[38134] コードギアス 戦場のライル B2 SIDE OF WARFARE『裏切り者を見るはみ出し者』 |
- 健 - 2018年04月22日 (日) 21時01分
『ロンスヴォー特別機甲連隊』は改めて敵の情報を洗い直していた。特に、クラリスや海棠、ゼラートは自身が直接戦った皇族軍には集中していた。コーネリアとシュナイゼル、『ナイトオブラウンズ』、『ユーロブリタニア』の『四大騎士団』などは既にうんざりするほど耳に入っている。だからこそ、彼らや『英雄皇女』以外で注意すべき相手を見ていたのだ。
「俺としちゃやっぱ、くせ者はこの八番目だね。政治の建前は『ナンバーズの人権向上をもっての治安の安泰』。理想的っちゃ理想的だ……実際に降伏したE.U.加盟国にも支持者いるそうじゃないの?」
海棠の問いにクラリスは頷く。
「ええ……でも日本人好みなんて変な噂も着いているから、この前みたいな手を使えばなんて思ってるバカも多い。」
「それは置いておくとしても……奴の能力は?」
バルディーニの問いに直接交戦した池田とクラリスは唸る。
「………奴自身は間違いなく強い。『ラウンズ』としても通用するでしょう。」
「同感ね……彼の部下達もアホ共はイレヴンだから弱いとか、所詮はナンバーズ上がりと甘く見てるけど。甘いのはあいつらよ。」
「俺も……畑方の坊ちゃんとやり合ったが、あら色々とやばいね。」
海棠は通信越しの会話を思い出す。会話だけ聞いても、彼がどれだけ凄惨な人生だったのかが分かる。
ったく、あのバカでアホで俗物な夫婦から生まれたのがオタマジャクシで良かったぜ。
人間として大きく壊れているのは断言できる。実力以上に海棠はそこが怖かった。あれはあの特区日本のような虐殺や世界を壊すことにだって快楽を見出しかねないクチだ。
「……ウェンディが交戦したあのローレンスという機体のパイロット、この女だ。」
モニターにはイレヴンの少女が映る。顔の右半分を覆ったなかなかの美少女だ。
「未確認だが、酷い火傷を顔に負っている。動機も収入だし、当時は畑方と同等の問題児だったそうだ。」
「収入が良いから軍人、ね。世俗的だけど分かり易くて良いじゃない。『楽な仕事』程度にしか認識できないボンクラ共よりずっと好きになれる。」
クラリスは好感を示し、ゼラートの部下達も頷く。本人の人間性は分からないが、情報面だけで言えば彼らは充分好感が持てる。ライルもおそらく相当酔狂な男だ。
「ありゃ、多分こういう連中が好きなタイプなのかもね。」
「自分に対して反抗的な態度をむき出しにしているのがいるとすっきりする、か。難儀だな………それで、一番重要な奴は?」
デルクが質問すると、スキンヘッドの中年男性とまだ二十歳前であろう少女の顔が映る。男はかなり迫力があり、少女は中性的な美少女だ。
海棠がその顔を見て口笛を吹いた。
「こりゃまた可愛い子じゃないの。噂の『混ざり物』とか『雑種』って言われている子か?」
マスカールが「ああ…」と答える。レイ・コウガ・スレイダー……ブリタニアの名門スレイダー家の令嬢だが、実態はイレヴンのハーフ。占領後にスレイダー家に引き取られ、1年前から父の性である『コウガ』も名乗るようになったという。
「ウチのセーラと似たり寄ったり、か。実力も凄いんだってね?」
クラリスに問うと、肯定が帰った。
「モニターでも見たけど、『グリンダ騎士団』の初代筆頭騎士や『帝国の先槍』と良い勝負だわ。」
あのコーネリアの騎士に匹敵する実力……場数を踏んでいる者達は息を呑む。そして…もう一人………経歴だけで言えば、間違いなくライルの軍では異色中の異色だ。
「長野五竜……旧日本軍陸軍大尉、占領後収監されるも模範囚として出所、名誉ブリタニア人となって1年前にライルの率いる『特選名誉騎士団』の隊長就任、か。」
模範囚だったとはいえ、よくも旧日本軍人を部下にしたものだ。
「あの特殊な成り立ちの部隊だ。指揮官クラスを欲する以上はなりふり構わずにいられなかったのだろう。」
バルディーニの分析にゼラートは頷く。
「分からんでもない。名誉ブリタニア人といっても、指揮官としての訓練なんざ殆ど受けてはいまい。ならば、国は違えどもと軍人を選ぶのは無理もない。俺でもそうするだろう。」
「で、名誉になった動機は?」
アサドの問いにマスカールの秘書官が捜査する。
「彼の妻子は占領後も生存、動機はおそらく妻子の生活でしょう。」
「良いね、それ……うん。世俗的でありふれてるけど尊い。」
海棠は感嘆する。
「随分と気に入っているようですね?」
池田の問いに海棠は煙草をつけて、「そりゃそうよ。」と答える。
「魂とか誇りとか、んなもので妻子を養えるか?赤ん坊のミルクとおしめ買えないだろう。」
以前も言ったことだが、全員がそれに納得する。そして……
「こいつは相当葛藤が会ったかも知れない。それでも、家族を選んだんだ。国よりも家族………国を選んだ俺にとやかく言う筋合いは無いが、これを否定する野郎は…俺はぶった切ってやりたいね。」
浅海はそれを聞いてテジマでのライルの言葉が再び蘇る。名誉になった人の事情……『自分一人で生きてきたから、収入が良い軍人に…』、『生き残った家族のために国よりそれを選んだ』、そして……あの畑方秀作の復讐。
「私、本当に自分勝手だったんですね。」
デルクはそれを見つめ、頭を軽く叩く。
「自分勝手なのを自覚しただけでも、十分な成長さ。俺に言わせれば、それを頭ごなしに否定する奴らは正規軍と同類だ。そんなにそれが大事なら自分達だけで死んでいろ。」
それを聞くと、アサドが「賛成一票。」、「全く同意見」とイロナが続く。
それから、『侍皇子』や『双剣皇女』の軍、もののついで程度に『暴君』の軍も洗い直した。その結果、『暴君』は別の意味で恐ろしいが基本論外だ。
結論だけ言えば、『大グリンダ騎士団』を擁する『英雄皇女』以外で脅威となる軍はやはり『狂戦士』の『裏切り騎士団』と親衛隊だ。単純な質で言えば、彼らの軍はコーネリアの軍と同等以上だ。
「そういえば、スペインのダンサーが本国に連れて行かれた後、奴に保護されたそうだ。」
ゼラートが紅茶を飲みながら一年ほど前の雑誌を出して、あるページをめくる。そこには銀髪の美しい姉妹の特集があった。アサドはそれを見て『おお。』と感嘆する。
「偉い美人だな。これが本国って…やっぱ前の俺らみたいな展開か?」
アサドの問いにイロナが「でしょ。」と断じる。
「まさか…あの皇子様の軍に、とか?」
「それは分からない。だが……本国に置いておくよりは安全だろうな。何しろ、保護された事件には奴の部下達も巻き込まれたのだ。首謀者は母親だ。」
バルディーニのもたらした情報に海棠は「おい…」と呆れる。
「何考えてんの、その皇妃様?」
「どうせウチのバカ親父と同類よ、その女。息子の軍隊にナンバーズや庶民がいるのが気に入らなくて、自分の看板に傷がつくとでも思っているのよ。息子に嫌われて当たり前よ。」
クラリスが断じているとおり、息子のライルの手によってその皇妃は拘束されたという。
「運命かしら?お互い親が大嫌いで、殺したり牢屋に入れたり。」
自分でも驚いた……運命なんて恋する少女みたいな言葉を持ち出すとは。
「是が非でももう一度生身で会いたいわね。」
「政治的に見ても、お前が万が一フランスに帰ることになったカードとしてはOKだな。親殺しも美化するだろうよ。」
あの上層部ならやりかねない。それを考えると、また腹が立ってきた。
「久しぶりに飲むわ。ちょっと、付き合って。」
「酔って俺に襲われても知らないぞ?」
「そんな気ないくせに。」
「ばれたか。」
行村は不愉快だった。洗脳皇子め!畑方将軍の孫だけでなく、我が同志である日本軍人を唆すとは!
「この日本解放の勇士たる行村がなんとしても奴を討たねば!」
そして、彼らを解放せねばならない!
「お前達はその勇士の寵愛を受けている…ありがたく思え。」
ベッドの下で倒れる日本人の少女を一人抱き起こし、もう一度押し倒す。考えてみれば、奴の女になった日本人達も上玉揃いだ。
この娘達もだが、あの侍女や騎士、秘書官とやらもこの私にこそ相応しい。救われた暁にはこの私に心酔するに決まっている。
端から見れば、訳の分からない妄想を広げながら行村はもう一度目の前の少女を抱き、少女もしがみつきながら鳴いた。
「あの子達……ライルとどんな関係なのかしら?」
浅海は資料の中にあったライルの侍女や騎士がライルとどんな関係なのか、それが気になって仕方がなかった。もし、彼女達がライルと男女の仲だったら………無理もない。自分は向こうで言うテロリスト、あちらは部下。
「違う…次に会うときは全力で戦う。それが私に出来る恩返しなんだから!」
それしか出来ない……だから、全力を出して戦う。あのテジマ鉱山の時のように。
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