[38067] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Past Episode−2 震える少女』 |
- Ryu - 2018年02月26日 (月) 15時22分
革命暦227年(皇暦2016年)11月、E.U.ロシア州の首都モスクワがユーロ・ブリタニアの軍によって陥落、E.U.ロシア政府は早々に首都機能や政府要人の親類をロシア州第二の都市サンクト・ペテルブルグに移した。
一方で一般市民については何の措置も取らず、その地に住まう市民の多くはすぐそこまで敵国の軍隊が迫っている事実も知らず、いつも通りの生活を送っていたが、ようやくその時になって動き出そうとするももう遅かった。
彼等を護るはずの軍隊もモスクワ失陥が濃厚となると我先にとサンクト・ペテルブルグに逃げており、相手に対して成す術が無かった。
無論ユーロ・ブリタニアの多くは本国系と異なり、余程の事が無い限りは民衆を攻撃する気は無い為ある意味安心できるのだが、そんな事はE.U.の一般民衆からすれば知る由は無い。
多くの者は西へと逃れる為避難民として移動し、中にはユーロ・ブリタニアの軍勢に捕捉されそのまま降伏して身柄を確保されるのは良い方、パニックの末抵抗して少なからず死傷者を出してしまった一団もいる。
だがより酷いのは同じく敗走途中のE.U.正規軍や、一部外人部隊から「餌」と見られて攻撃され、壊滅してしまった集団も出た事である。
宛ても無く西へと逃げ続ける避難民の一団の中に、イロナ・メルクーシンはいた。
彼女はモスクワ郊外の住宅街に住んでいたのだが、今回のユーロ・ブリタニア軍の襲来で家族で西に逃げようと車で移動していた。やがて同じ街の避難民達の集団と合流し、夜を迎えて寝ようとしていた矢先、突然の発砲音と悲鳴、怒号が響き渡った。
ブリタニア軍が襲って来た、いや正規軍の連中が誤認して攻撃している、違うこの近辺のならず者達の襲撃だと情報が錯綜し混乱の中、両親から早く逃げる様に促され姉と一緒にその野営地から飛び出したのである。それ以降両親の姿は見ていない。
しばらくはその姉と一緒に逃げ、別の避難民達とも合流しながら西へと向かっていたが、その途中でまたしても襲撃を受けてしまい、姉ともはぐれてしまった。
今は周りに知り合いの一人もいない事から心細く、数日間歩き通しである事や現在の寒さで疲れ切った身体を必死に動かしながら、今自分達が向かっている軍基地へと歩いている。
そこでならきっと自分達を保護してくれる、ひょっとしたら父さんや母さん、お姉ちゃんも既に居るのかもしれない。そう信じて。
だがそこで彼女を迎えたのは温かい労いは一切無く、ただただ冷たい対応であった。避難民の代表者が軍の司令官と面会して願おうとするも、対応したのはその副官だという一士官。しかも基地の中にも入れず、しばらくは外で待機してくれと。
結局基地の軍用車両が置いてある箇所の片隅に自分達は留め置かれ、それから特に何もされる事無く放置されている。
周囲には軍服を着た軍人達が何名かいるが、殆どの人間はただそこに突っ立っているだけで本当に何もする様子が無い。避難民の一人がせめて子供だけでも基地にと懇願するが、にべもなく断られた。
夜になって更に冷え込むが、それでも基地内に入れてくれるといった様子は無い。それどころか監視の人間もさっさと基地内に戻ってしまう始末である。自分達は身を寄せ合って寒さを凌ぐしかなかった。
そしてイロナは限界近い心身の状況故に気付いていなかった。何名かの軍人が自分を性的な目で見ていたのを。
「ちょっと、そこの黒髪の女の子?大丈夫か!?」
丁度その辺を通りがかった正規軍の若者が、寒さやら空腹やらで限界に近かったイロナの様子がおかしいと思ったのか声を掛けた。避難民達の群れを掻き分け、彼女の額に手を当てたりしている。
「む、いかん。これはひどい熱だ!すぐに手当てしなければ!」
そう言うと小柄な彼女の身体を背負って基地内に入ろうとしていった。それを見て他の避難民、それも子持ちの人が「ウチの子も!」と縋るが、その軍人は「いや、この子が先だ!」と言って無視してしまう。
そうこうする内に基地に入って、彼女はある一室に連れ込まれた。医療室…ではなく殺風景な部屋で中央には大きめのベッドしか無い。しかも部屋の中には何人かの男性が待ち構えていて、中にはニヤニヤしながらカメラを用意している人までいる。
この光景を見せられれば嫌でもどういう事なのか彼女は気付く…コイツらは私の身体が目当てなんだと!
「おいおいホントあっさりゲットしやがったな。上手いもんだ」
「ああ楽々お持ち帰り出来たぜ。しかしこいつ小柄な割に結構いいぜ?背中越しにもその感触を感じれたからな!」
「まああのまま寒空の中冷えてしまうのも可哀そうだからな!俺達でじっくりと温めてやろうぜ!」
「避難民共には死んでしまったと言えばいいだろ。あの様子だと知り合いも居なさそうだしな」
彼女はその場から逃げ出そうとするが、絶望的な体格差に加え連日の状況から殆ど動けずすぐに捕まってしまった。それからベッドに押し倒され、身に付けている衣服を脱がされ破かれ、とうとう身に着けているのはショーツ1枚になってしまった。
もう涙どころか声も出ず、手で胸を隠しながら俯いて震えている。もう自分が何をされるのかがすぐそこまで迫っているからだ。
「そんなに怯えなくてもいいじゃん君?これからたっぷり俺達が可愛がってあげるからね?」
「そうそう、俺達皆金持ちだからさ!美味しい物も食べられるしもう辛い事なんて無いよ!」
口では親切そうな事を言っても我欲に染まった醜悪な表情のまま、彼らは自分のズボンを下ろそうと手を掛けたり、彼女の手をどかしてその胸を掴もうと手を伸ばそうとする。しかしその手が届く事は無かった。
何故なら急に基地内で爆音が響き、各地から火の手が上がったからである。この部屋からもその音や光景が確認出来、男達は一体どういう事だと訝しむ。だがその様子も数秒後には驚愕に変わる。
基地全体に緊急のサイレンが鳴り響き、放送で「敵の部隊がこの基地を急襲」「司令部は既に半壊状態、司令官重傷」等と伝えられたからである。一体どうやって!?何故!?いやそれよりもまずは自分達の命だ!
「おい、さっさと逃げるぞ!こんな所で死んでたまるかよ!」
「お、おい!この女は…」
「あ!?知るかよ!お前の命より大事だってんなら連れていけや!」
命大事と言わんばかりに若者達は我先にと部屋から逃げ出していき、部屋に残ったのはあられもない姿のイロナだけである。
彼女はしばらく茫然としていたが、やがてすぐに現状を理解したのか震えが再び起こり出した。何しろ貞操の危機は去ったかもしれないが、今度は命の危機が迫っている。早く逃げないと!
いやでも逃げる?一体どこへ?そもそも今いる場所さえもはっきりしてないのに?下手に逃げて敵の兵士とばったり出会うとどうなる?敵と思われ問答無用で殺されるかもしれないのに?
この状況下にあっても無暗に逃げ出さないだけの判断力がイロナにはあったが、それだけである。彼女はただひたすらその場で蹲りガタガタ震えていた。それは迫りくる死への恐怖か、つい先ほど集団で強姦されかけたことからの恐怖か。
朝になってようやく戦闘も落ち着き、静かになったがそれでもイロナは一向に心休まる暇など無かった。
まず今どうなっているのか全く分からないままだ。襲って来た側が勝ったのか、この基地の人間達が勝ったのか。
もし後者だとすれば…さっきの連中達がまた戻って来るかもしれない。昨晩行えなかった続きをやる為に。そう考えると少なくとも一刻も早くこの部屋から出ないと…!
そう考えた彼女はベッドのシーツで自分の身体を隠し、無いよりはマシと護身用にカメラの脚立を手に部屋を出て、まずは外に出ようと周囲に気を付けながら歩きあまり時間を掛けずに外に出たが、そこで見た光景は酷い物だった。
所々まだ火の手が上がっており、大破した車や戦車、ナイトなんとかという機械がいくつか転がっていた。しかも色々な物が焼け焦げた匂い…何とも言い難い腐った匂いが辺り一帯に漂っている…。
昨晩自分達が留められていた場所にも行ったが、何も無かった。いや、所々『何か』が転がっている…それを見た瞬間一体『何だった』のかを理解してしまい、イロナはその場で蹲って吐いてしまった。
しかしその音で気付いたのか、兵士の一人が彼女の存在を確認して向かって来た。体格からして確実に男である。
それを見るや彼女は条件反射ですぐに逃げようと立とうとするも、完全に腰が抜けて動けない。それでも這ってでも逃げようとするが走って向かって来る男の方が遥かに早い。すぐに追いつかれてしまった。
「おい!民間人か!?何でまたこんな…」
「い、嫌!!こ、来ないで!!」
その兵士はイロナに向かって何か話そうとしているが、一種のパニック状態にある彼女の耳には全く届いておらず、埒が明かないと思ったのかその兵士は通信機を取り出して何やら話し始めた。
それを見て尚一層彼女は混乱する。目の前の男は生存者、いや獲物を見つけた事で上に報告、献上しようとしているんだ!いや、仲間を何人か呼ぶつもりだ。昨晩の連中と同じ目的の為に!
通信を終えるとその兵士はもう話しかける事も無く、さりとて実力行使に出る事も去ることもせず、ただ彼女が逃げないかどうかを見張っていた。それから間もなく別の兵士がやって来た、今度は女性の兵士である。
ここでイロナは一つ気が付いた。最初はまるで考える余裕も無かったからわからなかったが、よく見ると2人とも軍服の色が昨晩見た正規軍の連中のと違うと。でも色が違う以外は大体一緒…なハズだ。
兵士2人は軽く会話を交わして、男の方の兵士はどこかへと去って行った。残った女の方の兵士が、屈んでイロナと目線を合わせて尋ねて来た。
「大丈夫…と言うのも変ね。話せるかしら?」
綺麗な人だなぁ…というのがイロナの彼女に対する第一印象だ。しばらくはぼんやりとしていたが、彼女の静かな雰囲気と同じ女性相手という事もあって、若干彼女の興奮状態が収まりつつあった。
「……うん。大丈夫、喋れるから」
「そう……名前を聞いていいかしら?」
「……イロナ。イロナ・メルクーシン」
「可愛い名前ね。私はウェンディ、ウェンディ・ミュラーよ」
それが彼女と外人部隊との最初の出会いであった。
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