[37908] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-17『醜悪な和睦…前編1』 |
- 健 - 2017年12月13日 (水) 12時16分
ブリタニアとフランスの和睦は成立した。ゲットーと租界の分布などは地道に決められるが、マルカル家やクレマン・インダストリーのような大企業は植民地政策への協力を条件に戦後の地位を得ることに成功している。
そして、今回はベルサイユ宮殿において皇族を招いた和平の祝賀会だ。実態はフランスの降伏である。しかし……資産家や一部の軍上層部、政府関係者は戦後の地位を獲得、或いは盤石にするために皇族や貴族との接点を持つことに必死で、ブリタニア側も資産家や政治家との繋がりを持ちたいので、それはお互い様でもある。その祝賀会にはシュナイゼルを始めとした皇族達も出席する。
「で…他に我々で出席するのは誰だ?」
ライルは憂鬱になりながら問う。ライルは勿論だが、レイも本家の意向で今回はドレスで出席するので、現在エリア24で仕立てている。ライルも婚約者らしいことをする意味でも…牽制の意味でサラを呼んでいる。
「俺はセラが警護に指名してきている。姉姫の方は俺が不服だが、どうする?」
公私混同と思われる義妹の指名に首をひねりながらライルは「説得はする。」と答える。幸い『アマゾネス・ナイツ』に戦死者はいなかったが、シルヴィオは『十勇士』で騎士最有力候補のイレネーが戦死している。警護は最も信頼している木宮を指定している。
エルシリアは警護にウィンスレットとグラビーナだ。ライルも警護にはフェリクスを連れてくる予定だ。そして……シュナイゼルは事もあろうにパーティーの経験がライルやセラフィナに比べれば少ないウェルナーまで呼んだ。ここのところは身体が良くなっているとは言え、どういうつもりか……いや…
「身体の弱い皇子様も和睦を祝福していますってパフォーマンス?」
雛の問いにライルも「かもしれない。」とだけ答えた。要はナナリーと同じだ。身体が弱いウェルナーは社交経験は浅い……ある意味獲物を釣る餌としても有効と考えるのだろう。だが、相手が医療関係の財閥や大病院の関係者ならウェルナーの身体という意味でも有効なのもまた事実だ……
「嫌な予感しかしない。」
うなだれるライルにヴェルドとコローレが肩を叩く。
「まあ、美味い料理と美人がお出迎えしてくれるって逆の発想は……大将には無理だよな?」
「分かって聞くな。」
「ですよね……軍学校時代からそうでしたから。」
クラリスはドレスの仕立てをしていたが、腸は煮えくりかえっていた。あの父は権限でクラリスを除隊させて、今回のパーティーに出席させようとしていた。大方シュナイゼルに紹介するつもりなのだろう。年齢的にも釣り合うから尚のことだ……
本当に……こんな事なら始末しておくんだった。
上層部はマスカールに事実上の敗退の責任を問おうとしたが、先んじてマスカールが幕僚達が銃を向け、敵前逃亡に及んだ暴挙をマスコミにリークしたことで上層部が責任を問われることになった。逆に最後まで戦ったマスカールは株が上昇した。
同じ俗な人間でもあの人の方が遙かにマシだわ……
デルク・ドリーセンは自棄酒をしていた。外人部隊は責任を問われなかった。もうそんな必要もないからだ……しかも、外人部隊所属の女性兵士が突然軍籍を抹消された。出席者の中にはあの『暴君』がいる。
「美奈川…!」
美奈川浅海もその被害に遭った。軍籍を抹消された彼女達は連行され、貴族に貢ぎ物として差し出されるだろう。卑劣な官僚達の地位保証の道具として…!!
バルディーニはある計画を練っており、クラリスやゼラートも同調していた。だが…時期が見計らうことができない。仮に実行しても彼女はもう……!
「なんて無力だ、俺は!」
ゼラートはまだ抵抗を続けるドイツ上層部が将官待遇で正規軍に転属という提案があった。だが…あくまでそれはゼラートだけ。ブリタニアの外人部隊所属者程度に頼らずともフランスに取って代われる、などと煽てたらすぐにその気になってゼラートの辞退を聞き入れた。
「最悪な国ですね…」
「今更だな。」
ウェンディとの慣れたやり取りをすませ、ぜらーとは久しぶりに彼女と肌を合わせた。
アーネストは美恵が入れたコーヒーを一口飲み、和平の内容を見た。パリを始めとした都市の租界建築……および、住民達の移動…そして、イレヴン達は引き続き監視されることになっている。
「良い様ですね…役に立たない物ばかり後生大事にする馬鹿な奴ら、あそこでのたれ死ねば良いんです。」
そののたれ死にに含まれそうになった美恵の言葉には説得力も、迫力も、そして……そんな中で誇りや魂だけ重んじる者への憎しみがあった。
「どうせ枢木スザクが手を差し伸べるようなことをすれば私が始末してきたあのイレヴン共みたいに尻尾を振るんですよ。私を娼婦とか売国奴って言ったくせに。」
「あまりそう言ってやるな…」
「いくらアーネスト様でも聞けません。」
美恵はアーネストの首を振り向かせ、その唇を奪った。
海棠はバルディーニを交え、池田と酒を飲んでいた。幸い、池田達はバルディーニが先手を打ったことでイタリア軍に転籍が適った。とはいえ、フランスが崩壊してもあの上層部が変わるわけがない。なのに…こうして戦い続けている。
「俺ら、何がしたいんだろうね?」
「言うな…」
バルディーニがあまりに痛いところを突かれた顔になってバーボンを一気飲みする。池田もグラスを見つめてうつむいている。
「ライル・フェ・ブリタニア……あの男と戦場で決着を付ける。それしか、今はやりたいことがない。」
あの第八皇子と……どうやら随分と強敵として拘っているようだ。とはいえ、そうでもしないとモチベーションを保てないよな。
「俺は土田の弔い合戦……なんてガラじゃないんだ。我ながら冷酷なんだ。」
感覚が麻痺しているのか……それとも。いずれにせよ………せめて何らかの形でブリタニアに一矢報いないと示しがつかない。とはいえ………果たして日本にそれだけの価値があるかどうか。
彼の戦争で多発した民間人や正規軍によるカミカゼ…ゼロ出現までもそれが横行し、反対派の日本人達は独立、魂、誇り…それしか言わない。
死んでしまった同僚達や土田には悪いと思う。だが…国を離れ、ゲットーに収容された日本人達も同じような考え方で、元々日本至上主義とは言いがたかった海棠の愛国心も…矜恃も消えかかっていた。
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