[37899] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-16『革命と貴族…後編2』 |
- 健 - 2017年12月09日 (土) 23時55分
〈今だ、一気に叩きつぶせ!!〉
ルーカスが突然突出した。彼の部隊も同様に続き、レイ達を押しのけるように前進する。
「待て、出過ぎだぞ!」
だが、ライルが言っても聞かないどころか……
〈邪魔なんですよ、貴方は!〉
フィリアのヴィンセントがライルをローランごと撃った。
〈もう私達の邪魔をしないでくださる?大体私のような良い女よりあんな汚い雌共を選んだ貴方なんて本当なら今殺したいんですから。〉
何という言いぐさ……しかも、今のは戦場にいる全員に聞こえていた。
〈あんなのでも死なせないようにしないといけないなんて……大変ね。〉
ローランからだ………敵にまで同情されるとは、情けない。
今のは聞こえていた……バルディーニは後方のマスカールに繋ぐ。
「マスカール将軍……前衛を後退させます。突出したあのバカ共に砲撃を………」
〈ああ…こちらにも筒抜けだ。敵だが……4名の皇族に同情する。〉
全く同感だ………あのエリア24の虐殺、こうなってくるとライルが荷担したという噂すら疑わしくなってくる。だが……
その時だけかもしれないし、裏では……などざらにある話。いずれにせよ潰させて貰うぞ。
海棠はため息をついた。何という馬鹿だ……猪武者の方がまだマシだ。
行村と言いあの五番目様と言い……どこにでもいるもんだね。自分しか頭にない輩ってのは……いや、俺もある意味同じだな。ウチの元チビッコ共を俺自身のエゴに付き合わせちまってる。
家族の復讐や独立のためにと戦うことを望んだ子供達を諭すことだって出来たのに……結局戦う術、人を殺す術を教えた。その償いのつもりか、名誉ブリタニア人への理解を示すように働きかけ、少なからず効果はあった。それもエゴだろう。
だが……同類でもあいつらは更に質が悪いようにしか見えない。とにかく、自分の命だけならともかく……富も名誉も、この世の全てが自分だけのためにあると思い込んでいる。
海棠の中に魔が差し込んだ。
「おい、行村!!あの『暴君』様がいらっしゃったぞ!!勇士様らしく蹴散らして見せろよ!!」
〈断る!あのような小物をこの私が相手にする必要などない!!〉
無理だと思っていたが予想通りだ。
「ったく、やっぱり始末しておくんだったな!!」
〈脇を見ていればお前が死ぬぞ!!〉
エルシリアが目の前にいる以上、海棠は動けない。部下達も彼女の部隊に圧されている。どうやらライルもルーカスを勝手に暴れさせることにしたようだ。
ライル……貴方はそんなことを許す人なの?
浅海はアストラットの相手をしながらライルの機体を睨む。あの時の言葉と目を今も覚えている…忘れるはずもない。敵の事情なんて無視して良いのに………辛そうな目。
「どうしてなの、ライル!!」
〈お前の主君は、あの暴君を好きに暴れさせる……指揮官としてはそうせざるを得ないだろうな。〉
「人間として最低だとでも言いたいのか?あの方の苦しみさえ知らぬお前に……!」
仕えるようになって一年程度とはいえ、ライルが軍人としての能力が一定の基準を満たしていることは長野も分かっている。特にパイロットとしては『ラウンズ』のレベルでなければ相手を出来ないことも。だが……
何度も見ていれば分かる……本当は軍人としての冷徹な判断に心が追いついていないことを!
〈表面的にはそう映るだろうな…ブリタニアの悪行に晒された者ならば尚のこと。〉
「貴様!」
ヴィンセントの刀を蒼天の刀が受け流すどころか、左腕に捕まった。
まずい!!
長野はすぐに脱出レバーを引いた。前後して輻射波動がヴィンセントの装甲を沸騰させ、爆散させた。
「そうするしかないわよね、貴方の立場上!!」
〈軽蔑したいならすれば良いし、憎んでも良いよ!!〉
ローランとベディヴィエールは未だに斬り結んでいた。だが…
〈ライル・フェ・ブリタニア、久しぶりだな!!〉
蒼天がベディヴィエールに斬りかかった。ベディヴィエールはシールドでそれを受け止め、ローランが距離を置いて再び斬りかかる。
〈全く、有名になったな!我ながら!〉
〈日本軍池田誠治、再び勝負!!〉
〈池田誠治…あのホッカイドウの?〉
二機は動きを停止し、にらみ合う。それをクラリスも困惑して見つめる。
知り合い…いいえ、エリア11で戦ったの?あの二人…
あの澤崎の決起に触発された勢力の者だとは聞いていたが、まさかその鎮圧に当たっていたのがライルだったとは。疑っていたわけではないが、エリア11で直接戦ったというのも本当のようだ。現にベディヴィエールと蒼天は互いに一歩も譲らない戦いを繰り広げている。
それを見たクラリスは自分でもわき上がる者に驚いた。嫉妬だ……これほどの男と戦い、それを独り占めするなんてずるい。
「私とのデートを途中ですっぽかさないでくれる!?」
ローランが割り込み、池田も特に何も言わず…二対一でかかることに同意した。二機は波状攻撃でベディヴィエールを襲う。流石に二対一では分が悪いのか、ベディヴィエールが押される。それでもとハーケンで二機を引き離し、ハドロン砲で牽制する。二機は躱して再び斬りかかる。
シールドと剣で受け流し続けるが、次第にベディヴィエールは押され始める。このまま押し切れる、と思われた時……
両軍に通達が来た。ブリタニアとフランスが和平交渉を行う、と……別方面のシュナイゼルの軍がパリに王手をかけたところでフランス州政府がシュナイゼルの申し出に耳を貸したのだ。
それを見た時…一瞬だけ手が止まり、その隙を着いて無頼改がシルヴィオの機体めがけて刀を投げた。
受け流そうとした瞬間……ヴィンセントが間に入り貫かれた。イレネー・ミュレーズだ。
「イレネー!」
〈申し訳ありません……『十勇士』、最初のせ…〉
ヴィンセントが爆散した。同じ頃……ルーカスのラモラックの砲撃から橋本を庇った土田がハドロン砲で焼かれた。
「土田さん!!」
〈生き延びろ、橋本!〉
それだけを告げて、土田はその命を散らせた。何一つ、成し遂げられずに……
同僚を失った者達が戦いを続けようとするが………
〈両軍に告げる!政府の意向により和平交渉が執り行われる!!これ以上の戦闘行為の継続は安息を求める市民からそれを奪うことになる!!速やかに戦闘行為を停止せよ!!〉
マスカールは歯ぎしりした……後方の指揮艦からこれを発表した時……モニターに若い男…まだ少年という呼べる人物が映った。ライル・フェ・ブリタニアだ………
〈ブリタニア第八皇子ライル・フェ・ブリタニアです……貴官からの申し入れについて、こちらでも和平交渉が事実と確認を取れました。戦闘行為の停止に同意します。〉
「……フランス州首都圏防衛軍司令官オクタヴィアン・フィオ・マスカール将軍です…ライル皇子、貴方の良識ある判断に感謝します。」
〈マスカール将軍………こちらで何名か投降をした貴軍の兵を預かっております。我が軍は後退します。後に捕虜交換を行いたいのですが?〉
更なる戦闘継続ではなく、戦闘の停止と捕虜の命を最優先……命が最優先とは、青臭い男だ。だが…それが今はありがたい。
「了解しました……貴軍が首都圏から撤退した後、捕虜交換を行いましょう。」
これ以上ブリタニアを進軍させるわけにはいかない以上、当初のラインまで下がらせるしかない。これだけは譲歩出来なかった。
〈分かりました……一日あれば充分でしょうか?〉
「ええ、問題ありません。」
ライルも〈感謝します。〉と告げると同時に敬礼をしてモニターを切った。
「聞いての通りだ……投降した兵士及び戦闘不能な機体の敵兵を収容後、我が軍は後退する。捕虜は全て我が旗艦に収容せよ。」
〈はあ?負け犬だろう、少しくらい俺様によこせよ。〉
ルーカスが文句を言うが、今度はお返しと言わんばかりにエルシリアとセラフィナ、シルヴィオの軍がルーカス軍に砲口を向ける。
〈先程お前の騎士がライルを撃ったのは兄上にも伝わっている。流石の兄上でもそうなれば…〉
〈それでも良いのでしたら、こちらはE.U.軍と共に和平の妨害勢力として対処してもよろしいのですよ?〉
〈どうする?〉
三人から更に威圧され、ルーカスも黙るしかなかった。
〈け!どいつもこいつも甘ったれやがって!!〉
「ゲスな行為しか出来ない賊よりはマシだ。」
ここに……革命の始まりの国で自由を勝ち取った市民達の末裔は再び貴族達によって自由を奪われた。他ならぬ、自らが勝ち取った自由と平等故に生まれた膿に蝕まれ、腐敗した末路であった。
翌日……捕虜の交換が行われ、両軍の捕虜は何の問題もなく帰還し、双方に暴行を受けた形跡はなかった。それはライルやエルシリア、マスカールとバルディーニが兵達を諫めたからに他ならなかった。しかし、この和平でさえ甘い汁を吸う樹木としか見なさない官僚達は新しい樹に狙いを定めていた。
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