[37858] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−7 忌むべき邂逅』 |
- Ryu - 2017年11月20日 (月) 12時50分
−E.U.フランス州 オルレアン市『ロンスヴォー特別機甲連隊』本部 外人部隊用駐屯場所−
外人部隊に宛がわれた駐屯地、その中でもオランダのドリーセン少佐率いる部隊の場所で、何やら2つの部隊間で睨み合いが勃発しており、それぞれの隊長格と思わしき男性が言い争いをしていた。
片やこの場所の担当であり同部隊を指揮するデルク・ドリーセン少佐、片や同じ外人部隊所属だが、あまりの悪行から同部隊内の鼻つまみ者となっている行村鷹一中佐である。
「何度言えばわかる!?さっさとこちらに提供しろと言っているのだ!」
「断る!少なくとも外人部隊隊員の所属変更は勝手に決めていいものでは無い!」
先程からあまりに一方的、半ば意味がないのに階級を盾に命令口調で要求する行村に対し、ドリーセンは理尽くめで反論しその要求を突っぱねている。周囲の彼らの部下達も、今にも一触即発の空気を漂わせている…。
この光景から遡る事数十分前、総隊長や一部の外人部隊隊長との会議を終えて、自分の駐屯地に戻る途中のデルクは、留守番役の部下から連絡を受けた。一体何だろうか?と思ったが聞いた内容は思わず手にした通信機器を取り落としそうになる程、酷い物だった。
あの行村が自分達の駐屯地に踏み込んで来た…しかも部下達も何人か連れて。それを聞くや否や一方的に通信を切り、急ぎ足どころか全力疾走で自分達の駐屯場所に戻った。
それなりの距離を全力で走った為息も絶え絶えで戻った彼の目に映ったのは、自分達の部隊で最強の戦力を誇るKMF「ソレイユ」の足元で、それを指さしながら居丈高に部下達に要求する行村とその取り巻きの姿であった。
そして彼の前に立ち話を聞いてみれば、曰く「このKMFを自分に差し出せ」「この部隊に所属している美奈川浅海准尉は、今日付けでこちらに転属になった。よって差し出せ」などと言う、ふざけいるのか?と思いたくなる要求だった。
本人は「日本人たる彼女が日本人の代表たる自分に従うのは当然の摂理!」「ソレイユとは『太陽』の事、まさに日本を意味するこの機体は自分にこそ相応しい!」と訳の分からない理屈を理由にしている。
この男に『ソレイユ』を任せる?少なくとも他の外人部隊の連中が聞けば「何寝言ほざいているんだ?」と反応するだろう。戦闘記録も確認したが実力は贔屓目に見ても低く、ここに集まった外人部隊の中では一二を争う弱さと言って過言でない。
そして美奈川を奴に預ける?冗談じゃない!この男が今まで行って来た所業を考えれば、どうなるかなど目に見えている!
彼女はこの部隊に絶対に欠かせない人物だし、戦力云々を抜きに考えても個人的にも失いたくないとまで思っている……あの時の様な悲しすぎる、惨めな想いは二度としたくない!
とにかく一歩も引くつもりは無い!その一心でデルクは行村と対峙していた。
対話はどこまでも平行線を辿り、周囲の雰囲気もよりますます悪くなっていった。
行村は暗に「自分には正規軍の後ろ盾がある」事を仄めかしているが、どうせブラフだ。正規軍とてコイツの為に動いてくれるのか?仮にそうだとしても確実に見返りとして美奈川の身体を先に要求するだろう。
奴のゲスな思考回路を考えれば、それは受け入れられないだろう。あくまで日本人は自分の為にあると考えている様な奴なのだから。
万一その手を使われれば、こちらは総隊長の権限で押し切るまでだ。最悪ピエルス大佐に預けてしまえば、流石に奴も彼女に対して「寄越せ」などとは言えないだろう。
だがこれらの推測はあくまで願望が混じっている点も否めない、なので絶対安全だとは言い切れない…。
今誰かが銃を抜けば、確実に血を見る事になるだろう……その空気の中、ある男性の声が響いた。
「おいおいよしなって行村?流石にオイタが過ぎるんじゃないのかねぇ?」
今にも腰に差した刀を抜きそうな行村の肩を叩いたのは、彼の元上司とも言える海棠大佐だった。その後ろには池田少佐もいる。
どうやら部下達が援軍を呼ぼうとして、奴らを抑え込めるだけの力を持った、信頼の出来る実力者として彼等を選んだらしい。ヴァントレーン中佐がいないのは、彼が来ると行村がより一層激昂する可能性が高いとの判断だろう。
何せ行村は彼を見るや否や「なぜブリキがここにいる!?」「貴様スパイか!そこに直れ!成敗してくれる!」と一方的に突っかかって来たからだ。あちらは大して相手にもしなかった様だが。
ただ彼はともかく、その部下で刺青の目立つ青年が今にも殴りそうになっていたのを覚えている。結局殴りはしなかった様だが。
とにかく行村を抑えるべく来た海棠大佐だが、のんびりとした口調とは裏腹に目は全く笑ってなく、気のせいでなければ殺気も漂っている様に思える。奴も異様な彼の雰囲気に呑まれたのか、若干後ずさっている。
「な、誰かと思えば海棠大佐か?あなたからも言ってやってはどうだ!?日本人を指揮するのは日本人が相応しいと!」
どうも一度彼にきつく締められた事があるらしく、その時の事を思い出しているのかさっきまでの威勢は無い。しかもどこか下手だ。
「そんな事誰が決めたよ?今まで彼女は彼の元で戦って来たし、部隊間でも連携が取れている。下手に引きはがしても足並み乱れて足引っ張る事になるかもよ?」
その後も色々と理由を述べて宥めすかすように、でも本人だけでなく連れて来た部下達も含めた隠し切れない殺気も込めた無言の脅しに、行村も流石にこれ以上は無理と見たのか、「今正規軍の連中から呼ばれたのだ!」と誰でもわかる嘘を付いて、その場を去ろうとした。
「行村中佐。少し宜しいか」
それまで何も言わず成り行きを眺めていた池田少佐が、彼を呼び止めた。その言葉に「一体何だ?」と迷惑そうな表情を隠し切れない行村が答えた。
「……貴官は、自分の行っている事に対して、何も恥ずべき事が無いのか?」
険しい表情のまま、池田少佐が問いかけた。これも誰でもわかる…確実に内心では怒り狂っている。だがそんな彼の心情に全く気付いていないのか、行村は明らかに馬鹿にした様に答えた。
「当然だ!私は何も間違っていない!この私の手で日本を開放する!それこそ決められた事なのだ!」
まだ言うか……もう怒り通り越して呆れしか無い……池田少佐も「そうか、ならもう貴官と何も話す事は無い」と簡単に返し、行村とその一党が帰っていくのに目もくれなかった。
「すみません。私なんかの為に……」
行村が帰っていったのを見て、隠れて様子を見ていた美奈川が出てきて海棠大佐と池田少佐に謝っていた。少なくとも彼女が詫びる必要は全くないと思うのだが。
「いやいや、本当に不愉快な思いさせてこちらこそゴメンよ?」
先程までの空気から一変、気のいい近所のおっさんの様な雰囲気で海棠大佐は彼女の頭を撫でた。彼女も特にそれを拒まず、されるがままになっている。
「それに謝らなければならんのはこっちさね。何せアレをここに連れてきてしまったの、俺だから」
「海棠大佐……それは」
「いやぁ最近は少し後悔し始めているよ……あの時片付けていれば、まだ良かったのかねぇ」
後半の言葉は全く冗談に聞こえず、これは確実に本心入っているだろうな…と思ったデルクだった。その後美奈川達も自分達のトレーラーへと各自戻り、海棠大佐らも自分達の駐屯地に戻るべく、この場を去ろうとしたのだが、呼び止めた。
「海棠大佐、池田少佐。少し宜しいでしょうか?」
「ん、何だいドリーセン少佐?」
「……もしもの時は、彼女の事。頼みます」
「…何言っているのですかドリーセン少佐。縁起でも無い」
「いえ本気です。間違っても行村や正規軍の連中には彼女や部下達は任せられない。でも貴方達なら…」
「そういう日が永遠に来ない事を願うのみだよ。彼女らの隊長はアンタなんだ。そんな事言うもんじゃない」
それだけ言って、二人は自分達の場所へと戻って行った…自分でも何を言っているのかとは思っている。だが、しかし……。
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