[38120] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-28『俗事…後編』 |
- 健 - 2018年04月14日 (土) 21時58分
ライルは思い悩んでいた。ツーフォーの姉弟…彼らをどうするかだ。ライル本人はあの農場で静かに暮らして貰いたいと思っている。あそこの人達ならば邪険にすることはないし、釘を刺しておく事も出来る。
だが、当人達は軍に志願してきた。理由は三者三様……長女のエレーナは恩義、長男のヴァルスティードは皇族の側の方が安全、末妹のセルフィーは姉をライルから守るためだそうだ。
そこもまたライルの悩みどころだった……動機は不純と言うほど不純ではない。どう取り繕っても、占領後に一定の立場を保証されてもナンバーズである事に変わりはない。それがいくら皇族に保護されているとはいえ、本国にいるのがどれだけ危険か…それを彼らも分かっているのだろう。
アンダーグラウンドにも足を踏み入れていたというから、腕もそれなりか……どうしたものか。
と、連絡が来た。誰かと思い取ると……
〈ライル、また派手にやったそうだな?〉
声の主はライルが母と同等かそれ以上に大嫌いなルーカスだった。軍の通信機なので、通信コードは知られて当たり前だった。が……
「何の用だ?私は今忙しいんだ。お前なんかと話している時間は無い。」
さっさと切りたい、それが本音だった。
〈あのカジノでまた良い物を拾ったそうじゃないか…〉
ライルはルーカスが言っている物がなんなのかすぐに分かった。
「貴様なんぞにくれてやる気は無い。その方が遙かに危険だ。」
ライルは通信を切り、決めた。そして、通信の相手を変える。
「ゲイリー、三人を呼べ。」
ライルは先程まで悩んでいた自分の愚かさを呪った。本国に置いておく方が危険だ。奴のことだからあそこも調べさせているだろう。奴や奴の息のかかった者があれだけの美女を見逃すものか…あの農場に置いたら、農場まで巻き込みかねない。そもそも、ジュリアだってその認識の甘さが原因だ。有紗もそのせいで二度も……だったら、側に置いておいた方が良い。遠ざけても安全だという保証など無いのだ。
涼子は軍籍を回復して貰い、ようやく軍服に袖を通した。不思議だ……一年足らずだというのに、帰ってきたという感覚さえもある。
格納庫の一つにIDを見せて入れて貰うと、そこには新型のKMFが四機あった。正確には二機種二機ずつだ。
黒い二機はガウェインタイプと似通っている。もう二機は見慣れない型だ。背中に巨大な剣があり、フロートユニットとの兼用と思しき鞘もある。こちらも相当な大型だ。いや、こちらの近接戦闘型の大型KMFのフォルム、データで見たことがある。
「もしかして、最近ロールアウトしたっていうガレスと……もしかして、ギャラハッドタイプ?」
そう、『ナイトオブワン』ビスマルク・ヴァルトシュタインの専用機ギャラハッド……あれはガウェインを近接戦闘用に再開発した機体。
ギャラハッドほどではないが、この二機も大型で、背中に剣を、腕にもシールドが一体になったようなショートソードもある。
「ヴィンセントのようなギャラハッドの量産試作機?ということは、砲撃用の武器やドルイドシステムは一切排除して…剣とハーケンによる接近戦と中距離戦闘を念頭に置いた機体?だけど……あのギャラハッドの量産試作機なんて、扱える人がいるの?」
今のトリスタンとモルドレッドのベース機であるブラッドフォードとゼットランド…そのカスタム機のメンテナンス、そしてランスロットがベースになったベディヴィエールやアストラットに目を通した涼子だからこそ抱く疑問だ…全員にシミュレーターで操縦して貰った結果、親衛隊、『フォーリン・ナイツ』共に専任パイロット以外の殆どが苦戦していた。そもそもベース機が相当な暴れ馬だ。それを『ラウンズ』専用にしたとなれば、扱いの難しさは段違いになる。
「それを考えると、この二機をそのままというのは操縦性もコストも割に合わないわね……ダウンスペック機を造る必要もある………」
考え、それが思わず口に出ているが涼子は次第にこの四機に強い興味を抱くようになった。中華連邦にゼロが逃れ、政略結婚が失敗したことでブリタニアは中華連邦とも戦争をする構えを取りつつある……人員が少なめのライル軍では量より質を重視する…つまり、
「この試作型四機、ライル殿下の軍に配備できませんか?」
涼子は軍の戦力的にも個人的にもこの四機に興味がわいた。
クリスタルは内心、安心していた。有紗達はある意味で無事に助け出され、手付かずになった。もし、買われた後…見つけた頃には心身共に踏みにじられた姿をライルが見たら、本当に彼は発狂していたかもしれない。
そうなりかねない原因を作ったのは……
あのことをクリスタルはずっと後悔していた……少し、考えれば分かることだったのに。
だから、もしもそれがライルに知られた場合…
三人は身の安全を保証する意味でもライルが軍に編入した……素人上がりとはいえ、アンダーグラウンドにも若干足を踏み入れていたこともあって、銃や格闘もそれなりに出来ていた。特にヴァルスティードとセルフィーはKMFの操縦に高い才能を示し、親衛隊としても十分通用するレベルだった。エレーナは二人には劣るが、決して低いとは言えなかった。とはいえ、KMFのパイロットとしては能力不足が否めなかったので、ブリッジクルーとして採用することになった。
「思わぬ収穫、という奴ですね。」
フェリクスの冗談交じりの感想にライルは「ああ。」とだけ答える。
「で、今後の情勢をどう見ますか?」
「……ゼロのことだ。日本単独ではブリタニアに対抗できないことくらい承知しているだろう。私がゼロならば………中華連邦を軸に諸外国をまとめる。」
幸いなことに中華連邦全体の領土はブリタニアが手をつけたわけではない。共同統治となっていたタイからは恐らくブリタニアは手を引くだろう。香港も以前ピースマークに潰されていた……つまり、中華連邦からは確実に一時撤退することになる。
「大宦官の派閥の生き残りといっても、ゼロとクーデターの首謀者、黎 星刻に藤堂もいる……バラバラになっている以上、まとめられるのは時間の問題だ。」
「E.U.もゼロにつく可能性が高いでしょうからね。私がE.U.の政治家ならゼロにすり寄ります。連中が国家や市民のことを考えているかは別としてね。」
「だろうな…ゼロにしてもE.U.の技術と軍事力は欲しいだろう。」
となれば…ゼロは恐らく日本だけではない。中華連邦とE.U.も新しい国家としてまとめ上げてくる………
シュナイゼルが既にモンゴル省との国境沿いに部隊を展開しようとしているが、ゼロとてブリタニアの動きを警戒しないわけがない。
が……
陛下はやはり、これにも関心を示されないのだろうか?これまでのブリタニア、E.U.、中華連邦という三局の図式がもう間もなく崩壊しようとしているのだ…それなのに、皇帝は関心が薄い。
あの人に連絡を取ってみよう。そろそろ何かが掴めたかもしれない。
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