[37920] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-17『醜悪な和睦…前編2』 |
- 健 - 2017年12月19日 (火) 09時41分
ベルサイユ宮殿では豪華なパーティーが催されていた。名目はフランスとブリタニアの和平だが、それが和平となるのはブリタニアとそこの貴族と繋がりを持つ資産家や政治家達だけだ。
その日も着飾った紳士や淑女が訪れ、優雅な旋律を奏でるホールで談笑する。
「いや、第八皇子殿下の選んだ騎士が女性とは聞いておりましたがこれほどお美しい方でしたか。」
「東洋と西洋の長所が見事に調和した美しさです。」
「ありがとうございます。」
レイもゲイリーが警護に就く形で出席していたが、資産家達に愛想良くするのにも一苦労だ。同じような状況のゲイリーだが、あちらは流石に場数を踏んでいるだけあり、上手くあしらっているが、レイはそうはいかない。しかも…資産家の中には若い男もいる。
散々イレヴンを捨て駒や身代わりにしておいて今度はこれ?枢木卿だったらもう考えたくもないわ。
ふと、近くを見るとこの和平を祝賀するという名目で武石財閥代表として来ていた良二も資産家達が群がっていた。戦後、日本企業のインフラを独占してその債務の帳消しもしておいて今度は協力企業の息子の機嫌を取るとは。
酷い物だわ……
フィリアはルーカスと共に参列していた。だが、どうもフィリアが気に入る男はいない。年配の男が群がるし、若いのも顔だけで言えばライルやルーカスより劣っている。
全く、その程度でこの私に釣り合うと思ってるのかしら?
だが……フィリアは内心ではルーカスの相手も疲れていた。夜は最高だ。だが、飽きられれば捨てられるのも分かっているから、代わりの男がそろそろ欲しい。ライルは駄目だ。既に断られているし、あんな庶民や雑種にうつつを抜かしている。シルヴィオもメイドの女以外に興味がない。ウェルナーなど論外だ。
どうしてこの私が駄目なのか、世の中の男はまるで見る目がないわね。
エルシリアの護衛に付いたグラビーナは一種の優越感を感じていた。本人が志願し、受領されたのだ。資産家達の中には二人の仲を勘ぐる者もいた。それがまるで恋人のような気分がして、とても心地良かった。だが…やるべき事はやらなくては。
今もエルシリア様に何かしようという輩がいるかもしれない。それこそ暗殺を……
「アル…少し肩の力を抜け。」
エルシリアに諭されて振り返ると、普段の軍服とは違うドレスを纏ったエルシリアがそこにいた。
「は…はい。」
少し見とれてしまったが、グラビーナは本来の役目に戻る。
セラフィナは秀作とパーティーに出られるという状況に浮いていた。無論、任務という形ではある。それでも……彼とこうして出席出来ることが嬉しかった。
「社交ですよ、姫様。」
流石にこの場では呼び捨ては控えている。今もこちらに資産家が歩み寄ってきた。
「セラフィナ様ですね?」
「はい。」
「いや…姉上様に勝るとも劣らぬ美しさ……どうでしょう、この私と…」
まるで秀作など見えていないかのようにあれやこれや言ってくる。秀作はそれを特に気にしていない。それが正しいのは分かる。だが…セラフィナはそれが面白くなかった。
有紗は流石に今回は留守番だ。秀作と雛は元々護衛に、長野もゲイリーの代行で臨時の指揮を執ることとなっている。
「今度はE.U.か…改めてブリタニア軍に入って良かったわ。おかげで堂々と観光も出来るわね。」
優衣の発言を長野が「不謹慎だぞ。」と咎める。だが…
「だって事実でしょ?名誉で軍人のおかげで外国に行って、おおっぴらに歩ける。変な因縁は着けられるリスクはまだあるけど…ゲットーで言いがかり着けられたり巻き添えで死ぬのに比べたら百倍快適じゃない。」
「それには同感ね……仕事は厳しいけど、衛生の整った宿舎に三食昼寝着きでなかなかの給料。申し分ないわ。」
涼子の発言は有紗も同感だった。有紗には事務能力もKMF操縦も管制も出来ない。出来るのはライルや兵士達の食事や身の回りの世話……だが、何時死ぬか分からないから良い物を作ってあげたい。厨房の者達やライルが名誉出身者達に「国の味を食べて貰いたい。」と考えているのも同調出来る。それに……こうしてまともな仕事で働くことも出来るのだ。
「でも…変な女にライル様が言い寄られないか、それが心配だわ。」
「私に言わせればお前も変な女だ…」
「何よ!ぺったんこな胸のくせに!!」
セヴィーナに優衣が食いついたが、セヴィーナは「ああ、ぺったんこだ。」と意に介さない。だが、同い年であそこまで大きいと有紗は少し悔しく、あれではいつかライルも揺らぐのでは?と心配になってしまう。
「喧嘩をしている暇があれば手を動かせ。殿下が死んでも良いのか?」
「それはいや。お姉ちゃん、KMFも万全にしておかないと。」
「……あんたに言われるとなんかむかつくわ。やることはちゃんと真面目にやるけど。」
ウェルナーはジュースのグラスを片手に資産家の相手をしていた。シュナイゼルが病弱だという事をリークしたのか、医療関係の財閥経営者が多い。
「殿下のような方がご自分の足で歩けるように最新のリハビリプログラムを組んでおります。是非、お試しになってはいかがでしょうか?」
「私の経営する病院で殿下のお体のことを全面的にバックアップいたしますよ。」
とにかく取り入ることに必死な様子だ……経験が浅いウェルナーでもそれは分かる。だが、いちいち愛想良くするのに疲れ、苦しくなってきた時…
「申し訳ございません。殿下は少々お疲れのご様子です……」
護衛にライルが派遣した雛が間に入り、身体を支える。
「さあ、殿下。一度バルコニーへ…」
イレヴンの雛が出てきても流石にウェルナーの前で舌打ちをするような者はいなかった。あまりしつこいと機を逃すことも分かっているからだ。
バルコニーへ出て、ウェルナーは息をついた。
「喰えないわね、あんたの兄様。」
「シュナイゼル兄様は…私もカードに使うんですね。ナナリーのように……」
「でも政治ってそういうもんでしょ?」
給仕に頼んだ水を一口飲み、雛が現実論を突きつけた。本当に…彼女は容赦がない。だが…ウェルナーは雛のそんなところが好きだった。
「……もう少ししたら戻りましょう。シュナイゼル兄様がいつ来るか分かりませんから。」
「ひっくり返らないでよ?」
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