[38041] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Past Episode-1 革命暦 221年 10月』 |
- Ryu - 2018年02月18日 (日) 15時11分
E.U.の中心地・パリの高級住宅街の一角、そこでは父の将軍将軍就任を祝うパーティーが行われていた。
国内でも有力な資産家や政治家達が集まり、華やかな様相を呈している。何度か会った事のある人もいれば、初めて見たり聞いたりする様な人もいる。改めて今後とも良い「お付き合い」をさせて欲しいという事か。
このパーティーには自分も出席している。ピエルス家主催のパーティーという事もあってホスト役の役目も与えられて、出席者に対して挨拶に回っている、だが正直あまり気分の良い物じゃ無い。
何せ招かれた男共ときたらどいつもこいつも私の身体、厳密に言うととある一部分だけにか目線が行って無いからだ。学校関係の事で忙しかった為ドレスの手配を母に一任してしまったが、完全にミスだった。その一部分が強調されるようなドレスを用意したのだあの母は。
父の周辺には参加者達が多く集まって、時折自分に目線を向けながら何やら話している。どうせ是非ウチの息子と、とでも言っているのだろう。だが身体しか見ない男と婚約するなんて正直お断りだ。
一通りの挨拶も終えた事だし、一旦休憩並び内心の不愉快さを消すべく、自分の部屋に戻った。
部屋には試験に備えての問題集や参考書、鍛錬用の簡単なトレーニングマシンが備えられている。そう、今年は士官学校に向けての入学試験があるのだ。正直こんな事しているぐらいなら勉強した方が良い。
士官学校への入学は両親とも、特に母が猛反対していた。何故そんな危険な事をするのか、一体今の環境の何が不満なのかと。正直母親の説得は最初から諦めていたので、とにかく父だけを狙って説得した。
かなり長きに渡る交渉の甲斐あって、漸く父も納得してくれた。父が了承するとなし崩し的に母も了承した。ある意味予想通りだ。
正直軍人になっても、まだ漫然と「国を守りたい」というイメージしか持ててない。今E.U.は特に戦争を行っている訳じゃないが、ブリタニアの動きは活発だ、先月も日本を占領したとのニュースが世界を駆け巡った。
かなりの大事件だと言うのに、国内では数日そのニュースが流れるとすぐに別のどうでもいいニュースが強調され、もう既に過去の話となって殆どの人は大して興味を示さない。自分が通う学校でもそうだ。
ブリタニアと今すぐ戦争を!という状態では無いらしいが、もしそういう時が来た時にどうするのか?「何も考えてませんでした」でされるがままにされるなんて論外だ。自分はそう言って逃げ惑うだけの人間にはなりたくない。
そして何より、パーティーに出席する同年代の少女達の様に、飽きもせずファッションや男性の評価に時間を費やしたりした結果、将来的に自分の母の様な人間になる…そういう人間にだけは絶対なりたくなかった。
(…それにしても、まだ成長するのかしら?)
目の前の姿鏡に映る自分の身体、特に自分の胸を見てふとそんな事が浮かんだ。去年新調したブラももう苦しくなっている。今でさえ野郎共の目線が嫌になるのに、これ以上は正直いらない。邪魔にしかならなくなる。
同年代の男性もごく一部の例外を除き、自分を見る時は顔より先に胸に目線が行く。男なんてやっぱり皆そんなものなのか、色々な意味の籠った溜息が出てしまった。
E.U.全体では国を失った日本人、いや「イレブン」に対して過酷な命令が下されていた。資産の凍結や接収、「日本人」としての権利の剥奪、そして強制拘束並び隔離…。
各地でその様な行動が繰り広げられ、ここオランダでもいよいよ仕上げの段階…アムステルダム郊外のゲットーにオランダ在住のイレブンを放り込む、今自分達正規軍にはその様な命令が下されていた。
同僚達は特に何の疑問も持たず、それどころかヘラヘラしながら任務を行っている。今俺の近くにいる奴は確か日本人の友人がいる、と俺に話した事がある。それなのにこの状況を見て何も思わないのか?
日本人達が逃げ出さないか見張っていたが、ふと見覚えのある奴を見かけた、あれは…間違いない!やっぱりこの中に…!
確信すると、隣の奴に「少し怪しい奴がいたから」等と嘘を付き、見つけた2人組に近付く。向こうもそれに気付いたのか、こっちに近寄って来た。ただこんな路上で話すのも不味いと思い、ビルとビルの間の、細い路地裏へと連れて行った。
「雄介!香奈!やっぱりここに…」
「デルク!相変わらず元気そうだな、安心したよ!」
目の前の高校時代の友人達は変わらない様子だ。ただ一つ、今彼らに降りかかろうとしている状況を除けば、だが。
一見いつも通りかもしれないが、両名とも不安の色、特に香奈の方はそれが顕著だ。当たり前だ…今まで不通に過ごしていたハズだったのに、突然全てがひっくり返されたのだから。
「2人とも…すまない」
「いや君が謝る必要は無いって。少なくとも僕たちがこうなった事に、君の責任は無いだろう?」
雄介の方はこうは言っているが、それでも罪悪感は拭い去れない。俺の知り合いの様に、知人がこうなっても知らん顔が出来る程薄情じゃない。というかああはなりたくない!
「まあ心配するなって、しぶとく生き抜いてみせるからさ、デルクはデルクの目標に向かって頑張ってくれよ!」
「…ああ、俺はこのE.U.を変えたい。こんな事がまかり通る様な軍をどうにかして変えたい!」
そして雄介…香奈…お前達を、いや日本人達もこんな目に遭わなくて済むような、いや言い方は悪いがお前達の処遇を決められるだけの地位に辿り着きたい!そう心から思う!
「はは、じゃあ互いに元気でやろうな。行こう、香奈」
「うん……デルク、頑張ってね!」
2人が日本人達の列に戻るのを見ながら、俺は誓った。今はどうにも出来ない身の上かもしれない、でもいつかは、いつかはそのどうにもならない事をどうにかしてみせる!
今の俺には祈る事しか出来ないが…今度彼等の監視の任務に就ける様上役に掛け合って見よう。そこでなら彼等を見つけて、出来る範囲の手助けは可能なハズだ!
当然隔離させられたイレブンの中にもこの状況に納得できず、ゲットー内で暴れて中にはその外に出ようとする者達もいる。
基本的にゲットー内部は不干渉であるが、もしその暴動がE.U.市民に対し害を及ぼす様ならその時は鎮圧、そもそもそうならない様にと常時脱出者や不穏分子がいないかどうかを監視。それが各国の基本方針となっている。
そうした任務も治安維持の一環として正規軍が行っているが、中にはドイツの様に民間の警備会社系の企業に先述の様な任務を委託させ、企業は国内の「あぶれ者」…低所得層や他国からの難民等を集めて実働要員として確保している。
不平分子に「雇用機会」を与えて、彼等の「ガス抜き」様にイレブンを用意して、結果的にイレブンとそういった連中の不満の矛先が互いに向けられて自分達に対しては大人しくなる事によって国内の治安もある程度改善される…
そして万一の事が起きればイレブン共は言うまでも無し、監視側の彼等にも責任を被せて処分、そして自分達には責任が及ばない。そう考えているのだ。
ドイツ・ベルリン郊外の一角、都市計画の失敗によってゴーストタウンと化したマンション群、ここがドイツ在住のイレブン達に用意された場所だ。決定と同時に周辺は有刺鉄線を張り巡らされて陸の孤島と化し、脱出者がいないかどうかの監視が屯している。
その内の俺達の部隊が担当している場所で、脱出を試みるイレブンの一団とそれを阻止せんとする俺達で小競り合いが発生していた。
「ったく、手間かけさせてくれる。逃げたところでどうにかなると思っているのかよ?」
「そりゃアレですよ隊長。カミカゼ精神でどうにかなると思っているんじゃないですかね?」
「いた」と語る通り、結局はイレブン達が監視の俺達に勝てず、散々叩きのめされて蹲っていた。中には明らかに過剰と言える暴力を叩きこまれ、虫の息と言っていい様な奴もいる。俺は大体脚折って行動不能にするか、それぐらいだが。
日頃の鬱憤をイレブンの彼等に晴らした監視の連中は、後片付けを下っ端の俺に命令して詰所に戻って行った。傍らには一団に紛れ込んでいた俺と同じか、それよりも年下ぐらいの少女2人を抱えながら。
彼女達は必死に抵抗している、この後自分達が何されるのかがわかったからだ…だが所詮非力な民間人の少女、逃げる事も叶わず詰所からは悲鳴が聞こえるがやがて聞こえなくなった。
その間俺は黙々と若者達をゲットー内へと運んで行った。まだ動けそうな奴から優先して運び、暴れそうになれば物理的に黙らせる。俺にとってはもう慣れた作業だ、今更どうという事は無い。
「……なあ、頼む……」
「?」
今俺が肩に担いでいるイレブンの青年…自分と同じぐらいの歳の奴が、か細い声で懇願して来た。
そのまま見逃してくれ、お礼はいつか返すからと。だが俺は何も聞かなかったかの様に、足を止める事無く作業を続ける。全くあてにならない約束事だし、上役の言う通り逃げた所で先なんて無いだろうが。
「おいヴァントレーン!いつまでこのゴミ置いたままにしてんだ!?さっさと片付けろや!」
外から俺の上役が様子見で来て怒鳴った、しかも下半身は露出状態である。直前までナニしてたかは考えるまでもない。
いつも横暴で下品で暴力でこの地位にいる様な男だ。内心では心底どうでもいいヤツだがそれでも上役、逆らうのは不味い…だが文句の一つも言いたくなる。コイツがブチ切れるラインを越えない程度には言っておこうか。
「一体何人いると思っているんですか?しかもここからゲットーまでそれなりに距離ありますよ?最低50kg、最大80kgぐらいの荷物を抱えて何回ゲットーに行かなければならない下っ端の苦労を何だと思っているんですかね?」
「あ?知るかよそんなモン!テメェは黙って俺の言う事聞いていればいいんだよ!」
「そうですか、大変失礼しました。とりあえずコレ終わったら引き続き監視の任に当たりますので、では」
それだけ言うとさっさと作業に取り掛かり、奴も興味を無くしたのか詰所に戻って行った。あの様子では朝まで続くだろうな…こういう時があれば毎回あんな感じだがよくもまあ飽きないもんだ。ある意味感心する。
まあ俺は俺のやる事をしていようか。あんな所で腰振るよりここで本読んでついでに監視していた方が遥かに有益だ。
先のイレブン共の様に力が無ければボロボロにされ、今の上役の様に頭が無ければ簡単に騙される。今読んでいる本がどれだけ俺の役に立つかは知らんが、無いよりはマシだと思いたい。少しでも俺の生存の目を上げる為にも、な。
本当に突然だった。休日の為家でテレビを見ていて過ごしていたら、急に父さんから簡単に荷物を纏めなさいと言われた。どこかに出かけるのかと聞いても何も答えない。
そのまま家を出て、車も使わずある場所にたどり着いた。所々ボロボロなマンションでどう考えても旅行か何かじゃない。そして気付いた時には周囲をE.U.の兵隊さんで囲まれて、ここから出られなくなってしまった。
ここから出ようとする人達もいたが、全員失敗して兵隊さんに痛めつけられて送り返され、酷い人になるとその傷が元で死んでしまった人もいれば、何故か何も喋ろうとしない女の人達もいた。
「ねえ母さん…大丈夫なのわたし達?」
今自分達は運が良いのか特に何もしてない為何もされていないが、心配になってきた。学校の友達とも連絡が取れないし、知り合いの同じ日本人がどうなっているかも何もわからない。
「大丈夫よ美恵、美恵だけは母さんたちが絶対守るから…」
「うん…それと母さん、父さんはまだ帰らないの?」
ここに押し込まれる様になってから、父さんは朝早く家を出て夜遅くに戻って来るという事を繰り返していた。
前は帰ってくるとちゃんと「ただいま」と言って寝る前も私と色々話していたのに、今は帰ってきても何も言わず、ベッドに入るとすぐに寝てしまう事が多くなっていた。
母さんに聞いても「お父さんは疲れているのよ、だからそのまま眠らせてあげて」と言われている。
だけどやっぱり心配だ。そう思って狭い玄関の前で、父さんが帰って来るのをひたすら待った。
いつもは寝る時間を過ぎて、もう寝そうになってしまうがそれでも我慢した。ちゃんと父さんに「おかえり」を言いたいから。
するとドアノブが動いて、父さんが帰って来た! 「おかえりなさい!」と言おうとしたが、父さんの顔を見て言葉が出なくなった。何故なら父さんの顔は喧嘩したのか殴られた跡が多かったからだ…。
「と、父さん……大丈夫?」
「あ、ああ美恵…大丈夫だよ、こんな顔だけど父さんだよ」
父さんはそう答えると、脚を引き摺りながらベッドへと向かって行った。多分そのまま寝てしまうんだろう。
本当に一体何があったんだろう……本当にこのまま大丈夫かな?でも私は大丈夫だよね?母さんも言ってたけど、絶対に守るって…。

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