[38015] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−12 動き出す望み』 |
- Ryu - 2018年02月07日 (水) 17時04分
和平という名の降伏から数日後、設立当初の目的を失ったロンズウォー特別機甲連隊はフランスを去り、戦力の7割をイタリアに、残りをドイツに移してそれぞれの国の防衛任務に就くこととなった。
別たれた戦力に偏りがあるのは、先の戦闘だけでなくそれ以前のエルシリア軍の侵攻でやや戦力が心もとないイタリアに比べ、ドイツの方は戦力に余裕があるとの判断である。
もっとも、ドイツの戦力が温存されている分それ以外、オランダやベルギー等の周辺諸国に皺寄せが来ており、温存されている正規軍も大半は木偶同然で当てにならない。
更に言えば各地の特別機甲連隊で使い物になれるのはまた一部、でありその一部は有事の際には最前線に放り込まれるのが関の山だが。
ロンズウォー特別機甲連隊もイタリア方面にはバルディーニを頭に海棠、池田らがその下に付き、ドイツ方面には同国所属のゼラートが纏め役となってデルクがその下に付く事となった。
正確に言うと後者の方はドイツ本国から任命された責任者が別にいるのだが…例によって使い物にならない、背中を預けるなど到底出来ない人間である為、彼等の中ではいないものとして扱っている。
クラリスとその一派は現在行方知れず…という事になっているが実際は既にイタリアに逃れており、彼女以外にもマスカールを始めとする和平に反対する、というより受け入れられない人間達も同様だ。今は大人しくしているが表舞台に復帰する日もそう遠くないだろう。
ドイツに一旦戻った彼等はただベルリンでひたすら待機させられる、のかと思いきやそれから日をあまり置かずポーランド方面に派遣された。例によってベルリンに残ったのは役立たず達だけである。
拍子抜けに思える程スムーズにドイツから脱出し、E.U.からの離脱が実しやかに囁かれるポーランドに入れた事は僥倖と言っていいのだろう…少々話が上手く行き過ぎている気もしなくはないが。
そういう事を考えつつ、デルクは現在ロンズウォー特別機甲連隊ドイツ方面軍の事実上のNo,2として軍務に励んでいた。そこに、No,1たるヴァントレーンの部下の一人が書類を手に近づいて来た。
「ドリーセン少佐。先程届いた補給物資のリストです。目を通しておいて下さい」
「ああ、了解した。それと…エストランデル准尉だったか、一つ聞いていいか?」
「? 何でしょうか?」
彼女から差し出された書類を手に取り、ふと聞いてみたくなった。今回の一連の流れは彼女の上官にとって想定内という事なのか、いや、勘繰りだとは思うがそうなる様に仕向けたのか?
一介の准尉に聞いてもわかる訳が無いだろうが、目の前の女性はヴァントレーンの側近格の女性で、第二の副官として彼と行動を共にする事も多いと言われている。何か知っているのではないだろうか?
彼女にその事を尋ねてみたが、その事については上手くはぐらかされてはっきりと明言はしなかった、が…
「…ドイツでは依然としてE.U.に拘るのがのが大多数ですが、上層部の中にはこのままではどうにもならないと理解している方々も少なからず存在しています。私達の隊に新型機を配備する手配を整えたのも恐らくその一派でしょうね」
「…今回俺達がこうしてポーランドに派遣されたのも、手配したのはその一派で単に捨て駒目的だけでは無いと?」
「はい、このままポーランドが中華、ひいてはゼロと組んで連合軍を結成する時、そのままポーランド軍として参加しろと」
「もし俺達が活躍すればその派遣した事実を以て、今後のドイツ国内での発言力を高める。仮に俺達が何も出来ず失敗する、いやそれ以前にポーランドに侵攻されて俺達が死んでも所詮捨て駒、自分達が傷つくことも無い、か?」
「連中も中華とゼロとの繋がりは確保しておきたいでしょうしね、万一今後の新たな国際秩序がゼロを中心に作られた際、それからドイツが取り残される事だけは避ける為の保険は入れたいという事でしょう」
何とも複雑だ、相も変わらず捨て駒扱いな事もそうだが、それでも自分達の保身だけではなくドイツの今後も一応は考えているだけ本当に自分の事しか頭に無い連中と比べたらマシという事か。
いや、政治家の上層部ともなればそれぐらい汚いのは当たり前かもしれないが。清廉潔白で生き抜ける程あの世界も甘く無いだろう。
もしやドイツにいる間、彼が不在な時が多かったのは今の環境と関係しているのか?そう、フランスを去って一時期ベルリンにいた間ゼラートは専ら不在か、自室に閉じこもる事が多かった。
あれはそういった一部の政治家達と秘密裏に会うか極秘の通信を交わしてこの状況を作ったのか?単に呼び出されて無理難題強いられただけかもしれないが。
まあ今となっては正直ドイツがどうこうというのもさして興味が無い、というより持てない。はっきりしている事はやはりゼロを中心に世界はまだ荒れる事、そしてその荒れ具合では多くの事が変わるかもしれないという事だ。
「…ふう」
「…また負けた……もう一回!」
基地内の一角にあるシミュレーターで、浅海とイロナが対決していた。
選んだ機体は浅海が標準的な近距離戦仕様に対し、イロナは装甲をやや捨てて機動力を高めた近距離戦仕様。しかし総合的な機体の性能に大して差は無い。
戦場は平野か、市街地かといった具合に条件を変える事3度、時間無制限の一対一で戦ったが結局浅海の全勝で終わった。
ただ3戦全部終始浅海が押していたとはいえ圧勝とまではいかず、特に2回目の廃墟での戦いは間一髪で浅海がイロナの位置に気付けた事で勝った様なものだ。あれは本当に危なかった。
「いやいや、3本勝負って言ったのお前だろ。と言うか早く代わってくれよ、後がつかえてんだからさ」
「うう…わかったよ」
せめて1回は勝ちたいのか尚も戦おうとするイロナを、次に待つ同じ部隊の隊員が文句を言いつつも窘め、彼女も流石に自分だけが使い続けるのも悪いとわかっている為、シミュレーターから出て自室に戻ろうとした、が…
「…」
「…」
浅海もイロナと同じタイミングでシミュレーターから出て、向かう場所も同じ方向にあるのかイロナの後ろを浅海が付ける形となって、互いに一定の距離を置きながら歩き続けた。
彼女達も互いに無言で若干気まずい空気が流れる。そもそも2人がシミュレーターで戦う事になったのも、基地内でばったり出会った両名が数秒の膠着状態を経て、どちらからともなく対決しようと言い出し、先の光景に至る訳である。
少なくとも浅海は彼女に対して敵意なんて無いのだが、向こうは露骨では無いにせよ若干の隔意が感じられる。まあライルのおかげでこちらに戻った時、彼女は自分の事を疑っていた。今もそうなのだろう。
何せ敵の皇子と直に会った事があり、しかも彼の事が結構好きと告白した様なものだ。彼女じゃなくても自分を疑うのはある意味当然だと思うし思われても仕方無い。実際あれから彼女からではないが、面と向かってスパイか何かと言われた事もある。
それに彼女は自分への疑念以外にも、ライルに対する個人的嫌悪感も薄っすら滲み出ていた。そういえばロンズウォーでの初顔合わせでもそんな感じだった気がする。
自分はあまり深刻に受け止めては無いが、ライルに関する良くない噂も多々ある事は知っている。彼女はそれを信じているからこそのあの態度なのだろうか…いや、そう決めつけるのは早い、何せ彼女について何も知らないのだ。
あまり人の過去をあれこれ詮索するのは好きじゃないし、向こうだって触れてほしくない過去の一つや二つもあるだろう。それを考えると対面しても何を話せばいいのか、何が彼女の地雷になるのかがわからず言葉に詰まってしまう。
今まで身近にいたのは軒並み年上の人間だった分、彼女の様な年下相手だとどう接したらいいか、正直わからない…浅海は悩んでいた。
もし今の彼女の状態を海棠辺りが見ればある意味喜ぶのかもしれない。今まで余裕の無さから自分とそのごく周辺の事にしか目が向かず、ある意味では昔に戻りつつあった彼女だが、自分から進んで別の人間、それも同世代の人間と関わろうとしているのだから。
「まさか貴様が俺の下に来るとはな? どういう風の吹き回しだ?」
「そんな風に言わなくてもいいだろうがよ。アレだよアレ、自棄だよ自棄」
「着任早々仮にも上官に向けて言う言葉では無いと思うがな」
「今更部下達に品行方正さを求めるタチかよテメェは」
「…違いないな」
ゼラートは若干呆れながら目の前の髭面の男…元ギリシャ外人部隊所属ニコロス・ディアルゴス少佐と話していた。バンダナを付けて髭だらけの容貌は一昔前の賊かと言わんばかりの男だが、実力は確かである。
ロンズウォーの再編成の結果、ほんの僅かに残った部下達を連れて俺の隊に所属する事となった。元は一部隊の隊長だった分、こちらでも存分にその腕前を振るって働いてもらう事になるだろう。
着任早々の挨拶を終えた彼が去り、自室にはウェンディと2人きりとなる。
「…漸く再編成は終えたといった感じですね。今後すぐに戦う機会が来るのかどうかは未定でしょうが…」
「ああ、まあそう遠くない未来に一戦交えるだろうよ。ここで戦うか、下手すれば中華にまで飛ぶかもしれんがな」
「…ふふっ、楽しそうですね、中佐」
「楽しい? …ああ、そうだな。ある意味楽しいな」
ウェンディの指摘通り、正直今は心のどこかでこの現状を楽しんでいる自分がいる。今まではゴミクズ共に使役されて、自分がどう足掻いた所でどうにもならない理不尽な事も多く、自分でも正直現状を諦めて受け入れていた節もあった。
所詮世界なんざこんな物、どう足掻いても無駄、ならせいぜい無様な最期を遂げる事の無いようにと。
だが昨今の混沌とする世界情勢、色々と裏はあるにせよE.U.の楔から外れる時が来るかもしれない現状に対面し、一つの野望が浮かび上がって来た。「俺は一体どこまでやれるのか?」と。
結局俺の存在など大したものではなく、脇役程度の存在。あるいは身の程知らずで終わる可能性もあるだろう。だがそれでも試してみたいのだ、俺が何をやれるのか、何を残すか、どの程度の存在なのか…。
ある意味では現在の状況を作り出した連中には感謝しなければなるまい。でなければ俺は今も内心の諦めを誤魔化しながら、「外人部隊屈指の猛者」というどうでもいい肩書に満足していたのかもしれんのだから。
「お前はどうなんだウェンディ? いよいよドイツから離れて、生涯戻れない可能性もあるぞ?」
「狡いですよ中佐…私がどう答えるのかわかり切っている癖に…」
そっと自分の後ろから抱き着いた事で、彼女の双丘を背中越しに感じる。
「今更親も居ないし、親戚なんて居ないも同然…国がどうなろうともう知った事じゃない…だから…お願い……傍に居させて」
(ああ…そうだな……お前は周りから弾かれようと、決して死ぬことだけは選ばず、必死に自分の居場所を探していた……そんな姿がかつての俺と似ているからこそ、能力云々もあるが俺は彼女を放っておけず傍に置いていたのだったな)
そう、幼き頃にほぼ一人でE.U.に渡り、愚かさから誰とも馴染めず、同じ境遇の筈の人間達からも弾かれていた当時の俺も、必死で生き延びて自分の「価値」を求めていた。そんな俺と会った当時の彼女は似ているとまではいかずとも、他人事には思えなかったのだ。
今彼女は傍目に見ても俺に依存して生きているのだろうが、嗤う気は無い、というか嗤う権利も無い。俺も結局世界を変えるのは他者頼みにしていて、自分でどうにかしようとすら考えても無かったのだから。
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