[38227] コードギアス 戦場のライル SIDE OF WARFARE『双剣皇女の安らぎ』 |
- 健 - 2018年07月06日 (金) 19時18分
皇歴2017年、『ブラック・リベリオン』からしばし経ったブリタニア本国は落ち着きを取り戻しつつあった。……帝都ペンドラゴンから離れ、ネバダにある屋敷。そこはブリタニアの国風からは似ても似つかない……所謂純和風の屋敷であった。
瓦の屋根も使っており、一部だが木造でもある。更に、池では鹿威しと呼ばれる東洋の飾り付けまでされている。
池が見える縁台でブリタニア人の女性が三人、並んで緑茶をすすっていた。
「最初はどうかと思ったけど、慣れると良い物ね。鹿威しも。」
「日本文化の愛好家としては嬉しいわね。」
エルシリア・ギ・ブリタニアと妹のセラフィナ、そのエルシリアの騎士であるクレア・エインズワースだ。
エインズワース家はブリタニア本国でも変わり種と称される貴族で、日本文化の愛好家として知られている。何でも1600年代後半に即位したクレア・リ・ブリタニアの臣下にはサムライの時代にブリタニアに移住した日本人がおり、彼女の遠い祖先がその人物との交流をきっかけに日本文化を学んだのがその始まりだという。
娘にその皇帝と同じ名前をつけるのも一種の敬意と父が公言しており、父と母も日本文化に精通しており、エリア11でも文化財の保存や自然遺産に力を注いでいる。
「初めてこっちに来た時の貴女ときたら、ブリタニア貴族のくせに日本文化にのめり込みすぎって文句が多かったわね。」
エルシリアは少し恥ずかしくなった。エリア11成立頃には流石にそんなことを言いはしなかった。占領したからといって、その文化の全てを否定するのは間違いだとエルシリア個人も思うからだ。ライルだったら、もっと強く批判していることだろう。
「資料館の設立はどうなの?」
セラフィナの問いにクレアは首を横に振る。
「駄目、向こうの連中が全然認めない。文化財の保存だって無駄金扱いしかねないわ。その内、ナラやキョウトの城や寺を全部滅茶苦茶な改装しかねないわ。」
流石にそれは無い、とエルシリアは内心で反論した。あのあたりは日本国内でも有名な観光名所が多く存在する。
「いくら何でも観光名所を潰すことはないわよ…」
が、クレアが睨み付けた。
「あら?それでカマクラを潰したのはどこの帝国だったかしら?」
その反論にセラフィナも黙ってしまう。かつて、最も有名な江戸幕府より二つ前の幕府の都だったカマクラ……そこはブリタニアのミサイル攻撃で壊滅してしまったのだ。
「文化財っていうのはその国が積み重ねてきた歴史よ。しかも日本のはたかだか数百年程度のブリタニアの歴史なんか比べものにならないくらい積み重ねられたもの………頭ごなしにウチが上なんて威張る連中の頭の中身もたかが知れているわ。」
元々日本文化愛好家というだけあって、文化財の破壊には強い憤りを抱いていたが…それを放置しているのはクレアにとって許せないのだ。
「ああもう、エルが総督でセラが副総督やってれば私が文化財保存を率先して指揮したのに。」
「悪かったわね、総督にならなくて。どうせ私は総督の器じゃないわよ。」
普段の姉らしからぬ不機嫌ぶりにセラフィナが微笑する。
こうしてむくれる姉はリラックスしている証拠だ。折り合いこそ良くないが、ライルやルルーシュとナナリーの相手をしている時もそれなりに肩の力が抜けている。コーネリアとてそうだ。
「コーネリア姉さんが今のこの姉さんを見たら、どんな顔をするかしら?」
コーネリアの名前が出た途端、エルシリアの顔が複雑な表情を見せる。
「……ギルフォード卿にも行方を告げずに一体、どこへ?奪えるものも奪えぬではないか。」
そう、昔からコーネリアとは折り合いが悪かったが……多分二人は似ているとセラフィナは見ていた。嗜んでいてもダンスよりも剣や乗馬を好み、自分から積極的に前で戦い、妹に甘い。つくづくよく似ている……
本当は意外とコーネリア姉さんのこと大好きなんじゃないかしら?
と思うが、そんなことを言ったら怒鳴られそうだ。しかし、グラビーナにこの顔を見せられないのは少し残念だ。エルシリアはグラビーナとウィンスレットに部隊を預けている……全く、報われない。そして、今度はあの少年の顔が浮かんだ。
秀作がこの庭を見たらどんな顔をするのかしら?
否、おそらくなんの感傷も抱かないだろう。あの凄まじいまでの日本への憎悪。同じ日本人の同僚達にさえ殺意を抱いているのだ。それを実行に移さず我慢できているだけ凄い。
夕食はクレア自ら腕を振るった。白米に海藻とキノコでだしを取ったお吸い物、天ぷらという揚げ物に葉物のおひたし、野菜が多めだ。
「うん、我ながら良くできてる。」
自画自賛するクレアにエルシリアが細い目を向ける。
「もう慣れたけど……貴女、本当にブリタニア貴族?貴女が西洋系の料理を食べているところなんて、子供の頃でさえ殆ど見たことないわ。」
「あら、良いじゃない別に。それに日本料理は野菜の扱い方が良いじゃない。こっちじゃサラダやシチューくらいにしかならないんだから。」
クレアは日本文化のそういった面が好きだった。魚介類を生で食べる刺身や白と黒だけの絵である水墨画……泥棒の処刑に因んだ独特の風呂など、ブリタニアのような西洋文化では考えられないような日本、東洋の文化の側面。それを尊重するのは良いことだと思っている。
切腹やカミカゼで死ぬことが大好きなどという偏見がクレアは嫌いだった。大体、ブリタニアだって無様な生より誇りある死と称して自分の首を斬るではないか。あれはどう説明する?
「ほんと、この国って私のようなのが珍しいくらい俺様天下なのよね。」
「私達はその俺様天下の国の皇女よ?」
セラフィナが不機嫌になるが、クレアは緑茶をすすって返す。
「あら、ナンバーズの文化こき下ろさないだけでも私にとっては同類よ?」
そう言われ、エルシリアも誤魔化すように緑茶をすすった。
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