[37902] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−9 一時停戦』 |
- Ryu - 2017年12月10日 (日) 10時52分
−E.U.フランス州 首都パリから南西約50kmの平野部−
双方の司令官による一時停戦と捕虜交換が定められ、戦闘行為が終了する中、シルヴィオはディナダンのコクピット内で瞑目していた。
理由は一つ、十勇士の一人であるイレネーが戦死してしまったからだ。
戦争だ…こうなる可能性は今までも、そしてこれからも十分あったし、それが今来ただけの事。わかってはいるのだが、まさか自分の目の前でそうなるとは…。
「イレネー……馬鹿者が」
〈…いい部下だった様だな〉
戦闘中から回線が繋がっていた為聞こえた自分の呟きに反応してか、未だなお自分の目の前にいるシュテルンから通信が入って来た。
「ああ、常日頃から鍛錬を欠かさない奴で、まだまだこれからという人材だった……片腕と言っても過言では無い奴だった」
〈そうか〉
それだけ言うと中の相手はシュテルンを反転させ、後退して行った。おそらく自分の隊を纏めるべく動くのだろう。
〈殿下、我々も…〉
「わかっている。全機収容後ライルの軍に続いて我々も後退するぞ!」
ザカライアからの進言に頷き、シルヴィオも一時撤退の用意を始めた。少なくとも彼の死を悼むのは今ここでは無い。まずは己が責務を果たしてからだ…。
「土田さん……」
無頼改のコクピット内で、橋本は茫然自失といった様子で呟いた。彼の視線の先には、先程までそこにいた土田の無頼改があったと思わしき場所があるのみだ。
〈裕太、私達も早く行くわよ…〉
そんな彼を心配してかセーラが声を掛けるが、未だに反応が無い…いや自分のすぐ近くに誰かがいる事自体気付いて無いのかもしれない。
セーラにとっても橋本は大切な仲間の一人だった。日本時代から行村一派は言うに及ばず、一部の心無い日本人からも様々な悪意に晒される事は多々あった。
だが土田は当初から彼女に対し親身とまではいかずとも、決してそんな対応はしなかったし、自分がハーフ故の差別で気が滅入っているのを察してか、何くれとなく気にかけてくれていた。様々な悪意から助けてくれた事も何回かあった。
だから自分としても彼がこんな所で…再び故郷の土も踏めず、文字通り何一つ残らず消えてしまった事が、本当に悲しい。
別の所に目を向けると、行村率いる部隊がいたのが目に映った。あの連中は結局目立った損害も無く、のうのうと生き永らえる事に成功してしまった。もし今目の前にあの男がいつもの態度で居たら、この胸の内に宿った黒い感情を抑えきれるだろうか…。
柄にも無い事を考えてしまった自分を少し恥じ、セーラは裕太を動かすべく彼が漸く反応するまで、声を掛け続けた…。
「クソ!ここで停戦だと!?しかも捕虜交換!?相変わらず甘っちょろいなあの皇子は!」
ヴィンセントのコクピット内で、エイゼルはライルに毒付いていた。本当にあの皇子は皇族にあるまじき甘ちゃんだ。
「捕虜」なんて言葉はルーカス軍には存在しない。敵に捕まる様な役立たず等今後も必要ないし、敵として戦った相手の始末は男は皆殺し、女は一部「投降」して自分達の為に存在し、それ以外はやっぱり皆殺し。それが基本だ。
我らがブリタニア帝国に歯向かう愚か者など、この機に「教育」してやる必要がある。それこそ我々貴族に与えられた崇高なる目的であり、それ以外はただ我々貴族ないし皇族の言う事を聞いていればそれで良い。
彼のコクピットの中には、特に目を付けた女共の写真が貼られている。結局今回は誰一人手に入れる事は出来なかった…だがこれで全て終わった訳では無い。戦後の「貢ぎ物」があるし、もしくは現地でいつもの様に調達するだけだ。
「待っていろ雌猫共……もうすぐ俺が飼いならしてやるからな!」
気持ちの悪い手付きで何名かの写真を撫でながら、気色の悪い声でエイゼルは独りコクピットの中で笑っていたのであった。
「ハァ…ハァ…クソが!やっぱりかよ!?」
両軍に命じられた停戦命令、そしてそうなった理由…それを聞いてアサドはグロースターのコクピットの中で吼えた。
元々政府には何の期待もしていなかった。そもそも今日ここで戦う前から状況は最悪、下手すれば…とは聞いていたが、余りにも予想通りの結末にただひたすらイライラする。
〈アサド?聞こえるかしら?〉
「あァ!?…って何だウェンディかよ。一体何の用だ?」
〈…どうやら元気そうね。敵の新型と交戦しているとは聞いたのだけど〉
「まぁな。まあキッツい一撃貰った衝撃で腕打ち付けてしまったけどよ。まあ折れちゃいねえから安心しな」
〈そう…先に伝えるけどクラックの隊が全滅したわ。あとジルの隊も半壊状態、本人も重傷よ…〉
「…そうかよ。まあ俺の隊も何人か、な。半壊とまではいかねえが」
〈わかったわ。あと一応その腕、後で看ておくから覚えておきなさい。じゃあまた後程〉
それだけ言うとウェンディからの通信が途切れた。おそらく自分達の部隊だけでなく、他にも掛け合って被害状況を確認しているのだろう。
その会話で少し頭も冷えたのかある程度落ち着きを取り戻すと同時に、彼の胸中には虚しさが漂い始めた。
(ホント、あいつら一体何の為に死んだんだろうな……)
何度か殴り合いの喧嘩をやらかしたクラックや、年若い自分に文句を言いながらも付いて来てくれた仲間達の事を、アサドは思っていた。
「終わったか…」
ソティアテスのコクピット内で、アーネストが大きく息を吐いた。今後の展開がどうなるか、そこはシュナイゼル殿下次第だろうが少なくともフランスの失陥は確実、E.U.も事実上終わりだろう。
「アーネスト様」
美恵のヴィンセントが近づいてきた。見た所彼女も特に傷を負った様子は無い。こちらも一安心といった所か。
「…連中はどうなるのでしょうか?」
おそらく彼女の言っている「連中」とは外人部隊の事を指しているのだろう。彼らの処遇をどうするのか…中にはイタリア、ドイツといったまだブリタニアに屈していない国所属の連中もいると聞く。
事実上終わりとは言え、少なくともまだ存在しているE.U.所属国の連中の扱いをどうするのか…実力を考えればそのまま国に帰すというのも考えにくいし、だとしたら「捕虜」扱いになるのだろうか?
「なんにせよ、すんなりとは事が進みそうにはないかもな…」
そう、どの道まだE.U.そのものは完全降伏していないし、まだまだ一波乱あるかもしれない……アーネストはそう思わずにいられなかった。
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