[37941] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-17『醜悪な和睦…中編2』 |
- 健 - 2018年01月08日 (月) 17時55分
クラリス・ドゥ・ピエルスは早速大勢の貴族達に囲まれていた。年配の男達は舐め回すように身体を見るような眼をしており、歳の近い男達も露骨な交際や結婚、更には家柄の自慢までしてくる。
かろうじて愛想良くしながら切り抜けるが、とにかくしつこいことこの上ない。更に、あの第五皇子までが現れた。これまで出会った男の中で一番悪い印象が出た。正に噂通りと言わんばかり、こんな男に転んだらどうなるかなど想像するまでもない。
どうしようかと、思った時……同じように資料で見た顔があった。まだ若干の幼さが残るものの、目を引くほどの美男子だ。
「失礼します…」
人をかき分け、今も貴婦人から声をかけられている青年の前に出る。
「第八皇子ライル・フェ・ブリタニア様ではございませんか?」
「貴女は…」
表情が動いた。どうやら、こちらのこともご存じのようだ。噂に違わぬ、というところだ。
「クラリス・ドゥ・ピエルスです。」
「こちらこそ…ライル・フェ・ブリタニアです。お見知りおきを…」
ライルも礼をして返す。そして……
「まさか生身で会えるとはね……前の続きを?」
「そうしたいのは山々だけど…今はね。」
生身で会えるという期待はあった。だが、本当に会えるとは思わなかった。
ライルは相手の女性の美貌に一瞬圧倒された。有紗やクリスタルで見慣れているつもりだったが、単純な容姿だけなら彼女は上だろう。そして、同様に目を引く豊かな胸……あの二人やルーカスなら飛びついていることだろう。だが…ライルは極力そこを見ないようにしていた。
サラを護衛のフェリクスに預けて会場の中心から若干離れ、クラリスを睨み付ける。
「で?仕留めきれなかった私を嗤いにきたのか?」
「そうしたいところだけど……上官命令兼父の命令でもうすぐ除隊扱いなのよ。」
なるほど…掴めた。彼女の父はフランスの名家の当主で軍上層の人間。和平路線で保身を図り、更に娘を貴族に嫁がせて貴族の血縁も得ようという魂胆か。そして…彼女はそれに辟易しているご様子。
「お気の毒に…としか言えないね。」
「ええ…でも、貴方ならいいかしら?」
「…は?」
突然迫り、一歩後ずさる。
「実物で見て分かるけど、やっぱり良い男ね。それに…この身体見て涎たらさない。」
身体の肉付きを気にしているようだ。確かに、あれではそこにしか興味のない男ばかり群がってくるのだろう。
「内心では飢えたケダモノ、という発想はないのか?」
「そういうことを言うタイプに限って経験が乏しい、とも取れるわよ?かくいう私も男性経験ゼロに等しいわ……」
また説得力があることを……
「私達、ここで会ったのも何かの縁かしらね?」
「……剣を交えたばかりの男女が?」
「つれないわね…でも、素敵よ。」
随分と積極的だ…露骨がすぎるクリスタルや優衣とは違って一歩引いてアプローチしてくる。取り入るのが目的という可能性もまだ捨てきれないが、少なくとも他の連中に比べればまだ邪気は無いだろう。
「許嫁を連れてきている男に遠慮が無いね?」
「あら、父親が百人単位で皇妃がいるのに…まあ、親は親。子は子だけど、貴方の立場上にはそうも言えない。一番はその許嫁か他の誰かにして私を下の方に、という手もあるし私はそれでも良いのよ?貴方なら。」
だが……一歩引いて二歩進むというアプローチをしてくる彼女も相当な物だ。
「つい先日戦場で斬り合った男に対して遠慮がなさ過ぎるよ?殺されたいのか?」
「あら、残念……ま、今回はこの辺にしておくわね。貴方の可愛い婚約者さんに噛まれそうだし………次に会うことが会ったら、たっぷり可愛がって欲しいわ。」
耳元で囁かれ、ライルは一瞬赤くなった。
「可愛いわね…では、これで。」
遠目に見ていたフィリップは少し意外だった。彼女が積極的になるとは今までフィリップの知る限りで見たことが無い。それがあそこまで積極的に……よほど彼のことが気に入ったのだろうか?
果たして…敵としてなのか、それとも男としてなのか。はたまた両方か。
ヘドの出る正規軍や資産家の連中より遙かにまとものようだが……あんな年下に彼女の凶器の身体が、なんて考える馬鹿が僻むだろうな。まあ、あんな連中の僻みなんざ俺の知ったことじゃないがな。
クラリスが気に入るということは、あれが美女を侍らしてご満悦になるタイプでは無いのは間違いない。むしろ、そういうのに抵抗を感じるタイプだろう。
惜しいくらいに良い男だ……ただ、女絡みではあの男は少し開き直りも大事だと思うが、フィリップはそれを口には出さなかった。
サラはライルと話している女性を見てとてつもない敗北感があった。どうしたらあれほどの美女が生まれ、そしてあれだけ豊満な身体になってしかも…女の自分で揺らぐような色気も感じさせる。
容姿とスタイルに関してはそれなりの自信がある。有紗やレイがグラマーなのに対して自分はスレンダー寄りだ。だが…ライルとて男、もしかしたら……
「それで転ぶようなら、今頃ウィスティリア卿や有紗と夜によろしくしていますよ?」
見透かしたようなフェリクスの指摘に、サラはうつむいた。
「身体で女性を選ぶような人に見えるんですか?殿下は…」
「い、いえ……」
「まあ、気持ちは分かりますよ。私だって理性を保てたかどうか………」
そう、僅かな不安があった。でも…だからといって家の力を使って陥れるようなことは出来ない。そんなことサラの良心が許さないし、ライルに間違いなく嫌われる。だから………
「真っ向勝負で勝ちます。」
「それで良いですよ。」
そして、パーティーはお開きとなり……ライルや幹部の主立った面々も政府が提供したホテルに宿泊することとなった。全く、馬鹿なのだろうか?それとも何か企んでいる?
こんなところに和平の相手を宿泊させるなど、「暗殺してください。」と言っているようなものだ。危険すぎる……とはいえ、『ユーロ・ブリタニア』もここまで勢力を伸ばしていないし、和平という意味でもここに宿泊するしかない。
反対派の軍人達もここで暗殺したら火の粉を被るのは市民だと分かっていることを祈るしかないか?
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