[38113] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-27『母と婚約者』 |
- 健 - 2018年04月05日 (木) 17時42分
ライルは離宮に戻り、母を呼んだ。
「何かしら、ライル?」
「母上……先日誘拐された私の侍女と部下、無事に救出されました。」
母の表情が動いた。
「あら、そうなの…」
「ええ、それで彼女達を攫った犯人と引き渡した相手を問い詰めたら面白いことが分かりまして。ある人と共謀してたんですよ……警護隊の人員や配置も細かく、ね。」
自白剤を投与して洗いざらい吐かせた。それで出てきた人物の名は……
「貴女だったんですよ、シェール・フェ・ブリタニア。」
シェールの顔がこわばった。
「な、何を言うのよ?私がそんな…」
「常日頃庶民やナンバーズ出身、貴族出身でも自分が気に入らない者に文句をつけていた貴女が突然、何も言わなくなったからおかしいと思ったんですよ。」
何しろゲイリーさえ気に入らない節があったのだ。だから、分かってくれたのでは、と僅かな希望も抱いた。が、今夏の剣でそれが飛んだお門違いだと分かった。
「いい加減になさい!私がやったという証拠など…!」
全てを言い終える前に、ライルは持ってきた書類を叩きつけた。そこには有紗やレイだけではなく、ゲイリーやデビーなど…ライルの部下達の人員リストがあった。しかも、細かい行動などがびっしりと書かれていた。全員ではない……母が常日頃、文句をつけていた者ばかりだ。
「貴女のコンピュータにもハッキングしたら、これと全く同じものが出てきた。もう、シュナイゼル兄様は勿論、軍と政府の連中にも行き渡っている。」
もっとも、シュナイゼルもあまり大きく動かないだろう。だが……確実に攻められる罪状がないわけではない。
「サラ・クラウザーの父もこの件に荷担していたことを認めており、サラも私に協力してくれている。クラウザー家に連れてこられた有紗達を見た、とね。」
もう、言い訳できない。と思った時……
「あ、貴方のためよ!あんな汚らしいナンバーズや庶民なんかより私が選んだ由緒ある貴族の方が貴方の部下に相応しいわ!!」
「部下を選ぶのは私だ。軍としての方針もな……貴女に口を挟む権利は…」
「あるわ!私は貴女の母よ!つまり、私の軍なの!だから、どうしようと私の自由なのよ!!」
あまりにも短絡的な言い分にライルはあっけにとられた。この女は…本気でそれが通ると思っているのか?
「あんな雑種やゴミ、私と貴女の軍に…!」
何も言わせずにライルは顔面を殴り、腹に蹴りと拳を入れ、もう一発顔面に拳を叩き込んだ。
「貴様なんぞ母でも何でもない。この俗物が!!」
即座に切り刻んでやりたい。それが本音だった。だが、いくら何でも母殺しは部下達にもどんな風評被害が出るか分からない。だから、この程度で済ませてやったのだ。
「おい、この腐った豚を連行しろ。罪状は離宮内への賊の手引き、私の皇族権限への侵害、軍の情報改竄の指示、文句はないだろう?」
警護隊の一員を威圧して、確認を取ると「は、はい!」と怯えるように答えて母を連行した。
「安心しろ、殺されない程度に計らうようにはしておいてやるよ。私が母だと思っていた豚が。」
そう、結局あれは母親などではなかった。
違うな………元々僕に親なんかいなかったのかもな。
二日後……クラウザー家では当主が逮捕されて、混乱に陥っていた。その上、それを逮捕した張本人が訪ねてきていたのだ。
「サラ、父の逮捕について何か異論は?」
「……いえ。」
怯えているようにも見える。だが、それでも毅然とした態度だけは崩さない。
あの女とは大違いだな……
母をあの女呼ばわりしながら、ライルは向き合う。
「離宮への賊の侵入とその人員確保、皇族権限への侵害……爵位剥奪などでは済まされない。処刑だってある。」
「……分かっています。でも…」
「でも?」
「でも、あんな形で有紗達に勝ちたくなかったんです。きっと、ライル様は悲しむし……ばれたら絶対に嫌われると思って!だから…!」
だから、協力を申し出たというのか?
「……それを、信じて良いのだな?」
「信じて、ください……」
「………分かった。だが、婚約は解消させて貰うぞ。こんなことをした家の令嬢との婚約など論外だからな。」
婚約破棄……改めて、サラは恐れていた事実を突きつけられた。だが、当然だ。
「それと……クラウザー家の資産の4割は全て私が接収。系列会社も他の財閥に委ねる。良いな?」
「………あ、あの!」
ライルが「なんだ?」と問う。
「私、本当にライル様が好きなんです!だ…だから……婚約じゃなくて、真面目に恋人として…!」
が、ライルは両肩を圧してそれを制した。そして、いつもの落ち着いた表情に戻っていた。
「悪いが、君のことをそうは見られない。それに……父君のしたことでまだ私自身、君を疑っている。」
「……あの、じゃあせめて…………婚約者らしいことを最後に。」
目を閉じて、唇を差し出す。ライルもそれに何も言わず、それに答えた。
「……これで、婚約は解消。クラウザー家の身の振り方は君が考えろ。」
戻ったライルは自分の甘さに驚いた。もっと厳しくすることだって出来た。爵位の剥奪……資産の接収ももっとして良かったのに………
「甘いね、大将。でも、サラちゃん良い子じゃないの?」
「……良かったな、婚約者というライバルがいなくなって。」
ヴェルドに冷めた口調で返す。すると、ヴェルドもいつもと違う口調で問い返してきた。
「ねえ、もし有紗ちゃんやレイちゃん、クリスタルがいなかったら真面目に付き合ってた?」
「………かもしれない。本当に魅力のある女性だからな。」
容姿は間違いなく一級品と呼べる美女だ。だが、それ以上にあの心がだ。家の名前や地位以上に真面目に振り向いて欲しかったあの姿勢……少なくとも、貴族への不信感が強かったあの頃のライルにとって彼女は眩しかった。
実際、心が揺れたことがある。あの二人も驚くほどの美貌だ……
……私は浮気性なのだろうか?
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