[38197] コードギアス 戦場のライル B2 SIDE OF WARFARE『侍皇子の憩い』 |
- 健 - 2018年06月14日 (木) 19時07分
シルヴィオは久しぶりの休暇で本国の片田舎を訪れていた。ここは帝都からも遠く、建っている家も一軒家ばかり。その中の1つ、大きめの家をシルヴィオは訪れていた。
呼び鈴を鳴らすと、年配の女性が出迎えた。イレヴンである。
「いらっしゃい、シルヴィオ君。」
「ええ、こちらへ来るのは本当に久しぶりです。」
「あら、残念。せっかくシルを一番に出迎えてあげようと思ったのに…母さんに取られちゃった。」
奥から木宮ユウキもやってくる。今回は私服だが、女性ものの化粧品はやはり使っている。
「婚前旅行にこんなしけたところに来るなんて、変わってるわね。」
婚前旅行と言われ、横にいるミルカが固まった。
「あら、ユウキから長続きしてないシルヴィオ君にしては珍しく長く付き合っている人がいるって聞いたけど…それって貴女だったの?」
ミルカは木宮ユウキの母の応対に「は、はい…」とだけ答える。彼女が木宮ユウキの母……屋敷に仕えるようになって少し顔を合わせる程度だったが、こんな大らかな女性だったのか。
「シルヴィオ君も罪ね……美人がたくさんいるっていうのに、長続きしないと思ったら、随分と高レベルな美人を選んだのね。」
「おばさん…その言い方はやめてください。誤解を招きます。」
「おばさん」と軽々しく呼ぶシルヴィオにミルカは呆然とした。離宮では皇族と侍従なのに、オフになるとこれほど砕けるとは。
「母さん、ユウキも……いつまでもお客様を待たせたら駄目よ。」
奥から30前後のイレヴンの女性がやって来た。おそらく、木宮ユウキの姉だろう。
「シルヴィオ君、相変わらず良い男ね。」
「貴女だって相変わらずの美人だ……そろそろ結婚をされてはいかがです?部下になかなか良いのがいますよ?」
「後ろ指を指されることを気にしないのなら、ね。」
「いっそ、シルが姉さん貰っちゃえば良いのに。」
「そんなことをされて、おばさんまで巻き込まれたらどうする?」
先程から……シルヴィオは木宮家の者と………そう、近所の家に遊びに来た子供のようなやり取りをしている。
その日の夕食は日本料理がメインだった。自家製の味噌とバターでサーモンと野菜を焼いたホッカイドウの料理に、一般的なおひたしなど……正に和食づくしだ。
箸の扱いに四苦八苦するミルカを他所にシルヴィオは手慣れた手つきで食事を取る。
「シルヴィオ様……日本料理に興味がなかったのでは?」
「確かに私の興味は自然と武術だ……しかし、日本料理など食えるか、等とバカなことはいわない。そもそもミルカ………中華連邦は箸を使う国が多い。向こうに行ったらどうするつもりだ?」
きついが、正論である。しかも…考えてみればそんなメイドがいるとなればシルヴィオの印象にも関わる。一種の危機感を覚えたミルカは箸を持つ。
「こんな細い棒二本で…良く色々切ったり、掴めますね。」
「箸は中国や日本が特に古い歴史を持つ………数百年前まで手づかみが主だった我々とは大違いだ。」
「あら、文化へのリスペクトなの?」
ユウキの問いにシルヴィオがむっとした。
「おい……俺が日本剣術や武術を好んでいるのを忘れたのか?それもリスペクトだろうが。」
「そうだったわね……ああ、それと。今夜の貴方達の部屋、一緒だから…ごゆっくりどうぞ。」
流石に、今回は遠慮して只の同衾だ。
「シルヴィオ様……木宮さんのお姉様とお母様が本当にお好きなんですね。」
「……ああ、特に母の方は私にとってはもう一人の母と言っても良いだろう。」
シルヴィオは思い出す……木宮ユウキに初めて会った時のことを。
あの頃、シルヴィオは少し寂しかった。兄弟達とは遊んだりして色々と楽しかった。だが……それでも、何か足りなかった。
好きな登山をしたいと思っていた時……日本の富士山に興味を持った。母や家臣達に頼み込んでお忍びで日本へ行き、富士山へ行った。
その光景は正に綺麗だった。日本一高いと言われるだけでなく、山頂部分に降り積もった雪が良い。
そんな光景に見とれ……警護の者達とはぐれて困っていた時に……
『どうしたの?迷子?』
日本語で声をかけられた。振り返ると、三つか四つ年上と思われる少年がいた。顔がとても女性的にも見えたが、れっきとした男性だった。
『やっぱり、言葉が通じない?』
『大丈夫です。日本語も話せます。』
それが木宮ユウキだった。それから彼は親身に相談に乗って、家族と旅行に来ていたことを告げる。
『貴方はどうなの?外国……E.U.?それともブリタニア?』
『ブリタニアから……ちょっと、富士山に興味があって。』
ユウキの家族も合流して、案内所で待っていると警護の者達がやって来た。
『あの…よろしければ一緒に食事でも。お礼をさせてください。』
『大袈裟ですよ…当たり前のことをしただけなんですから。』
だが、シルヴィオはどうしても譲らなかった。彼らともっと色々と話したかった。それが本音だった。
「意外な我が侭ですね。」
「ああ……」
その後、彼らが帰るまでの二日間をシルヴィオは楽しんでいた。兄弟達と遊んでいる時とはまた違って充実していた。わざわざ宿泊先まで変えたほどだ。そして、シルヴィオは自分の素性を明かした。
『変な皇子様ね。』
『貴方だって女性みたいな口調でしょう。』
『それはウチの親に言って。後…変に敬語使わなくて良いのよ?友達なんだから。』
友達……ああ、そうか。友達とはこういう風に他愛もないことを話したり、笑ったりするものなのか。
「正に最初の友達だったんですね。」
「ああ……それで、丁度彼の母が仕事を探していたんだ。」
それで、シルヴィオは自分でもとんでもないことを言い出した。彼らにブリタニアへの移住を勧めたのだ。
『最初は小間使いになるけど、どうかな?僕がユウキともっと一緒にいたいだけなんだけど。』
『うーん…あたしは良いんだけどね。』
それから……シルヴィオは自分の及ぶ範囲…といってもたかが知れるが、木宮家に住居を用意して皇族の従者としての作法も教えた。
「ユウキ流に言えば、これが私達のなれそめ話だ。」
全く、我ながらとんでもない比喩表現だ。間違いなく、ユウキの趣味が伝染しただろう。
「さあ、もう寝るぞ。聞き耳を立てられていたら溜まったものではない。」
ユウキは実はドアに耳を当てて聞いていた。ばれていた……だが、同時に少し嬉しかった。シルヴィオが今でも自分を友人と想ってくれたのが。
「全く、本当に変な皇子様よ。」
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