[37968] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−10 舞台の陰で』 |
- Ryu - 2018年01月20日 (土) 21時29分
ベルサイユ宮殿で祝賀会が行われている頃……オルレアンの街角で2人組の男が歩いていた。両名とも軍服をだらしなく着崩しており、見るからに品の無さそうな面構えをしている。
下っ端か何かとしか思えないこの2人が軍人なのも何かの冗談だと思いたい所だが、より悪いのはこれでも一部隊の隊長であるという事である。つい先日行われた戦闘にも参加している。
もっとも「最後の備え」として最後尾に位置していた為、結局最後まで出番が無く終わったのだが。
「ああ、そうそう、そういえばもう1カ月になるな」
「あん?一体何の話だよ?」
「ドイツのあの野郎、普通に生き残ったぜ?『侍皇子』に斬りかかられたって話だが死ぬどころか五体満足で居やがる」
「覚えていたのかよ、あの時の事」
「忘れているとでも思ってたか?残念、俺は覚えてんだよあの賭け」
「……わかったよ、今度飲みに行く時その金の分だけ奢るからよ、それでいいだろ?」
「ああ、交渉成立だな!」
「チッ…どうせならカミカゼしてくれればよかったものをあの似非サムライ…そうすりゃ今頃俺はあの野郎の女共を預かれたってのに」
「まあ機会なんざいくらでもあるさ、何も外人共にしか美人が居ない訳でもあるまいし」
いつもの様な会話をしている2人、彼等の脳内には先日行われた戦闘も記憶にすら残っておらず、結果的に敗北を喫したというのにそのことを理解しているかどうかも怪しい所である。
イタリア出身の彼等からすればフランスが単独講和したという内容にも何の興味も無く、今フランス関連で興味あるのは我らが総隊長がどの皇子と寝るのか、それぐらいである。
「あと知ってるか?『貢物』の話」
「ああ知ってる。外人部隊の若い女がブリタニアの皇子様の貢物になるって話だろ?良かったんじゃね?少なくとも飽きられるまでは死ぬことも無いだろうし?」
「んでオランダに居ただろ?イレブンの癖に最新型貰えた女が。確かみ…み…みさがわ?違う、みわがわ?そんな感じの名前だったな」
「『みながわ』な、一応は覚えてやれよ。女の名前間違えるなんざマナー違反もいいところだぞ…ってまさか」
「その通り、その女もそのリストの中に選ばれ、皇子様の貢物になるってよ。今頃お楽しみ中だろうさ」
「マジか、あれもあれで狙っていたんだけどな俺…」
そう言うと男は若干肩を落とした。何回か見かけた女だが正直気に入っていたのである。全体的にほっそりとした印象の女だが出る所は出て、かと言ってどこぞの総隊長の様に出すぎても無く、彼基準で言えば高得点の女だ。
だから隣の親友がドイツ外人部隊所属のロシア人の少女を狙っている様に、隙あらばモノにしたかったが…遅かったようだ。
「噂が本当ならイレブン好きの八番目の女になるだろうぜ、同じイレブンが多いだろうから精神的にも落ち着けるかもな!」
「かもな、あ〜ショックだね、絶対あんなお坊ちゃんより俺の方が良いに決まってる!」
「いやいやあの八番目、『狂戦士』って言われているらしいぜ。戦場で暴れるからってなだけじゃなく、ベッドの上でもそうかもな」
「ああ、だから沢山女侍らせてんのか、大変だねぇ狂戦士の相手する女達は、一日で壊れるんじゃね?」
「一人で相手したらそうなるから人海戦術で対抗してんだろきっと」
噂の本人が聞いたら確実に剣を以てその発言に応える様な会話を交わしながら、ふと思い出したかの様に片方の男が呟いた。
「ん?だとしたらお前さんがターゲットにしているあの女も今頃、か?だとしたら残念だったなお前!」
「ああ9割方そうだろうぜ。あれはあれで中々いないタイプだからな。まあ噂だと既に死んだとか、脱走したとか言われてるが」
「脱走、ねぇ?今更逃げる所なんてあんのか?確かあの女ロシア出身だったな。どう考えても一人無一文で辿り付けねえだろ」
「いやいや、あの身体使えば拾ってくれる所はあるだろ!ひょっとしたら今俺達が向かっている所にいるかもな!」
「ああだといいな。さっさと行こうぜ、1分1秒でも早く新しい出会いが俺達を待っているからよ」
外人部隊の駐屯地の一角、KMFにもたれかかりながら胡坐をかき、一人の髭面の男が酒を飲んでいた。
既に彼の周辺には空になった安酒の瓶が何本か転がっており、相当飲んでいる事が伺えるが男の様子は元から酒に強いのか、または酒というより水でも飲んでいるのか素面そのものである。
先の戦闘にも参加した彼だが、腕に軽く包帯を巻いている以外に目立った傷は無い。ただ目はどこか虚ろだ。
そんな中、一人の男が近づいて来た。同じ外人部隊所属、この連隊に所属する以前から、何度か顔を合わせ共に戦った事のある奴だ。その男はそのまま未だ座ったままの男の近くに立った。
「なんだテメェか、何の用だ?今の俺の無様な姿を見て嗤いに来たか?」
「そうして欲しいのならいくらでもしてやる処だがな。生憎今そんな事に時間を使う暇など無い」
「言ってくれるな……お前の隊はどうなった?あの『侍皇子』直属部隊とやり合ったって話だが」
「流石に苦しい状況だったさ。何人か有力な部下が戦死した……お前程では無いが」
「一々嫌味言わないと気が済まないのかテメェ……いや、事実か。ああ、俺の隊は再起不能さ、お前と違ってな……」
彼自身は大した事無かったが、彼の隊はそうは行かなかった…最前線にいた彼の隊は乱戦の中1機、また1機と脱落していき、終わった頃には隊長たる彼以外、皆大なり小なり傷を負い、そして戦死してしまった。
目を掛けていた自分の副官もどうやらハドロン砲の直撃を受けて消えてしまった。彼だけじゃない、部下達の多くが死んでしまった。そして結局フランスは講和と言う名の降伏を選び、文字通り彼らの死は無駄となった。
もう、何もかもがどうでもよくなってしまった。このままブリタニアが世界制覇しようと、E.U.の連中がどうなろうと。
「もう何もする気がしねえよ。このまま酒飲み続けて急性アルコール中毒でバタっと逝くも良し、酔っぱらって上官ブッ殺して反逆罪で銃殺されるもよし、もうどうにでもなれだ」
「自棄にも程があるな」
「お前さんはどうなんだ?聞いたぜ?ドイツ正規軍に将官待遇で転属出来るってのに蹴ったって話」
「沈没寸前の豪華客船に乗せて貰えて嬉しいか貴様は?」
「少なくとも終わりが来る時までは今までよりは楽しくやれるじゃねぇか」
「酒と女を侍らせながら、か?両方現在間に合っている」
「美人副官や美少女従卒に酌と尺して貰いながらか?ホントお前ムカつく奴だよ。羨ましい」
悪態を吐きながら、髭の男は懐から小さな酒瓶を取り出し、相手の男に投げて寄越した。男は受け取った酒瓶の蓋を遠慮なく開け、半分ほど飲んだ。
「安酒だな。まだ水飲んだ方が幾分かマシだ。そしてこれで急性アルコール中毒など起こりようも無いな」
「悪かったな……で、お前は今後どうする気だ?」
「どう、とは?」
「惚けんな。正規軍入りも蹴って、このまま捨て駒要員として戦い続ける気かよ?『E.U.の為に粉骨砕身戦います!』って柄じゃねぇだろテメェは」
「さて、な。だが考え無しに行動する気も無いさ。結局は流されている俺だが、これでも一応は考えているつもりでな」
「フン……」
それだけ言うと、男は踵を返し座っている髭面の男に背を向けて歩き出した。
そしてその男の背を、髭面の男はじっと見つめていた。これからどうするべきか、それを考えながら。
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