[38248] コードギアス 戦場のライル SIDE OF WARFARE『妄執の女と皇子の翌日』 |
- 健 - 2018年07月29日 (日) 21時58分
雛はウェルナーのいるアクエリアスの離宮で警護隊に所属するようになった。非常時にはライル軍旗下の騎士としてローレンスで出撃するが、ウェルナーの身体作りに付き合いながら食事をしたり休日にお忍びの外出をするようになった。
毎日が楽しかった……『黒の騎士団』との戦いでライルも影響力を強め、各エリアの衛星エリアの更に上の自治権付与制度も目処が立ちつつある。
その情勢下で秀作と雛は正式に騎士候位を授かり、長野とスザクは日本代表としてブリタニアに入った貴族となった。エリア11もナナリー総督の政策の元で落ち着いていた。
彼女の政策やスザクの活躍がきっかけでナンバーズへの認識も変わりつつあり、ライルは有紗を始め自軍の女性陣数名を妻に迎え、秀作はセラフィナの元へ婿入りすることになっている。雛もウェルナーから正式にプロポーズを受け、顔の治療が終了したら結婚することになっている。
「なんて都合の良い夢見てるの、私。」
夢だった。そう、そんな上手い話あるわけがない。皇族の部隊にいるだけでラッキーなんだ。まして結婚など、夢のまた夢の更に夢だ。
ま、約二名は正夢になりそうだけど。
昨日の海水浴での話を聞いた限りでは、このまま行けばライルは婚約破棄したサラは無理でも有紗とレイ、クリスタルの三人とはほぼ確実に結婚するだろう。優衣とエレーナ、もしかしたらではあるがテレサも結婚するかもしれない。
貴族が一人しかいなくてあとはナンバーズ三人にハーフ、庶民に出された『ユーロ・ブリタニア』の貴族………お願いだから殺されないでよ?あんたは目下最大の………上司なんだから。
金蔓ではなく上司……何故だろう?只金蔓程度にしか見ていなかったのに、いつの間にか忠誠心みたいな物を彼に抱いている。
どうかしちゃったのかしら?
そう思いながら雛はシャワーを浴びていた。既に何度も見て、うんざりするほど鏡越しに見た背中の火傷、顔の火傷を一瞥して着替える。
朝食くらい一緒にしても良いかな?昼食や夕食は一緒のことはあったが、立場上朝食はなかった。
雛は髪を整えてウェルナーの部屋へ行く。
「ウェルナー、起きてる?」
ウェルナーは目を覚ました。窓を開けてみると、丁度夜が明けた頃だった。
「眩しい…」
こんな夜明け……初めて見た。海が見える高いところからの夜明け………見入るほどに美しい景色だ。
兄上や雛とこんな景色を見られたら良いな………
そんなささやかな夢を抱きながらウェルナーはシャワーを浴びて、備えられた冷蔵庫から水を取り出す。
「ウェルナー、起きてる?」
雛の声だ。
「ええ、起きています。」
ドアを開けると、雛がいつもの髪型で立っていた。
「早起きね、意外と。」
「少し早く目が覚めて……外の日の出が綺麗だったんです。」
「……まあ、これだけ高い建物で海が見えればね。朝食でも一緒にいかが?」
朝食……雛と………とても、良い気がした。
雛とウェルナーは一階にあるレストランで朝食を摂ることにした。少し目立っている。
「目立って当たり前か……」
何しろイレヴンがブリタニア人と食事をしているのだ。目立たないわけがない。
「おかしいのでしょうか……ブリタニア人とナンバーズが一緒にいたら。」
ウェルナーの表情が曇る。
「ブリタニアの社会から見たら変なんでしょうね。ま、ナンバーズ側から見ても仲良くしたら裏切りなんでしょうね。ったくやんなっちゃうわよ。」
雛はパンをかじって愚痴をこぼす。ライル軍では既に慣れたのか口を挟むのを諦めたのかブリタニア人の同僚達もあれこれ文句を言わない。だが、それ以外ともなれば話は違う。やれライルに色目を使っただのなんだのと因縁をつける。ナンバーズ側も貴族と寝たとか同胞を売ったとかいう。
個人の意志って概念があいつらにはないんだ。だから独立だ、解放だとそればっかり言える。
「ねえ、立場が逆になるけどちょっと買い物に付き合って。」
「え?買い物、ですか?」
「そう、頭の悪いナンバーズ共のこと考えてたら腹立ってきたの。」
普通は自分がウェルナーに付き添うもの。そんなこと分かりきっている……だが、今はウェルナーと色々として気を紛らわしたかった。当てつけもあるのかもしれない。
ウェルナーは雛と色々な買い物をした。ハワイの食べ物や他のエリアから輸入された民芸品など、色々だ。
本や音楽も色々と買った。雛本人も随分と色々買っている。雑誌に服と、様々だ。
「あの、お金は大丈夫なんですか?」
「あのね、これでも軍人で士官よ。本国に来てからは軍の宿舎使わせて貰ってるし、趣味もないから結構貯まってるの。」
なるほど……それならば貯金というものも増えるだろう。だが、それは良いのだろうか?
「あんたこそ、いい加減に歩ける程度になってるんだから。今度は走れるようになる。」
「は、はい。」
「君、良いかな?」
脇から声がすると、警官がいた。どうやら、不審者だと思われたようだ。
「君はナンバーズだな?何故ブリタニア人の少年といる?」
雛がため息をついて、身分証を出す。
「『第八皇子隷下特選名誉騎士団』の川村雛中尉。休暇を貰って来ているの。軍に確認取っても良いわ。」
「あの変わり者のライル殿下の?」
疑っている。ウェルナーはそれが何故か不愉快だった。何故疑う?法律でナンバーズが本国や各エリア間を行き来できないのは知っている。だが、枢木スザクやライル旗下のナンバーズ出身者達は例外というものではないか。
「彼女は僕の友人なんです……今日、買い物に付き合う約束だったんです。」
素性が知れたら少々厄介だと離宮から付き添った者にも言われたので、できるだけ一般市民を装ってウェルナーは警官に進言した。
「では、待ちなさい。確認を取る。」
五分ほどしたら、警官が不服そうな顔をしながらも敬礼をした。
「失礼いたしました、確認を取りました。」
「別に、もう慣れた。じゃね。」
雛は何故かどっと疲れた。ここまで来て因縁をつけられるとは………分かっていてもうんざりだ。
「ああもう……早く邪魔なゼロ殺してもっと良い暮らししたい。」
「それって…もっと多くの日本人を?」
ウェルナーの箱入りらしい問いに雛は「そう。」と答える。
「前も話したけど、私は魂とか国の威信なんかより自分の暮らしなの。だからゼロは邪魔以外の何物でもないの。」
「そう、なんですか……」
そう、ゼロは邪魔だ。あいつのせいでイレヴンだからと疑われることが今でもある。他のナンバーズでもそうだ……有紗やレイだって疑われる……全部、ゼロや藤堂の…あの皇コンツェルンのガキのせいだ。
自分が紅月カレンを殺して、ゼロや藤堂も血祭りに上げれば少しは連中も黙るだろう。
「落ち着けばあんたの世話をもうちょっと焼く事も出来るのよね。」
自分の言った事が信じられなかった。何故、そんなことを言った?以前、シルヴィオからウェルナーの離宮で仕えるのを薦められた。そして、今朝の夢……
私は……この子の側にいたいの?
だとしても、何故?
|
|