[37982] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−11 一寸先は…』 |
- Ryu - 2018年01月24日 (水) 17時18分
突然の事であった。戦闘を終えオルレアンの駐屯地に戻りほんの一時の休息を取っていると正規軍の連中、それもこの連隊所属の人間でなくパリの本部所属の人間がぞろぞろやって来た。しかも武装した状態で。
自分の隊の隊長が呼び出され、どういう事か説明されていた様だが、途中でその隊長は声を荒げて今にも説明役の士官に掴みかかろうとしていた。コイツらが来た時点で嫌な予感しかしなかったが、いよいよロクでもなさそうな内容だ。
しかし次の瞬間、一発の乾いた銃声がその場に響き、同時に隊長が脚を抑えてその場に蹲った。ズボンを血で赤く染めながら。
この光景に外人部隊の皆が殺気立ち、というか今にも暴れ出そうとするも自分達に向けられた多くの銃口を前に、抑えざるを得なかった。そんな自分達に対し、負傷した隊長を無視して正規軍の士官が偉そうに言い渡してきた。
曰く「もうお前たちは自由だ」「ただし一部隊員には恒久和平の為の新たな任務に従事してもらう」との事だった。
もうどういう意味かは説明不要だ、要は「お前たちは用済みだ」「ただし一部は俺達の為に生贄となれ」と言っているのだコイツは。
この発言に一人の壮年の隊員がKMFに乗ろうと走り出すが、目ざとく見つけた正規軍の連中の銃が火を噴いた。背後から撃たれた彼は背中から大量の血を流してその場に倒れた…まだこちらに駆け寄ろうとする隊長と違って、ピクリとも動かない。
これ以上すれば次はこの場にいる全員がああなりかねない。どうでもいい事には全力を尽くす正規軍の事だ。既に自分達の軍籍は抹消済み、既にいないも同然の人間……死体が増えた所で「先の戦闘での戦死者」とでも言うつもりだろう。
結局皆一ヶ所に集められ、身に着けている銃やナイフといった武器を全て没収され、文字通り身一つでこの駐屯地から叩き出された。ただし2,3人の若い女性隊員はその場に留め置かれた。
彼女達がどうなるかはもうわかる。ブリタニアの皇子の貢物にされるのだろう…送り先が第五皇子ならもう完全終了と言ってもいいだろう。第八皇子ならひょっとしたらワンチャンスあるかもしれないが。
何せ前者から解放されるのは死ぬときぐらいだが、後者は「虐殺皇女」に代表される冷酷無慈悲なブリタニア皇族の中で珍しく、捕虜に対して人道的な処置、「貢物」に対しても手を付ける事無く親元に帰すといった行動が噂されている。
まあどうなるかわからない彼女達の事より、まずは自分の今後だ。もう公式上には「存在しない」人間になってしまった。E.U.の一般市民としても生きられない。アングラな世界に飛び込むしかないだろう。
故郷に帰りたくても帰れない。故国スペインは現在「殺戮皇女」の暴政下にあり、風の噂によれば故郷も焦土と化したらしい。
ああ、本当にどうしようかな……。
正規軍の連中に集められた自分達は、オルレアンの基地からそのまま皇族達が泊まるホテルへと連行されていった。
自分が所属する隊からは2人、ただし別々の車に乗せられたという事は、最低でも2人の皇子…第五皇子ルーカスか第八皇子ライル、この二人の内のどちらかという事だろう。
どちらかの皇子が利用するホテルに到着し、最上階のある部屋まで連行されると、ベッドの上にある衣装が目についた。はっきり言って悪趣味で露出過多な、中東の踊り子が着るような代物だ…。
自分を連行した軍人が厭らしい目で「それに着替えろ」と言って寄越した。しかも自分はその場から去ろうとしない。目で「外に出ろ」と伝えても、相変わらずニヤニヤした表情で「監視だ」と言ってその場から動こうとしない。
もし今手に武器があるなら迷うことなくこのアホ面に叩き込んでやるのに…でもそんな事してもここからは逃げられない。エレベーターや非常階段には脱走防止の為の警備の兵がいるからだ。
あまりの屈辱に身を震わせながら、結局その場でその衣装に着替えた。一応スタイルには自信があるが、こんな所でこんな衣装を着てこんな奴に終始視**(確認後掲載)されても何一つ自慢にならない。というかこんな身体だったからここに連れて来られた様なものだ。
そのまま同じフロアの一番広い部屋まで案内された。自分が着替えた部屋から目的地となる次の部屋までそんなに離れていない筈だが、果てしなく遠く感じた。
警備の兵からも嬲る様な目で見られ特上のスイートルームに入ると、やはりと言うべきか同じような格好をした年頃の若い娘たちが集められていた。皆肩を震わせ、一言も喋らない。
その後も一人、また一人とこの部屋に女が送られ、最後の一人と思わしき娘が入ると部屋の電気が消された。
それからしばらくすると、部屋のドアが乱暴に開け放たれた……さて、どっちだ?
せめて第八皇子であって欲しい……彼女の願いは届かなかったのか、入って来たのは5人の男性。その中でも最上位と思わしき男の顔を見た瞬間、彼女は全てが終わった事を悟った…。
「ほう、見た目はまあまあ良いのが揃っているな」
「はい殿下、しかしこの度はご相伴にあずかり光栄です!」
「ハハッ!さぁて女達よ喜べ!このルーカス・ズ・ブリタニアがじっくりと可愛がってやる!」
彼らの発言ももう耳に入って無かった…自分は50%の確立で地獄を引き当ててしまったらしい…。
フランス政府に提供されたとある軍基地……現在ルーカス軍の面子が駐屯地として利用していた。
ルーカス軍でベルサイユ宮殿で行われている祝賀会に招かれたのは彼以外に騎士たるフィリア、親衛隊隊長のエイゼルと護衛に親衛隊所属の隊員2,3人である。
親衛隊副隊長のギースを始め、留守番役に回された主要幹部格の面子の多くはこの基地に到着してからというもの、各々に用意された部屋に籠りっきりである。時折部屋の中から女の声も漏れ聞こえるがいつもの事である。
彼らの様に自前の『所有物』を持たない者以外は、基地内で暇を持て余して酒に奔るか、雑談に花を咲かせるか、持ち込んだ携帯ゲーム機を使うかのどれか…基地内にある士官用に用意されたバーでは現在、2組の男が酒を飲み交わしていた。
「とりあえず乾杯といこうぜ、戦利品が無いのは寂しいがまあまた次があるだろ」
「ああ、そうだな」
「しかしライル殿下もホント勝手だよなぁ、部下には禁じているくせに自分は理由付けては女侍らせてんだから。まだウチの殿下の方がわかりやすくていいよなぁ」
「まあ確かにな」
「…あ〜あ今頃我らが殿下やランディス卿はお楽しみ中かぁ〜まあ回転率早いからいつかはこっちに回されて来るだろうけどよ〜」
「………」
「…おい随分と反応悪いじゃないか、どうした?腹でも下したか?」
「お前こそどうした。色々喋っているがさっきから全然飲んでないだろ」
先程から少しも飲まずグラスを凝視したままの男に対し、喧しく騒いでいたもう片方の男が少し心配そうに声を掛けた。
「いや、俺の従弟がな、戦死してしまってな……昔から知っている奴だった分ちょっと、な…」
「…そうか、先鋒の外人共妙に強かったからな。まあ運が悪かったとしか…」
「殺したのはランディス卿だ」
「は?」
突然のカミングアウトに虚を突かれポカンとする同僚を尻目に、尚も男の独白は続く。
「一時撤退する際、ランディス卿に向けてKMF用ランスを投げつけた奴が居てな、それに本人がすぐ近くにいたKMF…俺の従弟が乗ってたんだが、それを盾にして…この目で見たのさ」
「………」
「コクピット直撃で即死、あっと言う間だった」
「…まああの人前々からそういうの多いというか、何と言うか…」
「お前はどうなんだ?そっちは殿下に見殺しにされて死にかけたのか?」
そこまで言って初めて酒を口にした同僚に対し、相方はポツりと話した。
「いや、まあ俺は少なくとも死にそうにはならなかった…だけどな、こっちはこっちで見て聞いたんだよ」
「?」
「ホーリング卿がライル殿下に敵もろとも発砲して、あまつさえ『本当なら今殺したい』って言ったのを」
「!? おいおい流石にそれって不味いだろ!?」
「ああ、奴の腕前考えるとコーネリア殿下やエルシリア殿下みたいな器用な事絶対無理だろうしな。確信犯だろうさ」
「………」
「ルーカス殿下とライル殿下はもう一触即発だし、ランディス卿といいスタッカート卿といいホーリング卿といい、何かとあっちと因縁があるらしい面子が多いし……」
お互い黙りこくったままグラスに視線を移す。
「なあ、俺達……このままでいいと思うか?」
「……何今更言ってんだよ。今更転属願いでも出そうって言うのか?無理だよ、どこも拾ってくれねぇよ……」
そう、自分達も今まで散々ルーカスやエイゼルのお零れに預かり、美味しい思いをしてきたのだ。ルーカス軍に所属してから一度だけ本国に戻って実家の社交界に出席したが、もう酷いものだった。
招かれた客人の多くからは白い眼で見られ、家族からもなおざりな対応をされ、暗に「二度と我が家の社交場に出るな」と言われたのだ。士官学校時代の同期の多くからもいない人扱いされているのだ。最早手遅れかもしれない。
その後は気を紛らわせようと浴びるように酒を飲み、結局酔いつぶれてその場で寝入ってしまった。夢の中では良い事がある事を願い。
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