[37980] コードギアス 戦場のライルB2 SIDE OF WARFARE『革命の末路と世界』 |
- 健 - 2018年01月24日 (水) 15時01分
『ロンスヴォー特別機甲連隊』はイタリアとドイツの元で再編成を計っていた。とはいえ、実態は今までと変わらない。違うとすればフランスの反主流派が外人部隊枠として編入されたことだけだ。
「おい、本当に良いのか?階級は流石にそのままのようだが…」
ゼラート・G・ヴァントレーンの問いにクラリスは特に意に介さなかった。
「ええ、自分から逃げ場を断ったの。背水の陣ってやつよ。生かしておいても何をするか分からないしね。」
「そうじゃなくて……仮にも親父さんでしょ?」
海棠の問いにクラリスは睨み付ける。
「ええ、そうだったわ。でもね……いざやったら、何も感じなかったの。悲しさのあまりに何も感じないのか、それとも最初からそうだと思ってなかったのか…」
まるで空気を掴むように手を握るクラリスに池田も何も言わなかった。マスカールも家族共々亡命が適って、階級や待遇もそのままだ。イタリアとドイツの主戦派が優秀な軍人である彼らを取り込もうとしているのだろうが、もう意味のないことだ。事態の深刻さを理解している主戦派がいくら本気で対処しようとしても、既に遅い。中華連邦も既に政略結婚が目前だし、上層部は相変わらずだ。
これでは…本当にゼロに頼るしかないのだろうか?
現実的に考えるのであれば、部隊が丸ごと『黒の騎士団』に合流することだ。しかし、池田はゼロを信用しきれなかった。面識がないのに、信用などとお笑いぐさだが…実際にゼロが関わった事件には不可解な要素が多すぎる。
これに関しては海棠やゼラート、マスカール、バルディーニといったこの腐敗した国では真っ当な彼らは揃って同じ意見だったのだ。それは、目の前の彼女も同意見だという。
ライルに貢がれてから少し日が経ち、浅海はオランダ州軍外人部隊の面々と再会出来た。他は分からないが……少なくともライルと同じような考え方の貴族に貢がれた同僚の少女達は市民として保護されているという。
「無事で良かった…」
「何も…されなかった?」
十以上離れた上官や歳の近い同僚達が浅海の帰還を喜び、無事を確かめる。
「大丈夫……」
だが、イロナが疑いの目を向けた。
「そう言うように仕込まれたって事はない?洗脳してるとかって噂はどうだか知らないけど、女をたくさん侍らせてるんでしょ?何か色目を使われるとかで丸め込まれた…」
「彼はそんな人じゃないわ!」
自分でも驚いた。ここまでライルを…敵を弁護するとは。ドイツのゼラートが鋭い目で問いかけてきた。
「会ったことがあるのか?」
思わず身構える浅海にゼラートが「口外しない。」と答えて周りを睨む。事実上の箝口令を敷くという意味だ。最も、彼ら外人部隊やそれに偏見のない少数派の彼らにとっては箝口令でも何でもない。あの腐った連中に変な方便を与えない、それだけで充分だった。もっとも、あいつらにそんな知恵があるかも疑わしいというのが彼らの共通認識でもあった。
「……エリア11…日本で会ったんです。その時…私を見逃してくれて…」
「気に入った女だから?」
イロナの邪推に同僚のアレクシアが足を踏みつけた。
「…違うの……むしろ、気に入ったのは私が、だから…」
アサドが「おいおい…」と呆れる。だが、浅海はそれを意に介さずに続ける。
「あの頃の私…彼を日本人を操る悪魔と思って……でも、直接会って…名誉ブリタニア人の人達が家族や自分のためになって…彼に『魂や誇りだけ大事にして飢え死にや病死をすれば良いと思ってるのか?』って聞かれたの。」
「正論ね…しかも侵略者側が見てるなんて。」
ウェンディの指摘にゼラートも「愚か者共には分かるまい。」と同意する。そう、自分もその愚か者だった……独立さえ適えば何でも解決する。そんな甘い考えだった…でも、彼はもっと甘い。それでも……目を向けて、何かしようとしてあの方針をとっている。
「エリア11に限らず…ブリタニアと敵対する者は殆どがそうだ………国の威信だ、民族の誇りだ、そんな物しか大事にしない。そんな物で赤ん坊のミルクが手に入るか。」
たたみかけるようなゼラートの意見にアサドが「中佐に一票。」と回答する。
ゼラートの辛辣な意見…彼はブリタニア人だ。だが、育ちはE.U.だという………同じブリタニアの敵からもここまで非難される。それほどまでに自分が愚かだったと思い知らされる。
「それで…私、自分が何をしたいのか分からなくなって…『黒の騎士団』でも、名誉は皆殺しとか…そういうことばかりで……自分のしたいことが分からないままここに来て、もっと分からなくなって……そこでライルに貢がれて………彼に…!」
自分で言って分かった。あの時だけじゃない。彼の部隊が来ていると聞いて、縋りたい衝動があった。
好きに…なってたんだ。あの時、もう……
あの、立場からすれば無視しても良い物を見て心を痛め、それを『誇り』や『魂』だけで片付けて事実上見向きもしない者への嘆きを宿したあの眼に…
「ねえ…私、頭がおかしいの?本当にライルに洗脳されちゃったの?」
海棠は泣きそうになる浅海の頭を優しく撫でてあげた。
「お前さんはおかしくないよ…おかしいのはそういうことばかり言う連中だよ。」
海棠は日本軍時代から常々憤っていた。日本はサクラダイトが豊富だから外交で勝てる……日本はブリタニアに負けるわけがないと誇張する民間人、そして…あの『厳島の奇跡』が原因で横行した市民や正規軍によるカミカゼ………
「藤堂には悪いが、あの連中は民のためと自分達の大義のためをごちゃ混ぜにしちまってる。どう転んでも双方は丸く収まらない……これはそういう問題なのだろうさ。極端な話、ウチのセーラなんてどうよ?日本占領時に両方から迫害されて…独立出来てもどうなる?両方から迫害の可能性は大きいぜ?こうなったら世界その物がどうかしているって思うぜ。」
一泊おき、海棠は周囲がゾッとするような眼をした。まるで…他全てを平気で斬り捨てられるような…
「だからさ……そんなんばっかならこんな世界ぶっ壊れれば良い。とか思うのが千や二千いても良いと思うんだ…ゼロなんざそれに近いだろうさ。救世主とか崇められてるが、俺はむしろ自分のために周りを上手く扇動しているように見える。何をしたいのかは、分からんがね。」
そして……海棠はここにも来ているあの男が忌々しかった。あまつさえ、あの戦闘後に土田を愚弄して部下達と殴り合いに発展しかけたのだ。
海棠自身も皆殺しにしてやりたい衝動を必死に抑えて諫めた。今ここで始末するのはたやすい。何しろやつはこのグループでは正規軍と同等の嫌われ者…大勢が喜んで協力するだろうが、軍人として今はそんな場合ではないとも理解していたのだ。
ったく、何つうジレンマだ。後悔先に立たずとはよく言ったもんだ。合流拒否してぶっ殺しちまえば良かった。あの野郎のせいでどれだけの日本人が食料を盗られて殺されたのやら…!
世界を壊したい…デルクもそんな衝動を抱いた記憶がある。そう、あの二人が殺された直後……日本占領前には日本人とE.U.市民の間で交流があった者だっていたはず。デルクの周囲にも少なくとも数人はいた。だが…その大半が掌を返して威張り散らす…日頃、富裕層が甘い汁を吸っている弊害への腹いせ…といえば弁明の余地はある。だが……デルクはそんな感情抱けなかった。
あまつさえ、同国人同士で殺し合いそれを馬鹿にする始末だ。ブリタニアとどこが違う?どこも違わない。
そんな理屈がまかり通る世界なら壊れれば良い。だが……あの二人がそれを望むだろうか?それがデルクを踏み止まらせていた。
美奈川浅海が惚れたライル・フェ・ブリタニアはどうなのだろうか?嘆いているからこその変革か…それとも、似たような過去を背負い破壊と変革の両方か……
どこにでもいるという訳か……腐った輩も。腐った輩がいる世界を壊したいと思う俺達のような連中は。
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