を持った噂が話題になり、ゲイリーはひとまずの安堵を抱いた。
ようやく、特定の女性を作ったというのは皇族という立場上必要だ。だが、問題は………
「結局、ナンバーズばかりなのが問題だ。」
そう、ライル本人も我が侭なのは自覚しているようだが…部下達を平然と侮辱するような者とは結婚したがらない。だが、ゲイリーも軍人しかも指揮官なのでその気持ちは分かる。
「クラウザー家の当主がバカなことをしなければ……」
サラ・クラウザーはイレヴンも受け入れるアッシュフォード学園の生徒で、枢木スザクとも面識があったためにナンバーズだからと見下すことはない。
「彼女ならば殿下も受け入れられたのに、余計なことをしおって。」
クラウザー家の父は「殿下と娘のため」と証言していたが、結局自分と家柄のため、挙げ句の果てにシェールは自分が気に入らないライルの部下達を殺そうとしていた。ゲイリーも婚姻の破棄はやむを得ないという肯定的な見解と事件解決への協力で継続してもよかったと否定的な見解の板挟みになっていた。シェールについては将兵を率いるというゲイリーの立場を含めても幽閉するのが当然だ。また何か仕掛けてきては厄介だ。何しろ双方とも度の過ぎた皇族権限への侵害を行ったのだ……罰する必要もあるのだ。
「やはり、殿下は皇族向きの方ではないのだろう。」
「ええ、お優しすぎるのもそうですが……一部の者達への感情移入が少々強すぎます。」
聞いていた長野もウィスキーを飲んで頷く。特段目をかける部下がいるのは悪いことではない。ゲイリー自身も今後見人をしている秀作については部下としても注目し、フェリクスもよいライルのストッパー役だと思っている。
何かの弾みで壊れなければよいが………
有紗はライルに寄り添っていた。先程まで愛し合い、また限界が来るまでライルに抱かれた。
「ライル様……」
「ん?」
有紗も噂は聞き、中には悔しがっている者もいた。優衣もエレーナもあれだけの美女だ。ナンバーズ出身者だけでなくブリタニア人にも良いと思っている男はいた。女でも同じだ……
「優衣やエレーナさんともしたんですか?」
「………ああ。」
数秒黙って出た答えに有紗はやはり、と思う。だが有紗にとって大事なのはそこではない。
「私……よかったの?」
「どういう意味だ?」
有紗は力の入らない身体でライルに抱きつく。胸がライルの身体で潰れるのが分かる位に密着し、耳元で訪ねる。
「私……只の侍女で、一般ナンバーズなのに。良いんですか?」
優衣は秘書官で死んだ両親は皇コンツェルンに務めていた。エレーナは植民地政策に協力している資本家の養子……ブリタニア社会という意味ではレイとクリスタルは一番問題がない。
「私だって人の子だよ?一度くらいそういった者を度外視した恋愛をしたい。」
有紗の唇をライルが奪い、舌を絡めてくる。力が抜けた有紗も何とか応えるが、ライルの方が上手くて僅かな力も抜けてしまった。
「言い訳のように聞こえるが、私にとって一番は君だ。これは本当だ。」
一番…自分が、皇族のライルにとっての………
思わず涙が溢れてきた。ライルは何も言わずに涙を拭い、もう一度唇を重ねる。
シルヴィオはミルカと肌を合わせた後、彼女に布団をかぶせて外に出て刀を振っていた。とにかく、刀は西洋の剣と違い重さなどでは大きく劣るし斬ることに特化している。だがそれ故に振りやすい。それがシルヴィオが日本刀を気に入った理由の一つだ。
西洋の剣は相手の鎧を貫くことも視野に入れられているが、日本刀はおそらくあの切腹が行われるようになってから介錯用として首をはねることを考えて斬ることに特化するようになったのだろう。
愚か者共はそういうナンバーズの文化がブリタニアの文化に勝る部分も認めない……そこまでブリタニアが上でなければ我慢ならないとは、子供以下だな。
そもそも他の文化もだが、武術もその国の積み重ねてきた戦いの経験と考え方だ。それぞれが一長一短なのではないか、とシルヴィオは考えており、その面ではライルも同意見だった。日本の槍に近い長刀という武器もあれは女性用の武器であり、侍の妻が屋敷を守るために用いたという逸話もある。
今の時代、女だって武器を持つのだ。現にブリタニアにも女騎士は少なくないし、シルヴィオの軍にもKMFで出撃する女がいる。なのにイレヴンの武器というだけで女が武器を持つのを否定する。
「愚か者共が……それが我が国でも剣を持つ女達への侮辱と同じだということが分からぬとは。」
国のため、家族のため、家柄のために剣を取る女をシルヴィオは軽んじない。むしろ、敬意を持つ。だからこそ、皇族たる自分が先頭に立って剣を振るうのだ。
俺が考える皇族としての気構え……優れた騎士として将兵達の先頭に立って戦い鼓舞する。そして、相手に畏怖を与えてこその勝利となる。
素振りを終えたところで後ろに声をかける。
「いつから見ていたんだ?」
「最初からよ………元気ね、貴方も。ミルカとよろしくやった後にトレーニングなんて。」
「それとこれは別だ………」
「それもそうね。はい、あたしの特製アイスレモンティー。蜂蜜入りよ?」
木宮から手渡された紙コップを受け取り、ストローで飲む。
「ミルカにも劣らぬ位にお前も気が利くな。」
「何年女房役をやってると思ってるの、坊や?」
坊やといわれてシルヴィオは微笑する。
「俺はもうそういう年齢ではないぞ。大体男が自分をそう言うな。」
「いけずね。そろそろ寝なさいよ?後…意外とミルカが目を覚ましてまたおねだりしたりしてね。」
「まさか。」と笑い流して戻ると、ミルカが目を覚まして待っていた。
「トレーニング、してたんですか?」
豊かな肢体に毛布を巻いた状態で立ち上がって質問をするミルカに「ああ。」と答える。すると、毛布を手放して抱きついてきた。
「木宮さんにドリンクもらいました?」
「ああ…」
ミルカが見上げ、唇を重ねてきた。吸い付くように離れず、息苦しくなり始めた頃に離れると…
「木宮さんばかりずるいです。」
子供みたいにすねている。
「嫉妬か?」
「分かるのなら……もう一度してください。」
男に嫉妬するとは、と普通なら呆れるところだが……相手がミルカであるならとシルヴィオは答えた。もう一度、疲れ切っているはずのミルカを激しく愛した。今度は言いだしたミルカ自身が気を失うまで……
クリスタルはシャワーを浴びて、鏡に映った自分の身体を見つめる。容姿も軍学校時代から注目を浴びるほど整い、身体にも自信がある。胸は形もよく、大きさも一般を遙かに超えている。外に出れば注目されるほどだ。腰回りも軍人として鍛えているだけあり、細いし、足の脚線美にも自信がある。
これだけの身体でも…殿下は振り向かない。
いや、色香で振り向くような人ではないのだ。だから好きになった。クリスタルは両肩を抱き、壁にもたれかかった。
「殿下…」
今頃有紗か優衣か、エレーナはライルと愛し合っている………羨ましい。愛されたい……壊れるくらいに。本当は自分にそんな資格がないと分かっていても…………何度正直にあの事を告白したいと思ったか、知れば彼がどんな反応をするかいくつも想像できる。そうなれば愛してくれないかも……だからずっと引きずっている。
翌日………本国の研究所に預けられていたライル軍のKMFの改良が完了したと報告を受け、ライル軍はエリア11へ向かうことになる。
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