[38010] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-20『動く世界』 |
- 健 - 2018年02月05日 (月) 19時00分
本国へ帰還したライル軍……その間にも世界は動く。エリア11を脱出したゼロはオデュッセウスと政略結婚する天子を誘拐、ブリタニアと中華連邦の同盟を阻止するために行動を起こした。
同じ時期に黎 星刻率いる武官達によるクーデターも起こっていた。ゼロはそのクーデターに乗じたのだ。
だが、大宦官もシュナイゼルと『ラウンズ』に協力を求めてゼロと星刻の二人を抹殺しようとした。しかし……ゼロは星刻が計画していた人民の一斉蜂起を利用し、大宦官の密約を人民にリークした。これまで不満がありながらも一定の支持を得ていた大宦官は自分達の地位のために主も民も国も売り払ったという事実を知られ、民衆の支持を失った。
民衆を敵に回したという口実でシュナイゼルも手を引き、中華連邦との平和的解決の道は閉ざされた。そして、大宦官は星刻によって粛正され、星刻達クーデター派がゼロと手を結んだ。これによって、ゼロは中華連邦を事実上掌握した事になる。
資料に目を通したライルは一息ついて、大宦官の醜悪さにあきれかえった。
「全く…領土の割譲と婚姻で爵位を得る……それで安い見返りとは。欲の深さなら母と良い勝負だな。」
全く、外国人の身でありながら爵位を得るなど……ブリタニアとの和平に積極的な各国官僚でもそうそう手に入るものではないのに。スザクは勿論…長野や秀作も名誉騎士候となるのに相当な苦労をした………
「『主や民など虫のように沸いてくる』か……死んで正解ね。」
優衣の容赦がない意見をライルは咎めなかった。全く、同意見だ。民無くして国は成り立たない…その民を集める理念も同じくらいに必要だ……こいつらはいわば自分達で国が成り立つと思っている裸の王様みたいなものだ。
「ルーカスやこの国の貴族共の多くもこうなのだろうか?」
「殿下…それ以上は背信を疑われます。」
フェリクスに咎められ、「分かっている。」とだけ答えた。
「でも……これで中華連邦との和平はもう無理ですよね?」
有紗がフェリクスや優衣の分のコーヒーも入れて、二人に渡しながら問う。
「ああ…今中華連邦は加盟国がバラバラになっている。皇帝陛下は中華連邦とも戦争をするつもりだ……」
「ええ!?まだ、E.U.が半分近く残ってるのに!?」
優衣が驚愕し、ライルも同じ考えだった。『ユーロ・ブリタニア』の疲弊もここまで来れば多少は埋め合わせが効く。だが……それでも兵力が枯渇している事に変わりはない。しかも、エリア11ではゼロの国外追放後もナナリーが和平路線を推し進め、イレヴン達の市民感情もナナリーには好意的な意見が多い。『特区日本』の失敗は痛手だったが、結果として不穏分子を国外に追放した事が途上エリアへの昇格にも繋がったのだ。
やはり……龍門石窟のような遺跡を手に入れるために?そこまでして何故あの遺跡を?V.V.の神を殺す契約と父上も繋がっている?
そう考えれば、機情がエリア11で不穏な動きを見せているのも頷ける。そうだとすれば、KMF一個師団が動かせる資金が裏で動いているのもそれ繋がりと考えるのが妥当だ。あのV.V.と皇帝がどういう繋がりかは分からない。だが……相当深いところで繋がっているのは間違いない。
あの人にも頼んだが、大丈夫だろうか?
楊 藺喂は安堵していた。あのクーデターに、第八皇子ライルはいなかった。たった一度会い、しかも少し抱き上げられただけで心を奪われた彼はE.U.にいた。彼と戦い、彼を殺さずに済んだ事…彼に殺されるような事にならなかった事が、今は天子の無事以上に嬉しかった。
私…こんなに自分勝手な女だったの?
「あの八番目が頭から離れないか?」
同志の趙 雷鋒に問われると、観念して「はい。」と答える。
「除隊するか?」
「!しません!まだ、星刻様に御恩をお返ししていないんです!!」
そうだ、星刻にまだ返すべき恩を返していない。だが、どうすれば?
ゼラートらも中華連邦の動向には注目していた。これでE.U.は既にチェックメイトかと思われたが、ゼロの介入によって情勢がまた変わった。
更に、ゼロを中心とした一派からは各国へ新たな連合国家の建国とその加入を呼びかけられている。
「ゼロは本気でブリタニアと戦争をする気だな……」
まさか日本を取り戻してそれで終わり、とは思ってはいなかった。しかし……只中華連邦やE.U.を味方にするのではない。それら全てを乗り越えた連合国家を作るつもりでいたとは。
「そのための合衆国日本か…」
「国力を考えればそうですよね……中華連邦も大宦官がいない今なら掌握も簡単でしょうし。」
ウェンディの分析通り、あの映像でゼロと星刻が大宦官から天子を守ったという事実がある。少なくとも、大宦官が繋がっていたブリタニアの敵というイメージ作りも成功している。
「しかし…星刻もだが、このゼロも恐ろしい男だ。」
現場での指揮官という意味では恐らく、星刻の方が上だろう。だが、大局という意味ではゼロに軍配が上がる。だが、一度はゼロを完全に出し抜いたという星刻…これだけの人材が中華連邦にいたとは。
「これだけの人材を確保するとは、ゼロも運が良い。」
美恵は久しぶりにアーネストと肌を合わせていた。E.U.戦線では流石に控えていたが、ルーカス軍の男達に言い寄られてうんざりしていた。
「どうせ他の男とも寝ている。」だ何だと言われ、アーネストの威光を使おうにも向こうは皇族の威光で攻めてくる。幸いそこはシルヴィオやアーネストが部下の男達をガードに回してくれたおかげで助かった。
私はアーネスト様の女よ…他の男なんか知らない。アーネスト様以外に良い人なんているわけ無いじゃない。
疲れ切った身体をアーネストに密着させ、彼の胸板で美恵の豊満な胸が形を変えた。
「お前…私にもしもの事があったら、どうするつもりだ?」
「縁起でも無い事を言わないでください…その時は、私も死にますから。」
「………では、仮の話だが…その時お前が私の子を身籠もっていたらどうする?」
「…え?」
アーネスト様の子が、できていたら?その時…アーネスト様が、死んでいたら?
美恵の思考が急に追いつかなくなった。アーネスト以外の男なんかいらない…アーネストだけで良い。彼が死んだら、もう生きている意味なんか無い。でも……アーネストの子を身籠もっていたら?
「え…え?」
分からない。分からなくなってきた。アーネストの子供…嬉しい……いや、欲しい。でも…?
「……意地悪な質問だったが、私だって死ぬかもしれぬ時はある。死んだらお前の面倒だってみられない………あの川村雛に言われて、そこが少し心配になってきたんだ。」
あの、女…余計な事を!だが…
「私、もし…アーネスト様が亡くなったら……!」
いや、そんなの考えたくない。
美恵はアーネストにより強く抱きつき、唇を吸った。
上海方面の基地で大宦官の密約を知った雷 斬利は失意に打ちのめされていた。確かに、大宦官の専横は許しがたいが、ブリタニアという国の脅威を考えれば最も被害を被るのは民だ。だから、大宦官に着いたというのに…まさか爵位を得る気でいたとは。
「私は…なんと愚かだったのだ。」
すると、同じ考えの武官が報告する。
「斬利様!星刻のKMF部隊です!!」
星刻が…背後には鋼骸部隊に竜胆から発進した航空部隊もいる。この基地の戦力でも太刀打ち出来るかどうか分からない。ここで将兵を、そして付近の民を巻き込むわけにも行かぬ。
「星刻に繋げ…投降する。」
「斬利様…!」
部下の一人が意見をするが…
「大宦官共は己の利益しか考えなかった!そんな輩に少しでも矜恃や政治に携わるものとしての心構えを期待した私に、更に恥の上塗りをしろというのか!?」
そう言われれば、彼らも大宦官の強欲さに抱いた怒りを思い出す。
「チェン・ツゥ・ツィー…」
答えた部下が回線を開いた。
星刻とは知らぬ仲ではない……せめて、部下達の命だけでも助けたい。それが斬利が指揮官としてすべき責務であった。
|
|