[37923] コードギアス 追憶のエミリオ MEMORY−12 全面介入 W (了) |
- JIN - 2017年12月21日 (木) 00時19分
ユーゼフ・ソビエスツキ。
「ルブリンの鉄壁」あるいは「天才放蕩児」とも言われる、ポーランドの戦術家にして部隊指揮官。
年令はダリアと同様に、二十代の半ばであるが、こちらも優れた作戦指揮官であり、特にバルト三国を制圧したユーロ・ブリタニアがポーランドへの侵攻を図った際に、それを防いだ「ルブリン防衛戦」は、スマイラス攻勢以前の旧ユーロピアの最大戦果とも呼ばれている。
ルブリン地方の旧貴族名家の出身であり、いわば御当地の若様として地域からの信望も高い。
私的な素行はあまり良いとは言えないが、根が陽性なため、男女を含めて意外と恨みを買う事は少ない。
もちろん全く無いとは言えないが。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…なあ。そろそろ。何か話さないか。ダリア?」
「話すのはそっちでしょ。用があるなら」
「やれやれ。厳しいね。怒ってるの。やっぱり?」
「何を今更。『あれ』に怒らないのは、よほど人が良いか、それとも間抜け。そしてあいにく私はどちらでもないわ」
「だろうね。あの後に君から最後の手紙が来たので良く分かったよ。婚約指輪以外、何も入ってない手紙をね」
「そもそも貴方みたいな尻軽な相手と婚約なんかした事自体が信じられないわ。どうかしてたのよ。あの頃は。なにもかも」
「まあ。ヴィルノの件については、確かに君に申し訳ないとしか言い様が無いな。ただし敢えて言うなら、君がリトアニアの人間である事に拘ると同様に、僕もまたルブリンの人間だという事さ。あくまでポーランドの一部である、ルブリンのね」
「…でしょうね。だからその点についてはどうこう言う気はないわ。その代わり、私についても何も言わないでちょうだい。ところで。まさかそんな話をしに来たわけじゃないでしょうね?」
「もちろん。あくまでポーランドの特使としてだよ。一応」
「一応?」
「まあ。仕事を先に済ませよう。分かってると思うが、今回の用向きは要するに今度のベラルーシ救援にリトアニアも加えてやろうというわけだ。あるいはケーニヒスベルグへの攻撃でも構わない」
「『加えてやろう』!? 何。それ。それが人に物を頼む態度!?」
「はは。まあ確かに『頼んで』るんじゃないな。せいぜい『赦して』やるってとこか。そうすれば現在の本領安堵くらい考えてもいいかってくらいで」
「なるほど…ポーランドはたとえリトアニアが協力しても見返りや代償を与える気は全く無いってわけね…それすらも有難く思えって!」
「そうだろうな。そもそもリトアニアのくせにこちらの言う事を黙って聞かないのが赦し難いくらいの生意気だってのが大勢だからな。だから連中としてはこれだけでも我慢を遥かに超えた大譲歩のつもりらしい」
「連中?」
「ああ。特にワルシャワ派だな。あの辺りは特に厄介で面倒だ」
「貴方はどうなの?」
「僕か。僕はそこまで原理主義じゃないな。でもこれは一応の仕事だ。そしてそれも今終わった」
「あら。こちらに引き受けさせようって気は無いの?」
「僕が言われたのは要求を伝えろというだけだ。それに僕が引き受けたのは、挨拶の意味もある。途中に立ち寄ってのね」
「挨拶? すると貴方も?」
「ああ。これから救援軍と共にベラルーシだ。まあおそらくそれだけじゃ済まないだろうがね」
そのまま立ち上がり、出て行こうとする男。
それを見送る女。
そして男がドアに手を掛けた時。
「ユーゼフ!」
振り返る男。
一瞬もう一度視線を交わす二人。
「…さようなら」
「ああ。さようなら。ダリア」
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