[37959] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-17『醜悪な和睦…後編2』 |
- 健 - 2018年01月16日 (火) 17時55分
「ねえ……好きに、して…いいから。」
浅海の言葉にライルは手に取ったボトルを置き、浅海の方を向く。そして……
「ばれれば、君はこれだ。」
腰に下げた短剣を首に突きつける。浅海も硬直するが、ライルは敢えて現実を告げる。
「君はこちらで言うテロリスト……ばれれば確実に殺されるし、私の部下達にも火の粉が飛ぶ。」
そう、それが現実だ。今更反逆者を出したレッテルなどは気にしない。だが……彼女の立場となるとそれも通じなくなる。
「だから……君の命を守る意味では…軍籍の回復が一番なんだ。」
せめて…命だけでも………ライルにはそれしか考えつかなかった。
「じゃあ………今夜だけで良い。貴方の女にして?」
浅海はまだ食い下がる。が、ライルも譲らない。
「やめてくれ…いくら頼まれてもそれは出来ない。」
「……他に、好きな人がいるから?」
ライルの顔が一瞬だけ固まった。図星のようだ。こんなに綺麗な顔をしている人だ……心を奪われる女性はたくさんいることだろう。
「イレヴンじゃあ…だめ?」
「そういう問題じゃない……大体、今の質問の答えだって…!」
意外だ……まさか、彼の想い人がイレヴンだったとは。しかし…今、浅海の心は彼に縋りたい気持ちで一杯だった。
無我夢中で浅海はライルの唇を奪った。流石にライルもこれには硬直して、その感覚に酔う。だが、長くは続かずにライルが押し返した。
「と、とにかく……頼まれても女性にそういうことは出来ない。今私が要求するのは君達が休むこと。それだけだ…」
クラリスは基地に戻った。堅苦しいドレスから既に軍服に着替え、先刻会った男の事を考えていた。
「感想は?」
いつの間にかコーヒーを片手に立っていたフィリップの質問にもう一つのカップを受け取ったクラリスは答える。
「惚れそう…」
「惚れたの間違いだろう?」
「………どうかしら。」
フィリップが微笑し、コーヒーを一口飲み問いかける。
「顔以外では、どこが良い?」
「………この身体を見ても厭らしい眼をしなかった。むしろ、見ないようにした。」
フィリップですら一時期そんな眼で見てきた。だが、今はそんなものを乗り越え、軽口をたたき合う悪友だ。
「そうされると、逆に全部見せてあげたくなるのって……女の我が侭かしら?」
「男の俺に聞くなよ……ま、健全な十代のお年頃でその凶器を見て欲情しないようにするってのは凄い男だな。年下ながら尊敬する。」
「ええ…本気で振り向かせたいって思えるし……売られるにしても相手がライルならって…」
だが……もう決めたことがある。それは適わない。
「今からでも向こうに着くか?」
「意地悪な質問しないでくれる?」
「そうだったな……お前はそういう奴だからな。」
その後、何とか説得をしてやり過ごしたライルはヴェルドの協力を得て外人部隊のハッキングの形跡を見つけ、それをあの精鋭部隊にリークした。
それを見たマスカールは………
「何故貴国がこのような真似を?」
わざわざ顔まで見せて教えたライルをモニター越しに睨み付ける。
〈立場の上では敵国とはいえ、軍人として見過ごせないような暴挙……それではご不満でしょうか?〉
「ああ、大いに不満だな。」
しかし…罠にしては馬鹿正直すぎる。まだ『ロンスヴォー特別機甲連隊』自体は存続しているし、反主流派と目される自分に頼るのは分かる。本気で貢ぎ物となった少女達を保護して欲しいだけのようだ。
「分かりました……確かに、軍籍を抹消されている者もおります。差し出された民間人もこちらで保護いたします。」
〈ありがとうございます。このご恩は戦場で貴方方の部隊と全力で相対する形で……今回送り返した者を手にかけるやもしれぬのが心苦しくはあります。〉
愚直だ……馬鹿正直に加えて愚かとしか言いようがないくらいに誠実すぎる。能力の高さは申し分ないが…人間性に問題がある。なんと勿体ない男だ……
この件はヴェルドやゲイリーなど信頼出来る者達にだけ話した。勿論、浅海が『黒の騎士団』の構成員だったことは伏せて……ヴェルドとコローレの二人がかりでハッキングを見破り、しかもそれがずさんだったおかげで軍籍の回復も問題なかった。この件はどうせ政府も軍も相手にしないから、双方の問題だけになった。
「で……あの子達と良いことあったのか?」
「………分かって聞くな。」
「だよね……有紗ちゃんにだってキス止まりなんだから。」
「っ…!う、うるさい!!」
顔を真っ赤にして言い返すが、逆にばれてしまった。
「ホントに分かり易いね、大将。あの外人部隊の赤い髪の子、可愛いし胸は有紗ちゃんに劣るが身体が細身で良いね。あの子でもかなりのもんだから、あの衣装も有紗ちゃんや優衣ちゃんが着たらさぞセクシーで…」
一瞬、想像してしまった。それを悟られまいと、ヴェルドの足を思い切り踏みつけた。
「いってぇぇ!!指折れるだろ!?」
「折れろ。」
翌日……マスカール将軍自らやって来た。部下達のために、という名目でもあるようだ。
「では、彼女達は責任を持って。」
「はい…」
少しずつトレーラーに乗り込んでいく中…浅海だけ立ち止まった。
「また…敵同士になるの?」
「…ああ、私のような男なんて忘れた方が良い。」
それが今、ライルが彼女に出来る気遣いだった。だが……
「貴方なら…本当に良いの。」
縋ってくる浅海の肩を掴み、ゆっくりと離した。そして、何も言わずに首を横に振る。最後に彼女はライルを見て、トレーラーに乗り込んだ。
それを見送った後…ゲイリーから………
「テロリストに情けをかけるとは…相変わらずお優しすぎますね。」
「何のことだ?」
「そういう隠し事は相変わらず上手くないようでして。まあ……もう慣れましたからね。あの紅蓮やランスロットではあるまいし、KMF一機が戦局に与える影響などたかが知れています。見逃しますよ。」
「……君も相当甘いのでは?」
「誰かの甘さが移ったのでしょうね。」
ゲイリーの意外な発言に瞬きをして、ライルはため息をつく。全く……和睦かと思いきや、結局連中がしていることは変わっていない。取り入ろうとする相手がブリタニアの貴族に変わっただけだ。と、今頃彼女も父親に自分を口説くようにあれこれ言われているのだろう。と、若干の同情をしていた。
パリ……ピエルス将軍の邸宅。豪勢なその屋敷は、血塗れになっていた。その中にある一際大きな応接室で倒れているのは、ピエルス夫人……そして、今…
「な、何故?」
「もう貴方に見切りを付けたんです。23年間育ててくれた事は感謝していますが……それだけです。さようなら、お父様。」
銃声が響き、ピエルス将軍の頭に風穴が空いた。クラリス・ドゥ・ピエルスはそれを見つめ、涙すら流れない自分の冷徹さに驚いた。
結局、親だと思ってなかったのかしら?それとも……悲しいあまりに涙も出ないのか………ま、どのみちもう後はない、か。
浅海だけでなく、ライルに貢がれた少女達は多くがイタリアの避難地に移住することになった。幸い、真っ当な政治家が統括する地区につてがあったバルディーニの尽力だ。話を聞いた海棠は口笛を吹いた。
「ホント、見た目通りお優しいのね…誰よ、『狂戦士』とか『洗脳皇子』だなんて言ったの。」
「全くだ……が、場当たり的なやり方だ。青いな……」
同感だ。しかし、好感と信頼という意味では間違いなくそれが持てるタイプだ。それが海棠の感想だった。
「こうなると、ちょっとやり合うのに気が引けるね。」
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