[37932] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-17『醜悪な和睦…中編1』 |
- 健 - 2017年12月28日 (木) 20時47分
ライルはサラと共に入場した。道を空けた貴族達が囁く声が聞こえる。
「クラウザー家のご息女ですね…婚約なさったという。」
「所詮イレヴンや雑種など只の酔狂……寵愛を受けられるだけでも幸運という物だ。」
「私の娘も紹介したい物ですわ。」
全く、どいつもこいつも……
とにかく気に入らない相手をこき下ろして優越感に浸りたがる。人間の悪い習性なのか?
しばらくは資産家や貴族達が取り入ろうとしてくる。
「これほどお美しい方と婚約をされるとは……」
「式には是非ご招待ください。」
「ウィスティリア家のご息女とどちらとお先にご交際を?」
「殿下、フランスで指折りの我が社と是非…」
うんざりするほどに押し寄せてきた資産家や貴族の相手をしていた時…ライルは一度見た顔を見つけた。
「失礼、知人を見つけましたのでご挨拶を。」
サラと共にかき分け、そこにいる愛らしい少女を見つけた。
「お久し振りです、ミス・バルテリンク。」
エリア11で偶然出会ったユリアナ・バルテリンクだ。
「殿下、こちらこそお久し振りです。」
小さな淑女はドレスの裾を持って礼をし、ライルは屈んでその手を取る。
「こんな形でお会い出来るとは思いませんでした。」
「はい。父が戦前にこちらの資産家とのコネを作っており、それによって父と共に……それよりも、殿下がご無事で何よりでした。弟も喜ぶことでしょう。」
弟…あの名誉ブリタニア人の両親を殺された隻眼の少年だ。
「ところで…リュウタは?」
流石にイレヴンの名前を表立って出せないので、少し場を離れて質問する。
「はい…流石にこの場には連れてこられないので……エリア11で留守番です。父はあの子を後継者とするのではなく、あくまでもあの子の戸籍と学力などの向上が最優先なのです。」
なるほど……イレヴンを後継者にするなど、あのシャイング家のような特例でもない限りは問題だ。それに、バルテリンク卿とはあの後少し話したが、イレヴンを養子にするという酔狂に及ぶだけあり冷遇はしていない。リュウタも随分と慕っている。
「そういえば……父は今のところあの子が自分を『父親』と呼んでくれるのを待っているそうです。」
「それはささやかな願望ですね。」
しばらくは他愛のない話をして、許嫁のサラを紹介してユリアナも退席した。純朴で良い子だ。先程もリュウタに何かE.U.のジュースやお菓子を買ってあげたい、と言っていた。リュウタもあの日本人への異常な憎悪さえなければ素直な子だ。
「お話には聞いていましたけど……そのリュウタという子…大丈夫なのでしょうか?」
「そうだな…あんな小さい頃に復讐なんて……何とか軌道修正して欲しいし、どうにかならないだろうか。」
その後、ユリアナに連れられてバルテリンク卿がやってきた。政治的な話も入っていたが、リュウタのことではやはり気にしていたらしい。
貴族の父であると同時に、人の親である事も忘れようとしていない。長野やゲイリーとはまた違った意味で父親としての葛藤を抱えている好人物だ、少なくともライルはそう捉えた。
「どこかの母親にも見習って貰いたい物だな。」
シュナイゼルも入場し、様々な思惑を持つ資産家達が群がっている。ウェルナーも復帰していたが、雛は彼の身体を理由に可能な限り相手を減らそうとしていた。
「あの…雛、あまり気を遣わなくても。」
「その身体であまりパーティーに出ないのです。人に酔ってしまいます。」
大勢の前なので敬語を使い、雛は資産家達を牽制する。だが、その目は正にハイエナだった。まるで、自分を見ているような気もした。
会場がざわめいた。何事かと振り返ると、金髪の美しい女性が入場してきた。
「綺麗な人…」
セラフィナは思わず口に出してしまった。女優か何かではないかと思うような美貌と豊かなプロポーション、「天は二物を与えた。」とは正にこの事か。
だが、人並みの家庭や親の愛情はくれなかったんだな…これが。
フィリップも幼少期から大勢の使用人に囲まれ、不自由ない生活をしてきた。だが、一般家庭の愛情があったかと聞かれれば自信がない。両親は少数派が敵視しているような人間だ。そして、彼女の親も同様だ。しかも、彼女の場合はあの美貌と度が過ぎる程の豊満な胸…腰も細く尻も良く出ている、男が見れば誰もが欲情するような体型だ。12,3の頃から発育の兆候があったらしく、軍学校で会った時より更にその身体は豊かになった。
それ故、そこにしか興味がないのが多いんだよな……ウチの野郎は一人本気で惚れて撃沈しちまったが。
ブリタニアだったらあれを活かしてシュナイゼル、そしてシュナイゼルは無理でもそれに近い貴族や年齢的に釣り合いのとれる皇族達に近づける。とはいうものの、友人としてルーカスだけはやめて欲しかった。この際、彼女が敵として拘り、冗談か本気か捕虜にして口説きたいと言っていた第八皇子でも良かった。
良くも悪くも目立つ彼だが、顔写真だけ見ればルーカスみたいな事を好むタイプではないし、何よりそれが似合うような顔ではなかった。
さて、どう転ぶのやら。
フィリップは思案を辞めてグラスの酒を飲み干した。
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