[38207] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode-13 蓬莱島にて』 |
- Ryu - 2018年06月24日 (日) 14時00分
中華の黄海に浮かぶ人工島「蓬莱島」。エリア11を堂々と脱出した黒の騎士団と多くの日本人達が仮の根拠地とし、今や対ブリタニアの最重要拠点となっている島である。
ブリタニアへの売国を目論んだ大宦官を排除した中華連邦中枢と手を組むことに成功したゼロは、その後もインドを始めとする元中華連邦構成国やブリタニアに国を制圧された亡命政権、一部のE.U.構成国と接触しその殆どの国と盟約締結にまで漕ぎつけている。
既にゼロの構想に賛成している国の一部は、新軍事組織と馴染ませる為かあるいはゼロの関心を買うためだけか、先んじて自国の軍人やKMFを蓬莱島に送り込んでいる。
そしてその中に、現在イタリア州の所属軍人扱いになっているクラリスとフィリップ、海棠と橋本がいた。
E.U.の誇る精鋭部隊という名目の『ロンズウォー特別機甲連隊』の総隊長と事実上の幹部格としてゼロに呼ばれたクラリスと海棠は、来るブリタニアとの対決で立ちふさがるであろう四皇族軍と実際に対峙した事から彼等についての情報や諸々の会談を行い、それを終えて外で待機していたフィリップと橋本を連れひとまず休息を取っていた。
「仮の住まいとはいえ、やっぱりこうして同じ日本人達が生活しているのを見るってのはいいもんだ」
ベンチに腰掛けながら、海棠はしみじみと呟いた。片手に持っているカップにはすぐ近くの屋台で造っていた味噌汁が入っている。
「ええ、皆活気に溢れた顔をしているわね…今更ながらに実感するわ。私達軍人は政治屋共の利権を護る事より、ああいった人々を護る為に存在するべきなんだと…」
クラリスも海棠から渡された味噌汁を啜りながら、どこか遠い目で昔を思い出すかの様に語った。現在ベンチの周りからは視線が集中…日本人以外がいるのも珍しいがそれ以上にとんでもない美人がいる事から注目を集めているが、彼女は気にした様子も無い。
「しかし結局『黒の騎士団』に入る事になるとはね。まあブリタニア側からすればテロ組織でしかなかったが、今回は列記とした軍隊扱いだからテロリスト呼ばわりされる筋合いは無くなるからそこだけは良いが…」
「何か不満でもあるのか?」
どことなく含むような物言いをした海棠に対しフィリップが問いかけ、海棠もすぐにそれに答えた。
「ゼロだよ。今更奴さんの力量云々にケチ付ける気はサラサラ無いが、やっぱりどうにも信用出来ないというか何と言うか…」
「随分と歯切れ悪い言葉じゃない?」
「ああ、俺でもそう思うよ。仮面付けているからとか、行村のアホじゃあないが単に奴さんが気にいらないからって訳じゃないんだがな…」
「まあ色々と前々から不審な点は多いとは思うけどな…」
このまま行くと下手すればゼロの批判大会になりかねなかったので、3人はひとまずこの話については辞める事にした。ブリタニアとの対決を目前にして無暗に周囲の不安を煽る様な言動はもっての他だし、何せこの近くには日本人達が多い。彼等からすれば自分達の救世主を悪し様に言われては間違いなくいい気はしないだろう。
「…橋本? さっきからずっと下向いているが大丈夫か?」
そこで先程から会話にも加わらず、何やら考え込んでいる様子の橋本を見てフィリップが声を掛けた。
「…この戦い、絶対勝ちたい…もう日本がすぐ目の前まで来ているんだ…俺達は日本に帰るんだ…帰りたくても帰れなかった土田さん達の為にも、絶対に…!」
普段はどちらかと言うと大人しめな橋本に似合わず、どこか鬼気迫る様子にフィリップは掛ける声を失っが、海棠はそんな彼の頭を軽くポンと叩いた。
「あんまり気負いすぎるなよ? まずは自分に出来る事を確実にこなすんだ。そうすりゃきっと目的も果たせる…間違っても死に急ぐ事だけはしてくれるなよ」
前半の軽い調子から一転、最後はどこか凄みのある声で海棠は橋本に語り、橋本も少し落ち着いた様子を見せた。
「あの…すみませんフィリップさん。何か俺変な事言ってませんでした?」
「…いや、至極当然の事を言っていただけさ。そりゃずっと国を取り戻す為に戦って来たんだ。その目的がすぐそこまで来ている…そりゃ緊張もするさ」
「ええ、だから絶対に『生きて』日本に戻る事を考えなさい…セーラさんから聞いた話だけど、土田中尉もあなたにそう言っていたって話じゃない?」
「…そうですね。気を付けます! 良かったらこの後シュミレーターの相手してくれませんか!?」
「ええ、いいわよ」
そこでようやく本来の調子を戻した橋本に、海棠も安心した様子を見せた。そこで平らげた味噌汁のおかわりを頼むべく、再び屋台に向けて足を運ぼうとした時、ふと見慣れた姿が目に入った。
(あれは…ヴァントレーンか? 奴さんももうこっちに来ていたのか?)
「…ねえ中佐、今私達いったいどこ向かってんの?」
「着いてからのお楽しみ、って奴だな」
「着いた先がデカいベッドのあるそれっぽい部屋だったりしたら、全力で抵抗させてもらうけど」
「安心しろ、それは絶対無い」
「そうはっきり言われるとこの乙女の繊細なハートに傷が付くんだけど…」
ポーランド州に待機中だったゼラートは、クラリス達と同じタイミングでこの蓬莱島を訪れていた。
クラリスがフィリップ、海棠が橋本を連れている様に、ゼラートはアレクシアを連れている。彼女は「胸か、やっぱり胸なのか!?」とブツクサ呟いているが、ゼラートは完全にスルーを決め込んでいる。
現地はウェンディとデルクに一任しており、早ければ近日中にもKMFを引き連れてこの地で合流する事になるだろう。
自分もゼロと対面し四皇族軍についての情報や今後の展開予想等色々と聞かれそれに答えていったが、それからの再度の質問等はあまりなくスムーズに事は進んだ。どうやら自分の直前にクラリス達と同じ様な事を行い、自分の方はその整合性を取る為の確認といった要素が強い、と言った所か。
「それにしても、随分切り込んだね中佐。ああもはっきり言うなんて」
会談も終わりに近付いた頃、最後の質問としてゼラートがゼロに問いかけたのだ。『お前はブリタニア人か?』と。
『…だとしたらどうする? 今更ブリタニア人には従えないとでも言うか? お前も元ブリタニア人だというのに?』
『別に、聞いてみただけだ。俺としてはお前の正体が俺と同じブリタニア人…それも貴族、いや皇族だとしても一切気にならない、いやどうでもいいがな』
最後の「皇族」というワードにだけゼロが反応した。ほんの一瞬だけであったが、その一瞬をゼラートは見逃さなかった。
「やっぱり、ゼロの正体って…」
「さあ、結局判断材料が少なすぎる分、想像に任せるしか無いのが現状だろうよ…ブラックリベリオンの失敗で捕らえられ処刑されたと聞いたが、結局正体に関しては明かされる事は無かった。明かす必要性が無いとでも判断されたか、明かせなかったか…」
「…まあゼロの正体も気になるけど、どことなく空気悪いよね、騎士団本部」
「…どうも最近ゼロが秘密裏に部隊を動かしたらしい。一体どこで、何をやったのかは知らんが。それにかの『オレンジ』がこちらに合流したとの噂だ」
「え、ホント? 列記としたブリタニアの貴族なのに? やっぱ枢木スザクを譲り渡した事から、かなり早くからゼロと通じていたって事?」
「…だとしたら何故今頃になって合流したというのもわからん。兎にも角にもゼロ周辺には謎や疑念が多すぎる…あれで心から信用しろ、というのが無理な話だろうよ」
「…」
双方共に意見を交わしつつ歩いて行ったが、ようやくゼラートが足を止めた。
「到着だ」
「ここって…KMF保管倉庫?」
黒の騎士団固有の量産機「暁」や若干色が濃くなった、ウェンディが今乗っている「暁直参仕様」、奥の方には藤堂鏡志朗専用機「斬月」等多くのKMFが鎮座し、現在多くの整備士が忙しそうに動いている。
この場には元から騎士団が保有するKMFがあるが、ここから少し離れた場所にある別のKMF保管倉庫にはE.U.系のそれが用意されている。ここでは日本人の整備士がE.U.系の整備士にあれこれレクチャーしているが、別の場所では逆にE.U.系の整備士が日本人の整備士にそうしている事だろう。
「良く来たねぇ、待ってたよぉ」
警備の人間と取次を行って倉庫内に入ると、そこには白衣を着たインド系の女性が立っていた…ラクシャータ・チャウラー、黒の騎士団内でKMFの開発に携わっている人物だ。
「わざわざのお出迎え、痛み入る」
「いいさ、こっちとしても『あの子』の引き取り手が現れて、少し安堵してたんだ。それにいったいどんな奴が扱うのか見てみたいって気持ちもあるのさ」
それから少し会話を交わして、ラクシャータは踵を返してある場所に向かって行った。自分に付いて来いという行動に、ゼラート達もその後を付いて行った。
「あ~、中佐? ひょっとしてここに来たのって…」
「決まっている。KMFだ」
騎士団の本部の一室では、扇が多くの書類と格闘しながら仕事をこなしていった。彼が今手に取っている書類は主に「黒の騎士団」に所属する事となる新しい軍人のリスト、搬入予定のKMFの配置箇所についての確認、星刻や藤堂から渡された諸々の確認書類等々…相当な量に及ぶ。
それで現在ラルフを始めとする数名が扇の手伝いをして彼の負担を和らげようと奮闘しているのだが、最近どうも扇の様子がおかしい。
元気が無いと言うか…どこか上の空な時が多い様に感じると言うか…別に仕事にまで影響を及ぼしている訳では無い分、久々の激務で疲れているだけだろうと多くの人間は見て気にしていない。
それでも少し心配に思ったラルフは、夕食の時に久々に食堂で食事を摂っている扇を見かけて話しかけた。
「あ、扇さん、隣いいですか?」
「…ああ、ラルフか。勿論だ、一緒に食べよう」
扇の向かい側に手に取ったトレイを置き、そのまま座って夕食を食べ始めた。
「おっ、そっちは焼き魚定食か、美味しそうだな」
「僕に言わせれば扇さんが食べているうどんも美味しそうですよ。ただ何か麺が平べったい様な…?」
「ああ、これはいわゆる名古屋方面のうどんと言える『きしめん』だ。まあ地域によって色んな違いがあるんだけどな」
「この前屋台で関東風と関西風のうどんを食べ比べてみたんですけど、たしかに双方共に違いがあって面白いですね」
「そうか…大分こっちでの生活にも慣れたか? 最初中々馴染めなかったって相談を受けたんだが…」
「ええ、今では結構打ち解ける事が出来たと思いますよ。この前もいくつか野菜を分けて貰えましたし」
「そうか、良かった…」
やはり生粋のブリタニア人という事で、騎士団の面々からは認められていても一般の日本人からはどこか遠巻きにされていたラルフだったが、時間と共にその温和な人柄から徐々に受け入れられてきた。その言葉に扇は本当に安堵した様子で呟いた。
「…あの、扇さん、最近どこか元気が無さそうですけど、大丈夫ですか?」
「え、そう見えるのか? いやぁ参ったな、藤堂さんや黎司令よりはまだ時間取れるというのに、全然だなぁ俺」
「…あまり無理しないで下さいよ。もし何か困った事があったら言って下さい。藤堂さんと違って僕じゃあ頼りにならないかもしれませんが…」
「…」
その言葉に何か言いたげな様子を見せた扇だったが、誰かが近づくのに気付いてかすぐに残ったきしめんを食べ食べ始めた。誰が近づいたのか…その答えはすぐに出た。
「おやおや、私も相席しても宜しいですかな?」
「…ディートハルト…さん」
2人が答えるよりも先に扇の右隣に座ったのは、ラルフにとってどうしても好きになれない人間筆頭のディートハルトだ。常にゼロといい勝負の胡散臭さを漂わせる彼だが、最近どうもそれに磨きが掛かってきた様な気がする。
そもそも今ここに来たのも、どこか図った様なタイミングな気も…いや流石に勘繰りすぎか。
「お2人の会話が少し聞こえましてね、食事に関する話ですが私も加わっていいですかね? ブリタニア時代にいくつか食に関する番組制作にも携わった事があって、フフッ、少しグルメなんですよ」
「…そうですか。なら是非とも聞いてみたいですよ」
結局その後はディートハルトによる食番組についての話で終わり、結局扇の元気の無さの原因については何も聞けなかったラルフであった。

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