[37891] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-16『革命と貴族…後編1』 |
- 健 - 2017年12月03日 (日) 22時52分
レイは敵外人部隊のKMFを迎撃しながらライルを見た。ライルはピレネー山脈にいた新型の相手に熱くなっているようだ。
ゲイリーからは万が一ライルが熱くなったら、指揮を執れるように促せと注意されていた。
「ライル様!今の貴方は総司令官です!熱くならないでください!!」
レイに言われ、ライルは自分の本懐を思い出した。そう、どういうつもりか知らないがシュナイゼルは自分を総司令官に任命したのだ。全く、難儀な立場だ。これほどの相手との戦いを楽しめるのに……指揮も執らなければならない。とはいえ、今の言葉で同時に本懐を思い出した。危うく全てを忘れ、有紗やレイを死なせるところだったかもしれない。ライルは悔い改めてもう一つの役割も果たす。
「ゲイリー、敵の主力部隊は!?」
〈は!現在本陣に下がりつつあり、陣形を整えています!〉
まずい……今ライルだけでなくシルヴィオやエルシリアも敵の精鋭に釘付けにされている。敵の指揮官の目的はそこか。あわよくば、ライル達を討ち取り士気に影響を与える。
「今動けるのは誰だ!?」
〈は!エインズワース卿と木宮卿、畑方、ウィスティリアが動けます!!〉
長野も動けない、か……ならば。
目の前のKMFの剣を受け止めながらライルは指揮をする。
「エインズワース卿は姉様に、木宮卿は兄様の援護に!」
〈はい!〉
〈当たり前ですわね!!〉
二人が旗下のKMFを数機連れて主君の援護に向かう。更にライルは指揮を執る。
「秀作、君はセラの方に行ってやれ!!こちらも同等のカードで逆に釘付けにしてやる!!クリスタルは航空部隊と共に本陣へ攪乱を!フェリクスはその援護に回れ!!」
〈イエス・ユア・ハイネス!!〉
長野は青い月下タイプと交戦していた。左腕があの紅蓮と似たような武器になっているのは秀作の報告から聞いている。確か、蒼天という名前だったか。
「このパイロット、強い…!」
取り回しが悪そうな大きな刀を片手で扱い、輻射波動機構も使いこなしている。誰だかは知らぬが、恐らくライルと同等と見て良いだろう。
もしや、ホッカイドウで殿下を苦戦させたという日本軍人か?
だとすれば元同僚が敵とはまた皮肉な巡り合わせだが、もとよりそんなものを覚悟の上で家族を選んだ。今更迷ってどうする!!
池田は刀を振るうヴィンセントの斬撃を受け流し、睨み付ける。
「この機体……例の『帝国の侍』か?」
『帝国の侍』……ライルの軍で最大の特徴である名誉騎士団の隊長であり、その人物が旧日本軍人であり、ライルがそう呼ぶようになったと聞いている。
どういう事情で旧日本軍人が名誉ブリタニア人となり、且つライルの部下として取り立てられたのかは分からない。だが、実力優先の傾向が強いとされるライルが敢えて敵国の軍人を抜擢するのだ。相当な使い手と見て良いだろう。
「裏切り者などとは言わぬぞ…!」
そもそも、独立とて我らのエゴ…家族や自分の生活を下劣な発想などという筋合いも権利も我らにはない!!
だが、敢えて池田は問いかけた。
「貴様、『帝国の侍』か?」
蒼天の刀をヴィンセントが受け止め、二機はつばぜり会う。
〈そうだ、元日本軍長野五竜大尉!現在は特選名誉騎士団『フォーリン・ナイツ』の隊長だ!!〉
「やはり……私は日本軍の池田誠治少佐。貴官の動機は知らぬが、敬意をもって相手をする!!」
〈それはありがたい!〉
ヴィンセントを制動刀のブースターで押し切り、輻射波動砲で砲撃をする。だが、長野はそれを上空に飛ぶことで狙いをそらし、更に左腕のニードルブレイザーで受け止めながら逸らした。だが……左腕のシールドは既に使えなくなった。
「上手いな……あの男が反抗のリスクを度外視して隊長に推挙するわけだ。」
皇族軍はエース級のKMFや皇族達が釘付けにされていた。だが、ライルの支持や補佐する幕僚達の指示で進撃を続ける。ローレンスで再び本陣へ砲撃を仕掛ける。あくまで陣形の立て直しを行う本陣への揺さぶりだ。何しろ、腰抜けの正規軍……揺さぶってやれば例え優秀な指揮官がいても末端の連中はすぐに逃げ出す。
ローレンスで本陣とその周囲に砲撃を行い、崩そうとするが、相手もその意図を察したのか中々させてくれない。
「……クリスタル、前衛のKMF隊に空襲をかけられるか!?」
〈ええ、飛べるKMFがそっち寄りなのが幸いしまたわ!!ヘリや戦闘機だけなら振り切れそう!!〉
「ならば君は危険だが前衛のKMFに空襲を!」
今は何とか踏み止まっているがこのまま行けば消耗戦だ。ならば、賭に出るしかない。それで失われるのは……クリスタルの命、それを分かっていても。
〈帰ってこられたら、デートしてくださいね!?〉
「来られたら考えてあげるよ!」
ローランを押し返し、蹴りを叩き込む。
クリスタルはハリファクスを上空まで飛ばす。今のところこちらに追いすがる敵はいない。幸いなことにピレネーでのあの新型部隊はシルヴィオやエルシリアの部隊にいるヴィンセントが抑えている。
またこんな役やらされるなんて……もしかして、あのことに気付いてる?
こんな時に何を考えている!?今は敵前衛に急襲をかけることが最優先だ!!
クリスタルは頭を切り換えて前衛部隊に向けて急降下する。そのまま機種のハドロンスピアーを展開し、発射した。
高エネルギー砲が前衛部隊をなぎ払っていき、砲撃したハリファクスはそのまま地表すれすれで急上昇し、KMFに変形する。身体に急激なGがかかるが、クリスタルはそれに耐えきる。それに併せて後方のローレンスが砲撃を行った。砲撃は前衛と共に本陣付近の部隊をも焼き払っていった。
ライルは砲撃の成功を見た。だが、未だにクラリスは踏み止まり、決めさせてくれない。
「レイ、君はどうだ!?」
〈何とか今動けそうです!!〉
「ならば、君が先陣を切れ!!動けるKMF隊はスレイダー卿に続くんだ!」
〈ライル様は!?〉
ライルはローランのハーケンをニードルブレイザーで受け止めて応答する。
「すまないが振り切れそうにない!!」
〈言う通りにしたら?今良いところ何だから!!〉
〈なんだよ、あれ!あんなのに勝てるわけないだろう!?〉
〈俺は死にたくねえ!楽な仕事じゃなかったのかよ!〉
〈逃げるぞ!!〉
既に本陣と前衛の正規軍は瓦解した。二度三度と続いた砲撃で兵達の戦意は元々低かった物がここに来てなくなった。
これを更にたたみかけるようにソレイユをアストラットに任せたベイランがハドロンブラスターをドッキングさせて敗走する部隊に攻撃する。戦術的な局地で見れば、既に戦線は半壊しつつあった。
その中……行村は真っ先に逃げていた。
「撤退するぞ!急げ!!」
私はこんなところで死んで良い人間ではない!そもそも、何をしているのだ池田や海棠は!?売国奴共さえ討ち取れないとはふがいない愚か者共め!!
海棠は行村が逃げていくのを知り、舌打ちした。
あのバカが!ここで逃げても意味がないって事も分からないのか!いくら奴が正規軍の上層部に好みの手土産を送ってもそこまで義理立てしてくれるわけがない。それとも、自分だけは大丈夫だと思い込んでいるだけなのか。
今すぐにでも引き返して奴らを斬りたかった。だが、今は目の前の相手に斬られないようにするのが精一杯だった。
ゼラートはやはりと思った。只でさえ緩みきっている正規軍だ……相手をなめてかかる以前の問題だ。目の前にいるシルヴィオのディナダンが振るう刀アメノハバキリを受け止めるが、武器のパワーがこちらとは段違いだ。
サザーランドの遙かに上を行くヴィンセントにパワーのある武器を持たせた上にそれを使えるだけのパワーを機体に、しかも手足のように扱い、それ一本で攻めたりしない。
腰のハーケンを発射したかと思いきや逆手持ちで背中や腕の小太刀を振るう。
イレヴンかぶれなどと侮る奴らが多かったが、全くそんなもの関係ない。この男は間違いなく強い。それで十分だ。
ゲイリーは敵軍が後退しているという報告を受けた。何という醜態だ。敵とはいえ呆れてしまう……ここまで堕落しているとは。
「たたみかけるぞ。突破可能なKMF隊は本陣へ進撃!艦上のKMFも援護射撃だ!」
艦砲も含め、全ての火力が地上の部隊に向けられる。もはや戦局は一方的であった。
マスカールは歯ぎしりした。前線部隊から離れているとはいえ、戦局は届いている。まさかここまで差があるとは……かくなる上は背水の陣しかないか?
「将軍、一刻も早く我々も逃げねば!!」
全く、こいつらまで状況を分かっていないとは。
「ここを破られればもはやパリ市街地での戦闘となる…!踏み止まるしかないのだ!!」
「何を仰るのです!委員達と我々が逃げれば敗戦ではありません!!」
「もう我々はお先に失礼します!!」
マスカールは止めなかった。止めるだけ無駄だからだ……そうなった時のこともマスカールは手を打っていた。
流石にあのような臆病者を精鋭部隊の幹部にしたとあっては政府や統合本部の連中でもな。
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