[38055] コードギアス 戦場のライルB2 SIDE OF WARFARE『はみ出し者の憂鬱』 |
- 健 - 2018年02月23日 (金) 18時40分
訓練を終えた浅海はマスカールやバルディーニの計らいで与えられた部屋でぼうっと天井を見つめていた。
あの時……彼が抱いてくれたら、どうしただろう?戻れたのだろうか?
それを聞かれると、戻れたと答える自信がない。彼は顔も綺麗だし……あの寂しげな目にどうしようもなく惹かれた。
「はあ……本当に、良かったのに。」
「重傷だな…」
いきなりした男の声に反応すると、上官のデルクがいた。
「た、隊長!?」
「慌てるな……ノックはしたが反応がなかったんだ。」
来ていた!?それに気付かなかった!?
「あ、あの……その………」
「惚れてるんだろ?」
「…はい。」
「マスカール将軍やピエルス大佐も会ったそうだが…まあ、あの『暴君』みたいなタイプではないな…と言いきれないか?」
あの『虐殺皇女』の事件以降、ライルにも悪い噂が出た。曰く「ナンバーズ同士を殺し合わせ、それを眺めて酒のつまみにしている」、「年頃の娘がいる父親を娘と引き替えに便宜を図る」、「女を手込めにして愛人にする技術は第五皇子以上。だから美女が大勢側にいる」、それ以前からも「ナンバーズに暗示をかけて操っている」、などあった。本国で叛乱を起こした部下の一人は自ら処刑したというし、その映像もある。
「久しぶりに会って……噂が全部頭から飛び出るくらい、彼に縋りたかったんです。彼の女になら…なっても良いって……」
「…………除隊するか?」
「…いいえ、しません。ライルはマスカール将軍の部隊と戦う事で礼を尽くすといっていましたから…送り返してくれたお礼に彼と本気で戦います。」
そう、せめてもの感謝がそれだ。どちらかは死ぬ……でも、それしか出来ない。
「騎士道…いや、武士道という奴か?」
「どっちでも良いです…」
デルクはそれを「あ、そ。」と聞き流しながらも…不安だった。
無理してるんじゃないだろうな?だとしたら、お前が殺されるぞ。
それを考えれば…ソレイユがあのクズ共の元に渡るのだけは避けて、彼女はライルの庇護下にいた方が良いのでは、とも思う。会ったわけではないので何とも言えないが……少なくとも浅海の証言だけでも噂の殆どは根も葉もないものだろう。
「正規軍とは雲泥の違いだ…いや、比べたら失礼だな。」
「全くだね…」
海棠は図らずもデルクと同じ事をバルディーニと話していた。
「で、あの皇子様に開放されたお姉ちゃん達は?」
「難民受け入れ地区に移動させた……イレヴンは相変わらずだがな…」
「皮肉なもんだね…向こうもそうなる事を予想出来ていた。けど、自分のとこで置いても扱いに困ってそうするしかない……嫌なご時世だ事。」
ビールを飲んで、海棠はため息をつく。
「で…行村達は?」
「ご心配なく…ピエルス大佐や池田少佐が積極的に動いてくれましてね……毒牙には晒されませんでした。マスカール将軍を選んだあちらさんの判断は正しいね。」
「だが……あの男は、軍人に向かない。人間として好感は持てる…政府や正規軍の連中よりは。」
「それ……あちらの部下達が聞いたら怒りますよ?」
土田の後を継いで補佐に着いた橋本がため息交じりに返す。
ゼラートは外人部隊の女達や貢ぎ物にされた娘達を解放したライルの真意を疑っていた。
「どういうつもりだ、あの男?」
「さあ……本気で哀れんだとか?」
アサドの推測にアレクシアは「それ、馬鹿?」と聞き返す。
そう、だとすれば馬鹿だ。良くも悪くも人が良すぎる……戦場では命取りだ。
「ふん、どうせ一人一人丁寧に可愛がってあげたんでしょ?」
イロナはまたも邪推している。確かに、捨てきれない可能性ではある。解放された娘の中にはライルを名残惜しそうに見つめる者はいた。だが…敵意を抱くような者もいた。力尽くで…と言うにしては妙だ。
「ピエルス大佐だって随分気に入ってるそうじゃない?密会して年上のお姉さんらしくエスコートしたんでしょ?もしくは年下と思って甘く見てたら逆にたっぷりと味わわれてメロメロとか?」
「イロナ、上官侮辱罪よ?」
アレクシアが窘めるが、イロナは「事実を指摘しただけ。」と意に介さない。どうやら、彼女にとってライルはあの暴君…否、正規軍と同類らしい。
「池田少佐や海棠大佐も結構気に入ってるそうだけど…あっちは敵としてでしょ?でも……女であいつを気に入る奴のいう事なんて私は絶対信じない。」
「それ……八つ当たりか逆恨みよ。」
コーヒーを手渡したウェンディが再度窘める。しかし……
「ふん、どうせ良いところの男なんてみんなそうよ。」
「まあ、お前の個人的嫌悪は別にしておいて……他意がなければ只のお人好しか、馬鹿だな。」
ゼラートはそう締めくくって、コーヒーを飲む。
「パーティーで会ったそうですね、大佐は?」
池田とシミュレーターで勝負した結果、一勝一敗に双方大破の引き分け……ドリンクを飲みながら問う池田にクラリスは疑惑の目を向ける。
「まさか…内通していると?」
「いや…あの男を私は噂でしか知らない。色々と縁があってな、大佐の主観でよろしければお聞きしたい。」
「……まあ、顔は良いわね。良い意味でも悪い意味でも純粋な、どこにでもいそうな男の子って感じだわ。でも……」
「でも?」
「……気のせいかな、と思ったんだけど…私を見た時、今すぐにでも殺し合いたい。そんな雰囲気が一瞬したのよ。」
「戦場で心を病んだ?」
「そうともとれるけど…あれって強敵を見つけたって感じかしら?」
そうか…池田は好敵手と意識しつつある男があの『暴君』や『虐殺皇女』のような人間ではないというささやかな希望を抱いた。だが……
「あの『虐殺皇女』…どうお思いで?」
「……あまりに違いすぎて逆に分からない。素人でもあんな事したらどうなるか分かるでしょ。」」
そう、池田も同じだ。だから……ゼロが何かしたと、あまりに突飛だがそう疑ってしまうのだ。
「ゼロの横やりなしであの男とは戦いたい物だ。」
「真っ向勝負をお望み?」
「貴官は?甘い夜とどちらをお望みで?」
クラリスは一瞬固まり、数秒考える。
「両方かしら?」
「欲張りな事で…」
「ええ…あのクソ親共の遺伝でしょうね。」
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