[37990] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-18『百万人の仮面…後編』 |
- 健 - 2018年01月27日 (土) 01時05分
百万人の日本人全てがゼロになった。これはゼロの素性を誰も知らない以上、全てを国外追放するしかない。だが…百万人を移動させる手段などない。と思われた時、中華連邦の海氷船が式典会場にやってきた。そう、彼らはあれで逃げるつもりなのだ。
状況を見ていたライルも肘掛けを握る。
ゼロ、ここまで周到に中華連邦と話を進めていたというのか?総領事の高亥は死亡したという報告もある。となれば、随行している武官…黎星刻という男だろう。
しかし、ライルはそんなことよりも今はこの式典の行く末の方が気がかりだった。今ライルが願うのはたった一つ……またあの惨劇が起こらないことだった。
状況が動いた。総督補佐のスザクが彼らを不穏分子として扱い、国外追放処分にすることとした。つまり……見逃すということだ。あの百万人ごとゼロを。
だが、ライルは安堵した……
「よかった…」
思わず口にでてしまった。皇族にあるまじき発言だ……だが、誰も咎めようとしなかった。その結果が何を生むのか理解しているからか、それともライルの性格を知っているし…言うだけ無駄と半ば諦めているのか。だが…ライルは今は百万人の命が救われたことに、その采配をしたスザクに感謝した。
「安心しているところに申し訳ありませんが、この策をどう思われますか?」
フェリクスの問いにライルは我に返り、表情を引き締める。
「この策…枢木卿が発砲を許さない、という前提条件がなければ成立しません。」
そう、もしこれがスザクではなくギルフォードやナナリーの補佐であるアリシア・ローマイヤであればどうなっていたか分からない。
「ゼロ…スザクが発砲命令を出したらどうするつもりだったんだ?」
良二も食堂でゼロのこの策に不可解なものを感じた。スザクにとってもユーフェミアの仇でもあるゼロを…見逃すなど。だが、スザクの性格からしてあの百万人を皆殺しにするなど出来るはずもない。そんなことをしたらまた『虐殺皇女』だ。
「まさか……ゼロは枢木卿のことをよく知っている?」
ライルがつぶやいた疑問は正にそれだ。これは、正しくスザクを信頼しているからこそ出来た作戦だ。でなければ本当に自分だけ逃げた方が遙かに楽だ。
だとしても…どうして枢木卿のことをそこまで信頼出来る?一体、何がある?それほどまでにスザクを信頼する…人間……
ユーフェミア、コーネリア、シュナイゼル、ナナリー……ナナリー?
ナナリーはスザクとは日本時代に知り合ったというし、あの藤堂とも会ったことがあるという。つまり……いや、そんなはずはない!きっと、良二のように藤堂の元で武術を学んでいた誰かだ。そう、そうに決まっている。
だって、あんなに仲が良かったユフィを…クロヴィス兄様を殺すわけないじゃないか。
ライルは必死にそう言い聞かせた。認めたくないからだ……ゼロが、彼であるということなど。
それからすぐであった。ピエルス将軍殺害と一部フランス正規軍の脱走が報されたのは。だが、ライル軍…否、ブリタニアにとっては今やそれどころではない。ゼロが不穏分子や団員と共に中華連邦に 逃げてしまったのだ。
こうなってしまっては迂闊に手を出すことが出来ない。只でさえ、総領事館という場所に立てこもられて手をこまねいていたというのに、これでは本当に厄介なことになる。かといって、強固手段に出れば中華連邦との戦争だ。せっかく政略結婚まで行き着いた外交努力も無駄になるし、ほぼ半分を失ったとはいえE.U.もまだ健在。
一件、勢いづいているブリタニアも『ユーロ・ブリタニア』の疲弊による本国戦力の困窮に加えてゼロ復活による各地のテロ活発化を方便とした正規軍の略奪にも対応を追われているのだ。どうしても後手に回りがちだ……だが、ゼロと中華連邦の対応については方法が一つだけある。シュナイゼルのことだからすぐにそれを実行に移すことだろう。
そう結論づけたところでライルは他にもいくつか妙な話を聞いており、通信越しでエルシリアとセラフィナ、シルヴィオと話し合っていた。
「ここ数年…KMF一個師団は確実に動かせる予算が裏で動いている話、ご存じですか?」
〈ああ、私も聞いている。エリア24でもヴィンセントの予備パーツが大量にある点をブラッドリー卿が疑っていた……先日、その疑問は解決したがな。〉
シルヴィオの解決とは最悪な結果だ。エリア24最大の犯行勢力『マドリードの星』を殲滅した後、マリーベルはヴィンセントだけで構成された部隊でゲットーへの虐殺を始めた。とにかく、投降も認めずに徹底的…もはや統治などではない。只の虐殺だった。以前から大量のKMFを秘匿しているという噂はあったが、ここまでとは。側近のシュバルツァーも相変わらずだ。
〈それとは別だ……どこへ回っているのかは分からない。〉
〈…『プルートーン』の可能性は?ここのところ、あそこが勝手に動いているという事ですが。〉
『プルートーン』は汚れ役専門の部隊……ジヴォン家の当主がそれをまとめ、現在はオルドリンの叔父オイアグロがその隊長を務めている。その彼自身も何か裏で動いているというが…『プルートーン』の活動記録を探っても中々掴めない。只、オイアグロの指揮下から度々外れているようなのだ。
〈皇族にも気付かれないように『プルートーン』を動かせる者……そのような者が存在するのか?〉
エルシリアのいう通りだ。『プルートーン』は部隊維持の予算を皇族から受け取ることで成り立っている。だが、優れた経済手腕を持つオイアグロが隊長になってからは予算が充実して、その必要が無くなってきている。そのオイアグロも時折認知していない動きを見せているという。
〈何者かは知りませんが、ブリタニアの相当深いところに食い込んでいる、ということですよね?〉
セラフィナの問いにシルヴィオが頷く。そして……
「これ以上の通信はやめましょう。それだけの相手ならば我々の動きにも気付いている恐れがあります。」
ライルの進言に三人は頷き、モニターが切られた。息をついて、有紗にアイスティーを入れて貰う。
「大丈夫ですか?」
「ああ……」
が、口で言うほど大丈夫でもなかった。あのV.V.とやらの契約……エリア24でも発見されたという天領と同じ紋章の遺跡……エリア11で未だに不穏な動きを見せる機情……『プルートーン』の動き……マリーベルの暴走……そして、突然帰還して筆頭騎士ライアーを殺したというオルドリン……
今一番気になるのはオルドリンの事だった。先日、監視のためにノネットが派遣されたのだが…それから間もなく、オルドリンが突然ライアーを殺したと宣言し、飛び出してしまった。問題はその時の状況だった。ライルはティンク・ロックハートやレオンハルト・シュタイナーに話を聞いた。
その中でも、ティンクの話が妙だった。彼は事故により左目が機械仕掛けの義眼になっている。それによると、彼の生身の眼では確かにオルドリンだったはずの人物が…機械の義眼ではライアー自身になっていた。しかし…声から背丈まで何から何までがオルドリンだったという。
どういうことだ……まさか、ライアーは幻覚を見せる超能力を持っているとでもいうのか?
あまりに突飛な話だ……だが、ライルはそれが事実である可能性を疑っていた。V.V.によって引きずり込まれたであろうあの空間と孤独になる代わりにする契約……天領……突然のマリーベルの暴走とそれに諾々と従うシュバルツァー……そして、ユーフェミア。
全てがそんな能力による物である……そう考えれば説明がついてしまうのだ。
何が起こっているんだ?一体……
ライルは本国にいる彼に頼んで機情と繋がりがある外部の組織、天領の関係も探って貰っていた。一体何を目的に皇帝は各国に侵攻させるのか、それを突き止めるために。
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