[38214] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−14 合流間近』 |
- Ryu - 2018年06月26日 (火) 00時10分
ポーランド州に待機中のロンズウォー特別機甲連隊の一部が駐屯している軍基地では、現在不在のゼラートに代わってデルクの指示の元移動準備が整えられていた。
いよいよ明日にはこの基地を離れて中華に、そして蓬莱島に入って黒の騎士団の一員として、ブリタニアと戦う事になるのである。
その晩、最後の確認を終えたデルクは久々にシミュレーター室へと向かい、丁度そこで訓練を行っていた浅海を誘って一戦交えた。
「本当に強くなったな美奈川…もう俺では付いて行くのが精一杯だ」
「いえ、ドリーセン少佐も手強いですよ。手堅い分無理に攻めても返り討ちにされそうですし」
「そうか? 俺は極力危険を冒さないやり方を優先しているだけなんだけどな」
3戦戦って1勝2敗で浅海の勝利に終わったが、デルクも堅実そのものな動きで最後まで隙を見せる事無く戦った。
「…いよいよなんですね。日本を取り戻す為の戦いが始まるのは」
「…戦えるのか? 今ならまだ…」
「いえ、戦います。一度は本気で戦わなければ…前にも進めないと思うから。結果がどうなるにしろ…」
「…後悔だけはするなよ。『あの時ああすれば良かった』『どうしてああしなかったのか』…そんな思いだけは」
「少佐…ありがとうございます」
礼を述べて浅海は休みを取るべく自分の部屋へと戻って行った。一人になったシミュレーター室で、デルクは懐から何かを取り出した。10年近く前に撮った写真である。既に写真は色褪せて擦り切れつつあるが…。
3人が仲良く並んだ写真で、右にいるのが自分、真ん中と左にいるのが…失ってしまった2人の日本人の親友だ。
(香奈…いつか言っていたな。3人で日本旅行に行きたいって。結局俺だけが日本に向かう事となったよ…思っていたのとは違う形だが)
最期は2人分の命を背負ったまま、自ら命を絶ってしまった彼女…普段は大人しく口数も少なかったが、日本の事になると饒舌だった。
(雄介…見ていてくれ。君達の故郷を取り戻して見せる! それがあの時見捨ててしまったも同然の俺が出来る唯一の償いだ…!)
最期は見るも無惨な姿で発見されてしまった無二の友…今やE.U.の為でも祖国の為でも無く、失った2人の友の為に戦う事を決めているデルクであった。
「え? 悪いもう一回言ってくれねぇか?」
「私達の一隊は蓬莱島に行く前に、モンゴルに寄って現地の部隊や同じく蓬莱島から派遣された部隊と連携して、現地のブリタニア軍を制圧する…中佐からの指示よ」
準備完了して暇潰しにイロナと雑談を交わしていたアサドだったが、そこにウェンディが現れた。彼女も会話に加わるのかと思いきや、どうやら今後の行動についての伝達だった。聞けばゼラートからの命令で蓬莱島に入る前に寄り道する事になったらしい。
「確かあの方面は旧ユーロの連中を中心した一隊が屯ってたな…先にそいつらをお掃除しろとでもゼロに命令されたのか中佐は?」
「でも何で今このタイミングで? ユーロ系の中でも使える連中は本国に持って行かれて、残っているのは本当に数合わせの連中だけ。そんな連中は無視する訳にもいかないけど優先して倒す必要も無いって、中佐も言ってたけど…?」
「これが答えよ」
何故この時期に? いやそもそも自分達が行く必要性があるのか? という両名の質問に答えるかの様に、ウェンディは2人にそれぞれ情報端末を渡した。アサドは一体何なんだとその内容を見ると…疑念から一転その表情は驚きに変わった。
「…おいおい、これって」
「ええ、新型KMFのデータよ。既に中佐とアレクシアの手で大まかな調整を行っているから、現地に到着次第すぐに乗れる事になっているけど、早急に内容を把握しておきなさい」
「要は本番前の慣らし運転って事かよ」
「え…ウェンディ。この機体、私が乗るの?」
「ええ、どうかしたのイロナ?」
「あ、ごめん。何と言うかホントにビックリで…不謹慎かもしれないけどちょっと嬉しかったり、でもやっぱ不安だったり…」
自分が乗る事となる機体のデータを眺めるイロナの表情には、本人が言う様に様々な感情が渦巻いている様に見える。
慕っている中佐に認めて貰えている事の嬉しさ、そんな期待に応えなければならないとの気負い、そしてその期待を裏切ってしまわないかという不安、そしてそうなってしまった時の恐怖…。そんな彼女の心境を察してか、アサドは気遣う様に窘めた。
「あんま気負うなよイロナ、平常心だ平常心。お前なら乗りこなせるさ、何せあの中佐が認めたんだぞ?」
「それでも不安ならその機体を俺に寄こしな。それか乗りこなせる様に俺がコーチングしてやろうか? 手取り足取りじっくりと」
どこからやって来たのか、ニコロスがぬっとイロナの背後から覗き込む形で彼女の端末を見て発言した。余りにも突然の行動にイロナも軽く悲鳴を上げてウェンディの後ろに隠れ、彼女の背後から伺う形でニコロスの事を若干睨んでいた。
「いい加減やめた方がいいと思うぜおっさん? そんなだからいつまで経ってもイロナから嫌われていると思うけどな」
「いーや辞められねえな、一々反応が面白いもんだからよぉ。そして俺はおっさんじゃない!」
「どの面下げての発言だよ、せめて全部剃れ。そしたらまだマシな顔になる」
若干呆れた様子でアサドが注意するも、ニコロスは(一部の発言除き)意に介す様子も無い。ふざけた調子で会話に加わったが、それでも急に目つきが鋭くなってウェンディに問いかけて来た。
「それはそうと『シュテルン』はどうなる?」
「どう、とは?」
「惚けんなよ。あの野郎の事だ、部下達だけでなく確実に自分の新型KMFも得た事だろうよ。となればシュテルンが空く事になるが?」
「…おそらくは私か、あなたか、あるいはドリーセン少佐か…まあ近々はっきりするでしょうけど」
「そうかよ、出来れば俺をご指名して頂きたいもんだぜ。じゃあな」
それだけ言ってニコロスはさっさと自分の部屋に帰って行った。一体何しにここに来たのか、たまたま通り掛かって聞いた話に加わっただけか、最悪イロナをからかう為だけに来たのか…後者の可能性が高いのが何ともだが。
「ホント…アイツ嫌い。いつもいつも…」
「…まあでもあのオッサン実力は確かだしなぁ。お前だってそれはわかってんだろ?」
「…わかってるけど」
アサドの窘めにイロナも不承不承といった様子だが認めた。そんな二人を見やりながら、ウェンディも呟いた。
「まあとにかく今日はもう休みなさい。明日からモンゴルに到着するまでの移動中で全部頭に叩き込ませるわよ」
「了解了解っと」
イタリア州でも現在、蓬莱島に赴く準備が整っていつでも行動出来る様になっている。
こちらではバルディーニと、イタリア州に少将待遇で所属する事となったマルカールが中心となって取り纏め、先行したクラリスや海棠の分まで池田が仕事を担当してヴァンやガイルがその手伝いを行う事で、特に混乱も無く全ての準備は整っている。
イタリア州はE.U.の中でもかなり早い段階で黒の騎士団に、いやゼロに接触して彼の作る新組織にも率先して協力している。大体の国は国力に応じた戦力を提供しているが、イタリア州は結構な数の人員を提供している。
勿論その中にはクラリスや池田といった、ブリタニアの誇る『ナイトオブラウンズ』にも対等に戦い得る人物もいれば、正直必要ない、いやいらない人間まで混じっているのが現状であるのだが。
「改めて確認しても、我が国は随分と奮発したものだな」
「ええ、既にスペイン・フランスは占領済み、ドイツ・イギリスは死に体のE.U.にしがみ付いて世界の流れに取り残されつつあり、その中でその流れに乗ったイタリア…上手く行けばヨーロッパにおいて大きな発言力を得られると、そう思っているのでしょうな」
「…もし本気でそう思っているのなら、皮算用もいい所だぞ」
「わかってますよ。ですが否定出来ますか? 上の連中はそんな事全く考えてないって」
「…」
執務室の一角ではバルディーニとマスカール、そして報告に来て折角だからと一緒に休憩する事になった池田が会話している。
「しかしまさか私達も『黒の騎士団』に入る事になるとはな。数か月前では全く考えられなかった展開だ」
「私もですよ将軍。ただ私の場合は多くの日本人から『何故今までこっちに来なかったのか』と言われそうなものですが。実際日本で活動していた頃も、合流の機会が全く無かった訳ではありませんでしたし」
「…まあ、回り道はしたかもしれないが。まだ良かったのかもしれんな。今まで君達に散々苦労を掛けさせてきた我々が言えた義理では無いと思うが…」
その後も軽い雑談や今後の展開についての予想など色々と行ったが、最後に触れる事となった話題、いや極力避けようとしていたが結局向き合わなければならない話題について話を始めた。
「…しかしいらない者まで率いなければならないのは業腹だがな」
バルディーニがそう呟いた。彼の目線の先にあるのは今回イタリア州から黒の騎士団に提供する事となる人員のリスト。その中でも有体に言えば「問題児」と言える者達が載ったリストである。
「モッタ、フロリアン、ヴェルディエ……いずれも親が政府の重役の子息達ですな。そして軍においてもある種の有名人…」
「ああ、親子共にいずれもイタリアの為に尽くしているとのアピールのつもりだろう…百歩譲って親の方は貢献していると認めても、子の方は脚を引っ張るだけの存在でしか無いが」
「…私に言わせればまだマシだと言いたいですよ。あの男と比べたら」
池田の棘のこもった発言に、バルディーニとマスカールは納得せざるを得なかった。先に述べた3名を始めとする連中はまだ「面倒くさい」「お前がやれ」と前線に出たがらず、上手くいけばコントロールは可能な連中とも言える。
だがこの男…行村ははっきり言って邪魔者以外の何者でもない。前々から恣意的な命令違反や勝手な行動からの暴走が多く、今回はある意味奴にとって待ちに待った「日本解放」の為の第一歩。我先にと勝手に行動する事が容易に想像付く。
正直生かし続ける事のメリットも大してない為早々に処分してしまおうと考えもしたが…それ以上にやらなければならない事が多すぎて放置してしまった結果今に至るまで未だ生き延びている。
本当にあの男をどうしたものか…本来ならこんな男に関わるよりももっと別の事をすべきなのに、そうバルディーニ達は考えていた。
さあ、いよいよこの行村鷹一の伝説が始まる。悪逆のブリタニアを日本から一掃し、日本解放の最大の功労者として歴史に名を刻む事になるこの自分の伝説が。
私の前ではゼロも、藤堂も、海棠も、池田も皆単なる引き立て役に過ぎない! この戦いが終わればまずゼロの正体を暴いて衆目の前に晒して処分してやる! 所詮はペテン師、叩けばいくらでも埃が出るに決まっている!
もし枢木スザクを捕らえる事が出来れば当然彼も処分だ! あそこまでブリタニアに洗脳されてしまってはもうどうにもならない。これ以上枢木ゲンブの名を貶める前に、引導を渡してくれる! それこそ最大の慈悲だ!
その他にも自分が処断しなければならない人間は多い、極めて困難な業績だと思うがそれを成し遂げてこと真の日本の勇士、真の英雄たるに相応しい!
どこまでも自分に都合の良い妄想ばかり浮かべる行村の足元には、何名もの女性が横たわっている。皆もう死んだ様に動かず行村が足で起こそうとしても何の反応もしない。一応胸が上下して呼吸している事から生きているのは確かだが。
(この女共はもう終わりか…まあいい、英雄になった暁にはより良いのが私に跪くだろう!)
まずはフランスの美女大佐からいただくとしよう。あれぞ正に絶世の美女、そして絶世の美女には世界の英雄たる私が相応しい…周りが聞けば余りにも身の程知らずな願望に失笑される事確実であろうが、彼だけは本気で有り得ると信じているのであった。
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