[38124] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Past Episode−5 前哨戦』 |
- Ryu - 2018年04月15日 (日) 14時49分
ベラルーシ方面に展開中のロメロ・バルクライ将軍率いるE.U.第六軍集団は、迫りくるブリタニア軍を相手に強固な抵抗を続けていた。
既に志を共にしたスマイラス将軍がまさかの敗死を喫し、彼の死でE.U.各国の中にはブリタニアとの和平を望む声が強まり、その流れで強硬派である彼自身本国から幾度も帰還命令が下っているのだが、それを無視してこの場に留まっている。
戻った所で様々な罪状を作られ失脚は確定、そして本国の腰抜け共の贄にされて終わるぐらいなら、ここで活路を見出すべきだと。
かの帝国宰相シュナイゼルがラウンズを率いてこの戦線に出向くとの事だが、これを撃退してあわよくばラウンズの一人でも打ち取れば、まだ勝ちの目が無い訳では無いとの証明となり、我々の流れに持っていける。
この戦場にいる我が将兵達は、皆E.U.の未来を憂い軍人として戦って来た。少なくとも後方で堕落しきった連中達とは違う、方々で報告されている様な、唾棄すべき戦いぶりは我々は絶対にしない!
無論無策で挑む気は無いが、それでもこちらが圧倒的不利である事は百も承知だ。だが何よりもこのままでは終われない!E.U.の軍人として、最後の一人になるまで戦い抜きブリタニアに自分達の意地を見せつけてくれる!
「…なんて事考えてると思うよ。バルクライ将軍は」
対ブリタニア軍への防衛線の一角、現地にあった小さな牧場(持ち主は既に逃げている)を仮の駐屯地とし、E.U.第六軍集団の援軍として派遣されたゼラートは、最近自分の隊に配属された元E.U.スウェーデン軍少尉、アレクシア・エストランデルと言葉を交わしていた。
現在充分な数のKMFを用意出来ず、戦力的に厳しい事から今回ウェンディには一部隊の隊長としての役割に専念して貰い、彼女に代わる補佐役として元正規軍の情報部所属という異色の経歴を持つアレクシアを起用したのである。
また、今回自分達を指揮するバルクライ将軍と同じスウェーデン出身という事で彼がどういった人間なのか、今まで彼と共に戦う事も無かった自分達とは異なり彼女はある程度知っている事もあって、その為人を聞いている最中である。
「やれやれ、玉砕上等は結構だが、それを全員に押し付ける気満々とはな」
「まあ外人部隊に対してはあの人、碌に信用していないから下手に動かない方が良いと思うよ。噂だと完全に捨て駒前提で外人部隊を利用して勝利を収めた事も何回もあるって話だし」
「まあ確かに俺達にE.U.への忠誠心を求められても困るがな。そして今俺達に求められている役割がまさにその通りだと思うが」
今回外人部隊の彼等に求められているのは、第六軍集団の作戦実施の為の時間稼ぎと、時が来ればブリタニア軍の突破を敢えて許して目標地点まで引きずり込む事、その二点に限る。
当然それまで前線は彼らメインで支える必要があるし、引きずり込むと言っても簡単な話では無い。しくじればそのまま敵の勢いに呑まれて潰されるだけだ。
勿論前線が崩壊して前提が破綻しない様に、危機的状況に陥りそうな箇所には適宜増援を送ったりして戦線の維持に努めるなど、今まで杜撰そのものな正規軍の連中に比べれば、バルクライ将軍が今までの連中とは一味違う事はよくわかる。
そして彼が率いる第六軍集団の面々も、E.U.指折りの実戦派集団の評はあながち誇張でも無く堅実そのものな動きを見せている。というか今まで最低限のラインすら超えられなかった連中が多かった分、より一層マトモに見えてしまう。
実際外人部隊の中にも、この調子で行けばシュナイゼル相手でも勝つとまでは行かずとも、いい勝負出来るのでは無いか?と希望的推測を口にする奴も出始めている。
だが一番の問題は彼と共に到来するナイトオブラウンズ…中でも目の前の彼女が得た情報によれば、あの「7番目」もいるとの事だ。
「さて、お前から見てナイトオブセブン…枢木スザクはどう見る?」
「戦場での危険性はラウンズだかとか以前に特級。ただ戦場で暴れるだけの存在ならいくらでも付け入る隙はありそうだけどね…」
「過去の働きっぷりを見ても少なくともそういうのとは程遠そうだがな」
「しかも噂だと10人以上の本国の騎士候補生に一斉に襲い掛かられるも、瞬殺したとか何とか…どういう状況だったのか知らないけど」
「奴の個人的な強さに関する噂話は結構流れているからな。もっともこちらでは冗談か何かの様に扱われているが」
「億一にも彼があたしの元同僚達が『運だけ』『皇族に取り入るしか能の無い』『日本最後の首相の息子なだけ』とディスっている通りの人間だとしても、この戦線に来るラウンズは彼だけじゃないけどね…あの『吸血鬼』が来るのは確定っぽいし」
「やれやれ、ここに来て大盤振る舞いだな。1人来るだけでも今までそう無かったものを最低2人、下手すりゃ5人ぐらい来るとは」
それから今後の展望についての意見交換や、自分達の部隊への差配についての確認を取ってアレクシアは臨時の司令部である廃屋から出て行った。
彼女の目の前に広がるのは見渡す限りの草原。数か月前までは長閑な光景が広がっていたであろうこの地も、今や戦場と化して所々砲火の音が響いて何か燃える様な嫌な臭いも薄っすら漂っている。
(あ〜あ、何でこんな所に来ちゃったんだろな〜って、あたしの責任か)
数か月前までは比較的安全な場所で、周りの人間のダメっぷりに愚痴りながらも淡々と仕事を行っていたが、今や最前線に放り込まれ明日をも知れぬ身となってしまった。
まあこうなったのは自分にも原因がある。日頃から地位を傘にして目下の人間、特に女性に対して横暴な振る舞いの多かったある大佐の秘密やら今までの所業を大体的に暴露した事で、その行いの結果としてここに飛ばされたのだ。
別にあのスマイラス何とかの様な連中みたいに、正義感から将来将軍になって色々と迷惑を掛けるであろう奴の未来を、自分の将来を捨ててでも、刺し違えてでも祖国の為に断つ!…なんて事は一切無い。
何せ奴は自分に対して何を思ったのか臆面も無く「俺の愛人の一人になれ」と幾度も執拗に絡み、時には強硬手段に出ようとした事もあっていい加減我慢の限界に達してあの行動に出たのである。
調べれば恣意的な命令の解釈やら違反やら、笑えるくらい色々とやらかしていた奴であり、あそこまでバレてしまえば最早再起不能だろう。噂では降格の末、名門でもある実家からも勘当処分を喰らったらしい。
そしてこっちもお咎め無しでは終わらなかった。何故一尉官がここまで情報を集めれたのか?という事でこっちも色々と調べられ、結果ハッキング行為等による情報の不正入手、しかも今回の一件以前からある程度行っていた事がバレたのだ。
今回の騒動に関する情報の不正入手がバレるのは仕方ないにせよ、それ以前の行為については足が付かない様に慎重に行っていたつもりだったが、どこかでヘマしてしまったらしい。
まあいざという時の為、上層部の弱み握っておけば何かに役立つかなと割と安直な考えで行っていたから、自分で言うのも何だがあまり情状酌量の余地も無かったと思う。
結果、一尉官に軍の情報網が荒らされ倒された、なんて事を知らしめれば軍の面子も潰れかねないとか何とかと言った理由で、対外的には「度重なる命令への不服従な態度が問題視された」という事で、外人部隊に送られ今に至る…という訳である。
上層部からすれば「余計な事する前に早く死んでくれ」という気持ちもあるだろう。それでも直接的な行動に来ない分まだありがたいが。
勿論「死んでくれ」と言われて「ハイ死にます」なんて気は自分には一切無い。それにどの道遅かれ早かれE.U.は負ける。それまでに大人しくして生き延びてさえいれば、最終的には自分のやらかしも有耶無耶になって戻れるかもしれないとも思った。
…はっきり言えば色々と楽観視してナメていた。いくら自分が大人しくしても向こうは殺す気で襲い掛かって来るし、こっちも否応なしに死ぬかもしれない最前線に突っ込まざるを得ないのだ。
それに不謹慎だと思うが、割と居心地の良さを感じているのだ。最初はやっていけるのかやや不安に思っていたが、この部隊の面々とは意外と波長が合う。女性の比率も聞いた所によれば外人部隊の中でも比較的多い方らしい。
ただそれで一部の連中からは余計なやっかみを受けているのだが…この前も別の外人部隊のチンピラに絡まれたし。あの子に至っては…。
「あれ? アレクシア? 中佐との用事は終わったの?」
噂をすれば何とやら、気が付けば目の前に天使が、いや間違えたイロナが立っていた。あ、あとついでにアサドも。
「ん、終わった所だよ。それよりどうしたの? 前線で何か動きでもあったの?」
「いや、今んとこは相変わらず膠着状態だぜ。ただそろそろこっちの準備完了って話だ」
「へぇ…もう少し時間かかるかなと思ってたけど、意外と早かったね」
「今回の正規軍の連中は死に物狂いな奴が多いからな。ある意味興奮状態というか目がイってる様な連中ばかりともいうか」
「…」
正規軍についての話をすると、イロナは何かを思い出しては不機嫌そうな態度になる事が多い。それでもいつもの様に正規軍への悪口を言わないのは、今回の第六軍集団が少なくとも今までの連中とは違う、という事も理解しているからだろう。
それでも一度根付いた正規軍への、いやE.U.への悪感情は拭い去れない所まで染み込んでいる。数か月前まであっち側に居た人間としては、確かにフォロー出来ない事が多くて何も言えないのだが。
「ま、そろそろ向こうの本格的な攻勢が始まりそうだから、休める内にしっかり休んでおこうぜ」
「了解。そういう訳でイロナ、一休みといこうよ」
「えっ、でも私今から…」
「…頑張るのもいいけど、少しは休みなさいよ。知ってるわよ。暇さえあれば戦う為の技術を磨いているのを」
「もう一回言うけどよ、休める時はしっかり休んどけってな。そんなんじゃいざという時戦えないぜ?」
そう言うとイロナも納得したのか受け入れ、束の間の休息を取るべく自分と取り留めの無い会話を交わしながら(アサドは「寝る」と言ってふらりと何処かへ去って行った)女性隊員用のトレーラーへと歩いて行った。
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