[38174] コードギアス 戦場のライルB2 SIDE OF WARFARE『皇帝騎士達』 |
- 健 - 2018年05月18日 (金) 22時07分
レイシェフ率いる『セントガーデンズ』は基本は本国待機だ。だが、だからといってだらだら遊んでいるわけではない。訓練は当然のごとく行っている。
クレス・ローウィングもその最中で、基本の走り込みを行っていた。だが……
「イレヴン混じりの分際で、皇帝陛下のお抱え騎士団とは…なんと身の程知らずな。」
「ヴァリエール郷のお力は認めるが、酔狂が過ぎる。どこの馬の骨とも知らぬ小娘の後見人を務め、挙げ句混ざり物など。」
「まあ…偶然もここまでよ。後は我々のような由緒ある者達の世界だ。」
クレスはイレヴンのハーフだ……産まれた頃からブリタニアに住んでおり、父と母は健在だった。だが…日本占領の少し前に母は病■。日本占領後には周囲の態度が一変し、父はそのストレスで病■してしまった。
あっという間に全てを失い、浮浪児となったクレスは生活のために軍隊へ入った。就学助成プログラムのおかげで学力もついていたが、ハーフという理由で冷遇され続けた。そんな彼を拾ったのがレイシェフだ。
『……自分には何もない。全て失って、求める物も見つからない。そんな眼をしている。』
あの時……軍学校を査察に来たレイシェフ・ラウ・ヴァリエール。かつて『ラウンズ』の一席に名を連ね、今は称号を返上しながらも皇帝お抱えの騎士団を束ねている名門の当主。貴族出身の誰もが彼に取り入ろうとアプローチをしていた。だが…クレスはそんな物に興味はなかった。
そんな彼に、これまで適当にあしらっていたレイシェフは声をかけた。
『……私を疑っているね?家柄だけの男では…と。試してみるか?』
KMFでの模擬戦だった。互いにグラスゴー……結果はクレスの惨敗だった。しかし……
『良い腕だ。しかし、妙だな?成績表では君はかなり下の方だったはず……教官達に問いたださねばならないな。』
それから……教官達がクレスの出自を理由に成績を改竄していたことが公にされ、教官達は全員処分された。シュナイゼルや他の『ラウンズ』の耳にも入ってしまい、改めて成績を洗い直された結果…クレスは主席に上がった。
それから、クレスは軍学校を首席で卒業して瞬く間に頭角を現した。卓越した頭脳と身体能力……かつて庶民でありながら『ラウンズ』に抜擢された『閃光のマリアンヌ』以来の逸材とまで称され、彼を見出したレイシェフによって、『セントガーデンズ』の隊員になった。
それからも貴族出身者達のやっかみは絶えないが、クレスはそれらを全て実力で黙らせた。大嫌いだ……実力がないくせに家の力でその気になっている愚か者が…ゼロを言い訳にして自信を正当化する『黒の騎士団』など。日本が占領された途端に姿を消した父など……みんな■ねば良い。
そんな物がのさばる世界なら、いっそ壊れてしまえば良い。
アリアはシミュレーターで他のエリート騎士団達の相手をしていた。結果は全てアリアの全勝。
「バカな…私は公爵家の出身。努力だってしてきたのだぞ?」
「………まだ努力が足りないだけじゃないんですか?」
アリアは無機質に返し、踵を返す。
アリアには昔の記憶がない……気がついた時には一人だった。父と母は既に亡く、それを保護してくれたのがレイシェフだ。
あのままのたれ■にしていたかもしれない自分を拾い、就学助成プログラムを受けられるように計らったレイシェフには感謝している。その後、軍に志願して運良く彼に採用され、今は『セントガーデンズ』のパイロットになっている。
自分を見出してくれたレイシェフを、今では父親同然に慕っている。否、初めて会った時から気にかかっていた。初めて会うような気がしない………何故だろう?記憶にかすかにある父親とはまるで違うのに。
ドウェイン・ラン・デルヴィーニュは墓参りに来ていた。エルザ・F・ヴァリエール………亡き、レイシェフの妻だ。立場の上では彼女は元同僚で、今は仕える相手の妻だ。だが……結婚してからは二人と他愛のない会話をするような仲でもあり、上下関係はあまりなかった。
「エルザ……お前の夫は今でも…まあ、元気だ。良い部下達に恵まれてはいる。」
だが……デルヴィーニュは知っている。皇帝と、レイシェフが得た物も………それで何をしようとしているのかも。
本当に、それで良いのだろうか?それが未だデルヴィーニュの心を曇らせている。レイシェフの望みも知っている……可能ならば適えたい。それでも……だからといって…
「私は…どうすればいいのだろう?」
ヴィオラ・アールバリはヴァリエール家本宅にあるレイシェフの屋敷で食事を取っていた。双方の両親による謀略だ。
「あの…レイシェフ様。」
「なんだ?」
なかなか切り出せない。分かっている…自分でも。彼の亡き妻に遠慮しているのだ。
「…クレスとアリアは……どうですか?」
「…ああ、二人共成長が早い。このままだと、隊長の座を早く明け渡して隠居することになるかもな。」
「そんな…隠居するにはまだお若すぎます。」
だが、隠居したら彼は答えてくれるかもしれない。そんなささやかな願望がヴィオラの中にあった。
「隠居してどうなる?下劣な貴族みたいに若い娘を囲えとでも言うのか?この私に…」
「………お、奥様の事は存じております。ですが、貴方はお若いのです!新しい幸せを…」
「娘さえ守れなかった私が?よしてくれ。」
そう、私に幸せになる資格などない。妻を、娘さえ守れなかった私が………
絶望だった。いくら父と母でも慰めの言葉くらいかけてくれるか、かけてくれなくてもしばらくはそっとしてくれるかと思ったが……彼女の葬儀さえ終わる前に新しい結婚相手だ。何人も紹介され、誰も丁重に断った。
しかし……彼女だけは違った。少なくとも、今までの者達と違うから。
|
|