[37950] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-17『醜悪な和睦…後編1』 |
- 健 - 2018年01月12日 (金) 11時44分
ライルは最上階のスイートを使うことになっている。支配人自らが案内を買って出て、やれ夜景が素晴らしいだの皇族に使っていただいて光栄だの、下のフロアのいくつかもライルのために貸し切られただのと自慢ばかりする。適当に受け流し、いざ入ろうとした時……中に人の気配がした。一人や二人ではない。
刺客?その方が分かり易い。だが……心なしかまたあの展開のような気がした。
開けた途端に撃たれないようにゆっくりと開け、出てくる気配も撃ってくる気配もないことを確認すると、少しずつ入る。そして…奥へ進むと………
案の定……ライルが一番あって欲しくないものがそこにあった。16から18程度の少女が数人…中東の踊り子の物と思われる露出度が非常に高い衣装を着ていた。どう考えても…貢ぎ物だ……
人種もまばらだ……E.U.の市民だけではない。イレヴンもいた。大方、有紗やレイの存在からイレヴンが好みという噂が広がったのだろう。体型も有紗やクリスタルに負けていないのが揃っている……何故こういう努力を自国の防衛に活かせないのだ?
名誉ブリタニア人の積極的採用を始めた頃からこういう事は何度もあった。誰もが自暴自棄からか…積極的に身体を差し出そうとした。説得に骨を折ったが、何とか思いとどまらせてゲットーに送り返すことも出来た。その後は流石に保証出来かねたが………只その時のために女性の身体を…等ライルの良心やプライドが許さなかった。既婚者、或いは年配の部下や他の貴族からはジュリアの事件以来それが顕著だと言われたこともある。
私にルーカスや他の取り巻き共と同じになれだ等と……!
憤るライルの前にイレヴンの少女が一人歩み出て、その衣装を脱ぎ捨てた。そして…豊かに育っている胸を押しつけるように抱きついた。
「あの…殿下……私達の、事…誰からでも……」
ため息をついて、ライルは少女を離した後、上着を脱ぎ…羽織らせた。
「期待に添えないようで悪いが…私はそういう扱いをする気はない。」
「え?」
「後で出身地域を教えてくれ。全員を送り返す……」
それだけを伝えて、部下に連絡をしようとした時……
「あの…私は、良いから。」
後ろからした声に振り返ると…イレヴンの少女がいた。見覚えのある顔だ……確か、
「私のこと、覚えてる?エリア11……テジマ鉱山で…」
テジマ鉱山……まさか!?
「あの時の…美奈川浅海?」
「ええ…」
浅海は少し嬉しかった。あの時…彼にとって取るに足らないテロリストの一人に過ぎないはずの自分を覚えていてくれたことが。
「……場所を変える。」
浅海はライルに連れられて、スイートルームにあるバーカウンターの方に移った。ここはベッドから離れているので、あまり聞こえないし…ライルがしばらく待つようにも言ってある。
「何故、E.U.に?」
「テジマが潰れた後…『黒の騎士団』に入ったの……それで、負けて他の仲間と一緒にこっちに来て…外人部隊に入ったんだけど。」
「それ以上は言わなくて良い……ブリタニアとの和平のために、私に君を差しだしてご機嫌を取ろうというのだろう?」
浅海は何も言わずに頷いた。
あの戦闘の後……いつの間にか彼女達外人部隊の軍籍が抹消され、男は追放され、若い女は何人かが攫われた。浅海も同様に…貴族への貢ぎ物とされ…こんな格好をさせられた。
日本を取り戻すために戦い…E.U.へ渡り、そして貢ぎ物に……人生も、戦いも、志も終わると思った。だが…相手がライルだったなんて………
「何とか犯人を突き止めて…いや、改竄の後さえ見つければ君が戦い続けることは出来るのだが。」
こんな時にまでライルは人のことを……エリア11ではテロリストだった自分に……しかし…
復帰しても、戦う意味があるの?
エリア11でも彼と出会ってから見てきた。ひもじくて泣く子供のためにブリタニアに媚を売る母……家族を養うために劣悪な環境で働く父…でも、仲間はそれを裏切りとしか言わない。独立出来ればすぐ解決するとも言っている。
違う……独立出来てもすぐに解決するわけじゃない。それじゃあ、従わずに死を強要しているのと同じ………
今まで見もしなかった物も見て、浅海は自分のしていることが分からなくなっていた。今、E.U.に渡ってブリタニアと戦うという事だけでも続けようとしたら…仮にも友軍だというのに裏切られてこの様だ…そして、かつて自分が見ていない物を本気で見つめ、悩んでいる彼が相手だった。彼の立場なら無視しても良いことを見ている………
浅海は自分達に何か出そうとしてか、飲み物を探すライルの背中に抱きついた。
「ねえ…貴方の…女になら、なって良いから……」
今…無性に縋りたかった。目の前にいるこの人に……それに、自分の容姿や体型にもそれなりの自負を持ち、胸はどちらかと言えば平均的だが、身体の細さには自信があった。それが…この人なら……
別の宿泊先でルーカスはイレヴンの少女の身体を乱暴に抱き、形良く大きい胸を乱暴に揉む。
「なかなかの物だな…E.U.の官僚共も良い趣味をしている。」
脇ではまだ手にかかっていない女達が怯えていた。他のも上玉揃いだ。
だが、内心でルーカスは不愉快だった。あの精鋭部隊の総隊長をパーティーで見かけ、声をかけたが相手にされなかった。それどころか、あの女はライルなんぞに随分と積極的であった。もう一人…外人部隊だったというイレヴンの女もライルに提供され、ドイツの外人部隊の女達は何故か逃げられたという。
全く、理解に苦しむ。何故、この俺ではなくライルに靡く?俺の方が全てにおいて優れているというのに!!
まあ、ここの女共も悪くはない。たっぷりと味わって我慢するとしよう。
シルヴィオはミルカと酒を飲んでいた。パーティーに出席する少し前に官僚達が何か望む者を聞いたら、シルヴィオは接収した日本文化の武器やドイツやベルギーの酒を求めた。前もって届けられた物をミルカを呼んで共に飲んでいた。
「良いお酒ですね……」
「ああ、庶民向けの酒という印象が強いビールでもここまで種類が豊富で、修道院が作ったという逸話もあるのだから…歴史を感じる。」
「『武術馬鹿』なんて揶揄されるシルヴィオ様にしては珍しい発言ですわ…」
「褒め言葉として受け取る…文句を言えば、ユウキと一緒に飲みたかった。」
すると、その発言にミルカが面白くなさそうな顔をした。
「女より男が良いんですか?」
「気色の悪い言い方をするな……普段飲み慣れている友人がいると良い…という意味だ。」
だが、まだミルカは不機嫌そうだ。
「分かった……久しぶりに構ってやる。」
「はい…」
その発言に納得したのか、ミルカは抱きついてきた。
エルシリアは一人、E.U.の童話を読んでいた。ブリタニアにもある物だが、解釈が異なっている部分があり、中々に面白い。
あのパーティーの後、資産家の男達が言い寄ってきたがグラビーナやクレアが牽制してくれたおかげでこの部屋には一人だ。セラフィナも別の部屋にいる。あちらも秀作が牽制したおかげで無事だ……流石に秀作も同室に、というわけにはいかずに彼はもう帰還し、マイナに任務を引き継いでいる。
「全く…何度思ったか、あの男がブリタニアの貴族ならまだ良かったと。」
今頃は既に疲れて眠っているであろうセラフィナの意中の男の扱いの難しさに苦心し、エルシリアは水を飲み干した。
|
|