[37998] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-19『本国へ…』 |
- 健 - 2018年01月31日 (水) 10時07分
ゼロの国外脱出後…事態が事態故にライル軍も一度本国へ帰還することとなった。シルヴィオとエルシリアも後から帰還することとなっている。ルーカスも無論帰還する予定だが、ライルはマリーベルの暴走が気がかりであった。あのまま彼女を放置していたら、ヘタをすれば、それこそエリア24総督の権限から外れた暴挙に出て、フランスへの攻撃をしかねない。だが……今は少なくともノネットが睨みをきかせているし、レオンハルトとティンクも今はノネットと共にライアー…或いはオルドリンを追っている。主要騎士を欠いていたのでは、いくらマリーベルでも不用意な行動はできまい。
そして、ライルはフランスの和平派から脱走した兵士達のリストを受け取っていた。
その中には先日…パーティーで会ったあの美女の顔もあった。
「やはり、か…」
彼女のようなタイプがあのまま貢ぎ物同然の状況に甘んじるとは思っていなかった。だが……彼女もそうだが、ライルはエリア11で逃した敵やドイツの外人部隊の指揮官に注目していた。
「報告には聞いていたが、彼らもやはり脱走組か。」
池田誠治、海棠龍一、そして……イタリア所属で正規軍とパイプを持つ行村鷹一……
この行村という男……日本軍時代からかなりの悪行が目立っていたそうだな。
海棠の組織にこの男がいたという情報もある……恐らく、あの一般人からの通報というのもこいつが原因だろう。海棠が船の乗員を見逃したのを考えると、敵ではあっても海棠が不憫でならなかった。こんな男を部下にしてしまうとは……だが、これでは『日本解放戦線』が追い出すのも頷ける。自分が片瀬の立場でもそうするだろう。
幸也は回された資料を見て、端末がひび割れるほど強く握った。
「こいつ……!こいつだ…!!」
忘れもしない、あの男……あの時、あの言葉……!!奴の顔だけは忘れていない!!あの、ブリタニア軍人は既に別の戦場で死んだという…!!だが、こいつは生きていた!!
「殺してやる…絶対に殺してやる…!奴だけじゃない……奴の味方も、肩を持つ奴も……国も…世界も……全て殺し尽くしてやる!!」
そうだ!!正義なんて物を掲げる輩がのさばるのならば、世界その物を滅ぼせば良いんだ!!そのためなら俺は外道にも悪魔にもなってやる!!正義を掲げるクズ共を皆殺しに出来るのなら世界だって滅ぼす!!
秀作もまた、端末を見ていた。そして…ライルが返したというイレヴンの女…それがあの新型KMFソレイユのパイロットだったという。
「何故、ライルはあの女を逃がした?あの女は俺にとっては魔物……奴にとっても敵だ。」
隣にいたゲイリーに聞くと、ゲイリーも唸る。
「お前も殿下が女に甘いのは知っているだろう?」
「ああ…少なくともあの突然変異の雌共には過保護なのはもう分かる。で?」
「……ある事件が原因でな………殿下はあの年頃の女に過保護になったのだ。」
トラウマ、か。
「殿下は昔、庶民出身の女に心を寄せていた。だが…その庶民の女は実績を妬まれて殺された。」
そういえば…聞いたことがある。レイがいなければ今でも彼女が親衛隊の隊長になっていたであろう事も。
「恋慕という感情を庶民に持ったのか?」
「…そうだ。お前と手今それを持っている相手がいるではないか。医師達から聞いたぞ。」
また?何故、そうなる。
「おい、何故そうなる……この俺がそんなまやかしを持つわけないだろう。」
「……セラフィナ様のことを考えると落ち着かないのでは?」
セラフィナの名前が出た途端…秀作は急に言葉が出なくなった。
「写真の一枚でも欲しい、と思うのでは?」
何故か、痛いところを突かれた気分だ。図星…という奴か?
「おい…まさか後見人の立場を利用して、俺を陥れるつもりか?」
「何故、そうなる?良いか…それは恥ずべき感情では無い。お前が本当に人間として存在している証拠だ。」
「俺は生まれていない…セラは俺が復讐のために生まれたなどと言っていた。だが…」
「姫様をそうして呼び捨てにしたことを咎めるべきなのだが…まあ、良い。そう言ってくれたセラフィナ様にはライル殿下と違った意味で気を許しているのでは無いか?」
「………ああ、少なくともライルとセラだけは別格だ。」
すると、ゲイリーが表情を緩くして紅茶を飲む。
「良い傾向だぞ…本当に。息子達にもこうして話すべきだったのだと、つくづく後悔する。」
何故、悔やむ?親らしいことをしていたではないか。そして…殺意こそ向けられていないようだが、嫌われている。親とはそういう物のはず。なのに…何故?
「やはり…親という物は俺には理解出来ない。あんたも長野も……何故家族などという物にそこまで執着するのか…」
そして……ライルが女に過保護なのも分かったが、理解はできない。何故、ブリタニア人なんだから魔物共の雌など好きに蹂躙すれば良いのに。
ゲイリーは息子達の埋め合わせのように後見人を務めている少年の傾向を確かに快方と捉えていた。最初に編入された頃の秀作はとにかく、雛が問題にならないくらい酷すぎた。KMFで出ようとすれば、長野を撃ちたがり、ゲイリーどころかライルの命令さえも無視して民間のイレヴンや降伏したテロリストを殺そうとした。
だが…今はある程度命令にも耳を傾け、たまにだがこうして他愛の無い会話をするくらいにゲイリーに気を許している。後見人を引き受けてから、屋敷でも食事で同席してきた賜だろう。
「……身分を弁えろ、と言うべきなのだが…お前がセラフィナ様に抱いている感情。言っておくが、それは人間のプラスの感情の一つだ。お前はちゃんと人間として生まれて、進歩してきている。」
「俺が、人間だと?」
「そうだ……お前のあり方を認めない者を殺し尽くすのはもう止めない。だが………少なくとも、私や殿下、セラフィナ様はお前を『将軍の孫』ではなく、一人の人間として扱っている。それは分かってくれよ?」
「……ああ。」
「というわけで、本国に戻ることになったの。土産は一応ウチのお坊ちゃんが取り寄せたって紅茶と茶菓子と平凡な物だけど、あるから。」
〈そうですか…わざわざありがとうございます。〉
ウェルナーと電話で話ながら、雛は不思議と心が安らいだ。何故だろう…彼と話していると、他の同僚達とは違った安心感がある。
「あんた…ちゃんと歩行訓練とかしてる?」
〈ええ……大分歩けるようになりました。最近は小走りもできるくらいに。〉
「……そりゃ良いわね。でも、やりすぎて元の木阿弥、なんてのは面倒見切れないからね。」
ウェルナーがクスリと笑い、〈気をつけます。〉と返す。
「んじゃね。」
電話を切り、雛は久しぶりにウェルナーと会えるのが少し嬉しかった。思ってみれば、あれ以来友人とははぐれ、死んだ者も多いし……自分が生きるために何でもしてきたので、そんな感情捨て去っていた。だが………ここに来て、同じ名誉の同僚や人種を気にしない酔狂な主君、あの箱入り坊や。
「ああ…私、腑抜けになったのか。」
文句の一つでも言ってやろうか、と思ったが……少なくともあの箱入りには言えない。と諦めた。
ブリタニア本国、ある屋敷にて……
「では、よろしいのですね?」
「ええ…あの者達を対処するのは私の務めです。」
30代後半から40代半ばと思われる男女が紅茶を片手に何かを話していた。社交辞令、とは違う。謀略だ。
「これで安泰ですね、お互いに。」
「ええ…これも親の務めですわ。」
貴婦人が優雅にほほえむが、その目は我欲に染まりきっていた物だ。貴婦人…ライルの母シェールは優雅に紅茶を一口飲んだ。
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