[38004] コードギアス 戦場のライル SIDE OF WARFARE『異端児の部下達』 |
- 健 - 2018年02月01日 (木) 21時39分
貢ぎ物の少女達を解放した後…ライル軍の男達は食堂の一室に集まっていた。ライルの方針から多少の育ちが悪い者、貴族出身者など様々な人種が揃っており、ヴェルドやコローレが仲介役を担ってからは彼らの軋轢は大分なくなっている。
「殿下…また貢ぎ物を解放されたのか?」
貴族出身者の親衛隊のパイロットが問うと、『フォーリン・ナイツ』の一人が頷いた。それを聞いた貴族はため息をつく。チラリと見たが、人種も様々で流石に高水準の顔、体型の女が揃っていた。ライルも娼館へ赴くことは止めない……本人はその方面にかなりの苦手意識を持っているが、その程度は好きにさせている。だが、トラブルを起こせば容赦がない……飴と鞭を使い分けるタイプだが、その使い分けが上手くない。
更に噂になっている彼の侍女や騎士、婚約者に加えて付き合いの長いクリスタルや秘書になったイレヴンの少女にも手を出していないという。ここまで奥手だと何か欠陥を抱えているのでは、と疑われそうだ。
「もう、慣れたから文句も言うまいが…少しは受け取らねば相手の機嫌を損ねかねんぞ。」
「受け取ったが、お気に召しませんでした…ってやつじゃないの?」
何という子供の屁理屈……だが、彼は親衛隊では古株に位置し、あの事件のことも知っている。
「流石に面と向かっていうことはできぬが、いつまで引きずっておられるのだ?」
庶民ごとき、掃いて捨てるほどいるのだから等とは言わない。あれだけ荒れたライルを見れば、言う勇気などなくなる。それだけライルの心に深い傷を負わせたということだ。
「そういう意味じゃ、あのイレヴンの女達で何とか紛らわせて欲しいものだね。」
庶民出身の下品な例えに周囲は苦笑、或いはまたため息をつく。
「あの方は女に関しては度が過ぎるほどに過保護だ……老人や子供でも相当だがな。」
とにかく、彼らにとってライルに問題点を挙げるとすればそこだった。正に度が過ぎるのだ。ブリタニア人の彼らは皇帝の言葉を支持しており、ライル自身もそれをある程度認めている。だが……私利私欲を満たすためにそれを方便とする人間…それこそ捕虜や民間人への虐殺、略奪、暴行などこの軍では御法度だ。彼をそういった人間への敵意は常軌を逸している。ヘタをすれば、自分達も斬られかねない。そう思ったことも何度かある。娼館へ行くのを許したり、現地でトラブルを起こさなければ市街での外遊を許しているのもそういったガス抜きのつもりだろう……悪い人間ではない。それは全員の共通認識だが、少々潔癖が過ぎて…それ故にエリア11で暴走したと聞いている。
すると、ヴェルドが口を開いた。
「まあ、そんなだから俺らはほっとけないのよね。」
「付き合いも長いし……放っておいたら自分の首も斬りかねないからな。」
コローレもライルの危うい面を知っている。
「これだけ気にかけてくれるご友人を持って、殿下は幸せ者ですね。」
『フォーリン・ナイツ』の感想にヴェルドが「おいおい。」と窘める。
「いくら俺らが友達思いでも……あっちばっかり女の子にもてて、俺らは駄目なのよ?ウチの女の子だけ見てもどうよ?」
それを言われれば、独身或いは恋人がいない男達は若干気が滅入った。そう、とにかくこの軍に多くいる女性もどういうわけかライルに靡き、他にもイレヴンの哀沢幸也、或いはブリタニア貴族のフェリクス・D・ヴィオレットに気がある女性が多い。挙げ句の果てに既婚者でライルと親子ほど年齢差のある長野五竜やゲイリー・B・クレヴィングだ。
「お二人の場合は自業自得でしょう?」
一般KMF隊のパイロットに指摘され、ヴェルドとコローレはうなだれた。
「品の悪さもご愛敬になるでしょ?」
「悪すぎれば嫌われます…」
畳みかけられ、二人は更にうなだれた。
同じ頃……女性陣も別室で集まっていた。
「殿下、また解放したの?」
「ええ…まあ、同じ女としては良いんだけど。」
庶民出身のパイロットと、衛生班の兵士がライルが返した貢ぎ物の事を話していた。
「はあ…私も何度か殿下にアプローチかけたけど、すげなく断られたの。」
すると、貴族の令嬢がため息をついた。
「私も駄目だったから……あのイレヴンやスレイダー卿にも手を出していないらしいわ。」
あの二人にまで?彼女らも高水準の容姿と体型だが、有紗やクリスタルを前にすると、些か自信を無くす。あの誘拐でいざこざがあって、進展したというが未だにキス止まりだとも聞く。
クリスタルさえ超えるべきところを超えないとは……それでは自分達など望みがないではないか。
「ねえ…殿下じゃなければ誰がいい?」
庶民の少女の問いにナンバーズ出身の少女が数秒うなり…
「武石良二?財閥のお坊ちゃんだっていうし、ちょっと喧嘩っ早いけどそれさえ除けば申し分ないじゃない。」
「玉の輿という奴ね……そうね、私は………ヴィオレット卿かしら。知的で良いじゃない。」
貴族出身者の解答は分かる。知的…確かに、容姿も良いし落ち着いていて、ライルの頭脳役だ。しかし……彼に恋愛のイロハがあるかどうかは少々疑問だ。
庶民出身の女性の回答は哀沢幸也だ。以前、少しからかってバスタオル一枚で出たら酷く狼狽え、パニックを起こした。あのリアクションが面白く、そして少し可愛かった。
「でも…イレヴンでいうところの『取らぬ狸のなんとか』よね。」
「『皮算用』ね……はあ、なんでウチの男って殿下もだけどこう気難しいのが多いのかしら?」
「ご愛敬といえばそうなんだけどね…」
「でも……ナンバーズ出の私達にとっては、ちゃんと真っ当な職場で働かせて貰えるんだし、文句言いだしたら切りないわ。休憩終わり。」
「はいはい…」
ゲイリーは長野とウイスキーを飲みながら、ライルの方針を語らっていた。
「また返されたのですか……らしいといえばらしいですね。」
「まあ……度が過ぎるというか、何というか………慣れたな。」
ここまで来るともはや恒例行事だ。しかし…貴族として言わせて貰うのならば、この際有紗や優衣でも良いから関係を持つ女はいてもいい。有紗は欲がないし、優衣に至っては馬鹿正直なほどにライルに好意を向けている。ライル本人も二人にはむしろ好感を抱いている。特に、有紗など多くの人間が察している。
「年長者として厳しい意見をすれば、いつまで死んだ女の事を引きずっておられるのか……殿下ご自身のためにも、飯田達のためにもならぬ。」
その言葉に長野も「たしかに…」と頷いた。そう、気持ちは分かるし、あの荒れ様を見たゲイリーは庶民ごときなどとは言わないし、見ていなくてもその暴挙は許しがたいものだった。しかし、不用意にそう言ってしまった幕僚の一人にライルは斬りかかったのだ。幸い、かすり傷で済んだものの、しばらくライルは撃つか、斬るのどちらかやりかねない程に敵意を向けていた。落ち着くのにもかなり時間がかかり、今は互いにその軽率さを反省している。
「全く、畑方と言い殿下と言い…我が軍の若い者は扱いが難しすぎる。」
「それ……半分以上は貴国のせいですよ?」
長野の糾弾にゲイリーは言葉に詰まる。そう、侵略者の自分達のせいだと露骨に、しかも家族のために軍門に下ったとはいえ元敵国軍人に言われれば、耳が痛い。
「お前…良い性格だな。」
「褒め言葉として受け取ります……しかし、実際にあの年頃の男は難しいですね………悪く言えば女々しいですが。」
「ああ……大の男が何時までいじけているのやら………あそこまで好いてくれる女が大勢いるのに、勿体ない。」
全く…我ながらとんでもない息子が増えた気分だ。しかし…悪い気はしなかった。息子達を縛り付け、殆ど構ってやれなかったからだろうか?
ゲイリーはそんな思考をして、長野にウイスキーをもう一杯注いだ。
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